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最終章 幸せな日々

番外編 第27話 サクラの恋愛

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「な、何で笑うんですか?」

「くくっ。貴女のあり様があまりにも面白くてつい。」

「笑わなくたっていいじゃないですか……。」


 酷いわとでも言いたげに眉をひそめ、唇をやや突き出すサクラ。

 あれは…………。


「アヒル口!?」


 アヒル口なんてこっちに召喚されてから一度も見た事がない。

 恐らく、実践使用されたのはこの世界初なんじゃないかと思う。


「きっとエイミーから教わったんだ……。」


 エイミーは伝説の勇者桜の生まれ変わりで、魔法知識を引き継いでいる。当然その知識は魔法だけにとどまらず、召喚される前に日本で暮らしていた頃の知識だってあるはず。

 日本には『可愛いは作れる』という言葉がある。

 その手法の一つとして一時期アヒル口が流行った。性に合わないから私はやった事なんてないけど、あれをやられた男はいちころだと聞いている。

 しかもサクラのような可愛い系の顔でアヒル口なんてやったんだ。最強に決まってる。

 女の子らしさを身に付けようとしないサクラの女子力を完全に舐めていた。

 私は女の子らしさを身に付けろなんて偉そうに講釈をたれていたけど、女子力ならサクラは世界最強。

 もしかしたら、まだまだ引き出しがある可能性も否定出来ないっ!


「くくくっ。これはすみません。それよりもお嬢さん? 自分の後ろを確認した方が良い。」

「え? 後ろですか?」


 サクラはきょとんとした顔で、もう一度クルリと男に背を向けた。

 パンツ丸出しの状態で。


「くくくっ……あーはっはっは!」

「え? え? 何ですか!?」

「スカートですよ。スカート。」


 男はスカートが捲れている事を指摘しながらも、サクラの形の良い尻に視線が釘付けになっている。

 そして指摘されたサクラは今気づいた、というフリで慌ててスカートを直す。


「は、恥ずかしい……。」


 成る程!

 一度無くし物を探すフリで散々パンツを見せた後、もう一度後ろを振り返る事で相手に近距離から形の良い尻を見せつけ庇護欲と同時に情欲を誘い、更には強烈な印象を植え付けるこの手法。

 サクラは圧倒的恋愛強者っ!

 疑いようもない程の恋愛の申し子だ!


「こんなに衝撃的な人は初めて見ましたよ。」

「あ、あの……忘れて下さい!」


 サクラは慌てた様子でパタパタと逃げるように走り、べしゃりと転んで再びパンツを見せていた。

 完全に計算され尽くした転び方で見事にパンツを見せびらかしている。


「くくくくっ。本当に面白れぇ女。」


 はい。本日二度目の面白れぇ女頂きましたー!!


「あの子本当に凄い。」


 天然でパンツを見せ、アヒル口を実践使用し、更にパンツ見せを行った後にダメ押しとばかりに転んでもう一度パンツを見せる。

 露出の多い格好でパンツをチラ見せするのとはまるでワケが違う。

 故意に見せているのではなくこれは事故であると装う事で、下品な印象を相手に抱かせない。

 パンツを見せて興味を引く方法としてはまさしく最上位!

 これで興味を持たない男なんて存在するはずがないっ!


「大丈夫ですかお嬢さん? ほら、手を取って。」

「は、はい。どうもすみませんでした。」


 男は片膝で手を差し出し、サクラは差し出された手を取り立ち上がろうとする。

 そしてなんと……


「きゃっ!」


 バランスを崩して自身の胸を男に押し付けたのだ。

 まだ攻めるの!? もう十分でしょ!


「た、確かにおっちょこちょいですね。お嬢さん。」


 片膝のまま笑顔でサクラに話しかける男。爽やかな笑顔にスマートな立ち振る舞い。

でも……。


「立てなくなったみたいだね。」


 私とて四十年近く女をやってきたんだ。男がとある事情で立ち上がれなくなってしまった事をしっかり見抜いている。


「さて、お相手の男はどう誤魔化すのかな? お手並み拝見っと。」


 男はサクラを立ち上がらせたけど、自分は片膝を地につけたまま立ち上がる様子がない。

 立ち上がる事が出来なくなった男はサクラの手の甲にキスを落とし、自己紹介を始める。


「私はディン=ザーラル。しがない伯爵家の三男坊です。お嬢さんのお名前を伺いたい。」


 そうきたかっ!!

 貴族が女性にアプローチするなら、片膝を立てて手の甲にキスをするのは全く不自然じゃない。

 そうやって自己紹介するとともに相手の名を聞き出し、体の一部が静まる為の時間稼ぎをする。

 相手の男もかなりやるじゃん!


「わ、私はサクラ=ナガツキ。ナガツキ家の長女です。」

「ナガツキ家……ナガツキ大公家!?」

「は、はい。やはり驚かれましたか? 天下のナガツキ家の出である私がこんなにおっちょこちょいで……。」


 両手を軽く握り、顎の下に持ってくる……だと!?


「いえいえ。こんなに可憐な女性が居た事に驚いているんですよ。」

「あぁっ! さては恐い家だと思ってましたね?」


 そう言ってプンプンと頬を膨らませ両手を腰に当てるサクラ。

 あざと過ぎる。

 でも、自然にこれまでの動作を違和感なく行う様はどう見たって私なんかよりも女子力が高い。

 一連の流れでサクラはナガツキ家にて最強だという事を証明してみせた。


「私の負けだよサクラ。」


 皆でサクラを「結婚出来ない。」なんて言っていじってたけど、あの子が本気になれば落とせない男なんてきっといない。

 今までは本当の実力を隠していたんだ。


「あの子がもし敵だったらと思うとゾッとするね。」


 娘で良かった。

 サクラが恋敵だったら……私やエイミーは惨めな敗北を喫していたかもしれない。


「一応、極力レイベルトに近付けないでおこうかな。」


 あの子は油断ならない。私の人生において、自分の男を紹介したくない女ランキング堂々の第一位だ。

 アーリィにも注意喚起しておいた方が良いかもしれない。


「もう見届ける必要もないね。ぼちぼち帰ろう。」


 結果は見えている。

 サクラが狙ったならザーラル伯爵の三男は確実に落ちる。なんなら既に落ちている可能性すらある。

 恋愛強者サクラの実力、しっかりと見させてもらったよ。


「けどなぁ……。」


 サクラ……確かに散々女らしさを演じろとは言ったけど、100%嘘で塗り固めろとは言ってないんだよね。

 結婚出来たとしても後が大変そうだよ。
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