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第36話 王族亡き後
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シュナイザーが百叩きの刑で絶命した。
程なくしてその話は学園にも広がりを見せ、ユリウスの生存も絶望視されている今日この頃。
「知ってる? アイゼン公爵って娘さんに凄く優しいらしいわよ?」
これからはアイゼン公爵の推し活をしていく。
ドントレス大公は曲がった事が大嫌いな性格なので、根性がイナバウアーくらい曲がっている私とでは相性が最悪過ぎる。
そういうわけで、アイゼン公爵には是非とも王位を取ってもらわなければ困るのだ。
先ずはそう……宣伝活動。
「娘さんと良くお出かけしてるそうよ。」
「あの人は娘さん以外にも優しいからね。以前訪ねた事があったんだけど、私に対しても娘のように接してくれたわ。」
成る程。マリーベルも四大貴族家だから、同じ四大貴族家のアイゼン公爵とは繋がりがあるのね。
「テレーゼ様もご存知でしょうか?」
「はい。あの方は凄く穏やかで怒ったところなんて見た事がありません。」
そうね。私もそんな話はとんと聞かない。
ドントレス大公は逆にブチギレシーンばかり見てきたからキレキャラのイメージがある。
「アイゼン公爵様が王だと素敵かもしれないわね。押しも強くないから優しい王になれると思うわ。」
「あ、メルトリアもそう思った? 実は私もなのよ。」
「アイゼン公爵様は少し弱弱しくない?」
レイチェル、余計な事言わないでよ。今宣伝活動中なんだから。
「そんな事ないと思うわ。優しさを保つのって逆に難しいのよ? だって、本当に優しい人は怒る場面でも叱ったりしないでやんわりと誘導してくれるんだから。貴女にそれが出来る?」
「無理。私なら怒って責めたてちゃうわ。」
「でしょう? 私だってシュナイザー殿下を相手にブチギレ寸前だった場面は何度もあるし、なんならやんわりと誘導せずに皮肉言ってたんだから。」
「メルトリアも案外すぐキレるわよね。」
うるさいわね。あんたもじゃないの。私はこれでもアンガーマネジメントに努めてるのよ。
努めた結果、それなりの数をぶち殺したけれど。
「まぁ、私が何を言いたいのかと言うと、アイゼン公爵様は弱弱しいのではなく、強い優しさを持った人だという事よ。」
「言われてみればそうなのかしらね? 優しさを強さだと思った事は無かったけど、確かにそうなのかも?」
よしよし。
「優しさが強さ、か……。メルトリアの癖に良い事言うじゃない。」
「癖にって何よ。ローズマリーだってすぐキレるじゃない。」
「私は気が強いから仕方ないのよ。」
マリーベルに優しさを説くのは論外ね。
「テレーゼ様を見てみてよ。こんなに優しいけど、じゃあ弱いのか? と聞かれればそうではないでしょ?」
「「確かに……。」」
ローズマリーにもレイチェルにも納得してもらえたみたいね。
「あの……ジロジロ見られると少し恥ずかしいのですけど。」
うん。可愛い。
「見なさい。テレーゼ様が王になればこんな感じよ? きっとアイゼン公爵様だって似た様なタイプだと思う。素晴らしいでしょう? ローズマリーだったら『何見てんのよ? やめなさい。』とか言うわ。」
「言うわね。」
「言いそうです。」
「私に矛先を向けるのはやめなさい。」
「ほら。」
あははと高位貴族の令嬢が四人で笑い合う。
今回はお友達と一緒に宣伝するだけだし、変な事に巻き込むわけじゃないから気楽で良いわね。
ユリウスの処分は私一人でやろう。この四人を巻き込んではいけない。
「「「「メチャウマゴハーン」」」」
本当、この挨拶なんとかして欲しいわ。真面目に考えるのが馬鹿らしくなってしまう。
「メルはアイゼン公爵を王に、と考えているのか? お前が宣伝のような事をしているのは聞こえてきている。」
そりゃそうよね。大々的に活動しちゃってるし。
「はい。あの方はお優しく、悪い噂も聞かない人物です。これ程王に相応しい方は他にいらっしゃらないかと。」
