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第9話 弟の婚約者
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「ハイデルト様は随分とお姉様と仲がよろしいのですね?」
「それは勿論さ。なんたって世界一の姉だからね。」
「……。」
気まずい。
非常に気まずい。
「第一王子殿下の婚約者ですものね。そのような方でなくては務まりませんわ。」
「え、えぇ。ありがとうございます。」
現在私達が何をやっているのか端的に言えば、お茶会inアースダイン家のテラス。
ハイデルトとその婚約者であるジュリア=ルートベルグ伯爵令嬢とお茶会の真っ最中なのである。
どう考えても私はお邪魔虫でしかないのだが、ハイデルトが私も一緒でなければダメだと言って聞かないのだ。
「それにしても……いくら素晴らしいお姉様がいらっしゃるからと言って、私に自慢ばかりするのは少々妬けますわ。ふふっ。これではどちらが婚約者か分かりませんわね?」
ハイデルトは頭をポリポリと掻きながら照れるような仕草を見せているが……
ちーがーうーだーろっ!
違うだろっ!
照れてる場合じゃねぇよ?
お姉ちゃんアンタのせいで、この娘にめっちゃ嫌な目で見られてるからね?
ジュリア伯爵令嬢の視線には、男には分からない程度の険がこもっている。彼女の台詞からは副音声が聞こえてくるようだ。姉が邪魔だ、と。
「そうだろう? 僕の姉さんは将来君の義姉になるんだから、この機会に是非とも親しくなってもらいたいと思ってね。」
「是非お願いしますわ。『ハイデルト様の婚約者』として頑張って参ります。」
婚約者の部分を強調してくるだなんて、明らかに私を意識しての言動だ。
どう考えたってこんなお茶会を開催しても良い方向に進む訳ないのに、うちのシスコン弟ときたらただでさえ嫉妬心の強そうなジュリア伯爵令嬢の目の前で私を堂々と褒めちぎるのだ。
お邪魔キャラムーブをかましている事に気付かないハイデルトには文句をつけてやりたいけど、他のヒロイン相手にはしっかりお助けキャラの役目を全うしてくれるのであまり悪くも思えない。
「こちらこそ、弟をよろしくお願いしますね。」
はぁ……。
どこの世界に姉同伴でデートする奴がいるってのよ。
男って、何て馬鹿なんだろう。どうしてジュリアの様子に違和感を抱かないのかしら。
所々でチクチクと遠まわしに嫌味を言ってきている事にだって気付きもしないし、我が弟ながら本当に申し訳ない気持ちになる。
まぁ、手加減はしないけどね。
弟の婚約者であるジュリア伯爵令嬢は近い将来敵になる……と言っても我がアースダイン家と敵対するわけではない。
私個人に牙を剥くのだ。
彼女にとって私は邪魔で仕方ない鬱陶しい存在として認識されているようで、積極的に排除しようと動くようになる。
原因は誰でも察する事が出来ると思うけれども、弟がシスコン過ぎて私にベタベタしてくる事だ。度を超えて。
「私にはお姉様が居ないので本当に嬉しいです。どうぞよろしくお願い致します。」
ハイデルトがお助けキャラとして活躍してくれるのは本当に助かるんだけど、代わりにこのジュリアが敵対キャラとなる。
しかも面倒な事に元々の原因が弟側にある為、下手なタイミングで反撃しようとすれば私が完全に悪者になってしまうという非常に手間のかかる敵対キャラだ。
単に非がこちらにあるので、あまり責められないと思っている私自身の心の問題でもあるのだけど。
とりあえず顔合わせは済んだ。最悪な顔合わせだけどね。
向こうは貴族令嬢としての仮面を被ってはいるが、内心穏やかではないだろう。
彼女の嫉妬心の強さを考えれば、今この場で私に魔法をぶっ放してこない事を褒めてあげたいくらいだった。
こうなった以上、ゲームと同じように淡々と進めていくしかない。
そうして最悪なお茶会を終えた数日後の昼休み、早速ジュリアが接触してきた。
「お義姉様? よろしければ私達も昼食を御一緒してよろしいでしょうか?」
ハイデルトと並んで私に声を掛けてくるジュリア伯爵令嬢。
あぁ、私を陥れようとするイベントの始まりか。
「え、えぇと……私、普段はシュナイザー殿下とご一緒させて頂いておりますので、殿下が何とおっしゃるか……。」
「勿論良いぞ。」
快諾の意を示す能無し王子はやはり女性の機微を理解しないし、なんならイラつかせる才能まである。
この野郎。
普段はカカシ程さえも役に立たない癖に、いらん時ばかり口出ししてきやがって……。
快諾してくれやがったこの能無しは一番初めのイベント以降、はっきり言ってまるで役に立たない。その初めだって役に立ったと言えるか怪しいくらいである。
私がどんな目にあっても基本は放置するし、なんなら私が嵌められても知らんぷりどころか相手方の言い分を信じてしまうのだ。
婚約者なら私を信じろよっ!
