【完結】血と涙の復讐 ポロリ(あたまが)もあるよ☆

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第11話 踊らされる第二王子

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「ジュリア伯爵令嬢。少し話があるのだ。」

「はい。どのようなご用件でしょうか?」

「内密な話なのだが……君には婚約者がいるのだから俺と二人きりになって噂を立てられるのも良くないだろう。」

「えっと、はい。」


 心当たりはなさそうな表情だが、証拠があるなんて思いもしていないのだろう。


「幸い我々は同級生。人気のない所でなければ勘繰られる事もない。場所を移そう。」


 俺達は今、学園のテラスの一角に座している。

 端に位置するこの場所は少し回りに注意さえ払えば、人目に触れつつ内緒話をするには大層都合の良いポイントだ。

 テラスの端の席に向かい合って腰かけ、俺はおもむろに写真を取り出しジュリア嬢に見せつける。


「この写真を見てくれ。これは君が兄上と逢瀬を重ねていた時の写真だ。」

「っ!?」


 彼女はギョッと目を見開いて写真を凝視する。

 兄上と顔が重なり合い、どう見ても口づけを交わしているようにしか見えない写真を。


「こっ! こんな……デタラメです!!」


 突然大声を出して立ち上がるジュリア伯爵令嬢は、悪い意味で注目の的となってしまった。

 多少賑わっていたとはいえ、これ程の大声を出せば当然注目を集めてしまう。このままでは口さがない者達に何を噂されるか……。


「声が大きい。内密な話だと言ったのが聞こえなかったのか?」


 周囲の興味を引いてしまった以上、このタイミングで話を打ち切り退散してしまうとお互いに良い結果にはならないだろう。

 なるべく穏便に話し合いたいところだが、この調子で叫ばれると俺にまでいらん被害が及ぶ。

 いや、もう遅いか。

 全く……何故こんな役目を買って出てしまったのだろう。


「も、申し訳ありません……。」

「あのな。婚約者の決まっていない俺よりも、婚約者がいる君の方がダメージはデカいんだぞ? そこのところ、理解しているのか?」


 俺は第一王子の兄とは違い、婚約者を自由に選ぶ権利が与えられていた。

 学生生活を謳歌するかたわら、ある程度家格のつり合いが取れている相手ならば婚約者を自由に選んで良いと父より言われている。

 だが、変な噂を立てられれば俺の婚約者選びが難航してしまう。

 そしてそれ以上に婚約者がいるジュリア嬢は下手をすれば破談だ。この写真がある以上はどちらにせよ破談になるのだろうが。


「でも、本当にこんな写真デタラメなんです。何かの間違いです。私はハイデルト様一筋なんですから。」

「俺もそうだと思っていたさ。この写真が出てくるまではな。」


 写真という決定的な証拠が出てきてもこの調子か。絶対にバレないとでも思っていたのか?

 我が親友のハイデルトがショックを受けてしまうかと思い、奴にはこの事をまだ告げていない。

 先ずは親友であるこの俺が事実確認をと気を利かせてみれば、親友の婚約者はとんでもない嘘つき女だったというわけだ。

 先程大声を出した件もあるし、これ以上ジュリア嬢とは一緒に居たくないからとっとと認めて欲しいのだが……。


「それにな、君と兄上が何度も逢瀬を重ねているという話はとっくに聞こえてきているんだ。」

「違います。私はあくまで相談していただけで、決してやましい事はしておりません。」


 やけに堂々と否定する女だ。余程嘘が上手いのだろう。

 まるで本当にやましい事などないと言わんばかりの雰囲気に、俺が間違った事を言っているのではないかと錯覚してしまいそうだ。

 もうこの女から事実を聞く前に結論を言ってしまおう。でなければ、どこまでもそんな事はしていないと言い張られてしまいそうな気がする。


「そうは言うがこの写真。俺がどこで手に入れたと思う?」

「えっと……。」

「俺のロッカーだ。しかもこれを持っているのは俺だけじゃない。調べによると、兄上の婚約者候補だった者全員のロッカーに入っていたようだ。」

「え?」

「つまり君は、下手をすれば高位貴族複数を……しかも義理の姉になるであろう人まで敵に回した事になる。」

「う、うそ……。」

「気の毒だとは思うが急いで謝罪をして回った方が良い。ハイデルトにも誠心誠意謝るんだぞ?」

「あ、う……でも、本当に知らない。私、何もしてない……。」


 ハラハラと目から涙を溢す様は悲劇のヒロインのようだ。

 なんと面倒な。これでは俺が泣かせたみたいじゃないか。この期に及んで知らないなどと、本当に面の皮が厚い女だ。

 あと、言葉遣いが馴れ馴れし過ぎる。これ以上追及しても話が進まなくなるのは理解しているので口にはださんが。


「うっ……本当に、知らないんです。」


 困った。

 公衆の面前で泣かれてしまうと、どう対処しようが俺が一方的に悪い風に周囲は捉えてしまうだろう。

 最悪だ。

 泣かした方が悪いという風潮は間違っている、と声を大にして言いたい。


「まぁまぁ、どうなされたのですか? ユリウス殿下ったら、また得意の指がなくなる手品を披露なさったのでしょう。ジュリア様がビックリして泣いてらっしゃるじゃありませんか。」


 突然俺達に明るい調子で声を掛け、どうしようもない空気を良い意味で壊してくれたのは兄上の婚約者メルトリア嬢だった。


「あ、あぁ。そうだ。済まなかったジュリア嬢。」


 自分だって泣きたいくらい悔しいだろうこの状況で、さり気なく俺とジュリア嬢を笑顔でフォローしてくれるとは流石に未来の王妃なだけはある。

 こんなに素晴らしい人と結婚出来る兄上が羨ましい。


「も、申し訳ありません殿下。あまりにもビックリして泣いてしまいましたの。」


 ジュリア嬢の謝罪を皮切りに、集めていた好機の視線が霧散した。


「内密な話はもっと別の場所でされた方がよろしいかと思います。写真の件は私も気になっていましたので、もしご都合がよろしいようでしたらユリウス殿下にも一緒に聞いて頂きたいですわ。」


 俺もこれに関しては決着をつけなければまずいと思っていたので、メルトリア嬢の提案を快く受け入れる。

 下手をすれば兄上と俺の派閥、第一王子派閥と第二王子派閥が勝手に争いかねない案件だ。

 こんなつまらない事で国内が分裂してしまってはたまったものじゃない。

 俺達はメルトリア嬢の提案で中庭にあるベンチに腰掛け、改めて話合いを行った。


「さて、ジュリア様はシュナイザー殿下とどのようなご関係なのでしょうか?」


 いきなり核心をついたな。

 まぁ、時間をかけても無意味ではあるか。


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