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外伝:メイド喫茶でバイトテロしたら異世界召喚されました。しかも死に戻り特典付きで。

第1話 知らないご主人様

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 私は猫耳メイド喫茶で楽しく働く女子大生、名前は佐倉桜。

 はい。ここで疑問に思った人大正解ですよ。さくらが2つ続くなんて馬鹿な親の元に生まれたんだなって思ったでしょ?


 本当にバッカ! うちの親はバッカなの!

 さくらが2つって縁起良くね? って付けたらしいのよ。

 バッカよね?

 役所も役所よ。お役所仕事も大概にしてよね。こんなアホな名前で出生届を受理しないでよ!

 でも、うちの親にも良い所だってあるのよ?

 桜は可愛いねって言って、お父さんが親子デートした後にお小遣いをくれるの。

 バッカ! 友達に見られたらパパ活だと思われるでしょ! 本当にバッカ!

 金額も大体2~3万くらい? それが相場なんだって。

 バッカ! 相場って何よ!? 本当にもう!


「サクラクラちゃーん! 今日も来ったよぉ!」

「お帰りなさいませご主人様―! わぁ! 今日もお早いお帰りなんですね!」

「サクラクラちゃんに会う為に仕事を早めに切り上げたんだ!」


 ねえ、それ本当なの? 朝から来てるのに? 本当は裕福な家の自宅警備員なんじゃなくて?


「お疲れ様ですご主人様! 今日もサクラクラに癒されて下さいね?」


 私は毎週日曜日、メイド喫茶でバイトをしている。

 お父さんから頻繁にお小遣いを貰っている私が何故バイトをしているのか……

 それはメイドになってみたかったから。本当にそれだけ。

 実際メイドになって、たくさんのご主人様を癒して、お話を聞けるのは凄く充実してるし楽しいの。

 でもね。

 一人だけ凄おく、嫌なお客さんが居て……


「はぁはぁサクラクラたん。今日も来たよぉぉ。」

「お、お帰りなさいませ……ご主人様。」


 え、笑顔が引き攣らないようにしなきゃ。


「サクラクラたん可愛いねぇ。ぐふふ。」


 このご主人様はお店の禁止事項ギリギリのラインを偶に攻めてくる人。

 ギリギリラインを偶に、という所がポイントで、上手い具合に言い逃れ出来る範囲でしかオイタをしないし、それを偶にやるだけに留めるので、こちらからはアレコレと言い難い非常に困ったご主人様。

 私は今日こそ、このご主人様に毅然と対応してみせる!

 バイトテロって奴でね。


「ぐふふ。オムライスをお願いします。」

「ありがとうございます! 少々お待ちくださーい!」


 チャンス到来!!

 待っててね? ご主人様。ただいま最高のオムライスをお持ちしますから……






「お待たせ致しましたぁ!」

「ありがとうサクラクラたん。」


 ふっふっふっ。何も知らずにオムライスを食べられると思っているのね?

 先ずはケチャップで模様を描いてっと。


「ま、禍々しい模様だね。魔法……陣?」

「ご主人様は魔法少女がお好きだと聞きましたので!」


 サービス精神もたっぷり。結構冒涜的な感じに描けたわ。


「それでは一緒においしくなる魔法の呪文を唱えましょう!」

「うんうん。サクラクラたんと一緒に唱えるよ!」


 貴方が美味しくオムライスを食べられるのは今日限りよっ!!

 私は魔法の呪文を唱える為、そっと目を閉じた。


「それでは一緒に~……」










「萌え萌え……」
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」

「へあっ!? え? な……なにを」


 戸惑ってる戸惑ってる。声の調子から凄く伝わってくる。

 でも、手加減はしないんだから!


「いえ いえ しゅぶ・にぐらす いあーる むなーる うが なぐる となろろ よらならーく しらーりー!」


 ん? 何だか周りが騒がしいわね。

 何か光ってる?

 まぶた越しにも分かる程光らせて邪魔しようってのね!

 そのくらいじゃ、私は負けないんだからっ!


「な、なん……なんだこれ」

「いむろくなるのいくろむ! のいくろむ らじゃにー! いえ いえ しゅぶ・にぐらす! となるろ よらなるか!」


 良し! 一息で言い切った!

 見たか迷惑系ご主人様めっ!

