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第28話 在庫処分
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マリーベルの言っていたように、危うくヒステリーを起こしてしまいそうになったあの卒業パーティーから二日が経過した。
「ユリウス殿下。マリーベル様に対して改めて貴族裁判を要求しては如何でしょうか? 悲しい事に、マリーベル様がダラス様を殺害したと思われる証拠が出て来たようです。」
「なんだと!?」
「私も信じられないのですけど……マルグリット生徒会長様が証拠の手紙を所持しております。」
「分かった! 絶対に俺が兄上から解放してみせる! メルトリア嬢は心配せずに待っていてくれ!」
ユリウス殿下は目を見開き、私の肩を掴んで熱が入った様子で更に口を開く。
汚い手で触らないで欲しいわ。馬鹿がうつったらどうするつもりよ。
「あの……。」
「あっ……済まない。」
私の肩からパッと手を放し、気まずそうにしているユリウス殿下。まぁ、これから役に立ってもらうのだから少しはサービスしておきますか。
「いえいえ。ユリウス殿下が頑張る姿をしかと見守らせて頂きますわ。」
私がニコリと笑顔を作って見せると、ユリウス殿下は照れているのか鼻の頭を掻いている。
「ではな。俺はマルグリット生徒会長に会って来る。どうかもう少しだけ待っていてくれ。」
「はい。お待ちしております。」
ユリウス殿下はくるりと背を向け、急ぎ足でこの場を立ち去った。
こうして見れば優秀そうに見えるんだけど、愛に狂って正常な判断も覚束ない人間は傍におくと危険ね。
シュナイザー亡き後はユリウスの天下になる。
だからユリウスが多少失敗しても本人は問題ないのでしょうけど、その妻がとんでもなく割を食う事になるのは容易に想像がつく。
そしてこのまま何もせずにユリウスを選んでしまった場合、割りを食うのは私だ。
恋する乙女なら「ユリウス様素敵! 抱いて!」となるのかもしれない。でも私は23歳まで日本人として生きた記憶もある。
短いながらも社会を経験し、クソみたいな恋愛も経験した事で、恋愛に対してそこまでの幻想を抱いてはいない。
「危なかったわ。もう少し若ければユリウスに嵌るところだった。」
この世界では王が絶対の権力者。王に非難がいくのではなく、恐らく王妃である私に非難が集中する。
もしそうなれば、王妃となった私は坂を転がるように落ちていく。パッと見では優良物件に見えるユリウスも地雷。
非難程度で済めば良いけど、最悪処刑エンドだ。
「汚いわね。まったくもう。」
私はユリウスに掴まれた肩をハンカチで拭き、教室へと向かった。
先ずはシュナイザーとマリーベルの処分に集中しよう。私は様子を見て、ダメそうなら手を出す事にする。
今回の貴族裁判はユリウスだけではなく、シュナイザーと現王も出席している。
王は兄弟喧嘩の行く末を見守ろうという気持ちで参加してるんでしょうけど、ただの兄弟喧嘩では絶対に済ませてやらないわ。
「被告人マリーベルは婚約者ダラスを殺害し、見事兄上を篭絡してみせました。当然ですが、ただ単に俺が喚いているだけではなく、裏もきちんと取ってあります。証人はクラリッサ伯爵令嬢、カタリナ侯爵令嬢、マルグリット侯爵令嬢です。」
「私はそんな事していませんわ。」
えぇ。マリーベルは本当にそんな事なんてしてないわよね?
