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第13話 三匹目

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「ジュリア……どうしてこんな事に。」


 私の予想通り、犯人はマリーベルだったようだ。

 本日早朝、ルートベルグ伯爵家邸宅付近の林でジュリアのものと思われる左腕が発見された。

 他の部位は付近を探索しても見つけられず、その場には魔獣に食い荒らされたような跡としてジュリアのものであろう多量の血痕が残っていたそうだ。

 綺麗だった細腕には彼女のお気に入りの魔除けのブレスレットがはめられており、左腕が無事だったのはブレスレットの効果らしい。


「ハイデルト……。心を強く持って。ジュリア様がお墓に入るところを見届けてあげましょう。」


 ジュリアは左腕しかない為、身内と婚約者一家の簡素な葬儀となった。


「安らかに眠れるよう、祈ってあげて。」

「うん……。」


 私も大分やばくなってきたわね。前世じゃ考えられない。

 ジュリアが死ぬ原因を作っておいて、白々しく祈ってあげてだなんて……。


「貴方が結婚しても私が結婚しても、学園を卒業しても年を取っても、こうしてジュリア様のお墓に参りましょう? 貴方に来てもらえたら、きっとジュリア様は嬉しいはずだわ。」


 エーデラル子爵令嬢、ルディアナ公爵令嬢、トッポ侯爵令息、ジュリア伯爵令嬢。

 既に四人も葬ってきた私はきっと地獄行だろうなぁ。

 死にたくない。誰が死んでやるものか。マリーベルだけは絶対殺す。

 そういう気持ちから始まった私の異世界憑依物語だけど……


「ありがとう……本当にありがとう。ハイデルト殿、娘の婚約者になってくれて……メルトリア嬢、娘を可愛がってくれて……本当にありがとう。」

「結婚は出来まぜんでしだが、ジュリアは俺の婚約者。貴族の務めどしで、誰かと……結婚する事はあれど、彼女はずっと俺の婚約者とじで……大切にじまず。」

「私も妹が出来て嬉しかったんです。こうしてまた、お墓にお花を持って参りますわ。」

「ありがとう……。うちのジュリアも君達に来てもらえて、きっと幸せだ。」


 こうしてジュリアのご両親に泣いて感謝されてしまうと、殺し慣れてしまった私でも流石に多少居心地の悪さを感じはする。

 他の貴族同様、私も性根が腐ってきてしまったわね。

 どうしてこうなったんだろう。

 今、私はジュリアの死に対して何の罪悪感も抱いていない。本音を語れば悪い事をしたとは微塵も思っていない。

 せいぜい弟が可哀想かな、くらいのものだ。














 私達は帰りの馬車に揺られ、ポツリポツリと会話をする。


「ジュリアは……姉さんと仲良くなりたい。最初の頃は本当にそう思っていたらしい。」

「最初って、途中からはそうではなくなったのかしら?」

「うん。俺が姉さんにベタベタし過ぎて嫉妬してしまったんだ。」

「それは知ってます。まぁ可愛いものでしたけど、貴方も知ってたなら止めて下さい。」

「あの時は少し焦る姉さんがついおかしくて。姉さんは……その、ジュリアを邪魔だと思っていたかもしれないけど……。」

「そんな事ありません。」

「ごめん。俺、姉さんを疑ってたんだ。」


 へぇ?


「ジュリアは……かなり姉さんの邪魔をしただろ? だから……ジュリアが死んで一番得するのは姉さんじゃないかって……。」


 勘の良い弟ね。

 手を下したのは私じゃないけど、原因を作ったという点では私が殺したようなものだから間違ってはいないわ。

 この子、どこかのタイミングで排除した方が良いかしら?


「でも、今日の様子を見て思った。やはり姉さんのせいなんかじゃないって。そんなはずないって。」


 うーん。

 流石に殺しちゃうのはマズいし、お姉ちゃんどう黙らせようかと考えちゃ……何を考えてるの私っ!? ハイデルトは大切な弟でしょ? 排除って何よ!?


「失礼ですね。マリーベル様なんかはともかく、私を疑うのはあんまりです。」

「ご、ごめんって姉さん。」


 これが人を四人も殺した影響……。

 効率よく邪魔者を排除する思考が身に付いてしまっている。

 でも、この世界を生き抜くには逆に好都合よ。関係のない人間を巻き込まないようしっかりと自分でこの思考を飼い慣らせば良い。

 そうすれば、明るい未来が待っているかもしれないんだから。


「私、テレーゼ様の所へ寄って行きますね。」

「え? 姉さん? 怒ったの?」

「怒ってませんって。テレーゼ様に相談があるから来てくれと誘われていますので。」

「テレーゼ様が?」

「彼女の婚約者候補について、です。」


 正確には元婚約者候補、についてだけど。


「デリケートな話みたいだから、俺は遠慮しておく。」

「当たり前です。呼ばれてもいない貴方が公爵家へ突然訪問なんて、大目玉くらいますよ。」

「だ、だよな。」

「全く。今度お墓に行ったらジュリア様に報告致しますから。」

「それはやめてくれ。」


 この子も少しは元気が出たかしら?

 完全に空元気なのは分かっているけど、空元気でも出しておかないと悲しみで潰れちゃいそうなのよね。











 馬車はハワード公爵邸に到着し、私だけがそこで下車した。


「相変わらず大きなお屋敷だわ。今日の話合い次第ではこの屋敷の住人が味方になるのだから頑張らないとね。」


 私は使用人に案内され、テレーゼの元へと向かった。


「御機嫌ようテレーゼ様。」

「御機嫌ようメルトリア様。お早い到着でしたのね。」


 優雅に挨拶を返してくれるのは、この邸宅の一人娘テレーゼ=ハワード。

 弟と同級生にして第一王子の元婚約者候補であるこの娘、高位貴族令嬢らしからぬ清さを身に付けている絶滅危惧種の天然の良い娘なのだ。


「えぇ。少し時間に余裕をつけてお約束致しましたので。」


 今日の話合いは実のところ、私から提案したものだった。


「相変わらず、貴族にしては珍しく時間を気になさっておいでなのですね。」

「ふふ。きっと癖、なのでしょう。」


 元日本人の私は時間前行動が身に付いている。反対にこの国の貴族は30分は遅れるのが普通だ。

 マナー違反というわけではないらしいので、私は時間前行動を心がけている。


「早速本題に入ると致しましょう。ジュリア様は殺害された、と私は考えています。」

「えぇ。そこは私もメルトリア様と同意見です。」

「問題はどなたが……という話なのですが、テレーゼ様はお心当たりは?」

「人をむやみに疑うのは良くない事と思ってはいるのですが、マリーベル様ではないかと考えています。」


 うん。超良い娘。

 私なんかとは比べ物にならない程の良い娘。

 そして大正解。


「テレーゼ様はそうお考えなのですね。」

「はい。メルトリア様は違うのでしょうか?」

「……これは是非ともご内密にして頂ければ嬉しいのですが。」

「勿論です。メルトリア様と私はお友達でしょう? 内緒に決まっています。」


 優しく微笑むテレーゼ。

 尊い……もうこの娘と結婚したい。やばい。仰げば尊死してしまうじゃない。


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