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第6話 高貴な下衆
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学園生活も二年目に突入した今、私はとある令嬢と対峙している。
ディアナ=ベラルクス公爵令嬢。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、を地でいくような見目麗しい御令嬢。
はっきり言って、この御令嬢が第一王子の婚約者候補として出てきていたなら、私やクソ忌々しいマリーベルなんかでは逆立ちしても勝ち目は無かった。
だがある事情により、ディアナ公爵令嬢は婚約者候補戦には参加しなかった。
いえ、しなかったと言えば語弊がある。正確には出来なかったのだ。
彼女と第一王子はいとこ同士。
現在の王と王妃もいとこ同士であり、血縁が近い婚姻を繰り返してはならないという単純にして、至極当然な事情があったわけである。
そしてこのディアナ公爵令嬢は第一王子シュナイザー殿下の婚約者となった私が大層お気に召さない様子で、二年時で同じクラスとなってからは事あるごとに突っかかってくる。
「メルトリア様はこれから国を背負って立つ殿下を支えなければなりません。私がお稽古に付き合う事を喜ばしく思って下さいませね?」
こう言っては何かと気にかけている風を装い、校舎の裏庭に毎度呼び出してはバシバシと非常識な威力の魔法を飛ばしてくるのだ。
私は侯爵令嬢で、彼女は公爵令嬢。
身分の上では彼女が上で、家の持つ力もあちらが格上。
公の場では彼女からの誘いは断れない為、呼び出されれば応えないわけにはいかない。
魔法の特訓と称しては致死レベルの攻撃を毎度放ってくるし、こちらが反撃を加えようものなら故意に私の魔法に接触してはほんのちょっとの傷を作り、それを理由に私が最上位貴族を傷つけた等と言い掛かりを付けてくる。
ぶん殴りたい。
更に酷い時なんかだと周囲に人の気配が無い場合において、突然不意打ちのように攻撃魔法を放ってくるのだ。
ぶん殴りたい。
ゲームの設定だと常に防御魔法を発動させておかなければならない為、メルトリアが異常に疲労しやすい状態となり訓練コマンドどころではなくなってしまう。
本当にぶん殴りたい。
私の場合、二年になったばかりのこの時期ではあり得ないくらいステータスが高い事に加え、出力を絞った防御魔法を常時発動させる事でカバー出来ているので疲労しづらいのが救いではあるけど……。
「今日は中級魔法のお稽古を致します。頑張って耐えて下さいませ。」
何がお稽古だよ。魔法の的に私を使ってるだけじゃん。
敵対ヒロインの女って、どうしてこうも性根が腐り果てているのかしら? 性根が腐ってないと死ぬ病気か何かなの?
ちなみに、審判をする男はディアナの婚約者。当然あちら側の人間であり、私はひたすらに防御魔法で耐えるしかない。
超ぶん殴りたい。
しかもこのクソ女、実家が魔法の大家である。
当然のようにディアナ自身も魔法には明るく、魔法ステータスが最低でも80はないと防御魔法が破られこちらが大怪我してしまうのだ。
そうなった場合は長期療養という形で学園から暫く離れるハメになってしまい、訓練コマンドや選択肢を選ぶなどのゲームに必要な行動を一切実行出来ず、いつの間にか我がアースダイン家が家ごと嵌められて処刑エンドとなる。
はっきり言ってクソイベントである。
まぁ、今の私は全ステータス160超え。
この世界での魔法ステータス160は宮廷魔法士レベルであり、一国に三人もいれば良い方だと言われるような存在である。
凡ミスでもして処刑エンドなんて事になったらどうせ死ぬのだ。宮廷魔法士レベルの実力で大暴れしてやろう。
ディアナなんてはっきり言って目じゃない。
このクソ女の倍以上の数値を誇っているし、特に苦もなく防御も出来ている。ステータスさえ満たせていたなら、さして苦労するイベントではないのだ。
ストレスは半端じゃないけど……。
「くっ! 防御魔法だけは御出来になりますのね。」
悔しさを滲ませながら捨て台詞を残して去って行く公爵令嬢。どれ程醜いセリフを吐き、汚い真似をしても、異様に様になるのがまた腹立たしい。
流石に王家の血を引くだけの事はあるってか。
ぶん殴りたい。
「まぁ、こういう事なんです。」
ディアナ公爵令嬢が去った事を確認してから茂みの向こう側に話しかけると、ガサガサと藪をかき分けイケメンが登場する。
「姉さん……いつもこんな事をされていたの?」
