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第3話 怨みの記憶
しおりを挟む「それでは行ってまいります。」
「気を付けてな。」
父に見送られ、侯爵家の馬車に乗った私は今日から自身の戦場となる学園へと向かった。
生徒数約150名の貴族子弟と優秀な平民が通う由緒あるサンライズ学園は、将来国を動かす事になるであろう人物も通っている。
未来の王、宰相、各貴族家の当主。
生徒達の身分は平等と言われているけど、将来の序列が既に決まっているのにそれを気にしない馬鹿など普通はいるはずもない。身分は全く平等ではないのだ。
この学園は優秀な平民が通う為の平民枠というものが半分を占めている為、あくまで建前として言っているにすぎない。
そこの所を勘違いしているのが性悪ヒロイン達とその婚約者達。
これから人間関係に訓練にと忙しくなる中で、ヒロイン達をサクッと潰してやらないと私が詰んでしまう。
非人道的だと思う人もいるかもしれない。ヒロイン達を許すシナリオだって存在しているのだから、許してやれば良いと言う人だっているかもしれない。
けど考えてみて欲しい。自分の命が脅かされ、それでも黙っているの?
相手は最初からこちらを引きずりおろして処刑するつもりで挑んでくるのだ。
それを許す? 許すとこちらが死ぬかもしれないのに?
こちらの現状を理解してた上でそんな事を言う人間がもしいるのなら、是非ともお目にかかりたいものね。
まぁ……いるかもしれないけど、それは安全な所から偽善者が無意味な言葉を無秩序に垂れ流しているだけの話。産業廃棄物級の聞くに値しない話だ。
私は死にたくないの。
一度処刑されているから尚の事、あんな思いは二度とごめんである。
考え事をしているうちに目的の学園に到着したようで、馬車から降りて正門から入っていく。
「あら、ご機嫌麗しゅうメルトリア様。お早いんですのね?」
そう声を掛けて来た令嬢は同じ侯爵令嬢のマリーベル=ケラトル。
マリーベルを見た瞬間、私は信じられない程の怒りと憎しみに支配される。
(メルトリア様? これで勝ったと思わない事ね。
……私に何かするおつもりですか?
さぁ……ね?
あら? メルトリア様ったら随分貧乏臭い恰好ですこと。
それは貴女が服を破ったからでしょう!
お友達の教科書を破るなんて随分酷い事をされるのですね?
そのような事はしておりません。
貴女以外のクラスメイトは全員アリバイがありますわ。第一王子の婚約者に相応しくないのでは?
メルトリア様、貴女なんという事を……。
メルトリア……なんて事をしているんだ。
ち、ちがいます! 私じゃありません! マリーベル様が弟を殺した犯人ですのよ!
でも、ナイフを持っているのは君じゃないか……。
第一王子暗殺なんて大それた事、良くも考えましたわね?
私ではありません!
証拠は揃っていましてよ?
メルトリア侯爵令嬢、君は死刑だ。裁判する必要さえない。
お待ち下さい陛下! 私はそのような事はしておりません!)
処刑される前のメルトリアの記憶がフラッシュバックし、私は否応なしに憎しみの感情を刺激されていた。
作中でメルトリアが受けた嫌がらせの数々をまるで自分が受けた事のように思い出せるし、加えて彼女の顔が元親友——真理伊音に似ている事が余計に憎悪をかきたてる。
「ご機嫌麗しゅうマリーベル様。教室までご一緒しても宜しいでしょうか。」
今の私はメルトリアとして生きた記憶が混在しているだけではなく、メルトリアが身に付けた技能をも自然と使いこなせるのが幸いした。
この身に刻まれた貴族令嬢としてのスキルが地獄の業火のように燃え盛る復讐心を覆い隠す。
「勿論ですわ。私も提案しようと思っていた所ですの。」
マリーベルはゲーム序盤から敵対的なヒロインだ。
メルトリアとマリーベルは元々無能な第一王子シュナイザー殿下の婚約者候補として最後まで残り、争い合った仲だ。当然互いに面識もあるし、会えばそれなりに話もする。
結局選ばれたのは私。正確に言えばメルトリアが婚約者として選ばれた。
その後、マリーベルは大いに嫉妬しメルトリアを追い落とそうと躍起になるのだ。本当に良い性格をしている。
私はこの腐れ女を処刑する為の行動を開始する為、思考を務めて冷静に回していかなければならない。
教室までの近道だと言って、故意に人通りの少ない場所を選び……
「マリーベル様はやはりシュナイザー殿下とご婚約出来ませんでしたわね? 私を追い落とそうと必死になり過ぎて、その性根が見透かされたのですわ。次のご婚約ではよくよくお忘れにならない事ね?」
私がニヤニヤと嫌味を言ってやると、マリーベルは周囲に人が居ない事を確認して即座に切り返してくる。
「ふん。貴女こそ人の性根がどうとは言えませんわね。その口、二度と聞けないよう縫い付けて差し上げたいものですわ。」
「マリーベル様には不可能ね。この程度の嫌味も流せないようじゃ底が知れますわ。」
彼女は人が居ない場所でカッとなると手が出る傾向にある。
ゲームキャラとは言え、本当に貴族令嬢かと疑いたくなるような暴力女だ。
「手を出したいならいくらでも出しなさいマリーベル。貴女のへなちょこ魔法など私には効きませんもの。」
選択肢こそ出ないけど、自分のやるべき台詞をゲームになぞって言ってやった。
今日この時間、この場所で、とある人物が通る予定になっている。こっそり発動したサーチの魔法でタイミングもバッチリだ。
「貴女なんて……貴女なんてっ!」
かかったわね?
怒りに任せ、手の平に火の魔法を浮かべて私に放とうとしているマリーベル。
ここまで直情的な人間は元々第一王子の婚約者に相応しくないと言う事をとっとと自覚して欲しいものだ。
「何をしている!」
タイミング良くこの場を通る予定の人物が現れた。
「い、いえ……何も。」
マリーベルは全く予想していなかったようで、しどろもどろになって言葉を返す。
「正直に言え。」
「あの……そう! 訓練、訓練です! 暴漢に襲われた時の対処方法を教えて差し上げていたのですわ。」
「そのようには見えなかったがな。」
マリーベルを一瞥し、ため息をつくのはこの国の第一王子。つまり私の婚約者であるシュナイザー殿下。
「私も見ました。」
そう言って続けざまに現れるもう一人の人物は敵ヒロインのキャサリン=ラグランジュ侯爵令嬢。この女もまた、今日この場に現れる予定の人物だ。
「突然マリーベル様が嫌味を言ってメルトリア様に魔法を放とうとされたんです!」
「嘘よ!!」
否定するマリーベルだけど、この状況で言い訳しても信じてもらえるはずがない。
「自分が殿下の婚約者に選ばれなかったからって、こんな所に呼び出して暴力なんて酷いですわ。お友達だと思っていましたのに……」
私は涙を流しながら全く思ってもいない事を言ってのける。
「貴女っ!!」
「待て! これ以上の狼藉は見過ごせん。マリーベル侯爵令嬢、こうして証言する人物もいるのだ。今日は帰ると良い。」
「……はい。」
シュナイザー殿下に返事をしながら私を睨むマリーベル。
怖い怖い。
明らかに納得していないって顔で私を睨まないで欲しいわ。こんな所で魔法を放とうとしたのは自分のくせに。
それにしてもやはり第一王子は無能ね。普通、この場で聞き取りくらいはするものなんじゃないかしら?
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