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最終章 幸せな日々
番外編 第20話 ご機嫌取り
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「ジャイン王から手紙が来たぞ。ナガツキ大公家にサルージ王国の第二王子が来てくれるそうだ。」
「え? 小国とは言え相手は王族ですよ? 普通はこちらから出向くのが礼儀ではないのですか?」
「普通はな。本来であればナガツキ家の方から訪ねるのが筋だとは手紙にも書いてあったが、お前の家は世界最強の軍事力を持っているから気を遣われたのだろうとの事だ。」
「……パパ。一応こちらから出向いた方が良いのではないです?」
「問題ない。王の手紙には向こうを怖がらせるだけだから大人しく家で待ってれば良いと書いていた。」
たかがお見合いで怖がられるわけはないというのに、王は心配性だな。
「私は王が言うのであれば従うです。」
「俺が言っても従って欲しいんだが?」
「パパは私を無理矢理訓練しようとしたので嫌です。」
うぐっ……。
「な、なぁアーリィ? 欲しい物とかはないのか? 最近は花型の髪飾りが流行っているらしいぞ?」
「それはセイブン隊長がくれました。」
「何個かあっても良いだろ?」
「三つ貰いましたので必要ないです。私が欲しいのは娘に無理矢理訓練しようとしないパパです。」
な、なんだと…………。
「もしかして、まだ怒っているのか?」
「怒ってないです。パパなんてちょっと嫌いなだけです。」
ちょっと……嫌い、だと!?
これ程の衝撃を受けたのは……かつて戦争前にエイミーが練兵場を魔法の一撃で更地にしてしまった時以来だ。
「わっ。あからさまに落ち込んでしまいました。」
「嫌いだなんて言わないでくれ……。」
娘に土下座で頼み込んだ。
俺のつまらない誇りなどどうでも良い。娘に嫌われない為なら、何度でも土下座してみせよう。
「嘘ですよ。無理矢理訓練しないなら嫌いになりません。」
「本当か!?」
「はい。」
「なら、訓練も少しだけしてみないか?」
「やっぱりちょっと嫌いです。」
「……二度と訓練に誘ったりはしない。」
「そうして下さい。」
サクラやレイアだったら喜んで参加するというのに、子育てと言うのは難しいな。
レイアなんて特に「父さん凄え!」と言って、目を輝かせて何度も技を見せてくれとせがむんだが。
調子に乗り過ぎてあれもこれもと斬っていたら、大抵の物は斬れるようになってしまった。
「なら、訓練はしないが魔法を教えるぞ? 魔法ならアーリィも好きだろう?」
「習いたいです!」
目を輝かせて食い気味に返事をするアーリィ。
娘の機嫌を取るのがこうも大変だとは思わなかった。
今までアーリィが拗ねるという事は殆どなかったので、全く大変さを知らなかったのだ。
しかし機嫌を取る為とは言え、アオイに禁止されていた魔法を俺が教えたとなれば怒られるだろうか?
多分……大丈夫だ。
保護者がいる時は使っても良いという約束のはずだからな。
最悪怒られたら……俺がとんでもなく搾られるだけの話だ。
「座学と実地、どちらが良いんだ?」
「座学は大体習ってますので、実地が良いです。」
「分かった。庭の練兵場に行こうか。」
「はい!」
そうして俺とアーリィは練兵場に移動し、早速魔法の練習をする事にした。
「アーリィはどんな魔法を習いたいんだ?」
「パパがママに怒られて追いかけられる時に良く使う、凄く速い走り方をする魔法です!」
そんな覚え方をしないで欲しかった。
「分かった。先ず、風魔法を背中から後方に発動するだけで良い。風量を絞って発動すると速度の調整も出来る。」
「やってみます!」
アーリィは走る構えを取り、背中から発動させようとするが……。
「うぅ……。背中からってどうやるんですか?」
いきなりは少し難しかったようだ。
困った顔が我が娘ながら愛らしい。
「よしよし。ちゃんと教えてやるからな。」
「ありがとうございます!」
「手からは発動出来るんだろ?」
「はい。でも背中は難しいのです。」
手から発動する感覚が分かるのであれば……。
「手から一度発動してみると良い。その感覚を意識し、背中でも試してみるんだ。」
「はい!」
アーリィは一度手の平から風魔法を発動し、感覚を掴めたのか納得した顔を見せる。
そして背中からそよ風程度だが、風魔法を発生させることに成功した。
「どうやら上手く出来たみたいだな。」
「はい。でも、もっと強い風を出さないと速くは走れません。」
余程使えるのを楽しみにしていたのか肩を落としている。
一発目で成功している時点で十分凄いんだがな。
「大丈夫だ。もう少し練習すれば出来るようになるだろ。」
「そうでしょうか?」
「あぁ。アーリィは魔法の才能があるかもしれないな。一度で成功する奴なんてなかなかいないぞ?」
「本当ですか!?」
「嘘など言わないさ。」
「もっと練習してみます!」
「おう。」
続けて練習に付き合っていたのだが、アーリィが二度目に発動した時は既にそよ風などというものではなかった。
実用段階にまで到達している。
三度目に発動した時は実際に走ってみせ、それなりの速度で走れるようになった。
四度目はサクラと同等の速度が出ていた。
俺は正直、アーリィの才能を見誤っていたのだ。
もうやめさせようと思った。このままではアオイにぶん殴られる。
「な、なぁ。そろそろ良いんじゃないの……か?」
俺の目の前をフォォォオオォォォォォンッと甲高い音を立てて通り過ぎていくアーリィ。
五度目はアオイが本気を出した時と同じくらいの速度が出ていた。
マズいぞ。
これは完全にマズい。
アーリィは魔力こそ大した量を持っていないが、効率というか魔力を魔法に変換する際に発生する無駄がほぼ感じられない。
アオイはかつて言っていた。
魔力をそのまま魔法に変換出来たら大して魔力が無くても強いよね、と。
普通なら魔法を発動する際に魔力の99%が無駄になるのだという。魔法の扱いが上手いアオイでさえも95%の無駄は発生しているらしい。
魔法を発動した際に発生した99%の無駄が、魔法の強さを読み取る為の指標となり、相手を追跡する為の魔力の残り香となる。
対してアーリィはどうだ。
99%の無駄どころか、99%以上の変換効率ではないのか?
