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最終章 幸せな日々

番外編 第41話 フルーフ家

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 私達はレイラ嬢の案内でフルーフ家の屋敷へと辿り着いた。

 屋敷では悲鳴が飛び交い、何やら騒がしい。


「ティラノサウルスだ! あんな怪物に襲われたらひとたまりもないぞー! 全員逃げるんだー!」


 屋敷の主と思わしき人物が大声で避難指示を出している。

 どうも誤解を受けているようですね。


「お父様。ただいま戻りました。」

「レイラ! すぐに逃げ…………どういう状況だ?」


 レイラ嬢の父君は私の腹に引っ付いているレイラ嬢を二度見している。

 気持ちは分かりますよ。


「動物たちは皆私達の仲間ですのでご安心を。」

「な、仲間? この獰猛な肉食動物たちが……ですか?」


 まあ、皆肉食ですね。


「皆良い子たちです。言って聞かせればきちんと指示に従います。」

「確かに……襲い掛かってきませんね。」


 事前に人を襲ってはいけないと指示を出していますから当然です。

 ティラノサウルスさんは空腹を我慢しているのか涎が垂れていますが。


「こちら、ナガツキ大公家にお仕えするセイブン様とおっしゃるそうです。私の命の恩人です。」

「おお! ミリーから報告があったな。この方が……これは申し遅れました。フルーフ家の当主、ジュモンと申します。この度は娘の命を救って下さり本当にありがとうございます。」

「いえいえ。元々はこちらの不手際でしたので。」


 話の分かりそうな父君で良かった。

 これなら説得も随分と楽になるでしょう。


「ティラノサウルスを抑えるなどという偉業を謙遜なさるとは……しかもこれ程の生き物が仲間だと言う。本当に素晴らしい御仁だ。レイラよ。セイブン様とはいつ子供を作るのだ?」

「今日にでも。」

「作りません!」


 話が飛躍し過ぎです。

 親子揃ってなぜこうも結論を急ぐのか。


「作らなければ呪いは解けませんよ。」

「フルーフ家に目を付けられたら逃げられんぞ?」


 ニヤニヤと笑う王のなんと憎らしいこと。

 顔の落書きも相まって、本当に腹立たしいです。


「その声は王っ!! ぶふっ! その格好はどうしたの、ですか……?」


 レイラ嬢の父君は王を知っているようですね。

 笑いを堪えきれずに吹き出してしまう気持ち。分かりますよ。

 自国の王がこんな格好でいたら笑わないでいる方が難しいですからね。


「こやつらに襲撃を受け、あっけなく捕まったのだ。一生分の大恥をかいたわ!」

「一生分どころか来世の分までの大恥では? ぶふぅっ!」

「うるさいわ! 俺は国家の父だぞ! 笑うんじゃない!」

「こ、これは申し訳ありません王よ!」


 レイラ嬢の父君に笑われたのが余程頭にきたのか、王は唾を飛ばして怒鳴っている。


「国家の父だってよ。乳丸出しのくせにな。」

「国家の父の乳だぞ。控えおろう。」

「控えおろう。」
「控えおろう。」
「控えおろう。」
「……おろう。」
「……おろう。」
「……ろう。」
「……ろう。」


 まるで山びこのように声を響かせ始める隊員たち。

 流石に我が隊はふざける時まで連携が取れています。


「……。」


 おや? この状況で笑いを堪えてしまうとはなかなかやりますね。

 でもジュモン殿。体がぷるぷると震えていますよ?


「あまり茶化さないで下さい。話が進みません。」

「すみません隊長。」

「つい。」

「こいつの乳首に毛を描いても良いですか?」


 なんと恐ろしい。まだ辱めるというのでしょうか。


「な、やめろ! やめ……あああああああああああ!!!」










 国家の父の乳には……ちょろりと一本だけ、毛が描き足されていた。

 尊厳を傷つけられた王は項垂れている。


「セイブン様。これは一体どういう意図で……?」

「元々は私が仕えるアーリィ様に暴言を吐いた王に罰を与える為ですね。ついでにドイヒー王国が少しでもマシになればと思い、実行しました。」

「そ、そうですか。」


 ジュモン殿の額には汗が噴き出ている。


「どうやってその人数で王城を陥落させ……っと、ティラノサウルスやサルコスクス、サーベルタイガーにショートフェイスベアもいる事ですし、不可能ではありませんな。」

「ティラノサウルスさんは知っていましたが、他の動物たちはそのような名前なのですか?」

「はい。巨大ワニはサルコスクス。歯が剣のように突き出ているのがサーベルタイガー。手足の長いクマがショートフェイスベアと言います。いずれも人間が敵う相手ではありません。」


