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最終章 幸せな日々

番外編 第40話 隊長には春を 悪王には罰を

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「間一髪間に合いましたね。」


 危うく罪のない女性が食べられてしまうところでした。


「無闇に人を襲ってはいけませんよ?」


 ティラノサウルスさんはグルル……と返事をしている。

 どうやら分かってくれたようですね。


「あの……お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 助けた少女は十代後半でしょうか?

 やや幼さが残る顔立ちに、どこか高揚しているかのような表情で私に名前を訪ねてくる。

 何事もなくて本当に良かった。


「私はナガツキ大公家のアーリィ親衛隊隊長セイブンと申します。どうやらお怪我はないようですね。」

「危ないところを助けて頂き本当にありがとうございました。私はしがない商家の娘、レイラ=フルーフと申します。お礼に屋敷に招待したく思います。」

「これはご丁寧に。しかし私達は任務中ですので、お気持ちだけで……。」
「そんな! お気持ちだけなどとおっしゃらずに、是非私と甘いひと時を過ごして下さい!」


 レイラ嬢は余程恐ろしかったのか、私にしがみついてきた。それこそ木にしがみつく子供のように。

 私に引っ付いたまま決して離れようとしない。


「お付き合いしてくれるまでは決して離れません。」

「あ、あの……流石に出会ってすぐにお付き合いというのは……。」

「照れてらっしゃるのね?」

「レイラ嬢と私では年の差があり過ぎます。」

「もう遅いですよ? お付き合いしてくれるまでは決して離れない呪いをかけましたので。」


 呪い、ですって?

 穏やかじゃありませんね。ですがナガツキ家の訓練を受けた私に不可能な事は……。


「フルーフ家は代々奇怪な呪術と商売で生計を立てている一族です。私がかけた呪術は魔力任せで解く事は出来ませんよ?」


 ものは試しと魔力を放出してみましたが、体内に何かが引っかかって取れないような感触を覚えます。

 これは魔力任せで解呪するのは不可能ですね。


「……確かに、体系の全く不明な魔法である上、魔力で押し流すことも不可能ですか。」

「無理矢理私を引きちぎるか、私とお付き合いする以外で呪いを外す方法はありません。」


 なんということでしょう。

 引きちぎるだなんて出来るはずもない。


「解呪して下さいませんか?」

「ごめんなさい。今を逃したらもう機会は訪れないと思い、本気の本気で呪いをかけましたので簡単には…………あれ?」

「どうかしましたか?」

「す、すみません。」


 何故か顔を赤らめ謝って来るレイラ嬢。

 この場面で顔を赤くする意味が分かりません。


「本気でかけ過ぎたせいで、子供を作るまでは解けない呪いになってしまいました。」

「マズいですよ! 親御さんになんと説明するのですか? 解く方法はあるんですよね!?」


 解けないと本気でマズいですよこれは。


「……多分フルーフ家の当主でも解呪は出来ません。死の際に立たされた事で予想外に強く呪いがかかってしまったようです。」


 どうしましょうか。

 こんな事、アーリィ様になんと説明すれば……いえ、アーリィ様は「良かったですね。」と素晴らしい笑顔を見せてくれそうですね。本当に女神です。

 ではレイベルト様は……笑って「おめでとう。」と言いそうですね。


「一度この話は保留にしましょう。先に任務を行わなければなりません。」

「勿論私も付いて行きます!」

「離れられないのならば付いて来ざるを得ないでしょう?」

「え、えへへぇ……。」


 くっ。

 誤魔化すようなその笑い方。こんな事をされたというのに不覚にも可愛いと思ってしまいました。


「おお! 隊長が可愛い動物だけではなく、可愛い女の子も捕まえたぞ!」

「流石は隊長!」

「やるなぁセイブン!」

「憎いよセイブン!」

「羨ましいぞセイブン!」

「色ボケセイブン!」

「少女愛好者め。」


 誰ですか少女愛好者と言った奴は。


「仕方がありませんので先に任務を行いましょう。」

「待って下さいお嬢様!」


 一人の女の子が待ったをかけた。

 発言から察するに、レイラ嬢のお付きの人間かとは思いますが。


「お嬢様、私も連れて行ってくれないと困ります。」

「ドMの従者はいらないわ。」

「私以外はお嬢様のお世話は務まらないと思いますが?」

「ぐっ……。確かに、貴女以外はすぐにやめてしまいますけど……。」


 仕方がありません。

 ここで時間を消費するのも良くないですしね。


「後で伺いますので一度屋敷にお戻り頂いては?」

「え? まさか結婚の報告に?」

「違います。任務を行ってから今後についてフルーフ家の方々と相談したいのです。」


 レイラ嬢は笑顔で何を言っているのでしょうか?

