2 / 38
第2話 隠し魔法
しおりを挟む現在僕は、ロイ兄さんたちが剣術の練習場を、お茶を啜り、ふかふかの椅子に腰掛けながら眺めている。
確かに遠くても良いと言ったが、流石に少し遠すぎるんじゃ無いだろうか。
「ねぇ、僕もう少し近くで見たいな、ここからじゃロイ兄さん、よく見えないよ……?」
そう言うと、隣に座っていたローレンツ兄さんが即座に眉をひそめた。
「……ダメだ。もしノエルの身に何かあったらどうするんだ?」
この距離を譲らないことは変わりないらしい。僕は口を尖らせたが、すぐに別の提案を思いつく。
「じゃあね、ロイ兄さんのかっこいいところ見せて!そしたらここでちゃんと座ってる!」
ローレンツ兄さんは少し呆れた顔をしたものの、僕の提案を飲む代わりに軽く頭を撫でた。
「それぐらい容易いよ。」
そう言うと、僕の額にキスを落とし、ぎゅっと抱きしめてから軽く回転しつつ立ち上がる。そして練習場へ向かって歩き出した。
「……おぇえ……マジでなんで俺はロイのこんな所見なきゃなんないの……甘すぎて砂糖吐けそう。」
ジラルデさんが腹を押さえながら大袈裟に身をよじると、ローレンツ兄さんがその後頭部を軽く小突いた。
「いって!なにすんだよ!」
「うるさい。さっさと練習に行け。」
「はいはい。」
そう返事をし、手をひらひらと振りながら、ジラルデとローレンツは練習場へと向かって行った。
そんなわけで、僕は椅子に深く座り直し、お茶を飲みながらロイ兄さんたちの練習を眺めている。さっきから何度もロイ兄さんと目が合っている気がするけど……気のせいだよね?だってこの距離だもん。
あ、ロイ兄さんが誰かに頭を叩かれた。
なんだか、いつもと違うロイ兄さんの姿が見られてちょっと嬉しくて、思わず笑ってしまった。
でも、剣を握ると急に真剣な顔になる。やっぱり兄さんたちはすごくかっこいい。僕もいつかはロイ兄さんみたいに筋肉をつけて、剣を扱えるようになるのかな?
そんなことを考えていると、不意に左から聞き慣れない声がした。
「見慣れないお客さんだね。良ければ名前を教えてくれるかな?」
振り向くと、そこには柔らかい笑みを浮かべた一人の青年が立っていた。年はルー兄さんやロイ兄さんとそう変わらないか、少し下くらいだろうか?
「えっと、僕はノ……」
名乗ろうとした瞬間、練習場から大きな声が響いた。
「おいハンス!お前、何度言ったら遅刻せずに来れるんだよ。そろそろ本気で退学の相談に行くか?」
声の主はローレンツ兄さんだった。彼に怒鳴られると、ハンスと呼ばれた少年は、僕に向けていた視線を外し、苦笑いしながらそちらに向かって歩き始めた。
「ごめんなさーい。どうしても行かないでってアンネが……」
「アンネ?先週はロゼだかローズだか言ってなかったか、この野郎……」
「その子たちとはもう終わったよ。」
「……やってられない。」
ローレンツ兄さんは呆れたように額を押さえた。ローレンツ兄さんは僕に目を向けると、先程青年に向けたのとは打って変わって明るい声で言った。
「ノエル、向こうでこいつ以外と昼食を取ろう。今日はサンドイッチがあるよ。」
「サンドイッチ!僕、大好きだよ!」
「へぇ……ノエルって言うのか……」
ハンスさんがまた話しかけようとしたところで、ローレンツ兄さんが「黙れ。」と鋭く遮った。
僕はなんとなく「えっと……ハンスさん?一緒にお昼ご飯、食べないの?」とロイ兄さんに尋ねた。
「ノエルくん、誘ってくれるの?ありがとう。」
そう言って、ハンスさんがノエルの手の甲に軽くキスを落とした。その瞬間、ローレンツ兄さんの顔が一気に険しくなった。
「……お前、後で腕立て、腹筋、500回ずつ、ランニングな。」
「職権乱用ですよ!?マジ勘弁してください!」
ハンスさんは苦笑いしながら反論していたけど、ローレンツは取り合わない。その代わり、呆れ顔のまま僕を片腕でひょいと抱き上げると、昼食が用意された場所へ向かって歩き出した。
「あの…ロイ兄さん、ハンスさんはいいの……?」
「ノエルは優しいな。でも、あんなのは放っておいて問題ないよ。」
ローレンツ兄さんの声はいつも通り冷静だったけど、どこか釘を刺すような響きがあった。僕は項垂れるハンスさんのほうをロイ兄さんの肩越しに見つめた。
確かに遠くても良いと言ったが、流石に少し遠すぎるんじゃ無いだろうか。
「ねぇ、僕もう少し近くで見たいな、ここからじゃロイ兄さん、よく見えないよ……?」
そう言うと、隣に座っていたローレンツ兄さんが即座に眉をひそめた。
「……ダメだ。もしノエルの身に何かあったらどうするんだ?」
この距離を譲らないことは変わりないらしい。僕は口を尖らせたが、すぐに別の提案を思いつく。
「じゃあね、ロイ兄さんのかっこいいところ見せて!そしたらここでちゃんと座ってる!」
ローレンツ兄さんは少し呆れた顔をしたものの、僕の提案を飲む代わりに軽く頭を撫でた。
