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第8話 恋愛? それは嘘で塗り固めた狂気。

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「うぅ……。」


 ミイちゃんも言葉に詰まっている。

 マズい。

 ミイちゃんの身バレはいくらなんでも避けなければいけないし、かと言って無言を続けても怪しまれる。

 何か良い言い訳はないかと必死で脳を回転させていると……

(このままだとむっくんに迷惑かけちゃうね。)

 ぽつりと俺にだけ耳打ちし、意を決して白状しようとするミイちゃん。


「実は…………。」
「実はな! これってうちの母さんがさー!」


 このままではマズいので、取り敢えず大きい声で遮った。までは良いが……ダメだ。何も思いつかん。


「恋梨君のお母さん?」


 ちょっとだけ右京さんの興味を引けたようだ。とにかく適当にそれらしい事を言ってみよう。

 このままアドリブで突っ走る!


「そうそう! 実はー…………うちの母さんが卒業生でさ!」


 よし。咄嗟にしてはまともで尤もらしい言い訳を捻り出せた。


「そうなの?」

「そうそう! でさー…………えっと、母さんが昔イケイケなギャルだったからー……ミイちゃんを勝手にメイクアップしたんだよね! うん。」


 すまん、母さん。勝手にギャル設定にしちまった。


「へー! 恋梨君のお母さんに会ってみたいかも。」


 ちょっ!?


「昔のギャルメイクとかファッションに興味あるし。」


 想定外だ。確かに右京さんだってギャルっぽいし、食いつく可能性だってあったわけだ。

 余計な事言わなきゃ良かった。


「あっ……いやぁ、母さんは忙しいからなぁ。」

「そうなの? いつだったら家にいる?」

「えっと、平日の昼とか。」

「あー。それじゃあ会えないもんね。」


 これで一安心だ。

 後は適当にけむに巻いて…………


「何の仕事してる人なの?」

「……。」


 マズいマズい!

 うちの母さんは専業主婦だ。

 バレないように言い訳しなくては…………


「えーっと…………。」


 思いつかねえ! 平日の日中休みってどんな仕事があるんだ?


「キャバクラ……とか…………?」

「意外だね。恋梨君のお母さんってもしかして若いの?」

「確か……35歳だったかな。」


 うん。年に関しては嘘じゃないぞ。

 後、見た目が若いのも本当だ。一見20代後半に見えるのが自慢らしいし。


「キャバ嬢やってるって事は、美人なんでしょ?」

「そう。何かお酒が好きだからって言ってた……かな?」


 母さん。勝手に職業詐称してすまん。


「キャバ嬢かぁ……。増々会って見たいな。二十歳超えたら学費の為にバイトしてみたかったんだよね。」


 うん。絶対に会わせるわけにはいかんなこれは。会わせたら一発でバレる。


「ごめん。会うのはちょっと難しいかな。」

「まぁ、仕方ないか。夜の仕事って偏見もあるしね。言い辛そうだったのも納得。」


 よし! 乗り切った!

 そして何か知らんが勝手に納得もしてくれた。


「というワケで、俺はクズ野郎とかではないです。」

「了解。危うく誤解して友達に愚痴っちゃうとこだったよ。」


 危なっ!!