魔力の扱いが尋常ではなく上手いという事…………いや、これは上手いで片付けて良い問題ですらない。
つまりアーリィはどれ程強い魔法を発動しても相手に魔法の強弱を読み取らせず、追跡もされず、それでいて潜在魔力からは少し魔力があるだけの女の子としか思われないという事だ。
「疲れましたぁ。」
「そ、そうか。アーリィ。今日はもうおしまいにしようか。」
「え? まだ大丈夫ですよ?」
「あ、あぁ。でもな? パパも疲れてきたというかなんというか……。」
上手く誤魔化せん。どう言ったらいいものか。
「まさか……パパも実はママから聞いていたんですか?」
「何をだ?」
「ママには風魔法は覚えるなって言われたんです。でも、私だって楽しく追いかけっことかしたかったんです。」
成る程。
アオイの言から察するに、アーリィは風魔法と相性が良過ぎるんだ。
魔力の変換効率もさることながら、風魔法の上達速度も考えられない程だった。このままいけば、アーリィは風魔法に新たな旋風を巻き起こす人材となり得る。
だから使うななどと言われたのだろう。
俺も目にしたが果たしてどこまで極める事が出来るのか。
末っ子のアーリィは、人類から逸脱していたのだな。
王よ。貴方の言う通りでした。
我が家は明るく楽しい人外家庭でしたよ?
「え? 小国とは言え相手は王族ですよ? 普通はこちらから出向くのが礼儀ではないのですか?」
「普通はな。本来であればナガツキ家の方から訪ねるのが筋だとは手紙にも書いてあったが、お前の家は世界最強の軍事力を持っているから気を遣われたのだろうとの事だ。」
「……パパ。一応こちらから出向いた方が良いのではないです?」
「問題ない。王の手紙には向こうを怖がらせるだけだから大人しく家で待ってれば良いと書いていた。」
たかがお見合いで怖がられるわけはないというのに、王は心配性だな。
「私は王が言うのであれば従うです。」
「俺が言っても従って欲しいんだが?」
「パパは私を無理矢理訓練しようとしたので嫌です。」
うぐっ……。
「な、なぁアーリィ? 欲しい物とかはないのか? 最近は花型の髪飾りが流行っているらしいぞ?」
「それはセイブン隊長がくれました。」
「何個かあっても良いだろ?」
「三つ貰いましたので必要ないです。私が欲しいのは娘に無理矢理訓練しようとしないパパです。」
な、なんだと…………。
「もしかして、まだ怒っているのか?」
「怒ってないです。パパなんてちょっと嫌いなだけです。」
ちょっと……嫌い、だと!?
これ程の衝撃を受けたのは……かつて戦争前にエイミーが練兵場を魔法の一撃で更地にしてしまった時以来だ。
「わっ。あからさまに落ち込んでしまいました。」
「嫌いだなんて言わないでくれ……。」
娘に土下座で頼み込んだ。
俺のつまらない誇りなどどうでも良い。娘に嫌われない為なら、何度でも土下座してみせよう。
「嘘ですよ。無理矢理訓練しないなら嫌いになりません。」
「本当か!?」
「はい。」
「なら、訓練も少しだけしてみないか?」
「やっぱりちょっと嫌いです。」
「……二度と訓練に誘ったりはしない。」
「そうして下さい。」
サクラやレイアだったら喜んで参加するというのに、子育てと言うのは難しいな。
レイアなんて特に「父さん凄え!」と言って、目を輝かせて何度も技を見せてくれとせがむんだが。
調子に乗り過ぎてあれもこれもと斬っていたら、大抵の物は斬れるようになってしまった。
「なら、訓練はしないが魔法を教えるぞ? 魔法ならアーリィも好きだろう?」
「習いたいです!」
目を輝かせて食い気味に返事をするアーリィ。
娘の機嫌を取るのがこうも大変だとは思わなかった。
今までアーリィが拗ねるという事は殆どなかったので、全く大変さを知らなかったのだ。
しかし機嫌を取る為とは言え、アオイに禁止されていた魔法を俺が教えたとなれば怒られるだろうか?
