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最終章 幸せな日々
番外編 第23話 お見合い
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せっかくの見合いなのに俺達がいつまでも一緒では仕方がない。
一度二人で話してみてはどうかと言って、別室で二人きりにしてみた。
サクラとレイアには従者二人を引き続きもてなしてもらい、俺、アオイ、エイミーはこそこそと相談を始める。
「カイル王子をどう思う?」
「私は良いと思うよ。相性も良さそうだし、アーリィを大事にしてくれそうじゃん。」
「うん。アーリィの為を思って婿入りまでしてくれるって言うんだから。なかなかそんな人っていないよ。」
俺の嫁はどちらもカイル王子に好意的であった。
勿論俺も同じ意見だ。
「なぁ。少しだけカイル王子を鍛えてみないか?」
「訓練馬鹿の血が騒ぐの? 鍛えるにしても常識的な範囲にしておかないとダメ。本気でやるなら同意を得てからにしてよ。」
「でもカイル王子ならアーリィの為だとか言って本気の訓練に参加しそうね。私も同意があるなら鍛えるのも良いと思うわ。」
二人揃って同意を得るのが良いという。
俺だって流石に同意なしの訓練を施そうとは王族相手に思ってはいない。
「一先ず見学させてみたらどうかしら?」
「良いね。ついでだから、カバーストーリーもつけようか。」
「何だそれは。」
「えっと……小さい頃泣き虫で弱かった少年は周囲を見返す為、過酷な訓練を自らに課した。そうして訓練を経て戦争で大活躍し、モテモテになって美人の嫁を二人ももらいました。君も訓練を乗り越えた先には素晴らしい未来が待っている! とか?」
「碧ちゃん。カイル王子はモテそうだから、モテモテって言葉は効果が薄いんじゃないの?」
「そうかも。だったら……愛する人を守る為、常軌を逸した訓練に身を投じるレイベルト。彼は死線を何度もくぐり抜け、戦後にこう漏らしたという。「いやぁ、あの訓練が無ければ今頃死んでましたね。え? 辛くはないのかって? そりゃあ辛かったですよ。でもね、愛する人だって守れましたし、やはり訓練をしていて良かったですよ。」みたいな?」
アオイの一人芝居を見て、俺はようやく理解した。
そう言う事だったのか。
「自ら訓練したくなるような話をしてやろうという事だな?」
「そうそう。」
これならどんな人でも訓練に参加したくなるかもしれない。
「カイル王子にピッタリなストーリーね。アーリィを守る為だと思って訓練に参加してくれそうだわ。いっそ今のカバーストーリーを聞かせて見学だけさせたら、国に帰った後も焦れて自ら訓練を始めるんじゃないかな?」
「良いじゃないか。その方向でいこう。」
カイル王子が強くなってくれれば色んな意味で安心だ。
アーリィを守る意味でもそうだが、カイル王子本人を守る意味でも必要な事。
暗殺や誘拐などそうそう起こる事ではない。
しかし万一を考えるなら是非とも強くなってもらい、自ら暗殺者や誘拐犯を退ける楽しさを知って欲しい。
「おーい。そろそろレイア君もお仕事終わったでしょ?」
シューメルが再び顔を覗かせ質問してきた。さっき来てからそれ程時間も経っていないだろうに。
相変わらずしつこい奴だ。
王子に挨拶もせず立ち去ったという失態もある。息子の嫁とて容赦はせん。
「さてシューメル。お義父さんと訓練しようか。」
「い、嫌よ。」
後ずさり、顔を青くする義娘。
少し可愛がり過ぎたか?
