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第8話 二人目
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裁判長がガベルを打ち鳴らし、判決を告げる。
「判決を申し渡す。被告人、ディアナ公爵令嬢とその婚約者であるトッポ侯爵令息を死刑に処す。」
「「そんな!」」
「気付かなかったとは言え、第二王子に死に至るような魔法を撃つなど言語道断。また、格下の貴族相手だからと魔法を公の場で使用するなど危険極まりない。今後もこのような事があってはならないので死刑が妥当である。」
「私は王の姪ですのよ!?」
「それを言うならこの私も王の叔父だが?」
ディアナ公爵令嬢は焦って言い訳を始めるが、それを裁判長が事もなげに言い返す。
「こんな横暴許されません!」
「お前がメルトリア侯爵令嬢にしてきた横暴も許されん。」
「……。」
裁判長は文句を言われ慣れているようで、全てにおいて尤もな返しで即座に相手の言を潰していく。
今回は本当に楽な裁判だわ。
なにせ、第二王子であるユリウス殿下が訴えてディアナ公爵令嬢を追及までしてくれ、私のやる事は殆どない。
おまけに裁判長まで加勢してくれるので、今までのストレスがスカッと解放されていくよう。
「たかが侯爵令嬢相手に魔法を撃っただけで……。大袈裟です。」
「大袈裟? 成る程。大袈裟ときたか。」
「そうです! 私は栄えあるベラルクス公爵家の長女ですよ? 侯爵家など我が家に比べれば吹けば飛ぶようなもの。それを少し揶揄ったからと大袈裟です。」
流石に吹けば飛ぶは言い過ぎ。我が家とてそこまでは弱くない。
それにしても、これは実にいい流れだわ。ディアナ公爵令嬢が裁判長に噛みついてくれるのは予想外だ。
この上なく良い結果になりそう。
「では、吹けば飛ぶようなものを相手にいちいちちょっかいを出すお前も大層大袈裟だな。」
「魔法の大家を敵に回すおつもりですか?」
「成る程……栄えあるベラルクス公爵家、か。」
「そ、そうです。このような判決、納得するわけがありません。」
「では、訂正しよう。」
ディアナ公爵令嬢は喜色満面の笑みを浮かべると、傍聴席にいる私に向けて勝ち誇った顔を見せる。
何やら勘違いしているようだけど……
「被告人、ディアナ公爵令嬢は死刑とする。また、このような危険極まりない思想の令嬢を輩出したベラルクス公爵家は……私の権限において降爵とし、伯爵位に下げる事とする。」
「え?」
きた!
ベラルクス公爵家はディアナが処刑された後、恨みを晴らそうと子飼いの貴族子弟を使って私の足を引っ張ってくるのだ。
ここで力を削ぐ事が出来たのは非常に大きい。
「そちらこそ、貴族裁判の裁判長でありドントレス大公家の私を敵に回すつもりか?」
「いえ……その……。」
公爵令嬢ともあろう者が王家に次ぐ大貴族、ドントレス大公家を知らない筈がない。
広大な領土と小国にも匹敵するような軍事力を併せ持つドントレス家は王より絶大なる信頼を得ており、王妃以上の権限を与えられている。
加えて言えば、貴族裁判の裁判長を兼任しているこの人はその家の当主だ。
「この私がドントレス大公と知っていてその発言が出るという事は、余程普段から言って回っているのであろうな。今まで格下相手にそうした態度を取ってきたのが容易に想像できる。癖で咄嗟に出てしまった、と言ったところか?」
「決してそのような事は! あの……。」
自身の失敗を悟ったようで、ディアナ公爵令嬢は顔をみるみる青ざめさせ言い訳を始めようとするが、裁判長は続けて発言する。
「成る程……栄えあるベラルクス公爵家とは権威を肥大化させたどうしようもない家だという事は理解した。文句があるならかかってくるが良い。ベラルクス家の三倍の領土と五倍の領民を抱える我がドントレス家が相手になろう。」
「そ、そんな……。」
「勿論理解していると思うが、戦となればお前への罰は処刑程度なんかでは絶対に済まさんぞ?」
どんな目にあうのか想像がついたのか、はたまた想像もつかないような罰を与えられるのではと考えているのか、ディアナの顔は恐怖と絶望に染まっている。
「お、お待ち下さい。私は見ていただけで、何も悪い事は……。」
「何もしないから問題なのだ。婚約者が格上であるからして諫める事は出来ないにしても、報告する事は出来たはずである。危うく第二王子を殺害するところであったのだぞ?」
