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第7話 シスコン
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どこに出しても恥ずかしくない程の我がアースダイン侯爵家の嫡男、人呼んでシスコンのハイデルト。
学園では一年生トップの成績を修め、一躍話題になった有名人。
つまりは私の弟なのだが……何のことはない。ゲーム内では初期ステータスがかなり優秀な上に、私が特訓してあげているのだ。
「手筈は整った。姉さんはいつも通りに過ごしてくれれば良いさ。」
「本当に大丈夫なのかしら。危ない事はしないで下さいね?」
「平気だって。絶対に姉さんを助けてみせるから。」
流石はゲーム内屈指のお助けキャラ。
「無茶しないで……と言いたいところですが、聞いてはくれないのでしょう?」
「良く分かったね。」
ハイデルトは当然だという顔で返事をする。
「はぁ……。」
この先がどうなるのか勿論知ってはいる。
しかし、この世界が一応ゲームと同じように進行しているとは言え、私にとってはれっきとした現実。
私にはメルトリアとして生きた記憶も存在しているので、弟ハイデルトを心配する気持ちも嘘偽りのない事実。
ハイデルトを危険から遠ざける選択肢もあるにはあるのだけど……ここでゲームシナリオから逸れるとどんな事が起こるか予測不能になってしまう。
ルートによっては一族郎党処刑エンドも存在している世界で安易な行動はしたくない。
最悪を想定し、宮廷魔法士レベルのステータスを生かして他国へ亡命する事も視野に入れているけど、それは本当にどうしようもない時だけの選択肢だ。
現時点では順調に進んでいるので、シナリオから逸れるような事をせずに正しい攻略手順で進めていく。
まだまだゲームで言えば中盤だし、今回の件はハイデルトの身が危険という事はないので彼に任せよう。
さてさて、ディアナ公爵令嬢は追い詰められたらどんな風に言い訳するのかしらね?
「さぁ、本日も中級魔法のお稽古を致しましょう。」
「……はい。」
私に声を掛けて来るのはディアナ公爵令嬢。
最近ではすっかり日常になりつつあるお稽古と称した嫌がらせ、いつの間にかそれが始まる時間になったようだ。
でも、このクソ女の魔法を見るのも今日で見納めね。
私は促され、いつもの裏庭へ性悪公爵令嬢とその婚約者を先導していると……
パンッ!!
と何かが破裂したような音が背後から聞こえ、この場にいる筈のない人物の声が廊下に響き渡る。
「この俺に魔法を撃ち込んでくるとは良い度胸だな、ディアナ公爵令嬢。」
「殿下の暗殺を企むとは、何を考えている!」
私が後ろを振り返れば、そこに居たのはこの国の第二王子ユリウス殿下と魔法を防いだ我が弟ハイデルト。
どうやら今の今までインビジブルの魔法で姿を消して私の背後に居たようだ。
このインビジブルという魔法は王族だけに伝わる秘中の秘。ハイデルトはユリウス殿下に魔法をかけてもらっていたらしい。
そして二人の向こうには顔を青くしたディアナ公爵令嬢とその婚約者がうろたえている。
当然、サーチの魔法を使っていたので後ろで起こっていた事を私はしっかりと把握していた。
「どうした? ハイデルトの言う通り暗殺か?」
「い、いえ! 決してそのような事は……。」
王子の物騒な質問に跳ねるように答えるクソ女。
「では何だと言うのだ?」
「……殿下がいらっしゃるとはつゆとも知らず。」
「ほう? 俺が居るとは思っていなかった、という事は兄上の婚約者を狙ったと?」
「あっ……いえ、魔法のお稽古を行っておりました。」
「魔法の稽古だと? 背後から致死レベルの魔法を撃つ事がお前の稽古なのか?」
「加減を間違えてしまったようです。」
最初は突如現れたユリウス殿下に面食らって慌てていたクソ女だが、途中で切り替え冷静に言い訳を始める所は流石最上位貴族。
しかし、その言い訳はいくらなんでも無茶苦茶過ぎる。
「加減ねぇ……。」
「誰でも間違いと言う事はありますもの。」
そんな間違いなんてあってたまるもんですか。
「実家が魔法の大家であり、自身が魔法の成績上位のディアナ嬢が間違い、か。しかも背後からの奇襲まで行って……。」
「それを言うなら殿下こそ、インビジブルの魔法で姿を消して何をしておいでなのです? 何かやましい事でも?」
切り込む隙を見つけたからか、クソ女の口調が少しだけ得意気に変化していく。
なんて憎たらしい顔。
