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第35話 暗殺

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 今日、シュナイザーが百叩きの刑に処される。

 もし王が生きていれば私は王からの恨みを買う日だ。


「流石にドキドキするわね。」


 王族が全員死んでいれば良し。もし死んでいなければ……。


「面倒な事になるわね。」


 私は最悪を想定し、最低限の金をバッグに入れて逃走の準備だけはしている。マリーベルを殺す事は出来なかったけど、私が生きる為には妥協するしかなかった。

 私はベッドから出て、なるべく換金性の高くそれでいてあまり華美ではない服装に着替え、家族の待つ食堂へと足を運ぶ。


「おはようございます。」

「メルか。今日は早いな。」

「はい。早くに目が覚めまして。」


 何かあっては事だと思い、昨日は早めに就寝したのだ。


「メルに言っておかねばならん事がある。」

「どうしたのですかお父様。朝からお仕事をなさる時のような顔をして。」

「真面目な話だからだ。実は昨日、王と王妃が暗殺されたらしい。」

「えっ?」


 やった。王がくたばった。

 これで私は安泰だわ。


「犯人は捕まっていない上に、誰の手によるものなのか分かっていないそうだ。そのような動きがあるとは一切耳にしていなかった。メルも身辺には気を付けて欲しい。」

「そう……ですか。」


 ざまぁ。この国の王族なんてカスばかりだから死んでせいせいするわ。


「昨日、学園でメルが王族に敵対するような事を言っていたと聞いているが……。」

「はい。それは王がマルグリット様を殺したからですわ。友人を殺されて黙っている私ではありません。」

「今回は……たまたま王が亡くなった為に問題にならないだろうが、滅多な事はするものじゃない。」

「承知しました。」

「あぁ。そう言えばメル宛てに手紙が届いているそうだ。後で確認してみれば良い。」


 手紙?

 このタイミングで届く手紙となれば……マリーベル!?


「朝食まではまだ時間がありますので、先に手紙を確認して参ります。」

「見て来ると良い。」


 私はお父様に礼をし、食堂を後にした。

 恐らく手紙の主はマリーベル。まぁ、たまたま友人からの手紙とタイミングが重なった可能性もあるけど、それならそれで良い。

 郵便物を管理している使用人に声を掛け、早速手紙を開いてみる。


「そっか……。」


 手紙には一言、2に逃げられたと書かれている。2とは恐らく第二王子。つまりはユリウスの事。

 全員殺してもらいたかったけど、ユリウス程度なら許容範囲だ。


「馬鹿の癖に変に勘の良い奴ね。」


 どうやって逃げたのかは分からないけど、ユリウスは私の手で始末するしかない。

 ケラトル家の人間から逃げたという事は今も身を隠している可能性がある。


「一体どこに逃げたのかしら。」


 ユリウスの逃走先に心当たりはない。気長に待つしかないか……。

 再び食堂へ行くと、既に家族が全員揃っていた。


「メルも来たな。それでは……。」

「「「「メチャウマゴハーン」」」」


 私達家族は食堂で朝食の挨拶をする。

 この挨拶ってもう少しどうにかならないのかしら? こっちは真面目に色々考えているというのに、挨拶のせいでかなりの気力を削がれてしまう。

 考えた奴誰よ。


「ん? ハイデルト、今日はあまり食が進んでいないな。」

「えっと……少し体調が優れず、残した分は部屋に戻って食べたいと思います。」

「そういう事なら部屋で食べても良い。」

「ありがとうございます。」

「大丈夫? 風邪かしら?」

「大丈夫だよ姉さん。ありがとう。」


 ハイデルトはキメ顔で私に礼を言った。

 姉にキメ顔見せてどうすんのよ。イケメンの無駄遣いだわ。しかも体調が悪そうにも見えないし。

 まぁ良いわ。ユリウスが出てきたらなるべく早めに片付けるとしよう。


































 学園内では王と王妃が死亡したという話が既に広まっていた。


「メルトリア。まさか貴女が殺したの?」

「違うわ。逆に聞きたいんだけど、私がどうやって殺すってのよ。王家の闇のような手勢なんて持ってないのに。」

「それもそうか。メルトリアが自分でやるにしても、昨日は馬鹿なスピーチの真っ最中だったしね。」


 ローズマリーの言から察するに、王と王妃は昨日の昼頃に殺されているらしい。私がスピーチをしているタイミングでケラトル家が上手くやってくれたようだ。

 四大貴族家ともなれば情報がより正確に入るんでしょう。


「ユリウス殿下もお姿が見えないようですね。上手く暗殺から逃れたのか、それとももう既に……。」

「トップが死んでるんだから、普通に考えれば生きてはいないわよね。」


 テレーゼとレイチェルも微妙な表情だ。

 これから王族と敵対するという時に、まさかの相手が死亡してしまったのだ。一度振り上げた手を下ろせないような気持ちになっているのかもしれないわね。


「次の王はドントレス大公かしら。」

「アイゼン公爵家かもしれませんよ?」


 この国では後継ぎ不在で王が死亡した場合、一番血縁の近い人間が王に選任される事になっている。


「血の繋がりで考えるならドントレス大公は先王の兄でアイゼン公爵は現王の弟。どちらが王でもおかしくはないわね。」


 ドントレス大公は曲がった事が大嫌いな人だから死んだ王よりは随分マシだけど、自分の主観で物事を判断し過ぎるから王にするには少し怖い人物だ。

 アイゼン公爵は大人しく控え目な人物で、王にするには少し弱弱しい。


「年齢を考えたらアイゼン公爵の可能性も高いわね。ドントレス大公はすでに60過ぎよ。」

「そうね。王になってもすぐにまた王位が変わるのでは意味がないわ。アイゼン公爵を王にした方が良いでしょうね。」


 後々貴族間では話合いの場を設ける事になる。今までの傾向を考えると、私と敵対しなさそうな人が王になってくれる方がありがたい。

 新たな王は弱弱しい方が敵対しないはず。私はアイゼン公爵を推そうと思う。

 これが本当の推し活。




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