「うーむ。我が家でもドントレス大公かアイゼン公爵かで悩んでいたのだが……。メルが既にそのような活動をしてしまっている手前、我が家ではアイゼン公爵を推さざるを得ない。まったく、何の相談も無しにとは困るな。」
「申し訳ございませんお父様。」
実際それを狙ってやってたしね。
「政治に首を突っ込むのは早過ぎる……と言いたいところだが、これまで何度も貴族裁判を経験してきたのだから、否が応でも気持ちが自立してしまったという事か。何故アイゼン公爵を推しているのかきちんと説明出来るのか?」
「はい。ドントレス大公の裁判はあまりにも私的感情を優先しています。公正な方だと噂されていますがその実、自身の正義感を優先し過ぎて公正にはなっておりません。」
「確かにな。同じ事を思っていた。」
本当は私と相性が悪いから王位について欲しくないだけなんだけどね。
「あれでは一方が悪く言われていた場合、公正さを著しく欠く。あの調子を政治に持ち込まれてはたまったものではない。」
「お父様のおっしゃる通りです。」
本当にね。お蔭で時間が巻き戻る前のメルトリアは嵌められ、公正さを欠く裁判で一方的に断罪されたのだ。
ドントレス大公の裁判を散々利用した私が言うのもなんだけど。
「メル、良い判断だ。いつの間にかそこまで見えるようになっていたんだな。」
「ありがとうございます。」
私は日本での社会経験がある。その分学生時代には見えなかった事も見えるようになった。
それにしてもお父様は最初からアイゼン公爵推しだったのね。私を試したんだわ。
「我が家はアイゼン公爵を推す事にする。言っておくが、メルが言ったから意見を合わせたわけじゃないからな?」
「勿論承知しておりますよお父様。」
はははと父娘で笑い合う。
怒られる事も覚悟はしていたけど、思いの外上手くいったわね。まぁ、今後の人生が掛かっているのだから怒られるくらいはなんでもないんだけど。
「ハイデルト。今日も随分と小食だな。体調が悪いなら明日は学園を休んだらどうだ?」
「い、いえ……。大丈夫です。ですが大事を取って残りは自室で頂きます。」
「その方が良いだろう。本当に無理をしないようにな?」
「はい。勿論です。」
ハイデルトったらどうしたんだろう。
学園ではモリモり食べてたし……こっそり動物でも飼い始めたのかしら?
程なくしてその話は学園にも広がりを見せ、ユリウスの生存も絶望視されている今日この頃。
「知ってる? アイゼン公爵って娘さんに凄く優しいらしいわよ?」
これからはアイゼン公爵の推し活をしていく。
ドントレス大公は曲がった事が大嫌いな性格なので、根性がイナバウアーくらい曲がっている私とでは相性が最悪過ぎる。
そういうわけで、アイゼン公爵には是非とも王位を取ってもらわなければ困るのだ。
先ずはそう……宣伝活動。
「娘さんと良くお出かけしてるそうよ。」
「あの人は娘さん以外にも優しいからね。以前訪ねた事があったんだけど、私に対しても娘のように接してくれたわ。」
成る程。マリーベルも四大貴族家だから、同じ四大貴族家のアイゼン公爵とは繋がりがあるのね。
「テレーゼ様もご存知でしょうか?」
「はい。あの方は凄く穏やかで怒ったところなんて見た事がありません。」
そうね。私もそんな話はとんと聞かない。
ドントレス大公は逆にブチギレシーンばかり見てきたからキレキャラのイメージがある。
「アイゼン公爵様が王だと素敵かもしれないわね。押しも強くないから優しい王になれると思うわ。」
「あ、メルトリアもそう思った? 実は私もなのよ。」
「アイゼン公爵様は少し弱弱しくない?」
レイチェル、余計な事言わないでよ。今宣伝活動中なんだから。
「そんな事ないと思うわ。優しさを保つのって逆に難しいのよ? だって、本当に優しい人は怒る場面でも叱ったりしないでやんわりと誘導してくれるんだから。貴女にそれが出来る?」
「無理。私なら怒って責めたてちゃうわ。」
「でしょう? 私だってシュナイザー殿下を相手にブチギレ寸前だった場面は何度もあるし、なんならやんわりと誘導せずに皮肉言ってたんだから。」
「メルトリアも案外すぐキレるわよね。」
うるさいわね。あんたもじゃないの。私はこれでもアンガーマネジメントに努めてるのよ。
努めた結果、それなりの数をぶち殺したけれど。
