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最終章 幸せな日々

番外編 第22話 認識の差

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 ある程度の時間が経過した後、酔いどれ王子は正気を取り戻して謝罪してきた。


「申し訳ありませんでした。ナガツキ家の武力を背景に王位を簒奪するのは良くなかったですね。」

「あ、あぁ……。そうですね。」


 違う。問題はそこじゃない。


「やはり男は自らの力でもぎ取ってこそ。ナガツキ家の手を借りずに自身のみで王位を簒奪して参ります。」


 やめろ。簒奪して参るな。

 相手は隣国の、とは言っても王族だ。あまり注意などするのは好ましくない。かと言ってこのまま国に帰してしまうと内乱になりかねん。

 ならばいっそ、こっちに婿入りさせるか?

 ナガツキ大公家は王より貴族位をいくつも賜っている。

 侯爵を二つ、伯爵を三つ、子爵を五つ、男爵を八つ。

 加えて騎士爵はこちらの裁量で幾つ与えても良いという事になっている。勿論常識的な範囲内での話だが。

 侯爵の位なら第二王子を婿入りさせる家としても格の上では問題ないはずだ。

 いや、取り敢えずは簒奪しない方向で説得してみるか。


「カイル王子。アーリィは立場や肩書などそれ程気にしない子ですよ?」

「なんと慎ましい。ですが万一の時を考えると、アーリィ殿の身の安全が……。」


 確かに。

 やはりカイル王子を婿入りさせて侯爵位を渡そう。それならばアーリィ親衛隊もそのままつけてやれるし、身の安全は保障される。

 親衛隊程の戦力を国外に出したら王に怒られるしな。


「提案なのですが、我が家から侯爵位を渡す事が出来ますので婿入りされてはどうでしょうか?」

「成る程! サルージ王国の王妃程度よりもイットリウム王国侯爵夫人の方が格も高く、アーリィ殿の安全は保障されますね!」


 おい。自分の母ちゃんも王妃だろ。

 お前の母ちゃん、泣くぞ?

 アーリィを大事にしようという気持ちは分かるが。


「え、えぇと。カイル王子がそれで宜しければ、我が家としても問題はありません。」

「おお! レイベルト殿ありがとうございます。その提案を受けたいと思います。」


 これで問題は解決したな。

 危うく国際問題に発展するところだった。


「ねえ。サルージ王国は第二王子が他国に婿入りしても問題無いの? 王女が嫁に行くのと訳が違うんじゃない?」

「そうだな。」


 言われてみれば……。

 アオイの言も尤もだ。


「アオイ殿、何も問題はありません。」

「そうなんですか?」

「はい。英雄から侯爵位を授けられたとなれば、サルージ王国としても名誉な事。反対などあろうはずもなく。」


 問題ないのかよ。

 というか、サルージ王国からナガツキ家はどう見られているんだ?


「質問なのですが……サルージ王国にとって、ナガツキ家とはどのような立ち位置なのでしょうか?」

「そうですね……神の一族、に近いでしょうか。戦力差五倍以上を余裕でひっくり返し、相手に戦力が残っているにもかかわらず心をへし折って降伏に持ち込んだ現人神。」

「現人神……?」


 それはいくらなんでも言い過ぎだろ。


「神の尖兵も勇者級とは言わずとも相当な戦力だと聞き及んでおります。世界を滅ぼす怪物さえもレイベルト殿の部隊が足止めし、しかも犠牲者はただの一人もいなかったのでしょう?」

「まぁ、それは……その通りですが。」


 当時俺の部隊は両軍に更なる犠牲者が出ないよう足止めしてくれてたんだよな。


「両軍に多大な被害を出した怪物を百人程度の一部隊で足止めするなど神の尖兵と思われるのも致し方のない事。更にはその怪物を尖兵と共に滅ぼし、世界を救った英勇の三人。これはもはや神話の領域です。」


 結果だけを聞けば、成る程確かにそうかもしれないな、とも思う。

 実は「エイミーだけで余裕で倒せました。死んだフリなんかもしてました。」とかは話さない方が良いだろう。

 本当に神だと思われてしまう。

 というか、ナガツキ家には既に神が二体いるしな。エイミーも力を継承しているので正確には三体か?


「レイア君! そろそろお仕事終わったでしょ? 私、今日も焼き肉食べたいな…………し、失礼しましたー。」


 シューメルがいきなりドアを開けたかと思えば、状況を察してすぐに閉めてどこかへと行ってしまった。


「レ、レイア殿。あの方は……?」

「失礼しました。俺の嫁でして……ちょっと後で言って聞かせておきますのでご容赦を。」

「嫁!? あの膨大な魔力の持ち主が嫁!?」


 しまった!

 アオイやエイミーとは違い、シューメルは魔力を隠すという事をあまりしないんだった。


「ははは。至らぬ嫁ですが、強さだけは折り紙つきでして。」

「え? この異常事態をそれで片付けるの? あ、いや……ですか?」


 王子は混乱しているようだ。

 若干素が出ている。


「カイル王子。彼女はたまたま魔力が多いようです。」

「た、たまたま??」

「はい。」

「成る程。魔神とは実在したのですね。たまたま魔力の多い魔神という事ですか?」

「いえ、特別魔力の多い人間です。」

「特別では説明がつかない魔力量でしたが?」

「特別です。」

「そ、そうですか……。」


 ちなみにカイル王子が言っている魔神とは、おとぎ話に出てくる極端に魔力の多い神を指して言っているのだろう。

 まさか本物の神だと説明するわけにもいかない。

 なんとかこれで押しきれないか?


「父さん。シューメルをあまり特別扱いされては困る。あいつは皆と同じに接してもらいたいらしいからね。大体父さんはシューメルに手も足も出させないで勝っただろ?」


 馬鹿野郎。

 せっかく誤魔化したのに、なんて事を言うんだ。


「ま、魔神を手も足も出させずに倒した…………? やはり神だったのか。」


 とんでもない誤解を受けている。


「そうか……ナガツキ家は代々どこからか魔神を見つけてきては倒して嫁にする。そうして強さを維持していたのですね。」


 代々って、まだ二代目までしかいないんだが?


「アオイ殿は勇者だからと納得は出来ますが、エイミー殿も魔神と言っても差し付けない程に魔力が多いのでは? 隠された魔力を探ってみると、これまたとんでもない量ですよ。」


 マズいぞ。

 一度話を逸らすか。


「カイル王子も魔力を探る事に長けているのですね。魔法が得意なのですか?」

「流石に勇者や英雄とは比べ物になりませんが、私もちょっとしたものでしてね。実は第二王子なんて立場がなかったら、宮廷魔法使いになってみたかったのですよ。」


 少しだけ得意気に鼻をこすって自らの夢を語る王子。


「へぇー! カイル王子は魔法が得意なんですね!」


 良いぞアオイ!

 その調子で煽てろ。


「何を隠そうこのカイル。サルージ王国宮廷魔法使いと魔法戦が出来る程度には習熟しているのです!」


 ん?

 煽てるというか、普通に凄くないか?

 ナガツキ家と比べるとあれだが、宮廷魔法使いと魔法戦が成立する時点で兵士換算すれば最低でも五十人は相手に出来る戦力だろ。

 この王子、かなり優秀だ。

 アオイやエイミーに魔法を教われば相当強くなれそうだな。

 しかも立ち振る舞いを見れば分かるが、剣術も多少は出来そうだ。

 試しに鍛えてみるか?

 相手は王族なので、軽めの地獄の特訓から入っていけば問題にはならないだろうしな。

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