往復ビンタしてやりたいわこの男っ!
「別の選択肢が欲しい……。」
「どうかしたのか?」
「いえ、何でもございませんわ。」
危な。ついつい本音が口から出てしまった。
ゲームの性質上第一王子と結婚するのは規定路線。これを変える事など出来ないし、万が一変えてしまえば何が起こるか分からない。
しかし、私はある可能性に思い至っている。
私自身がある程度なにがしかの成果を出して発言力を得た上で、敵対的なヒロインとその実家をけちょんけちょんにしてやれば、このシナリオから逃れる事が出来るのではないかという可能性だ。
もしかすると能無し王子との婚約も破棄出来るかもしれない。
失敗したら家族を連れて国外に逃げれば良いのだ。こんな男となんか絶対に結婚したくない。
「こうして大勢で摂る昼食というのも良いですね。姉さん。」
「そうね。」
「姉さんはもっと食べないとダメだよ。ただでさえ細すぎるんだから。」
「考えておきます。」
「姉さんは……。」
うるせー!
お前は私のオカンか!!
うん。分かってはいたけど辛い。
能無し男がめっちゃ見てくる。
我が弟は私の事となると、周りが全く見えなくなるのだ。
この能無し王子からはただならぬ関係であるように見えているのでしょうね……勿論ジュリアもそう思っているからこそ、こうして故意に弟を殿下に引き合わせているのだろうけど。
「あ、あー……メルトリアは弟と随分仲が良いんだな。」
能無し王子の顔が引き攣っている。
彼が嫉妬という感情を掻き立てられているであろう事は明白で、何かと私に構いたがるような態度を取り始めた。
というか、嫉妬するくらいなら普段からもっと助けろやっ!!
まぁ、それだとゲームが成立しないのは理解出来るけどさ。
理解は出来るけど……今この世界は現実なのだから、能無し王子シュナイザー殿下がボンクラで脳内お花畑なのは本人の責任だと思う。
マジでこいつと結婚したくねー。
「それは勿論さ。なんたって世界一の姉だからね。」
「……。」
気まずい。
非常に気まずい。
「第一王子殿下の婚約者ですものね。そのような方でなくては務まりませんわ。」
「え、えぇ。ありがとうございます。」
現在私達が何をやっているのか端的に言えば、お茶会inアースダイン家のテラス。
ハイデルトとその婚約者であるジュリア=ルートベルグ伯爵令嬢とお茶会の真っ最中なのである。
どう考えても私はお邪魔虫でしかないのだが、ハイデルトが私も一緒でなければダメだと言って聞かないのだ。
「それにしても……いくら素晴らしいお姉様がいらっしゃるからと言って、私に自慢ばかりするのは少々妬けますわ。ふふっ。これではどちらが婚約者か分かりませんわね?」
ハイデルトは頭をポリポリと掻きながら照れるような仕草を見せているが……
ちーがーうーだーろっ!
違うだろっ!
照れてる場合じゃねぇよ?
お姉ちゃんアンタのせいで、この娘にめっちゃ嫌な目で見られてるからね?