 まだお付き合いもしていないのに結婚するはずがないでしょう。


「ミリー。貴女は一度屋敷に戻りなさい。では行きましょうかセイブン様。」

「えぇ。」


 頭が痛い。

 この状況を親御さんになんと説明したら良いのか。






















「ひぃぃっ! 来るな! 一体なんなんだお前たちは!?」

「貴方がドイヒー王国の王ですね? 私達はアーリィ親衛隊です。アーリィ様に暴言を吐いた罪を贖ってもらう為に参りました。」

「アーリィだと? あの生意気な小娘か!」


 アーリィ様を小娘呼ばわり。こいつは許しておけません。


「大体貴様らは危険生物どもをけしかけたかと思えば、女を正面に抱きかかえて襲撃してくるなど何を考えている! どういうつもりだ!」

「……それに関しては仕方のない事情があったのです。」


 痛いところを突かれましたね。


「あの格好じゃあな。」

「全然締まらんな。」

「確かに。」

「女を抱えて襲撃するとか意味不明だ。」

「おい。笑うのやめろよ。」

「お前だって。」

「そもそも笑うなってのが無理だろ。」


 なんたる屈辱。

 こんな事になるのなら私は後方から指揮するだけにとどめ、他の隊員たちに任せてしまえば良かった。


「おい! 本当にどういうつもりだ! 女連れて襲撃など俺を馬鹿にするにも程があるぞ!」

「申し訳ありません。」


 何故私が謝らなければいけないのでしょうか?

 しかし自分が相手の立場なら怒り狂うでしょうし、せめてもの謝罪は必要です。

 罪は償ってもらいますが。


「私はこの状態ですので、誰か私の代わりに王に罰を与えてあげて下さい。」

「では俺が。」

「任せますよ?」

「はっ!」




 彼が考案した罰は上半身を裸にした上で顔に間抜けな落書きをし、背中に『僕は恥ずかしい人間です。』と大きく書かれた姿での市中引き回しの刑。

 しかも体にダメージを与えないよう優しく引き回す事で、相手に大恥だけをかかせるというなかなかにむごい罰でした。

 体にダメージがいかない分、痛みで気が紛れることもないのでとにかく恥ずかしい。


「もういっそ殺せ……。」

「死ぬよりも生きて罪を償うのです。」


 こんな王でもプライドはあるという事ですね。

 やはりこの罰は効果があったようです。


「ついでにフルーフ家に立ち寄りましょう。無理かもしれませんが呪いを解呪してもらうようお願いしてみたいと思います。」

「解呪は無理ですよ?」


 レイラ嬢はとぼけた顔で不可能だと言う。

 元凶のくせに……可愛いじゃないですか。


「フルーフ家に行くのか?」

「えぇ。呪いを解呪しに行きます。」


 恥ずかしい格好で引き回されている王がニヤリと笑う。

 落書きのせいで馬鹿みたいな顔ですよ?


「フルーフ家の呪いを受けたのか? 奴らの呪術は独特だからな。解呪など期待しない事だ。」

「馬鹿みたいな顔ですね。」

「うるさいわ! 貴様こそずっと女を腹に張り付けて馬鹿みたいだろが!」


 くっ。

 悔しいが言い返せません。


「気にする事なんてありませんよセイブン様?」

「いや、気にしますよ。」


 なんて恐ろしい娘なのでしょうか。

 自分が元凶なのに、まるで自分が悪い事をしたと思ってもいないかのようなこの態度。


「確かに王も馬鹿みたいだが、隊長も馬鹿みたいだよな。」

「ああ。」

「動物たちもいるし、サーカスみたいだ。」

「いっそサーカスしに来たって言うか?」

「成る程。そうすれば王都の民は安心する。」

「それだと王の恰好もサーカスの出し物って事になるぞ。」

「罰にならんな。」

「正直隊長が羨ましい。」

「少女愛好者が。」


 誰ですか少女愛好者と言った奴は。

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