多分……大丈夫だ。
保護者がいる時は使っても良いという約束のはずだからな。
最悪怒られたら……俺がとんでもなく搾られるだけの話だ。
「座学と実地、どちらが良いんだ?」
「座学は大体習ってますので、実地が良いです。」
「分かった。庭の練兵場に行こうか。」
「はい!」
そうして俺とアーリィは練兵場に移動し、早速魔法の練習をする事にした。
「アーリィはどんな魔法を習いたいんだ?」
「パパがママに怒られて追いかけられる時に良く使う、凄く速い走り方をする魔法です!」
そんな覚え方をしないで欲しかった。
「分かった。先ず、風魔法を背中から後方に発動するだけで良い。風量を絞って発動すると速度の調整も出来る。」
「やってみます!」
アーリィは走る構えを取り、背中から発動させようとするが……。
「うぅ……。背中からってどうやるんですか?」
いきなりは少し難しかったようだ。
困った顔が我が娘ながら愛らしい。
「よしよし。ちゃんと教えてやるからな。」
「ありがとうございます!」
「手からは発動出来るんだろ?」
「はい。でも背中は難しいのです。」
手から発動する感覚が分かるのであれば……。
「手から一度発動してみると良い。その感覚を意識し、背中でも試してみるんだ。」
「はい!」
アーリィは一度手の平から風魔法を発動し、感覚を掴めたのか納得した顔を見せる。
そして背中からそよ風程度だが、風魔法を発生させることに成功した。
「どうやら上手く出来たみたいだな。」
「はい。でも、もっと強い風を出さないと速くは走れません。」
余程使えるのを楽しみにしていたのか肩を落としている。
一発目で成功している時点で十分凄いんだがな。
「大丈夫だ。もう少し練習すれば出来るようになるだろ。」
「そうでしょうか?」
「あぁ。アーリィは魔法の才能があるかもしれないな。一度で成功する奴なんてなかなかいないぞ?」
「本当ですか!?」
「嘘など言わないさ。」
「もっと練習してみます!」
「おう。」
続けて練習に付き合っていたのだが、アーリィが二度目に発動した時は既にそよ風などというものではなかった。
実用段階にまで到達している。
三度目に発動した時は実際に走ってみせ、それなりの速度で走れるようになった。
四度目はサクラと同等の速度が出ていた。
俺は正直、アーリィの才能を見誤っていたのだ。
もうやめさせようと思った。このままではアオイにぶん殴られる。
「な、なぁ。そろそろ良いんじゃないの……か?」
俺の目の前をフォォォオオォォォォォンッと甲高い音を立てて通り過ぎていくアーリィ。
五度目はアオイが本気を出した時と同じくらいの速度が出ていた。
マズいぞ。
これは完全にマズい。
アーリィは魔力こそ大した量を持っていないが、効率というか魔力を魔法に変換する際に発生する無駄がほぼ感じられない。
アオイはかつて言っていた。
魔力をそのまま魔法に変換出来たら大して魔力が無くても強いよね、と。
普通なら魔法を発動する際に魔力の99%が無駄になるのだという。魔法の扱いが上手いアオイでさえも95%の無駄は発生しているらしい。
魔法を発動した際に発生した99%の無駄が、魔法の強さを読み取る為の指標となり、相手を追跡する為の魔力の残り香となる。
対してアーリィはどうだ。
99%の無駄どころか、99%以上の変換効率ではないのか?
魔力の扱いが尋常ではなく上手いという事…………いや、これは上手いで片付けて良い問題ですらない。
つまりアーリィはどれ程強い魔法を発動しても相手に魔法の強弱を読み取らせず、追跡もされず、それでいて潜在魔力からは少し魔力があるだけの女の子としか思われないという事だ。
「疲れましたぁ。」
「そ、そうか。アーリィ。今日はもうおしまいにしようか。」
「え? まだ大丈夫ですよ?」
「あ、あぁ。でもな? パパも疲れてきたというかなんというか……。」
上手く誤魔化せん。どう言ったらいいものか。
「まさか……パパも実はママから聞いていたんですか?」
「何をだ?」
「ママには風魔法は覚えるなって言われたんです。でも、私だって楽しく追いかけっことかしたかったんです。」
成る程。
アオイの言から察するに、アーリィは風魔法と相性が良過ぎるんだ。
魔力の変換効率もさることながら、風魔法の上達速度も考えられない程だった。このままいけば、アーリィは風魔法に新たな旋風を巻き起こす人材となり得る。
だから使うななどと言われたのだろう。
俺も目にしたが果たしてどこまで極める事が出来るのか。
末っ子のアーリィは、人類から逸脱していたのだな。
王よ。貴方の言う通りでした。
我が家は明るく楽しい人外家庭でしたよ?
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