「……。」
トッポ侯爵令息は言い訳を繰り返す事なく沈黙を貫く。
たった今目の前で、自身の婚約者が死刑に加えて家の格まで下げられてしまったのを目の当たりにしたのだから、当然と言えば当然だが。
そもそも何もしていないとは言うが、私は知っている。
こいつが魔法を撃たれている私を見ながら笑っていたのを……。
「この裁判を傍聴する諸君に告げる。貴族とは下の者の手本となるべき存在である。時に今の私のように強権を振るう事もあるが、それは道理を正す為に行うべきもの。決してディアナ公爵令嬢のように身分を笠に着て下の者を虐げるべきではない。これにて閉廷!」
貴族裁判は完全に決着した。
二人の死刑に加え、ベラルクス家が公爵から伯爵に降爵するという前代未聞の判決が確定するという形で……。
死刑を言い渡されたディアナ公爵令嬢とその婚約者のトッポ侯爵令息。
処刑台には今、その二人が立っている。
「私はベラルクス公爵家の長女よ! 下々の者共が石を投げるな!」
この期に及んでまだそのような事を言える元気があるのね。あれ程元気が有り余っているのなら、私にしてきた行いにも納得がいく。
「あなたの家はもう伯爵家だけどね。」
本当にこの世界は碌でもない貴族が多い。
元々日本で暮らしてきた私は貴族に良いイメージというものは無かったが、この国の上級貴族以上の身分の人間は一部を除いて腐っている。
まともなのは王族と大公家、そして我が家を含めて二、三家くらいのものか……。
それにしても、さぞ無念だったに違いない。首を斬られ転がり落ちた二人の表情からはそれが伝わってくる。
「あなた達にこれまで虐げられてきた人達の方が余程無念よ。自分達だけ被害者面するな。」
首だけになった二人に語り掛けるが、恐らく……とうに死んでいて私の言葉は届いていないのだろう。
二人の悔しさを滲ませた表情が変化する事はない。
この二人に虐げられた格下の貴族は他にも存在していた。私に行った程には本気で魔法を撃っていなかったようで、幸い怪我をした人間はいなかったそうだけど。
「来世はもっとマシな人間になれると良いわね。」
去り際、二つの首へ言葉をかけ、振り返る事なく私はその場を後にした。
「判決を申し渡す。被告人、ディアナ公爵令嬢とその婚約者であるトッポ侯爵令息を死刑に処す。」
「「そんな!」」
「気付かなかったとは言え、第二王子に死に至るような魔法を撃つなど言語道断。また、格下の貴族相手だからと魔法を公の場で使用するなど危険極まりない。今後もこのような事があってはならないので死刑が妥当である。」
「私は王の姪ですのよ!?」
「それを言うならこの私も王の叔父だが?」
ディアナ公爵令嬢は焦って言い訳を始めるが、それを裁判長が事もなげに言い返す。
「こんな横暴許されません!」
「お前がメルトリア侯爵令嬢にしてきた横暴も許されん。」
「……。」
裁判長は文句を言われ慣れているようで、全てにおいて尤もな返しで即座に相手の言を潰していく。
今回は本当に楽な裁判だわ。
なにせ、第二王子であるユリウス殿下が訴えてディアナ公爵令嬢を追及までしてくれ、私のやる事は殆どない。
おまけに裁判長まで加勢してくれるので、今までのストレスがスカッと解放されていくよう。
「たかが侯爵令嬢相手に魔法を撃っただけで……。大袈裟です。」
「大袈裟? 成る程。大袈裟ときたか。」
「そうです! 私は栄えあるベラルクス公爵家の長女ですよ? 侯爵家など我が家に比べれば吹けば飛ぶようなもの。それを少し揶揄ったからと大袈裟です。」
流石に吹けば飛ぶは言い過ぎ。我が家とてそこまでは弱くない。
それにしても、これは実にいい流れだわ。ディアナ公爵令嬢が裁判長に噛みついてくれるのは予想外だ。
この上なく良い結果になりそう。
「では、吹けば飛ぶようなものを相手にいちいちちょっかいを出すお前も大層大袈裟だな。」
「魔法の大家を敵に回すおつもりですか?」
「成る程……栄えあるベラルクス公爵家、か。」
「そ、そうです。このような判決、納得するわけがありません。」
「では、訂正しよう。」
ディアナ公爵令嬢は喜色満面の笑みを浮かべると、傍聴席にいる私に向けて勝ち誇った顔を見せる。
何やら勘違いしているようだけど……
「被告人、ディアナ公爵令嬢は死刑とする。また、このような危険極まりない思想の令嬢を輩出したベラルクス公爵家は……私の権限において降爵とし、伯爵位に下げる事とする。」
「え?」
きた!
