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第24話 捏造
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「兄上。なぜ婚約者をないがしろにしているのですか? あれではメルトリア嬢が良い笑いものだ。」
「良いじゃないか。最近メルトリアの奴は口答えが多くてな。お灸をすえる意味でも必要な事だ。」
「そんな理屈はないでしょう。」
兄上は何をお考えなのだ。
互いに婚約者のいる身だというのに、マリーベル嬢との仲の良さを公然と見せつけるなんて……。
「それに、マリーベル嬢にだって婚約者がいるのですよ?」
「マリーベルの婚約者? あぁ、あのダラスとか言う腰巾着か。あいつは俺とマリーベルを悔しそうに見るだけの小物だ。特に問題ない。」
「問題ないって……。」
「なんだ。お前はメルトリアを好いてでもいるのか?」
「そういう訳ではありませんが。」
兄上は自分がどれ程素晴らしい相手と婚約しているのかが分かっていない。
王妃に足る教養を身に付け、咄嗟の機転が利き、自分が辛くても相手を慮る事の出来る心を持った女性。
メルトリア嬢はそんな素晴らしい人だ。
ジュリア嬢が泣いてしまった時、俺がどう対処したものか困り果てているとさり気なく助け船を出し、場をなんなく収めてくれた心遣い。そしてあの惚れ惚れするような笑み。
兄上がこんな風に雑に扱うのであれば、いっそ俺が……。
「マリーベルの方が口答えもしないし気が利くな。今からでも婚約者を交代出来ないものか。」
「いくらなんでも口が過ぎます。婚約者などそう簡単に変更は出来ませんよ。」
「出来るさ。俺が父に一言言えば済む話だ。」
信じられん。
王族ともあろう者がする発言とは思えない。
「冗談でしょう?」
「はは。冗談だ。」
それからというもの、俺は兄上を何度もお諫めし続けた。
兄上が婚約者をないがしろにし過ぎているから諫めてくれと我が親友ハイデルトより言われ、任せろと二つ返事で了承してしまった俺の迂闊な事。
メルトリア嬢公認で後ろからこっそり尻を眺めて良いという餌に釣られたのは失敗だった。
初めのうちは何と面倒な頼みを聞いてしまったのだと辟易していたが、耳に入るメルトリア嬢の噂話や兄上のメルトリア嬢に対する態度があまりにも酷い。
そのせいでついつい熱が入り過ぎ、俺は意地になって兄上に何度も訴え続けてしまった結果……
「いい加減にしろユリウス! メルトリアメルトリアと何度もしつこいぞ!」
「も、申し訳ありません兄上。しかし、もう良いでしょう。」
「ダメだ。あいつの方から謝罪の言葉を聞くまで対応を変えるつもりはない。」
「謝罪……ですか?」
「あぁ。弟とベタベタしているから場をわきまえろと暗に告げたが、あいつは謝罪の一つもしないのだ。」
え?
「兄上、もしや他にも無礼な行いがあったのですか?」
「いや。それだけだが?」
たった……それだけで?
信じ難い。
「あぁ……でも一つだけ。」
「なんでしょうか?」
「メルトリアはな。俺達の仲を邪魔したと思い込んでジュリア嬢を殺したのだ。その点に関しては気に食わないと思ったぞ。」
は?
ジュリア嬢を?
何をどうすればそのような誤解に至るというのか。あれは状況から察するに、マリーベル嬢の手の者でしかあり得ない。
マリーベル嬢の実家は王家が抱える暗殺者のような役割を果たしていると同時に、多少は邪魔な者を葬っても良いという特権を与えられている。
ジュリア嬢の死はあの写真によってマリーベル嬢の逆鱗に触れたのだと、容易に推測が立つはずだ。
なんと愚かな……。
「……。」
「全く……ジュリア嬢も確かにやり過ぎだったかもしれんが、殺す事はないだろうに。」
兄上。貴方は自分の婚約者を一切信じてはいないのですね。
最近婚約者をマリーベル嬢に変えてしまうのではと噂されているが、本気でその事について考え始めているのかもしれない。
ただでさえマリーベル嬢の婚約者ダラス侯爵令息が死んでしまい、婚約者替えという馬鹿な噂が現実味を帯びてきてしまっているというのに…………。
「はっ!?」
「どうした?」
まさか、ダラスまでマリーベル嬢が手をかけた?