「それぐらい容易いよ。」
そう言うと、僕の額にキスを落とし、ぎゅっと抱きしめてから軽く回転しつつ立ち上がる。そして練習場へ向かって歩き出した。
「……おぇえ……マジでなんで俺はロイのこんな所見なきゃなんないの……甘すぎて砂糖吐けそう。」
ジラルデさんが腹を押さえながら大袈裟に身をよじると、ローレンツ兄さんがその後頭部を軽く小突いた。
「いって!なにすんだよ!」
「うるさい。さっさと練習に行け。」
「はいはい。」
そう返事をし、手をひらひらと振りながら、ジラルデとローレンツは練習場へと向かって行った。
そんなわけで、僕は椅子に深く座り直し、お茶を飲みながらロイ兄さんたちの練習を眺めている。さっきから何度もロイ兄さんと目が合っている気がするけど……気のせいだよね?だってこの距離だもん。
あ、ロイ兄さんが誰かに頭を叩かれた。
なんだか、いつもと違うロイ兄さんの姿が見られてちょっと嬉しくて、思わず笑ってしまった。
でも、剣を握ると急に真剣な顔になる。やっぱり兄さんたちはすごくかっこいい。僕もいつかはロイ兄さんみたいに筋肉をつけて、剣を扱えるようになるのかな?
そんなことを考えていると、不意に左から聞き慣れない声がした。
「見慣れないお客さんだね。良ければ名前を教えてくれるかな?」
振り向くと、そこには柔らかい笑みを浮かべた一人の青年が立っていた。年はルー兄さんやロイ兄さんとそう変わらないか、少し下くらいだろうか?
「えっと、僕はノ……」
名乗ろうとした瞬間、練習場から大きな声が響いた。
「おいハンス!お前、何度言ったら遅刻せずに来れるんだよ。そろそろ本気で退学の相談に行くか?」
声の主はローレンツ兄さんだった。彼に怒鳴られると、ハンスと呼ばれた少年は、僕に向けていた視線を外し、苦笑いしながらそちらに向かって歩き始めた。
「ごめんなさーい。どうしても行かないでってアンネが……」
「アンネ?先週はロゼだかローズだか言ってなかったか、この野郎……」
「その子たちとはもう終わったよ。」
「……やってられない。」
ローレンツ兄さんは呆れたように額を押さえた。ローレンツ兄さんは僕に目を向けると、先程青年に向けたのとは打って変わって明るい声で言った。
「ノエル、向こうでこいつ以外と昼食を取ろう。今日はサンドイッチがあるよ。」
「サンドイッチ!僕、大好きだよ!」
「へぇ……ノエルって言うのか……」
ハンスさんがまた話しかけようとしたところで、ローレンツ兄さんが「黙れ。」と鋭く遮った。
僕はなんとなく「えっと……ハンスさん?一緒にお昼ご飯、食べないの?」とロイ兄さんに尋ねた。
「ノエルくん、誘ってくれるの?ありがとう。」
そう言って、ハンスさんがノエルの手の甲に軽くキスを落とした。その瞬間、ローレンツ兄さんの顔が一気に険しくなった。
「……お前、後で腕立て、腹筋、500回ずつ、ランニングな。」
「職権乱用ですよ!?マジ勘弁してください!」
ハンスさんは苦笑いしながら反論していたけど、ローレンツは取り合わない。その代わり、呆れ顔のまま僕を片腕でひょいと抱き上げると、昼食が用意された場所へ向かって歩き出した。
「あの…ロイ兄さん、ハンスさんはいいの……?」
「ノエルは優しいな。でも、あんなのは放っておいて問題ないよ。」
ローレンツ兄さんの声はいつも通り冷静だったけど、どこか釘を刺すような響きがあった。僕は項垂れるハンスさんのほうをロイ兄さんの肩越しに見つめた。
54
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

婚約破棄されたので歴代最高の悪役令嬢になりました
Ryo-k
ファンタジー
『悪役令嬢』
それすなわち、最高の貴族令嬢の資格。
最高の貴族令嬢の資格であるがゆえに、取得難易度もはるかに高く、10年に1人取得できるかどうか。
そして王子から婚約破棄を宣言された公爵令嬢は、最高の『悪役令嬢』となりました。
さらに明らかになる王子の馬鹿っぷりとその末路――
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。

ざまぁにはざまぁでお返し致します ~ラスボス転生王子はヒロインたちと悪役令嬢にざまぁしたいと思います~
陸奥 霧風
ファンタジー
仕事に疲れたサラリーマンがバスの事故で大人気乙女ゲーム『プリンセス ストーリー』の世界へ転生してしまった。しかも攻略不可能と噂されるラスボス的存在『アレク・ガルラ・フラスター王子』だった。
アレク王子はヒロインたちの前に立ちはだかることが出来るのか?

因果応報以上の罰を
下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。
どこを取っても救いのない話。
ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる