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最終章 幸せな日々

番外編 第42話 親衛隊の行方

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「アーリィ親衛隊がいないと少しだけ寂しいな。」

「そうだね。親衛隊の宿舎が……がらんとしちゃったよ。」


 あいつら何してるんだよ。たかが国一つなんて、俺を打倒したお前らだったらすぐだろう?

 早く、帰って来いよ。お前らがいないと……調子が出ないじゃないか。


「あいつらが出掛けてからもう二か月にもなるのか……。」

「レイベルト……。」

「やっぱり私が連れ戻しに行こうかしら?」

「エイミー。お前はまだ飛ぶのに習熟していないだろ。」

「パパ? 私が飛んで見て来ましょうか?」

「それはダメだ。もし親衛隊がやられていたのだとすれば、お前だって危ないんだぞ。」

「でも……。」


 くそっ!

 こんな事になるのなら増援を出してやるべきだった。

 勇者級戦力を付けてやれば、今頃は笑顔で帰還報告を受け取れていたかもしれないというのに。


「こんな思いをするくらいだったら、やはり俺が行くべきだったか。」

「違うよレイベルト。元はと言えば、私が止めなかったのが悪いんだ。」

「アオイが悪いんじゃない。俺が……。」

「ナガツキ家の当主が自ら出る選択肢なんてなかった。レイベルトは悪くないよ。」

「二人とも自分を責めないで。誰が悪いわけでもないわ。」


 いっそ今からでも部隊を率いて行くか?

 俺がナガツキ警備部隊の半数を率いれば……勝てない相手などこの世界に存在しないだろう。


「決めたぞ。俺が行く。」

「パパ。それはダメです。代わりに私が行きますから。」

「ダメだ。アーリィは行くな。」


 娘に辛い思いはさせたくない。


「正直な、分かってるんだ。あいつらは恐らく死んでいるんだろう。」


 考えたくはないが、二か月も戻らないという事は……。


「あいつらは心の底からお前を慕って仕えていたんだ。あいつらはきっと、アーリィにだけは死んだ姿を見られたくはないはずだ。俺も主の一人として、あいつらを探し出して弔って来るさ。」

「親衛隊の皆さんは絶対に死んでません!」


 目に涙を浮かべて否定する末娘。

 俺だってあいつらが死んでるなんて思いたくはない。


「……そうだな。もしかしたら、道に迷っているかもしれないしな。」

「そうに決まってます! 親衛隊は私の竜巻で吹き飛んでも死なないんです! ちょっと国と戦争したくらいで死ぬはずがありません!」


 ごめんな。パパが増援を出してやらなかったばかりに……。


「アーリィ……。」

「……そうだね。親衛隊が死ぬはずないもんね。」


 エイミーもアオイも、娘の健気な姿にぐっと涙を堪えている。


「当主であるレイベルトが行くのは論外。だから私が行くよ。勇者の力で絶対に親衛隊を見つけて来るからさ。」


 アオイ……。


「あーら。碧ママったら一人で格好つける気? 私も付いて行くわ。」

「サクラ……アンタ聞いてたの?」


 いつの間に入って来ていたのか、俺達が相談していた執務室のドアにもたれかかり、腕組みしながらこちらを見ているナガツキ家の長女。


「人探しなら私を連れて行った方が良いわよ? 私と私の親衛隊は情報集めが得意なんだから。」

「アンタは婚約したばっかでしょ。行かない方が良いんじゃない? 愛想つかされたらどうする気さ。」

「旦那様はちゃんと待ってくれるわよ。セイブン隊長は少し生意気だけど、私だってアーリィ親衛隊がいないのはちょっとどうなのかなって思わなくもないし?」


 ふっ。

 素直じゃない娘だ。本当は自分だって心配な癖にな。


「アオイとサクラ、それにサクラの親衛隊まで付いて行くなら心配ないだろう。だが念のためにナガツキ警備部隊も半分連れて行け。」

「お父さん、流石に戦力過多じゃない?」

「いや、アーリィ親衛隊に万一何かがあったのだとしたら……。」


 あいつらでは勝てない存在がいるという事だ。

 可能性は低いが、メメちゃんの世界の住人と何らかの形で鉢合わせてしまったという事も考えられる。


「そうだね。慎重であるのは悪い事じゃない。サクラも覚えておくと良いよ? 戦力があるなら過剰なくらいで丁度良いってね。出し惜しみしてやられたら目も当てられないからね。」

「と、言う事だ。」

「流石にそんな強い相手がいるとも思えないけど……ここ最近の出来事を振り返れば、無いとは言えないわね。」


 納得したようでなによりだ。

 サクラは自分の力に自信があり、油断しやすい傾向にあるからな。


「決まりだ。サクラは自分の親衛隊を指揮しろ。アオイは警備部隊の指揮を頼むぞ。」

「おっけー。」

「任せて。」


 この二人なら、どんな局面でも乗り切る事が出来るだろう。


「すまんが本当に頼ん…………」
「レイベルト様! 街に巨大生物が複数現れたそうです!」

「何だと?」


 使用人が慌てて報告に来た。

 何者かの襲撃か?


「巨大生物?」

「こんな時に……。」

「巨大生物たちは不思議なことに、人を襲う事もなく真っ直ぐこちらを目指しているようです!」


 こちらへ来てくれるなら好都合だ。


「戦力を集めろ。練兵場で迎え撃つぞ。」


























「アーリィ親衛隊30名、ただいま戻りました。」

「お、おう。」


 目の前には生存が半ば絶望視されていたアーリィ親衛隊が誰一人欠けることなく集っている。

 戻って来てくれて嬉しい。この気持ちは嘘なんかじゃない。

 だが……


「何だその動物たちは?」

「可愛い森の動物たちです。」

「どう見ても絶滅動物じゃないの。」


 ティラノサウルスにトリケラトプス、巨大ワニやクマ、トラまでいるじゃないか。

 極めつけに……


「セイブン隊長、何故女の子を腹に張り付けているんだ? まさかさらって来たのか?」

「これには深い事情があるのです。」


 女の子を腹に張り付ける事情などまるで予想もつかない。

 しかもどういう訳か女の子は意識がないように見えるのに、しっかりとセイブン隊長にくっついて離れないのだ。


「なあ。俺も一緒に謝りに行ってやるから、誘拐したその子を親元に帰すぞ。」

「なっ!? 違います! 私はこの子に呪いを受けたんです! レイラ嬢! 起きて事情を説明して下さい!」


 呪い?


「あら? セイブン様、何事ですか?」

「良くこんな格好で眠れますね。」

「セイブン様のお腹は暖かくて心地良いのです。」


 信じられん。

 あんな格好で当たり前のように寝ていたというのか?

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