「いやいや、流石にそれは……。」
いくらなんでも自らの婚約者を手にかけるか? しかも相手は侯爵令息だ。明らかにケラトル家の権限を超えて……。
「おい。どうしたと聞いている。」
「あ、いえ……少し考え事を。」
ケラトル家の権限を超えているなら、どこにもバレないよう密かに処理してしまえば良いだけの話。
ダラスが死んで一番得をする奴は誰か。それはマリーベル=ケラトル侯爵令嬢に他ならない。
恐らくマリーベル嬢は兄上と婚約する算段がついたのだ。だから用済みとばかりにダラスを始末して……。
「おい、用が済んだならもう良いだろう? 俺は忙しい。」
「申し訳ありません兄上。俺も急用が出来ましたのでこれにて。」
「はぁ。好きにしろ。」
このままだとあの可憐なメルトリア嬢が害されてしまう。かくなる上は、メルトリア嬢と兄上の婚約を破棄させる方向に持っていかねば。
俺はあの可憐なメルトリア嬢をモノにしたい。
兄上がいらないと言うのなら、俺がもらっても良いはずだ。
「って感じの展開になっているでしょうね。」
ユリウス殿下って聡明なんだけど、私を好きというフィルターがかかっているせいで私を疑うという事は一切ないのよね。マリーベルという巨悪っぽいものに思考が行き着いたら私を疑う事もないでしょうし。
通常では知り得ないような各キャラクターの性格までを把握出来ているのは強みだわ。
主人公視点では見る事の出来ない出来事や、各キャラの台詞なんかをプレイヤー視点で見た事があるってのは強いのよね。
「ゲームシナリオからは外れている。未来は分からない。でも……。」
各キャラクターの動きをかなりの精度で予測する事は出来る。
更に嬉しい事に、最悪失敗しても今のステータスなら家族を連れて逃げる事もそう難しくはない。
ゲーム内ではどんなにステータスが高かろうとも、失敗すれば処刑エンドは有り得た。貴族令嬢として育ったメルトリアには王家に逆らうという発想がそもそもなかったんだわ。
対して私はどうか?
力があればバリバリに反抗して、なんなら王や第一王子など殺害しても構わないとさえ思っている。
「ふふっ。」
王もついでに殺害し、ユリウス殿下と結婚すれば私は王妃ね。
その方向性も検討しておこうかな?
大体にして、王などと言っても巻き戻る前のメルトリアを一切信じてくれなかったじゃない。
ならば私が王を一切信用などせず、反逆の心を持っても仕方ないわよね?
私は状況証拠をでっち上げる為、生徒会室に足を運んだ。
「マルグリット生徒会長様はいらっしゃいますか?」
「あ、メルトリア様……。」
「どうかされましたか?」
しけた面してるわね。仲の良いお友達が死んだからかしら?
「メルトリア様が前におっしゃった通り、ダラス様は身の危険を感じていたようです。」
「やはりそうでしたか。」
「視察に行く前、私に手紙を残して行ったのです。」
マルグリット生徒会長とダラスは元々領地も近く仲が良い。
以前私が身の潔白を証明する為の証拠を用意しておけとダラスに忠告した事がここで活きてくる。
でもまさか手紙まで残してくれるとは……。
クソ男の癖に役立つじゃないの。
「ダラス様の手紙には『もし自分に何かがあれば恐らくマリーベルの手によるものだろう。』と書かれてありますわ。」
「そう……ですか。」
よしよし。これでマルグリット生徒会長までもがマリーベルの犯行と思い込み、しかも面白い事に、一見証拠っぽいものまで手に入れる事が出来たわ。
この世界は科学なんて存在しないし、裁判だって結局は状況証拠っぽいものが出てきた時点でそれが信用されるような未開文明。
それっぽいものが証拠になるような世界だもの。そりゃあゲーム内ではメルトリアが簡単に追い詰められて処刑されるわけよね。
逆を言えば、証拠っぽいもので相手を追い詰める事が出来るのだけど。
とにかく、これでマリーベルを処刑する準備が整った。
「ふふっ。」
「あの……メルトリア様? 流石に人の死に笑みを浮かべるのは不謹慎かと存じます。」
「え? あ、失礼致しましたわ。マリーベルという悪を討つ事が出来るかと思うと……。」