ベラルクス公爵家はディアナが処刑された後、恨みを晴らそうと子飼いの貴族子弟を使って私の足を引っ張ってくるのだ。
ここで力を削ぐ事が出来たのは非常に大きい。
「そちらこそ、貴族裁判の裁判長でありドントレス大公家の私を敵に回すつもりか?」
「いえ……その……。」
公爵令嬢ともあろう者が王家に次ぐ大貴族、ドントレス大公家を知らない筈がない。
広大な領土と小国にも匹敵するような軍事力を併せ持つドントレス家は王より絶大なる信頼を得ており、王妃以上の権限を与えられている。
加えて言えば、貴族裁判の裁判長を兼任しているこの人はその家の当主だ。
「この私がドントレス大公と知っていてその発言が出るという事は、余程普段から言って回っているのであろうな。今まで格下相手にそうした態度を取ってきたのが容易に想像できる。癖で咄嗟に出てしまった、と言ったところか?」
「決してそのような事は! あの……。」
自身の失敗を悟ったようで、ディアナ公爵令嬢は顔をみるみる青ざめさせ言い訳を始めようとするが、裁判長は続けて発言する。
「成る程……栄えあるベラルクス公爵家とは権威を肥大化させたどうしようもない家だという事は理解した。文句があるならかかってくるが良い。ベラルクス家の三倍の領土と五倍の領民を抱える我がドントレス家が相手になろう。」
「そ、そんな……。」
「勿論理解していると思うが、戦となればお前への罰は処刑程度なんかでは絶対に済まさんぞ?」
どんな目にあうのか想像がついたのか、はたまた想像もつかないような罰を与えられるのではと考えているのか、ディアナの顔は恐怖と絶望に染まっている。
「お、お待ち下さい。私は見ていただけで、何も悪い事は……。」
「何もしないから問題なのだ。婚約者が格上であるからして諫める事は出来ないにしても、報告する事は出来たはずである。危うく第二王子を殺害するところであったのだぞ?」
「……。」
トッポ侯爵令息は言い訳を繰り返す事なく沈黙を貫く。
たった今目の前で、自身の婚約者が死刑に加えて家の格まで下げられてしまったのを目の当たりにしたのだから、当然と言えば当然だが。
そもそも何もしていないとは言うが、私は知っている。
こいつが魔法を撃たれている私を見ながら笑っていたのを……。
「この裁判を傍聴する諸君に告げる。貴族とは下の者の手本となるべき存在である。時に今の私のように強権を振るう事もあるが、それは道理を正す為に行うべきもの。決してディアナ公爵令嬢のように身分を笠に着て下の者を虐げるべきではない。これにて閉廷!」
貴族裁判は完全に決着した。
二人の死刑に加え、ベラルクス家が公爵から伯爵に降爵するという前代未聞の判決が確定するという形で……。
死刑を言い渡されたディアナ公爵令嬢とその婚約者のトッポ侯爵令息。
処刑台には今、その二人が立っている。
「私はベラルクス公爵家の長女よ! 下々の者共が石を投げるな!」
この期に及んでまだそのような事を言える元気があるのね。あれ程元気が有り余っているのなら、私にしてきた行いにも納得がいく。
「あなたの家はもう伯爵家だけどね。」
本当にこの世界は碌でもない貴族が多い。
元々日本で暮らしてきた私は貴族に良いイメージというものは無かったが、この国の上級貴族以上の身分の人間は一部を除いて腐っている。
まともなのは王族と大公家、そして我が家を含めて二、三家くらいのものか……。
それにしても、さぞ無念だったに違いない。首を斬られ転がり落ちた二人の表情からはそれが伝わってくる。
「あなた達にこれまで虐げられてきた人達の方が余程無念よ。自分達だけ被害者面するな。」
首だけになった二人に語り掛けるが、恐らく……とうに死んでいて私の言葉は届いていないのだろう。
二人の悔しさを滲ませた表情が変化する事はない。
この二人に虐げられた格下の貴族は他にも存在していた。私に行った程には本気で魔法を撃っていなかったようで、幸い怪我をした人間はいなかったそうだけど。
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