「ふむ、この期に及んで言い訳はすまい。我が親友ハイデルトの姉が大層良い尻だと言う事なのでな、二人で背後からこっそり確認していたまでよ。人前で言う事ではないがな。」
本当に人前で言う事ではない。
緊迫した場面なのに、王族だけに伝わる魔法の使いどころを完全に間違えているユリウス殿下には笑えてしまう。
私の尻をじっくり眺めやがって……助けてくれたからパンツくらいまでなら見せてあげても良いけど。
「まぁ、破廉恥な。第二王子ともあろうお方が何という……」
「背後から兄上の婚約者を狙ったディアナ嬢、俺が破廉恥だからと言って、その行いは誤魔化せんぞ。」
「……。」
「これは次期王妃暗殺の線で調べねばなるまいな。」
「決してそのような事は!」
「他に何がある? 当然貴様も無関係ではないのだろう?」
「いえ、私にも何が何だか……。」
突然声を掛けられたクソ女の婚約者が慌てだす。
冷や汗を流して言い訳するが、見るからに挙動不審で非常に怪しい。
「見ていたぞ。貴様も貴様で、ディアナ嬢が魔法を放った瞬間驚く様子もなかったではないか。予め知っていたのだろう?」
「いえ、その……。」
「知っていなければ可笑しいだろう。何もせずにただ黙って見ているなど、本来有り得ないからな。」
「彼女の実家、ベラルクス公爵家は我がアースダイン家が邪魔なのでしょう。今までも圧力をかけてきた事は一度や二度ではありません。まさかこのような手段に出るとは思ってもみませんでしたが……。」
ハイデルトはさらりと第二王子ユリウス殿下に理由を告げる。
まぁ、嘘ではなく本当の事なのだけど。
「そのような事はしていません!」
「落ち着け、大丈夫だ。そちらに何の非もなければ咎めはしない。」
「殿下……。」
ディアナ公爵令嬢は助けられたと勝手に勘違いし、涙ぐんでいるが違う。
全然全くそんな訳ないのにね。
「貴族裁判にかければすぐに分かる事だろう。」
「お待ちを!」
「言い訳は見苦しいぞ。」
結局、第二王子自ら貴族裁判に訴えかけ、私にとっては二度目の貴族裁判が始まる事となった。
しかし、兄であるシュナイザー殿下は自分の婚約者を助けもしないボンクラ王子だけど、弟のユリウス殿下は何て良い子なんだろう。
無駄に上品で堅苦しくボンクラな兄より、ユリウス殿下の方が明け透けで私にとっては好ましい。
婚約者がこっちだったらと何度考えた事か……。
彼は私の尻が好みらしいし、お礼に尻を出して目の前で踊ってやろうかしら?
学園では一年生トップの成績を修め、一躍話題になった有名人。
つまりは私の弟なのだが……何のことはない。ゲーム内では初期ステータスがかなり優秀な上に、私が特訓してあげているのだ。
「手筈は整った。姉さんはいつも通りに過ごしてくれれば良いさ。」
「本当に大丈夫なのかしら。危ない事はしないで下さいね?」
「平気だって。絶対に姉さんを助けてみせるから。」
流石はゲーム内屈指のお助けキャラ。
「無茶しないで……と言いたいところですが、聞いてはくれないのでしょう?」
「良く分かったね。」
ハイデルトは当然だという顔で返事をする。
「はぁ……。」
この先がどうなるのか勿論知ってはいる。
しかし、この世界が一応ゲームと同じように進行しているとは言え、私にとってはれっきとした現実。
私にはメルトリアとして生きた記憶も存在しているので、弟ハイデルトを心配する気持ちも嘘偽りのない事実。
ハイデルトを危険から遠ざける選択肢もあるにはあるのだけど……ここでゲームシナリオから逸れるとどんな事が起こるか予測不能になってしまう。
ルートによっては一族郎党処刑エンドも存在している世界で安易な行動はしたくない。
最悪を想定し、宮廷魔法士レベルのステータスを生かして他国へ亡命する事も視野に入れているけど、それは本当にどうしようもない時だけの選択肢だ。
現時点では順調に進んでいるので、シナリオから逸れるような事をせずに正しい攻略手順で進めていく。
まだまだゲームで言えば中盤だし、今回の件はハイデルトの身が危険という事はないので彼に任せよう。
さてさて、ディアナ公爵令嬢は追い詰められたらどんな風に言い訳するのかしらね?
「さぁ、本日も中級魔法のお稽古を致しましょう。」
「……はい。」
私に声を掛けて来るのはディアナ公爵令嬢。
最近ではすっかり日常になりつつあるお稽古と称した嫌がらせ、いつの間にかそれが始まる時間になったようだ。
でも、このクソ女の魔法を見るのも今日で見納めね。
私は促され、いつもの裏庭へ性悪公爵令嬢とその婚約者を先導していると……
パンッ!!