「そ、そうでしたの。私こそとんだ勘違いを。」
いけないけない。
ダラスが死んだのをここで高笑いしてやりたいけど、一人になるまでは我慢しないとね。
「良いじゃないか。最近メルトリアの奴は口答えが多くてな。お灸をすえる意味でも必要な事だ。」
「そんな理屈はないでしょう。」
兄上は何をお考えなのだ。
互いに婚約者のいる身だというのに、マリーベル嬢との仲の良さを公然と見せつけるなんて……。
「それに、マリーベル嬢にだって婚約者がいるのですよ?」
「マリーベルの婚約者? あぁ、あのダラスとか言う腰巾着か。あいつは俺とマリーベルを悔しそうに見るだけの小物だ。特に問題ない。」
「問題ないって……。」
「なんだ。お前はメルトリアを好いてでもいるのか?」
「そういう訳ではありませんが。」
兄上は自分がどれ程素晴らしい相手と婚約しているのかが分かっていない。
王妃に足る教養を身に付け、咄嗟の機転が利き、自分が辛くても相手を慮る事の出来る心を持った女性。
メルトリア嬢はそんな素晴らしい人だ。
ジュリア嬢が泣いてしまった時、俺がどう対処したものか困り果てているとさり気なく助け船を出し、場をなんなく収めてくれた心遣い。そしてあの惚れ惚れするような笑み。
兄上がこんな風に雑に扱うのであれば、いっそ俺が……。
「マリーベルの方が口答えもしないし気が利くな。今からでも婚約者を交代出来ないものか。」
「いくらなんでも口が過ぎます。婚約者などそう簡単に変更は出来ませんよ。」
「出来るさ。俺が父に一言言えば済む話だ。」
信じられん。
王族ともあろう者がする発言とは思えない。
「冗談でしょう?」
「はは。冗談だ。」
それからというもの、俺は兄上を何度もお諫めし続けた。
兄上が婚約者をないがしろにし過ぎているから諫めてくれと我が親友ハイデルトより言われ、任せろと二つ返事で了承してしまった俺の迂闊な事。
メルトリア嬢公認で後ろからこっそり尻を眺めて良いという餌に釣られたのは失敗だった。
初めのうちは何と面倒な頼みを聞いてしまったのだと辟易していたが、耳に入るメルトリア嬢の噂話や兄上のメルトリア嬢に対する態度があまりにも酷い。
そのせいでついつい熱が入り過ぎ、俺は意地になって兄上に何度も訴え続けてしまった結果……
「いい加減にしろユリウス! メルトリアメルトリアと何度もしつこいぞ!」
「も、申し訳ありません兄上。しかし、もう良いでしょう。」
「ダメだ。あいつの方から謝罪の言葉を聞くまで対応を変えるつもりはない。」
「謝罪……ですか?」
「あぁ。弟とベタベタしているから場をわきまえろと暗に告げたが、あいつは謝罪の一つもしないのだ。」
え?
「兄上、もしや他にも無礼な行いがあったのですか?」
「いや。それだけだが?」
たった……それだけで?
信じ難い。
「あぁ……でも一つだけ。」
「なんでしょうか?」
「メルトリアはな。俺達の仲を邪魔したと思い込んでジュリア嬢を殺したのだ。その点に関しては気に食わないと思ったぞ。」
は?
ジュリア嬢を?
何をどうすればそのような誤解に至るというのか。あれは状況から察するに、マリーベル嬢の手の者でしかあり得ない。
マリーベル嬢の実家は王家が抱える暗殺者のような役割を果たしていると同時に、多少は邪魔な者を葬っても良いという特権を与えられている。
ジュリア嬢の死はあの写真によってマリーベル嬢の逆鱗に触れたのだと、容易に推測が立つはずだ。
なんと愚かな……。
「……。」
「全く……ジュリア嬢も確かにやり過ぎだったかもしれんが、殺す事はないだろうに。」
兄上。貴方は自分の婚約者を一切信じてはいないのですね。
最近婚約者をマリーベル嬢に変えてしまうのではと噂されているが、本気でその事について考え始めているのかもしれない。
ただでさえマリーベル嬢の婚約者ダラス侯爵令息が死んでしまい、婚約者替えという馬鹿な噂が現実味を帯びてきてしまっているというのに…………。
「はっ!?」
「どうした?」
まさか、ダラスまでマリーベル嬢が手をかけた?