だって、ダラスは私が殺したもの。
「静粛に。ではクラリッサ伯爵令嬢から順に証言してもらいたい。」
「はい。私はカタリナ様と一緒に賊の動きを調べていました。最近きな臭い動きがあるという噂を聞きつけ、賊の動向に目を光らせていたんです。」
「ふむ。続けよ。」
「そうして動きを調べていたら、ダラス様の馬車を襲撃するような話がありました。私がそれを知ったのは既に襲撃事件が終わってしまった後だったのでどうにも出来ませんでしたが……。」
「成る程。では次にカタリナ侯爵令嬢。」
「はい。大まかにはクラリッサと同じですわ。ですが、ここで一つ問題となる事があります。たかが賊如きが積極的に貴族の馬車を襲うなど普通ではあり得ません。つまり何者かの手引きによるものと考えられます。あの時、ダラス様が死んで一番得をするのはマリーベル様でした。」
二人と事前に打ち合わせしておいて良かったわ。
クラリッサは特に、要点を纏めておかないと話があっちこっちにいってしまう可能性があったからね。
「納得のいく証言ではあったな。では次、マルグリット侯爵令嬢。」
「はい。私はダラス様とは領地も近く、それなりに仲良くさせて頂いておりました。そんな私に対し、ダラス様は亡くなる直前に手紙を残してくれました。」
良し。使えない駒が証拠っぽい手紙を出してしまえばもう用済みね。
これでいつでも処分出来るわ。
「ほう? その手紙を読んでみて欲しい。」
「勿論です。それでは読み上げます——マルグリット、俺がもしこれから死ぬような事があればそれは恐らくマリーベルの手によるものだろう。マリーベルは以前、ジュリア嬢も殺害していたような悪女だ。現状マリーベルがシュナイザー殿下と婚約を結ぶのに俺は邪魔者である。だからマリーベルはそのうち俺を邪魔者として排除するような気がするのだ。俺は多分どうする事も出来ないから、仲の良いマルグリットにこの手紙を託す。この手紙を無かった事にしても良いし、これを証拠として公開しても良い。判断は君に任せる………………うぅっ………ダラス。貴方馬鹿よっ! もっと早く相談してくれれば………。」
使えない駒が泣いているのを見て、私は冷めた感情しか抱かなかった。
ダラスは馬鹿だったわ。私を本気で敵に回した時点で大馬鹿よ。
そしてマルグリット、貴女も馬鹿ね? あれ程の好機を上手く活かす事が出来ず、いらない人間として私に処分される運命なのだから。
「マルグリット侯爵令嬢、もう良い。なかなかに悪辣なようだな? マリーベル。」
「いえ? ジュリア伯爵令嬢殺害もダラス様の襲撃事件も私の手によるものではございません。」
「ふん。十分な証拠だと思うが?」
「状況的には私が犯人に見えるかもしれません。ですが証拠としては不十分ですし、ジュリア伯爵令嬢の殺害に至ってはダラス様の妄想かと。」
今一つ押しが足りないようね。まぁ、ユリウス殿下は私を助ける為に勇み過ぎて、証拠も固まり切っていないのに貴族裁判を急いでしまったが故の弊害でしょう。
元は私が焚き付けたせいだけど。
どうせシュナイザーも処分するのだし、ついでと言ってはなんだけど、この際マリーベルには私がトドメを差してあげようかしら。
今日は不良在庫一斉処分の日だ。
「ユリウス殿下。マリーベル様に対して改めて貴族裁判を要求しては如何でしょうか? 悲しい事に、マリーベル様がダラス様を殺害したと思われる証拠が出て来たようです。」
「なんだと!?」
「私も信じられないのですけど……マルグリット生徒会長様が証拠の手紙を所持しております。」
「分かった! 絶対に俺が兄上から解放してみせる! メルトリア嬢は心配せずに待っていてくれ!」
ユリウス殿下は目を見開き、私の肩を掴んで熱が入った様子で更に口を開く。
汚い手で触らないで欲しいわ。馬鹿がうつったらどうするつもりよ。
「あの……。」
「あっ……済まない。」
私の肩からパッと手を放し、気まずそうにしているユリウス殿下。まぁ、これから役に立ってもらうのだから少しはサービスしておきますか。
「いえいえ。ユリウス殿下が頑張る姿をしかと見守らせて頂きますわ。」
私がニコリと笑顔を作って見せると、ユリウス殿下は照れているのか鼻の頭を掻いている。
「ではな。俺はマルグリット生徒会長に会って来る。どうかもう少しだけ待っていてくれ。」
「はい。お待ちしております。」
ユリウス殿下はくるりと背を向け、急ぎ足でこの場を立ち去った。
こうして見れば優秀そうに見えるんだけど、愛に狂って正常な判断も覚束ない人間は傍におくと危険ね。
シュナイザー亡き後はユリウスの天下になる。
だからユリウスが多少失敗しても本人は問題ないのでしょうけど、その妻がとんでもなく割を食う事になるのは容易に想像がつく。
そしてこのまま何もせずにユリウスを選んでしまった場合、割りを食うのは私だ。
恋する乙女なら「ユリウス様素敵! 抱いて!」となるのかもしれない。でも私は23歳まで日本人として生きた記憶もある。
短いながらも社会を経験し、クソみたいな恋愛も経験した事で、恋愛に対してそこまでの幻想を抱いてはいない。
「危なかったわ。もう少し若ければユリウスに嵌るところだった。」
この世界では王が絶対の権力者。王に非難がいくのではなく、恐らく王妃である私に非難が集中する。
もしそうなれば、王妃となった私は坂を転がるように落ちていく。パッと見では優良物件に見えるユリウスも地雷。
非難程度で済めば良いけど、最悪処刑エンドだ。
「汚いわね。まったくもう。」
私はユリウスに掴まれた肩をハンカチで拭き、教室へと向かった。
先ずはシュナイザーとマリーベルの処分に集中しよう。私は様子を見て、ダメそうなら手を出す事にする。
今回の貴族裁判はユリウスだけではなく、シュナイザーと現王も出席している。
王は兄弟喧嘩の行く末を見守ろうという気持ちで参加してるんでしょうけど、ただの兄弟喧嘩では絶対に済ませてやらないわ。
「被告人マリーベルは婚約者ダラスを殺害し、見事兄上を篭絡してみせました。当然ですが、ただ単に俺が喚いているだけではなく、裏もきちんと取ってあります。証人はクラリッサ伯爵令嬢、カタリナ侯爵令嬢、マルグリット侯爵令嬢です。」
「私はそんな事していませんわ。」
えぇ。マリーベルは本当にそんな事なんてしてないわよね?