ジュリア伯爵令嬢の視線には、男には分からない程度の険がこもっている。彼女の台詞からは副音声が聞こえてくるようだ。姉が邪魔だ、と。
「そうだろう? 僕の姉さんは将来君の義姉になるんだから、この機会に是非とも親しくなってもらいたいと思ってね。」
「是非お願いしますわ。『ハイデルト様の婚約者』として頑張って参ります。」
婚約者の部分を強調してくるだなんて、明らかに私を意識しての言動だ。
どう考えたってこんなお茶会を開催しても良い方向に進む訳ないのに、うちのシスコン弟ときたらただでさえ嫉妬心の強そうなジュリア伯爵令嬢の目の前で私を堂々と褒めちぎるのだ。
お邪魔キャラムーブをかましている事に気付かないハイデルトには文句をつけてやりたいけど、他のヒロイン相手にはしっかりお助けキャラの役目を全うしてくれるのであまり悪くも思えない。
「こちらこそ、弟をよろしくお願いしますね。」
はぁ……。
どこの世界に姉同伴でデートする奴がいるってのよ。
男って、何て馬鹿なんだろう。どうしてジュリアの様子に違和感を抱かないのかしら。
所々でチクチクと遠まわしに嫌味を言ってきている事にだって気付きもしないし、我が弟ながら本当に申し訳ない気持ちになる。
まぁ、手加減はしないけどね。
弟の婚約者であるジュリア伯爵令嬢は近い将来敵になる……と言っても我がアースダイン家と敵対するわけではない。
私個人に牙を剥くのだ。
彼女にとって私は邪魔で仕方ない鬱陶しい存在として認識されているようで、積極的に排除しようと動くようになる。
原因は誰でも察する事が出来ると思うけれども、弟がシスコン過ぎて私にベタベタしてくる事だ。度を超えて。
「私にはお姉様が居ないので本当に嬉しいです。どうぞよろしくお願い致します。」
ハイデルトがお助けキャラとして活躍してくれるのは本当に助かるんだけど、代わりにこのジュリアが敵対キャラとなる。
しかも面倒な事に元々の原因が弟側にある為、下手なタイミングで反撃しようとすれば私が完全に悪者になってしまうという非常に手間のかかる敵対キャラだ。
単に非がこちらにあるので、あまり責められないと思っている私自身の心の問題でもあるのだけど。
とりあえず顔合わせは済んだ。最悪な顔合わせだけどね。
向こうは貴族令嬢としての仮面を被ってはいるが、内心穏やかではないだろう。
彼女の嫉妬心の強さを考えれば、今この場で私に魔法をぶっ放してこない事を褒めてあげたいくらいだった。
こうなった以上、ゲームと同じように淡々と進めていくしかない。
そうして最悪なお茶会を終えた数日後の昼休み、早速ジュリアが接触してきた。
「お義姉様? よろしければ私達も昼食を御一緒してよろしいでしょうか?」
ハイデルトと並んで私に声を掛けてくるジュリア伯爵令嬢。
あぁ、私を陥れようとするイベントの始まりか。
「え、えぇと……私、普段はシュナイザー殿下とご一緒させて頂いておりますので、殿下が何とおっしゃるか……。」
「勿論良いぞ。」
快諾の意を示す能無し王子はやはり女性の機微を理解しないし、なんならイラつかせる才能まである。
この野郎。
普段はカカシ程さえも役に立たない癖に、いらん時ばかり口出ししてきやがって……。
快諾してくれやがったこの能無しは一番初めのイベント以降、はっきり言ってまるで役に立たない。その初めだって役に立ったと言えるか怪しいくらいである。
私がどんな目にあっても基本は放置するし、なんなら私が嵌められても知らんぷりどころか相手方の言い分を信じてしまうのだ。
婚約者なら私を信じろよっ!
往復ビンタしてやりたいわこの男っ!
「別の選択肢が欲しい……。」
「どうかしたのか?」
「いえ、何でもございませんわ。」
危な。ついつい本音が口から出てしまった。
ゲームの性質上第一王子と結婚するのは規定路線。これを変える事など出来ないし、万が一変えてしまえば何が起こるか分からない。
しかし、私はある可能性に思い至っている。
私自身がある程度なにがしかの成果を出して発言力を得た上で、敵対的なヒロインとその実家をけちょんけちょんにしてやれば、このシナリオから逃れる事が出来るのではないかという可能性だ。
もしかすると能無し王子との婚約も破棄出来るかもしれない。
失敗したら家族を連れて国外に逃げれば良いのだ。こんな男となんか絶対に結婚したくない。
「こうして大勢で摂る昼食というのも良いですね。姉さん。」
「そうね。」
「姉さんはもっと食べないとダメだよ。ただでさえ細すぎるんだから。」
「考えておきます。」
「姉さんは……。」
うるせー!
お前は私のオカンか!!
うん。分かってはいたけど辛い。
能無し男がめっちゃ見てくる。
我が弟は私の事となると、周りが全く見えなくなるのだ。
この能無し王子からはただならぬ関係であるように見えているのでしょうね……勿論ジュリアもそう思っているからこそ、こうして故意に弟を殿下に引き合わせているのだろうけど。
「あ、あー……メルトリアは弟と随分仲が良いんだな。」
能無し王子の顔が引き攣っている。
彼が嫉妬という感情を掻き立てられているであろう事は明白で、何かと私に構いたがるような態度を取り始めた。
というか、嫉妬するくらいなら普段からもっと助けろやっ!!
まぁ、それだとゲームが成立しないのは理解出来るけどさ。
理解は出来るけど……今この世界は現実なのだから、能無し王子シュナイザー殿下がボンクラで脳内お花畑なのは本人の責任だと思う。
マジでこいつと結婚したくねー。
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