「えぇ。今日はまだ良い方よ。」
私が一年時の夏休みを利用して親密度を上げまくり、シスコンに育て上げた我が弟ハイデルトだ。
「許せない、世界一素晴らしい僕だけの姉さんに何て事を……。」
彼はギリッと歯軋りが聞こえてくる程に歯を食いしばり、拳をわなわなと震えさせて怒りを抑えきれない様子。
今ではどこに出しても恥ずかしくない程の立派なシスコン。
いや、ここまでシスコンだと外に出したらちょっと恥ずかしいかもしれない。まぁ、シスコンにしたのは私なんだけどさ。
ゲーム攻略において、ハイデルトは重要なお助けキャラ。
彼との親密度が高い場合においてのみ、様々なヒロイン達の謀略から救ってくれるようになるのだ。
ちなみに、シュナイザー殿下は殆ど助けてくれない。婚約者なのにどれ程親密度をあげようとも、だ。
なので、嫌われない程度に時々親密度を上げる行動だけしておけば良い。
あんな男、はっきり言って眼中にない。婚約破棄したい。ぶん殴りたい。
「姉さん、この件は僕に任せて。」
「良いのよ、ハイデルト。私が耐えれば丸くおさまるのだから。下手に動けば何をされるか分かりませんし……。」
「ダメだ。いくら姉さんのお願いでもそれは容認出来ないよ。絶対に悪いようにはしないからさ、僕に姉さんを助けさせて欲しい。」
何て姉思いな弟なのかしら。
日本人として生きていた頃の弟はしょっちゅう私を足蹴にするような奴だったと言うのに。
もし元の世界に戻れたら、弟の弱みを握って脅迫したり全力全開で足蹴にしてやろうと思った。
最近出来たとか言ってた彼女との仲を邪魔してやっても良いかもしれない。
「貴方、言っても聞かないですものね。絶対に危ない事はしないと約束して?」
「それは約束出来ないかな。姉さんの為だったら何だってしてみせるさ。」
「全くもう……。」
うん。彼は紛れもなくシスコンの鏡だ。全国の弟はこのハイデルトを見習って欲しい。
でもちょっとこの子、シスコンでは済まないような感情を抱いてないかしら?
本来のシスコン設定よりも若干濃い気がするわ。
ディアナ=ベラルクス公爵令嬢。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、を地でいくような見目麗しい御令嬢。
はっきり言って、この御令嬢が第一王子の婚約者候補として出てきていたなら、私やクソ忌々しいマリーベルなんかでは逆立ちしても勝ち目は無かった。
だがある事情により、ディアナ公爵令嬢は婚約者候補戦には参加しなかった。
いえ、しなかったと言えば語弊がある。正確には出来なかったのだ。
彼女と第一王子はいとこ同士。
現在の王と王妃もいとこ同士であり、血縁が近い婚姻を繰り返してはならないという単純にして、至極当然な事情があったわけである。
そしてこのディアナ公爵令嬢は第一王子シュナイザー殿下の婚約者となった私が大層お気に召さない様子で、二年時で同じクラスとなってからは事あるごとに突っかかってくる。
「メルトリア様はこれから国を背負って立つ殿下を支えなければなりません。私がお稽古に付き合う事を喜ばしく思って下さいませね?」
こう言っては何かと気にかけている風を装い、校舎の裏庭に毎度呼び出してはバシバシと非常識な威力の魔法を飛ばしてくるのだ。
私は侯爵令嬢で、彼女は公爵令嬢。
身分の上では彼女が上で、家の持つ力もあちらが格上。
公の場では彼女からの誘いは断れない為、呼び出されれば応えないわけにはいかない。
魔法の特訓と称しては致死レベルの攻撃を毎度放ってくるし、こちらが反撃を加えようものなら故意に私の魔法に接触してはほんのちょっとの傷を作り、それを理由に私が最上位貴族を傷つけた等と言い掛かりを付けてくる。
ぶん殴りたい。
更に酷い時なんかだと周囲に人の気配が無い場合において、突然不意打ちのように攻撃魔法を放ってくるのだ。
ぶん殴りたい。
ゲームの設定だと常に防御魔法を発動させておかなければならない為、メルトリアが異常に疲労しやすい状態となり訓練コマンドどころではなくなってしまう。
本当にぶん殴りたい。
私の場合、二年になったばかりのこの時期ではあり得ないくらいステータスが高い事に加え、出力を絞った防御魔法を常時発動させる事でカバー出来ているので疲労しづらいのが救いではあるけど……。
「今日は中級魔法のお稽古を致します。頑張って耐えて下さいませ。」
何がお稽古だよ。魔法の的に私を使ってるだけじゃん。
敵対ヒロインの女って、どうしてこうも性根が腐り果てているのかしら? 性根が腐ってないと死ぬ病気か何かなの?