「遠慮するな。お義父さんはな。シューメルに立派な淑女になってもらいたいんだ。」
「嫁いびり反対!」
「はっはっは。嫁いびりだなんて人聞きの悪い…………良いから黙って言う事を聞け。」
「ひぃぃっ!」
何をそんなに恐れているのだろうか。訓練で死ぬわけもないというのに。
「エ、エミエミ……?」
泣きそうな顔でエイミーに助けを求めるが、エイミーは憂いを帯びた表情で首を横に振るだけだった。
「碧ちゃん…………。」
アオイにも助けを求めるが、返答は至極真っ当なものだった。
「アンタねぇ。他国の王子に挨拶もなしで立ち去るなんて非常識にも程があるでしょ。その辺をレイベルトと訓練して覚えて来なさい。」
「も、もう覚えたわ! 私、ちゃんと覚えたの! 今度から挨拶します!」
「お客さんが来たら挨拶しろって前にも言ったよね? シューメルは覚えてなかったから今こんな事になってるんだよ。」
「つ、次からはちゃんと挨拶するよ? 本当です!」
泣きそうな顔で必死に懇願する強さランキング元一位の神。
「レイベルト。連れて行きなさい。」
「任せろ。」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
俺は腰の剣をチラつかせながら、シューメルを無理矢理引き摺って練兵場に連れて行った。
レイベルトに引き摺られていくシューメルちゃんの様子は涙を誘う。
私と碧ちゃんはハンカチを振り、二人を見送った。
「シューメルちゃん大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ。あの子、鉄なんかより余程頑丈だし。」
「確かにそうだけど…………。」
レイベルトったら少しやり過ぎるところがあるから心配だわ。
「せっかく二人が訓練するんだから、カイル王子とアーリィが戻って来たら見学させてみようか。」
「そうだね。もう少ししたら戻ってくるはずだから、提案してみるわ。」
「さっきの様子だとアーリィが少しくらい強くても問題なさそうだったし、本当に安心したよ。」
「うん。」
アーリィはナガツキ家の誰よりも弱い。
でも、普通の人に比べるとかなり強い方なのは確か。
その辺を誤魔化しながら上手く結婚してもらおうかと思ってたんだけど、カイル王子はアーリィに心底惚れ込んでいるみたいなので心配いらないわね。
「さて、あっちの様子はどうかなっと……。」
碧ちゃんが視線を向けた先には宴会芸を披露するレイ君の姿があった。
「凄く……盛り上がってるね。」
レイ君は腹に落書きをして踊っている。
踊る事で落書きされた顔の表情が変化し、もてなされている従者達が大笑いしていた。
「レイアの奴……もてなせとは言ったけど、腹踊りをしろなんて言ってないっての。」
あ、マズい。
碧ちゃんがレイ君を殴っちゃうかも。
目を細めてレイ君を見る碧ちゃんは少し怖い。
「碧ちゃん。レイ君も頑張って歓迎してるんだから大目に見てあげて? 従者さん達だって喜んでるんだし、殴っちゃダメだよ。」
「このままだと、ナガツキ家が下品だと思われるでしょうが。メメちゃんにも注意されてるし、流石に殴りはしないけどさ。」
本当かな?
時々レイ君を殴り飛ばしてる時と同じ目をしてたよ?
「大丈夫。ただでさえ恐れられてるんだし、ナガツキ家は案外明るい家だ、で済むよきっと。」
「うーん……。」
「それにサクラも手を叩いて笑ってるじゃない。レイ君だけが悪いわけじゃないわ。」
「まぁ、エイミーがそう言うなら叱るだけにしておくよ。」
「え? 叱るの?」
「エイミーはレイアに甘過ぎるって。」
「そうかなぁ?」
普通だと思うんだけど。
「レイアが落ち込んでると頭を抱きかかえたりしてるじゃん。レイアったらアンタの胸に顔埋めてニヤニヤしてんだからね?」
「碧ちゃんの方がおっぱい大きいんだからやってあげたら良いのに。レイ君喜ぶよ?」
「いや、あの年で実の母親のおっぱいに喜んでたらマズいでしょ。取り敢えず、エイミーは甘やかしすぎ。」
「それは仕方ないよ。レイ君もアーリィもレイベルトと碧ちゃんの子だと思うと可愛くて仕方ないんだもん。勿論サクラだって可愛いわよ?」
「そりゃあ私だって子供達は皆可愛いと思うけどさ。」
「碧ちゃんが厳し過ぎるんだよ…………あっ。」
「どうかした?」
「ううん。なんでもない。」
マズいわ。レイ君が腹踊りどころかとうとう裸踊り始めちゃってる。
私が碧ちゃんの気を逸らして時間を稼がないと、レイ君の明日が失われてしまうかもしれない。
「メメちゃんにも注意されたなぁ……私、厳し過ぎるのかな?」
「うん。」
「もう少しフォローしてくれない?」
「あはは。でも碧ちゃんが厳しくて私が甘いなら、上手くバランス取れてるんじゃないかな?」
「ま、確かにそうかも。」
お願い碧ちゃん。まだあっち見ないで。
そしてレイ君、早く服着て。
碧ちゃんに気付かれないよう私は手で必死に合図を出したけど、レイ君は気付かず裸踊りを続行している。
「エイミーって余所には厳しいけど身内には優しいよね。」
「ふふふ。辛い繰り返しを乗り越えた反動なのかも。」
「それ、全然笑えないって。」
神様お願いします。
碧ちゃんにバレて激怒される前に、レイ君が自らの過ちに気付くよう働きかけてあげて下さい…………
ってダメね。良く考えたら、私自身が神だったんだわ。
なんて頼りにならない神様なの……?