 通りで……。

 大きめのワニさんや変わった形のトラさんやクマさんだと思い込んでいましたね。


「動物たちはあくまでペットでして、王城は親衛隊だけで制圧しましたよ?」

「は?」


 どうしたのでしょうか?


「あなた方は猛獣たちをけしかけて制圧したのではないのですか?」

「いえ。可愛い動物さんたちに危ない事をさせられませんよ。制圧は我々だけで行いました。」

「……。」


 ジュモン殿が固まっていますね。

 まあ、普通の人からすれば信じられないでしょう。


「ジュモン。こいつらの言う事は本当だ。猛獣は戦いに参加してはいない。」

「な、成る程。その強さがあればこそ、猛獣たちが従うわけですね。」

「納得いただけたようで。」

「にわかには信じ難いですが、王がそのような格好で……ぶふっ! 嘘をつくとも思えません。」


 やはり気を抜くと笑ってしまうようですね。


「ジュモン。お前笑ったな?」

「いえ、笑っていません。咳込んだのです。」


 いくらなんでもその言い訳は無理があるのでは?


「嘘をつくな。分かるぞ。」

「誰にでも咳込むことはあるでしょう。あと、馬鹿みたいな顔ですね。」

「貴様っ!!」

「ふん。ここには救国の英雄セイブン様がいらっしゃるのです。威張って見せても意味がありませんよ?」


 ジュモン殿は事情を十分に理解したようで、急に強気な態度を王に取り始める。


「この後は処刑されるのでしょう? 今までの恨みを思い知れ愚王よ!」

「や、やめ……汚っ!」


 ぺっぺっと唾を飛ばすジュモン殿は今日一番の笑顔だった。


「処刑はしませんよ? 心を入れ替えたら再び王として働いてもらおうと思っていました。」

「な、なぜ……?」

「何故と言われましても。いきなり王がいなくなれば国が混乱してしまいます。適度に罰を与えたら許すつもりでした。アーリィ様がこの国へ遊びに来る際、内戦になっていては都合が悪い。」


 アーリィ様の安全が何よりも優先事項。

 下手な遺恨を残してアーリィ様を恨まれても困りますからね。


「お、王よ……。今のは気の迷いです。」

「一度吐いた唾は飲めんぞジュモンよ。」


 王を処刑するつもりがないと知った途端、急に焦り出すジュモン殿。


「飲めます、飲んでみせますとも!」

「や、やめろ! 俺を舐めるんじゃない!」


 ジュモン殿は自らが王に吐きかけた唾を舐め取り始めた。

 中年同士の絡みは酷く気持ち悪いですね。

 そもそも、吐いた唾を飲めないというのはそういう意味ではないと思いますが……。


「あの……解呪をお願いしようとジュモン殿を訪ねた身ではありますが、誇りはないのですか?」

「ありません。生き延びる為なら中年オヤジの体でも舐めてみせましょう。」


 なんと潔い方だ。

 言っている事はまるで格好つきませんけどね。


「セイブン様には申し訳ありませんが解呪は不可能ですよ。見れば分かりますが、レイラと子供を作らねば解けない呪いでしょう? どう見ても私の力を超えた呪いがかかっています。」

「……それは残念です。」


 こうなれば、一度ナガツキ家に戻ってから解呪の方法を考えるとしますか。


「レイラの事は連れて行って構いません。やっとじゃじゃ馬娘が片付い……ではなくて、娘が好いている方と結婚出来るのならばきっと幸せですから。」

「いえ、娘さんを突然連れて行くだなん……片付くって言おうとしました?」

「気のせいです。」


 まあ良いでしょう。どちらにせよ解呪できないならばこのまま戻るしかありません。

 仕方がないのでレイラ嬢も一度連れて帰るとしましょう。

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