 マジで俺がクラス中からクズ認定されるところだった。


「それはそうと乙女の純情を弄んだ罪として、奢ってね?」

「それくらいお安いご用だ。何でも頼んでくれ。」


 ちょっと小遣いがピンチになるけど、それも致し方なし。


「え? 本当に奢ってくれるの? 冗談だったんだけど。」

「冗談?」

「うん。本当に奢って貰ったら、なんだか弱み握って脅してるみたいで嫌じゃん? だから冗談。」


 良い娘だ。

 俺は右京さんの事を誤解していたようだ。

 すまん、右京さん。


「良いなって思ってた人が別の女と腕組んで歩いてたら面白くないじゃん。だからちょっとした意趣返しって感じでね。元々言いふらす気もないよ?」


 右京さん……。俺は今猛烈に感動した。ハッキリ言って全米が泣いた。

 仮に全米が泣いていないのだとしたら、無理矢理泣かせてみせようホトトギス。


「大丈夫。口止めとかじゃなくて本当に奢るよ。俺達友達だろ?」

「えぇ? なんで涙目で爽やかな笑顔なの?」

「良いから良いから。店員さーん! この娘にジャンボグレートデラックス秘伝のタレ入りMAXあんみつパイナッポーアッポーパフェ下さーい!」

「……奢ってくれるのは嬉しいけど、それどんななの? あと、よく噛まずに言えたね。」


 右京さんはこのお店の裏メニューを知らないようだ。


「ここは中学の頃から行きつけのカフェでさ。恋愛と縁のない俺がマスターに恋愛相談したら、デートの時にこのメニューを頼めって教えてくれたんだ。」

「そんな大事なメニューを私に教えて良いの?」

「お礼だよお礼。その代わり、皆には内緒にしてくれよ?」

「勿論! わぁ………。裏メニューなんて超ラッキーじゃん!」


 右京さんは喜んでくれているようで、パフェが来た時には更に輪をかけてはしゃいでいた。


「凄い! というか、デカすぎて食べ切れない。」

「これは元々カップル用だからな。三人で食べようぜ。」

「そうしよう!」

「…うん。」


 ミイちゃん?

 ちょっと元気ない?


「美味しいね!」

「だろ? 今までは女の子を連れて来られなかったから、一人で食べる事しか出来なかったんだけどさ。」

「だったら、友達としてこれからも私を誘ってくれても良いんだよ?」


 ニヤリと笑う右京さん。


「そうだね。確かに、友達としてだったら右京さんを連れて来るのはアリだな。」

「でしょ? あぁ、ミイちゃん……で良いのかな? 安心してね。恋梨君を盗ったりはしないから。」

「…うん。そこは右京さんを信じるよ。」


 やっぱりミイちゃん元気ないよな。

 でも、一応笑顔ではあるんだよなぁ……。後で聞いてみるか。


 俺達は三人で裏メニューのパフェをつつきながら談笑した。

 結構ボリュームがあるから夕飯を食べられるか心配になってきたなぁ。


「じゃあまた明日。気を付けて帰ってね!」

「おう。右京さんも気を付けて!」

「ばいばーい!」














 右京さんとは凄まじい勢い駅で別れた。

 俺とミイちゃんは親戚設定で家に滞在している事になっているから、当然帰り道は一緒だ。

 ちなみに俺の自宅は学校からだと、凄まじい勢い駅から電車に20分揺られ、激烈な勢い駅で電車を降りてそこから徒歩15分だ。

 ミイちゃんの住むマンションは意外にも俺の自宅とそう離れていないらしい。


「……むっくん。ごめんね?」


 ぽつりと謝罪の言葉を口にするイケイケギャル。


「まぁ……こうなったのはミイちゃんのせいだけどさ。」

「……はい。」


 顔を俯かせ、元気がない様子のミイちゃん。

 明らかに落ち込んでしまっている。


「でも、女の子とデートって楽しいものなんだな。それが知れたのもミイちゃんのお陰じゃないかな?」


 俺の言葉にバッと顔を上げ、勢い良く胸に飛び込んでくるミイちゃん。


「……むっくん。ありがとね?」


 ミイちゃんは滅茶苦茶可愛い。

 こんな風に涙目の超可愛い女の子に言われると、恋愛に興味をなくした俺でさえもグッときてしまう。あくまで性的な意味ではあるが。


「結構強引だったし、トラブルもあったけど……楽しかったよ。」


 デートが楽しかったのは決して嘘ではない。たまにはこんなドタバタも良いんじゃないかと思える自分がいる。


「でも……。」

「まぁ……俺もさ、事情とか何にも言ってなかったからね。たまたまタイミングが悪かった部分もあるし。」


 俺は一部の友達……雷人、零子ちゃん、右京さん、智世さんには恋愛に興味を無くしてしまったのだと打ち明けている。

 この事をミイちゃんに順を追って説明した。


「成る程、確かに。事情を知っている人からすれば、恋愛に興味ないとか言っておいてギャルと腕組んで歩いてるんだから、むっくんがクズ野郎に見えちゃうね。」

「そういう事。」

「むっくんって良い男だね。咄嗟に私を庇ったりしてさ。元々私のせいなんだから、バラしちゃっても良い場面だったのに……。」


 おいおい。この先生は何を言ってんだ?


「バラすわけないでしょ。こんなに良い先生が居なくなったら、学校中の皆に俺が恨まれるってば。」


 罪悪感を感じるのは仕方ないかもしれないけど、もしバレたらミイちゃんの人生に傷をつける事になってしまう。

 そうなってしまえば、一人の人間の人生を台無しにした罪悪感で俺は一生後悔してしまうだろう。


「……。」


 ミイちゃんは何で黙ってるんだ?

 顔も赤いし。どうした?


「むっくん、責任取って。」

「はい?」

「私を落とした責任を取ってよ。」


 突然訳の分からない事を言い出す担任教師。

 責任の所在が行方不明だと思いますよ?
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