一度二人で話してみてはどうかと言って、別室で二人きりにしてみた。
サクラとレイアには従者二人を引き続きもてなしてもらい、俺、アオイ、エイミーはこそこそと相談を始める。
「カイル王子をどう思う?」
「私は良いと思うよ。相性も良さそうだし、アーリィを大事にしてくれそうじゃん。」
「うん。アーリィの為を思って婿入りまでしてくれるって言うんだから。なかなかそんな人っていないよ。」
俺の嫁はどちらもカイル王子に好意的であった。
勿論俺も同じ意見だ。
「なぁ。少しだけカイル王子を鍛えてみないか?」
「訓練馬鹿の血が騒ぐの? 鍛えるにしても常識的な範囲にしておかないとダメ。本気でやるなら同意を得てからにしてよ。」
「でもカイル王子ならアーリィの為だとか言って本気の訓練に参加しそうね。私も同意があるなら鍛えるのも良いと思うわ。」
二人揃って同意を得るのが良いという。
俺だって流石に同意なしの訓練を施そうとは王族相手に思ってはいない。
「一先ず見学させてみたらどうかしら?」
「良いね。ついでだから、カバーストーリーもつけようか。」
「何だそれは。」
「えっと……小さい頃泣き虫で弱かった少年は周囲を見返す為、過酷な訓練を自らに課した。そうして訓練を経て戦争で大活躍し、モテモテになって美人の嫁を二人ももらいました。君も訓練を乗り越えた先には素晴らしい未来が待っている! とか?」
「碧ちゃん。カイル王子はモテそうだから、モテモテって言葉は効果が薄いんじゃないの?」
「そうかも。だったら……愛する人を守る為、常軌を逸した訓練に身を投じるレイベルト。彼は死線を何度もくぐり抜け、戦後にこう漏らしたという。「いやぁ、あの訓練が無ければ今頃死んでましたね。え? 辛くはないのかって? そりゃあ辛かったですよ。でもね、愛する人だって守れましたし、やはり訓練をしていて良かったですよ。」みたいな?」
アオイの一人芝居を見て、俺はようやく理解した。
そう言う事だったのか。
「自ら訓練したくなるような話をしてやろうという事だな?」
「そうそう。」
これならどんな人でも訓練に参加したくなるかもしれない。
「カイル王子にピッタリなストーリーね。アーリィを守る為だと思って訓練に参加してくれそうだわ。いっそ今のカバーストーリーを聞かせて見学だけさせたら、国に帰った後も焦れて自ら訓練を始めるんじゃないかな?」
「良いじゃないか。その方向でいこう。」
カイル王子が強くなってくれれば色んな意味で安心だ。
アーリィを守る意味でもそうだが、カイル王子本人を守る意味でも必要な事。
暗殺や誘拐などそうそう起こる事ではない。
しかし万一を考えるなら是非とも強くなってもらい、自ら暗殺者や誘拐犯を退ける楽しさを知って欲しい。
「おーい。そろそろレイア君もお仕事終わったでしょ?」
シューメルが再び顔を覗かせ質問してきた。さっき来てからそれ程時間も経っていないだろうに。
相変わらずしつこい奴だ。
王子に挨拶もせず立ち去ったという失態もある。息子の嫁とて容赦はせん。
「さてシューメル。お義父さんと訓練しようか。」
「い、嫌よ。」
後ずさり、顔を青くする義娘。
少し可愛がり過ぎたか?