だって、ダラスは私が殺したもの。
「静粛に。ではクラリッサ伯爵令嬢から順に証言してもらいたい。」
「はい。私はカタリナ様と一緒に賊の動きを調べていました。最近きな臭い動きがあるという噂を聞きつけ、賊の動向に目を光らせていたんです。」
「ふむ。続けよ。」
「そうして動きを調べていたら、ダラス様の馬車を襲撃するような話がありました。私がそれを知ったのは既に襲撃事件が終わってしまった後だったのでどうにも出来ませんでしたが……。」
「成る程。では次にカタリナ侯爵令嬢。」
「はい。大まかにはクラリッサと同じですわ。ですが、ここで一つ問題となる事があります。たかが賊如きが積極的に貴族の馬車を襲うなど普通ではあり得ません。つまり何者かの手引きによるものと考えられます。あの時、ダラス様が死んで一番得をするのはマリーベル様でした。」
二人と事前に打ち合わせしておいて良かったわ。
クラリッサは特に、要点を纏めておかないと話があっちこっちにいってしまう可能性があったからね。
「納得のいく証言ではあったな。では次、マルグリット侯爵令嬢。」
「はい。私はダラス様とは領地も近く、それなりに仲良くさせて頂いておりました。そんな私に対し、ダラス様は亡くなる直前に手紙を残してくれました。」
良し。使えない駒が証拠っぽい手紙を出してしまえばもう用済みね。
これでいつでも処分出来るわ。
「ほう? その手紙を読んでみて欲しい。」
「勿論です。それでは読み上げます——マルグリット、俺がもしこれから死ぬような事があればそれは恐らくマリーベルの手によるものだろう。マリーベルは以前、ジュリア嬢も殺害していたような悪女だ。現状マリーベルがシュナイザー殿下と婚約を結ぶのに俺は邪魔者である。だからマリーベルはそのうち俺を邪魔者として排除するような気がするのだ。俺は多分どうする事も出来ないから、仲の良いマルグリットにこの手紙を託す。この手紙を無かった事にしても良いし、これを証拠として公開しても良い。判断は君に任せる………………うぅっ………ダラス。貴方馬鹿よっ! もっと早く相談してくれれば………。」
使えない駒が泣いているのを見て、私は冷めた感情しか抱かなかった。
ダラスは馬鹿だったわ。私を本気で敵に回した時点で大馬鹿よ。
そしてマルグリット、貴女も馬鹿ね? あれ程の好機を上手く活かす事が出来ず、いらない人間として私に処分される運命なのだから。
「マルグリット侯爵令嬢、もう良い。なかなかに悪辣なようだな? マリーベル。」
「いえ? ジュリア伯爵令嬢殺害もダラス様の襲撃事件も私の手によるものではございません。」
「ふん。十分な証拠だと思うが?」
「状況的には私が犯人に見えるかもしれません。ですが証拠としては不十分ですし、ジュリア伯爵令嬢の殺害に至ってはダラス様の妄想かと。」
今一つ押しが足りないようね。まぁ、ユリウス殿下は私を助ける為に勇み過ぎて、証拠も固まり切っていないのに貴族裁判を急いでしまったが故の弊害でしょう。
元は私が焚き付けたせいだけど。
どうせシュナイザーも処分するのだし、ついでと言ってはなんだけど、この際マリーベルには私がトドメを差してあげようかしら。
今日は不良在庫一斉処分の日だ。
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