「いやいや、流石にそれは……。」
いくらなんでも自らの婚約者を手にかけるか? しかも相手は侯爵令息だ。明らかにケラトル家の権限を超えて……。
「おい。どうしたと聞いている。」
「あ、いえ……少し考え事を。」
ケラトル家の権限を超えているなら、どこにもバレないよう密かに処理してしまえば良いだけの話。
ダラスが死んで一番得をする奴は誰か。それはマリーベル=ケラトル侯爵令嬢に他ならない。
恐らくマリーベル嬢は兄上と婚約する算段がついたのだ。だから用済みとばかりにダラスを始末して……。
「おい、用が済んだならもう良いだろう? 俺は忙しい。」
「申し訳ありません兄上。俺も急用が出来ましたのでこれにて。」
「はぁ。好きにしろ。」
このままだとあの可憐なメルトリア嬢が害されてしまう。かくなる上は、メルトリア嬢と兄上の婚約を破棄させる方向に持っていかねば。
俺はあの可憐なメルトリア嬢をモノにしたい。
兄上がいらないと言うのなら、俺がもらっても良いはずだ。
「って感じの展開になっているでしょうね。」
ユリウス殿下って聡明なんだけど、私を好きというフィルターがかかっているせいで私を疑うという事は一切ないのよね。マリーベルという巨悪っぽいものに思考が行き着いたら私を疑う事もないでしょうし。
通常では知り得ないような各キャラクターの性格までを把握出来ているのは強みだわ。
主人公視点では見る事の出来ない出来事や、各キャラの台詞なんかをプレイヤー視点で見た事があるってのは強いのよね。
「ゲームシナリオからは外れている。未来は分からない。でも……。」
各キャラクターの動きをかなりの精度で予測する事は出来る。
更に嬉しい事に、最悪失敗しても今のステータスなら家族を連れて逃げる事もそう難しくはない。
ゲーム内ではどんなにステータスが高かろうとも、失敗すれば処刑エンドは有り得た。貴族令嬢として育ったメルトリアには王家に逆らうという発想がそもそもなかったんだわ。
対して私はどうか?
力があればバリバリに反抗して、なんなら王や第一王子など殺害しても構わないとさえ思っている。
「ふふっ。」
王もついでに殺害し、ユリウス殿下と結婚すれば私は王妃ね。
その方向性も検討しておこうかな?
大体にして、王などと言っても巻き戻る前のメルトリアを一切信じてくれなかったじゃない。
ならば私が王を一切信用などせず、反逆の心を持っても仕方ないわよね?
私は状況証拠をでっち上げる為、生徒会室に足を運んだ。
「マルグリット生徒会長様はいらっしゃいますか?」
「あ、メルトリア様……。」
「どうかされましたか?」
しけた面してるわね。仲の良いお友達が死んだからかしら?
「メルトリア様が前におっしゃった通り、ダラス様は身の危険を感じていたようです。」
「やはりそうでしたか。」
「視察に行く前、私に手紙を残して行ったのです。」
マルグリット生徒会長とダラスは元々領地も近く仲が良い。
以前私が身の潔白を証明する為の証拠を用意しておけとダラスに忠告した事がここで活きてくる。
でもまさか手紙まで残してくれるとは……。
クソ男の癖に役立つじゃないの。
「ダラス様の手紙には『もし自分に何かがあれば恐らくマリーベルの手によるものだろう。』と書かれてありますわ。」
「そう……ですか。」
よしよし。これでマルグリット生徒会長までもがマリーベルの犯行と思い込み、しかも面白い事に、一見証拠っぽいものまで手に入れる事が出来たわ。
この世界は科学なんて存在しないし、裁判だって結局は状況証拠っぽいものが出てきた時点でそれが信用されるような未開文明。
それっぽいものが証拠になるような世界だもの。そりゃあゲーム内ではメルトリアが簡単に追い詰められて処刑されるわけよね。
逆を言えば、証拠っぽいもので相手を追い詰める事が出来るのだけど。
とにかく、これでマリーベルを処刑する準備が整った。
「ふふっ。」
「あの……メルトリア様? 流石に人の死に笑みを浮かべるのは不謹慎かと存じます。」
「え? あ、失礼致しましたわ。マリーベルという悪を討つ事が出来るかと思うと……。」
「そ、そうでしたの。私こそとんだ勘違いを。」
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