「遠慮するな。お義父さんはな。シューメルに立派な淑女になってもらいたいんだ。」
「嫁いびり反対!」
「はっはっは。嫁いびりだなんて人聞きの悪い…………良いから黙って言う事を聞け。」
「ひぃぃっ!」
何をそんなに恐れているのだろうか。訓練で死ぬわけもないというのに。
「エ、エミエミ……?」
泣きそうな顔でエイミーに助けを求めるが、エイミーは憂いを帯びた表情で首を横に振るだけだった。
「碧ちゃん…………。」
アオイにも助けを求めるが、返答は至極真っ当なものだった。
「アンタねぇ。他国の王子に挨拶もなしで立ち去るなんて非常識にも程があるでしょ。その辺をレイベルトと訓練して覚えて来なさい。」
「も、もう覚えたわ! 私、ちゃんと覚えたの! 今度から挨拶します!」
「お客さんが来たら挨拶しろって前にも言ったよね? シューメルは覚えてなかったから今こんな事になってるんだよ。」
「つ、次からはちゃんと挨拶するよ? 本当です!」
泣きそうな顔で必死に懇願する強さランキング元一位の神。
「レイベルト。連れて行きなさい。」
「任せろ。」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
俺は腰の剣をチラつかせながら、シューメルを無理矢理引き摺って練兵場に連れて行った。
レイベルトに引き摺られていくシューメルちゃんの様子は涙を誘う。
私と碧ちゃんはハンカチを振り、二人を見送った。
「シューメルちゃん大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ。あの子、鉄なんかより余程頑丈だし。」
「確かにそうだけど…………。」
レイベルトったら少しやり過ぎるところがあるから心配だわ。
「せっかく二人が訓練するんだから、カイル王子とアーリィが戻って来たら見学させてみようか。」
「そうだね。もう少ししたら戻ってくるはずだから、提案してみるわ。」
「さっきの様子だとアーリィが少しくらい強くても問題なさそうだったし、本当に安心したよ。」
「うん。」
アーリィはナガツキ家の誰よりも弱い。
でも、普通の人に比べるとかなり強い方なのは確か。
その辺を誤魔化しながら上手く結婚してもらおうかと思ってたんだけど、カイル王子はアーリィに心底惚れ込んでいるみたいなので心配いらないわね。
「さて、あっちの様子はどうかなっと……。」
碧ちゃんが視線を向けた先には宴会芸を披露するレイ君の姿があった。
「凄く……盛り上がってるね。」
レイ君は腹に落書きをして踊っている。
踊る事で落書きされた顔の表情が変化し、もてなされている従者達が大笑いしていた。
「レイアの奴……もてなせとは言ったけど、腹踊りをしろなんて言ってないっての。」
あ、マズい。
碧ちゃんがレイ君を殴っちゃうかも。
目を細めてレイ君を見る碧ちゃんは少し怖い。
「碧ちゃん。レイ君も頑張って歓迎してるんだから大目に見てあげて? 従者さん達だって喜んでるんだし、殴っちゃダメだよ。」
「このままだと、ナガツキ家が下品だと思われるでしょうが。メメちゃんにも注意されてるし、流石に殴りはしないけどさ。」
本当かな?
時々レイ君を殴り飛ばしてる時と同じ目をしてたよ?
「大丈夫。ただでさえ恐れられてるんだし、ナガツキ家は案外明るい家だ、で済むよきっと。」
「うーん……。」
「それにサクラも手を叩いて笑ってるじゃない。レイ君だけが悪いわけじゃないわ。」
「まぁ、エイミーがそう言うなら叱るだけにしておくよ。」
「え? 叱るの?」
「エイミーはレイアに甘過ぎるって。」
「そうかなぁ?」
普通だと思うんだけど。
「レイアが落ち込んでると頭を抱きかかえたりしてるじゃん。レイアったらアンタの胸に顔埋めてニヤニヤしてんだからね?」
「碧ちゃんの方がおっぱい大きいんだからやってあげたら良いのに。レイ君喜ぶよ?」
「いや、あの年で実の母親のおっぱいに喜んでたらマズいでしょ。取り敢えず、エイミーは甘やかしすぎ。」
「それは仕方ないよ。レイ君もアーリィもレイベルトと碧ちゃんの子だと思うと可愛くて仕方ないんだもん。勿論サクラだって可愛いわよ?」
「そりゃあ私だって子供達は皆可愛いと思うけどさ。」
「碧ちゃんが厳し過ぎるんだよ…………あっ。」
「どうかした?」
「ううん。なんでもない。」
マズいわ。レイ君が腹踊りどころかとうとう裸踊り始めちゃってる。
私が碧ちゃんの気を逸らして時間を稼がないと、レイ君の明日が失われてしまうかもしれない。
「メメちゃんにも注意されたなぁ……私、厳し過ぎるのかな?」
「うん。」
「もう少しフォローしてくれない?」
「あはは。でも碧ちゃんが厳しくて私が甘いなら、上手くバランス取れてるんじゃないかな?」
「ま、確かにそうかも。」
お願い碧ちゃん。まだあっち見ないで。
そしてレイ君、早く服着て。
碧ちゃんに気付かれないよう私は手で必死に合図を出したけど、レイ君は気付かず裸踊りを続行している。
「エイミーって余所には厳しいけど身内には優しいよね。」
「ふふふ。辛い繰り返しを乗り越えた反動なのかも。」
「それ、全然笑えないって。」
神様お願いします。
碧ちゃんにバレて激怒される前に、レイ君が自らの過ちに気付くよう働きかけてあげて下さい…………
ってダメね。良く考えたら、私自身が神だったんだわ。
なんて頼りにならない神様なの……?
応援ありがとうございます!
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