「まぁ、私が何を言いたいのかと言うと、アイゼン公爵様は弱弱しいのではなく、強い優しさを持った人だという事よ。」
「言われてみればそうなのかしらね? 優しさを強さだと思った事は無かったけど、確かにそうなのかも?」
よしよし。
「優しさが強さ、か……。メルトリアの癖に良い事言うじゃない。」
「癖にって何よ。ローズマリーだってすぐキレるじゃない。」
「私は気が強いから仕方ないのよ。」
マリーベルに優しさを説くのは論外ね。
「テレーゼ様を見てみてよ。こんなに優しいけど、じゃあ弱いのか? と聞かれればそうではないでしょ?」
「「確かに……。」」
ローズマリーにもレイチェルにも納得してもらえたみたいね。
「あの……ジロジロ見られると少し恥ずかしいのですけど。」
うん。可愛い。
「見なさい。テレーゼ様が王になればこんな感じよ? きっとアイゼン公爵様だって似た様なタイプだと思う。素晴らしいでしょう? ローズマリーだったら『何見てんのよ? やめなさい。』とか言うわ。」
「言うわね。」
「言いそうです。」
「私に矛先を向けるのはやめなさい。」
「ほら。」
あははと高位貴族の令嬢が四人で笑い合う。
今回はお友達と一緒に宣伝するだけだし、変な事に巻き込むわけじゃないから気楽で良いわね。
ユリウスの処分は私一人でやろう。この四人を巻き込んではいけない。
「「「「メチャウマゴハーン」」」」
本当、この挨拶なんとかして欲しいわ。真面目に考えるのが馬鹿らしくなってしまう。
「メルはアイゼン公爵を王に、と考えているのか? お前が宣伝のような事をしているのは聞こえてきている。」
そりゃそうよね。大々的に活動しちゃってるし。
「はい。あの方はお優しく、悪い噂も聞かない人物です。これ程王に相応しい方は他にいらっしゃらないかと。」
「うーむ。我が家でもドントレス大公かアイゼン公爵かで悩んでいたのだが……。メルが既にそのような活動をしてしまっている手前、我が家ではアイゼン公爵を推さざるを得ない。まったく、何の相談も無しにとは困るな。」
「申し訳ございませんお父様。」
実際それを狙ってやってたしね。
「政治に首を突っ込むのは早過ぎる……と言いたいところだが、これまで何度も貴族裁判を経験してきたのだから、否が応でも気持ちが自立してしまったという事か。何故アイゼン公爵を推しているのかきちんと説明出来るのか?」
「はい。ドントレス大公の裁判はあまりにも私的感情を優先しています。公正な方だと噂されていますがその実、自身の正義感を優先し過ぎて公正にはなっておりません。」
「確かにな。同じ事を思っていた。」
本当は私と相性が悪いから王位について欲しくないだけなんだけどね。
「あれでは一方が悪く言われていた場合、公正さを著しく欠く。あの調子を政治に持ち込まれてはたまったものではない。」
「お父様のおっしゃる通りです。」
本当にね。お蔭で時間が巻き戻る前のメルトリアは嵌められ、公正さを欠く裁判で一方的に断罪されたのだ。
ドントレス大公の裁判を散々利用した私が言うのもなんだけど。
「メル、良い判断だ。いつの間にかそこまで見えるようになっていたんだな。」
「ありがとうございます。」
私は日本での社会経験がある。その分学生時代には見えなかった事も見えるようになった。
それにしてもお父様は最初からアイゼン公爵推しだったのね。私を試したんだわ。
「我が家はアイゼン公爵を推す事にする。言っておくが、メルが言ったから意見を合わせたわけじゃないからな?」
「勿論承知しておりますよお父様。」
はははと父娘で笑い合う。
怒られる事も覚悟はしていたけど、思いの外上手くいったわね。まぁ、今後の人生が掛かっているのだから怒られるくらいはなんでもないんだけど。
「ハイデルト。今日も随分と小食だな。体調が悪いなら明日は学園を休んだらどうだ?」
「い、いえ……。大丈夫です。ですが大事を取って残りは自室で頂きます。」
「その方が良いだろう。本当に無理をしないようにな?」
「はい。勿論です。」
ハイデルトったらどうしたんだろう。
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