と何かが破裂したような音が背後から聞こえ、この場にいる筈のない人物の声が廊下に響き渡る。
「この俺に魔法を撃ち込んでくるとは良い度胸だな、ディアナ公爵令嬢。」
「殿下の暗殺を企むとは、何を考えている!」
私が後ろを振り返れば、そこに居たのはこの国の第二王子ユリウス殿下と魔法を防いだ我が弟ハイデルト。
どうやら今の今までインビジブルの魔法で姿を消して私の背後に居たようだ。
このインビジブルという魔法は王族だけに伝わる秘中の秘。ハイデルトはユリウス殿下に魔法をかけてもらっていたらしい。
そして二人の向こうには顔を青くしたディアナ公爵令嬢とその婚約者がうろたえている。
当然、サーチの魔法を使っていたので後ろで起こっていた事を私はしっかりと把握していた。
「どうした? ハイデルトの言う通り暗殺か?」
「い、いえ! 決してそのような事は……。」
王子の物騒な質問に跳ねるように答えるクソ女。
「では何だと言うのだ?」
「……殿下がいらっしゃるとはつゆとも知らず。」
「ほう? 俺が居るとは思っていなかった、という事は兄上の婚約者を狙ったと?」
「あっ……いえ、魔法のお稽古を行っておりました。」
「魔法の稽古だと? 背後から致死レベルの魔法を撃つ事がお前の稽古なのか?」
「加減を間違えてしまったようです。」
最初は突如現れたユリウス殿下に面食らって慌てていたクソ女だが、途中で切り替え冷静に言い訳を始める所は流石最上位貴族。
しかし、その言い訳はいくらなんでも無茶苦茶過ぎる。
「加減ねぇ……。」
「誰でも間違いと言う事はありますもの。」
そんな間違いなんてあってたまるもんですか。
「実家が魔法の大家であり、自身が魔法の成績上位のディアナ嬢が間違い、か。しかも背後からの奇襲まで行って……。」
「それを言うなら殿下こそ、インビジブルの魔法で姿を消して何をしておいでなのです? 何かやましい事でも?」
切り込む隙を見つけたからか、クソ女の口調が少しだけ得意気に変化していく。
なんて憎たらしい顔。
「ふむ、この期に及んで言い訳はすまい。我が親友ハイデルトの姉が大層良い尻だと言う事なのでな、二人で背後からこっそり確認していたまでよ。人前で言う事ではないがな。」
本当に人前で言う事ではない。
緊迫した場面なのに、王族だけに伝わる魔法の使いどころを完全に間違えているユリウス殿下には笑えてしまう。
私の尻をじっくり眺めやがって……助けてくれたからパンツくらいまでなら見せてあげても良いけど。
「まぁ、破廉恥な。第二王子ともあろうお方が何という……」
「背後から兄上の婚約者を狙ったディアナ嬢、俺が破廉恥だからと言って、その行いは誤魔化せんぞ。」
「……。」
「これは次期王妃暗殺の線で調べねばなるまいな。」
「決してそのような事は!」
「他に何がある? 当然貴様も無関係ではないのだろう?」
「いえ、私にも何が何だか……。」
突然声を掛けられたクソ女の婚約者が慌てだす。
冷や汗を流して言い訳するが、見るからに挙動不審で非常に怪しい。
「見ていたぞ。貴様も貴様で、ディアナ嬢が魔法を放った瞬間驚く様子もなかったではないか。予め知っていたのだろう?」
「いえ、その……。」
「知っていなければ可笑しいだろう。何もせずにただ黙って見ているなど、本来有り得ないからな。」
「彼女の実家、ベラルクス公爵家は我がアースダイン家が邪魔なのでしょう。今までも圧力をかけてきた事は一度や二度ではありません。まさかこのような手段に出るとは思ってもみませんでしたが……。」
ハイデルトはさらりと第二王子ユリウス殿下に理由を告げる。
まぁ、嘘ではなく本当の事なのだけど。
「そのような事はしていません!」
「落ち着け、大丈夫だ。そちらに何の非もなければ咎めはしない。」
「殿下……。」
ディアナ公爵令嬢は助けられたと勝手に勘違いし、涙ぐんでいるが違う。
全然全くそんな訳ないのにね。
「貴族裁判にかければすぐに分かる事だろう。」
「お待ちを!」
「言い訳は見苦しいぞ。」
結局、第二王子自ら貴族裁判に訴えかけ、私にとっては二度目の貴族裁判が始まる事となった。
しかし、兄であるシュナイザー殿下は自分の婚約者を助けもしないボンクラ王子だけど、弟のユリウス殿下は何て良い子なんだろう。
無駄に上品で堅苦しくボンクラな兄より、ユリウス殿下の方が明け透けで私にとっては好ましい。
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