 キモい魔法陣とキモい魔法の呪文で、迷惑をかけてごめんなさいと謝りたくさせるこの作戦。完璧よね?

 これは見事なバイトテロと言っても過言じゃないはずよ。





 そして目を開いた私の目の前には……


「おお! 来てくれたのか! 俺はイットリウム公国君主、モリブデン公爵だ。」


 ……誰?


「し、知らないご主人様だ……。」

「ご主人様? 勇者は既に誰かに仕えているのか?」


 え? え? なにこれ? 勇者?

 知らない場所にいるし!

 まさか誘拐!?

 と、とにかく、質問に答えなきゃ。


「あの……週に一度、たくさんのご主人様に仕えています。」

「週に一度、たくさんのご主人様……だと? その恰好で……イカン鼻血が。」


 なに? なに? なんなのこの人?

 20代後半くらいの男の人が鼻血を出しながら、良く分からない事を言っている。


「なんと憐れな……親は、いないのか?」

「いますいます。昨日もお父さんと親子デートしてお小遣いをもらいました。」

「親はいるのか。しかし、デートとは何だ?」


 デートは……何だろ?


「可愛い格好をして、異性とドキドキなお出掛けする事……でしょうか?」

「そ、そんな格好で父親とドキドキ……だと? しかも金銭の授受もある。何といかがわ……イカンまた鼻血が。」


 あれ? 何か勘違いしてる?


「勇者よ。この俺が幸せな待遇を用意すると約束しよう! 絶対に! 幸せな! 暮らしを……おっとイカン鼻血が。」


 この人の視線は私の胸にロックオンされている。

 あんまりジロジロ見られると恥ずかしいんだけどなぁ。

 ま、結構際どい感じのメイド服だから仕方ないか。


「ところで、私は何でここにいるんですか?」

「あぁ、まだ何も言っていなかったか。イットリウム公国は現在独立戦争中でな。どうか我が公国をストレッチ王国の魔手から独立させて欲しい。」


 ま、まさかの異世界召喚!?

 なんで?

 バイトテロしたから?


「あのう……帰りたいんですけど。」

「ダメだダメだ! 勇者は帰ったらいかがわしい事をされるのだろう? そんな所へなど帰してしまったら……まさか!? いかがわしい事を自ら望んで……は、鼻血が。」


 そんなに鼻血出して大丈夫?

 すぐ貧血になりそうだけど。

 というか、物凄い誤解を受けてる?


「別にいかがわしい事なんてしてませんよ? メイドの一員として頑張って働いてるだけですから!」

「冥土の一員? 成る程。天国……という事か。やって来た者達も満足するだろうな。」


 そうね……ご主人様達には天国だと思ってもらえるよう頑張ってるから、間違ってはないもんね。

 誤解も解けたみたいで良かったぁ。


「さて勇者よ。古文書によれば、勇者は絶大なる魔法の力と固有の能力が備わっているとの事。良ければ魔法や能力を見せてくれ。」


 魔法? 能力?

 私、そんなもの使えな……あっ! もしかしてさっきの呪文?

 あれがきっかけでこの世界に召喚されたのかもしれないんだ……。

 ダメ元で試すだけ試してみよう。ダメならダメでしょうがないよね?

 私が魔法を見せる方向で考えを進めていると、目の前に文字が現れた。



 1.分かりました! 魔法を見せるので、書く物を貸して下さい。
 2.魔法の使い方を知りませんので、教えて下さい。



 え?

 選択肢?


「あの、目の前に選択肢が出てきたんですけど……」

「選択肢? ふーむ……何を言っているのか良く分からんな。」


 公爵様には見えていないみたい。

 あっ! そうか。これがきっと私の固有能力って奴なんだ。

 ゲームとかで見かけるシナリオが分岐する能力って事?

 まぁ、正直だから何? って感じのあまり意味がない能力っぽい気がする。人生とは常に選択の連続なのだよ。

 普通に考えてここは1を選ぶべきよね。

 さっきの呪文はきっとチート魔法で、公爵様をあっと驚かせるシーンを演出する選択肢に違いないんだから。


「分かりました! 魔法を見せるので、何か書く物を貸して下さい。」

「おうとも。一応、場所も移動しておこうか。」

「はい!」


 その方が良いかも。

 さっきも無駄に明るかったし。

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