ちなみに、審判をする男はディアナの婚約者。当然あちら側の人間であり、私はひたすらに防御魔法で耐えるしかない。
超ぶん殴りたい。
しかもこのクソ女、実家が魔法の大家である。
当然のようにディアナ自身も魔法には明るく、魔法ステータスが最低でも80はないと防御魔法が破られこちらが大怪我してしまうのだ。
そうなった場合は長期療養という形で学園から暫く離れるハメになってしまい、訓練コマンドや選択肢を選ぶなどのゲームに必要な行動を一切実行出来ず、いつの間にか我がアースダイン家が家ごと嵌められて処刑エンドとなる。
はっきり言ってクソイベントである。
まぁ、今の私は全ステータス160超え。
この世界での魔法ステータス160は宮廷魔法士レベルであり、一国に三人もいれば良い方だと言われるような存在である。
凡ミスでもして処刑エンドなんて事になったらどうせ死ぬのだ。宮廷魔法士レベルの実力で大暴れしてやろう。
ディアナなんてはっきり言って目じゃない。
このクソ女の倍以上の数値を誇っているし、特に苦もなく防御も出来ている。ステータスさえ満たせていたなら、さして苦労するイベントではないのだ。
ストレスは半端じゃないけど……。
「くっ! 防御魔法だけは御出来になりますのね。」
悔しさを滲ませながら捨て台詞を残して去って行く公爵令嬢。どれ程醜いセリフを吐き、汚い真似をしても、異様に様になるのがまた腹立たしい。
流石に王家の血を引くだけの事はあるってか。
ぶん殴りたい。
「まぁ、こういう事なんです。」
ディアナ公爵令嬢が去った事を確認してから茂みの向こう側に話しかけると、ガサガサと藪をかき分けイケメンが登場する。
「姉さん……いつもこんな事をされていたの?」
「えぇ。今日はまだ良い方よ。」
私が一年時の夏休みを利用して親密度を上げまくり、シスコンに育て上げた我が弟ハイデルトだ。
「許せない、世界一素晴らしい僕だけの姉さんに何て事を……。」
彼はギリッと歯軋りが聞こえてくる程に歯を食いしばり、拳をわなわなと震えさせて怒りを抑えきれない様子。
今ではどこに出しても恥ずかしくない程の立派なシスコン。
いや、ここまでシスコンだと外に出したらちょっと恥ずかしいかもしれない。まぁ、シスコンにしたのは私なんだけどさ。
ゲーム攻略において、ハイデルトは重要なお助けキャラ。
彼との親密度が高い場合においてのみ、様々なヒロイン達の謀略から救ってくれるようになるのだ。
ちなみに、シュナイザー殿下は殆ど助けてくれない。婚約者なのにどれ程親密度をあげようとも、だ。
なので、嫌われない程度に時々親密度を上げる行動だけしておけば良い。
あんな男、はっきり言って眼中にない。婚約破棄したい。ぶん殴りたい。
「姉さん、この件は僕に任せて。」
「良いのよ、ハイデルト。私が耐えれば丸くおさまるのだから。下手に動けば何をされるか分かりませんし……。」
「ダメだ。いくら姉さんのお願いでもそれは容認出来ないよ。絶対に悪いようにはしないからさ、僕に姉さんを助けさせて欲しい。」
何て姉思いな弟なのかしら。
日本人として生きていた頃の弟はしょっちゅう私を足蹴にするような奴だったと言うのに。
もし元の世界に戻れたら、弟の弱みを握って脅迫したり全力全開で足蹴にしてやろうと思った。
最近出来たとか言ってた彼女との仲を邪魔してやっても良いかもしれない。
「貴方、言っても聞かないですものね。絶対に危ない事はしないと約束して?」
「それは約束出来ないかな。姉さんの為だったら何だってしてみせるさ。」
「全くもう……。」
うん。彼は紛れもなくシスコンの鏡だ。全国の弟はこのハイデルトを見習って欲しい。
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