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最終章 幸せな日々
番外編 第19話 新王と英雄
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「久しいなレイベルトよ。」
「はっ。ジャイン王もお変わりなく。」
「あぁ。俺が新生イットリウム王国の王になって以来か。」
「確か七年ぶりかと。」
ジャイン王は先代のジャルダン王の曾孫であり、先王が崩御されてから急遽王位を継いだ若き王。
「あの時は苦労をかけたな。」
「いえいえ。臣下として当然の事。」
先王は王として新生イットリウム王国をある程度まとめたところで急死なされた。
年齢を考えれば当然の事。100を超え、それでも王としての責務を全うしようと動いていたのだ。
ただ、後が大変だった。
先王の子供や孫達は次代の王を誰にするかで揉めに揉めた。
全員が口をそろえて、こんな大国の王などやりたくないと頑なに王になる事を拒否したのだ。
「本当に大変だった。ナガツキ家の協力なくして、今のイットリウム王国の繁栄は有り得ない。」
「我が家は多少手助けを行ったまでです。殆どジャイン王のお力によるものではありませんか。」
先王が崩御され次代を誰にするのか争った結果、現在のジャイン王に白羽の矢が立った。
本人も拒否はしなかったのだが、問題は新王になった後にどこの貴族達も後ろ盾にはなってくれず、当時20代とあまりにも若かったジャイン王は本当に苦労されていたのだ。
そこでナガツキ大公家がジャイン王の後ろ盾となり、盛り立てる事で新しい体制を確立して今日に至る。
「半分くらいはナガツキ家のせいでもあるがな。」
「ははは。お戯れを。」
ジャイン王はどうやら冗談がお好きなようだ。
「いや、戯れではないが。」
「え?」
「貴族達に聞いたのだ。何故誰も後ろ盾になってくれなかったのか、とな。」
「理由は何だったのですか?」
「ナガツキ大公家が恐ろしいからだそうだ。」
何故だ?
こんなにも国に貢献しているというのに。
「自分が新王の後ろ盾になると宣言した後にナガツキ大公家が後ろ盾になるなどと言い出した時の事を考えると、恐ろしくて夜も眠れなくなると皆言っていたぞ。」
「恐らく、貴族達には訓練が足りていませんね。もし良ければ俺が指導致します。」
同じ国の貴族を恐れていては良い政治が出来ない。
ここは俺が一肌脱ぐことにしよう。
「やめろ。貴族達を殺す気か。」
「そんなつもりはありませんが。」
「そんなつもりは無かったのか?」
「はい。貴族達を殺す意味などないではありませんか。」
「いや、あれはナガツキ家特有の刑罰だろう?」
「え?」
「え?」
刑罰だと思われていたのか?
こちらとしてはごく普通の地獄の特訓だと思っていたのだが。
「刑罰ではないのか?」
「はい。」
「なんと……。ではドゥラン騎士団長が言っていた事は勘違いだったのか。」
あの野郎。
絶対に訓練を施してやる。
「ジャイン王。良ければドゥラン騎士団長を一年程派遣して下さい。立派な騎士団長に育ててみせましょう。」
「かつて泣いて拒否したと聞いているが?」
「騎士団長が泣いて訓練を拒否するなどあるまじき行為。心から立派な騎士団長にしてみせますのでどうか。」
徹底的に鍛えてやる。
そうすればジャイン王も理解してくれるだろう。
「お前は鬼か。」
「いえ。普通の人間です。」
「ドゥラン騎士団長が刑罰だと勘違いする訓練を受けさせようというのだろう?」
「いえ。もっと特別な訓練を受けてもらいます。」
そうしなければ立派な騎士団長になれないしな。
「……ドゥラン騎士団長には居てもらわないと困る。精神に異常をきたすのも困る。よって、その願いは聞き入れられない。」
「残念です。」
二日だけこちらに滞在して訓練をつけてやろう。
「この話はもう終わりにしよう。本題はこれからだ。何故俺がレイベルトを呼んだのかというと、サルージ王国から婚姻の打診があった。」
「そうでしたか。しかし、現在の王家には年頃の男女がいないのでは?」
「あぁ。だからナガツキ大公家に話を持っていこうかと思い、お前を呼んだ。」
成る程。
急に呼ばれたので何か重大な用件があったのかと思ったが、そういう事情だったか。
「理解しました。どなたがお相手ですか?」
「相手は第二王子だ。政治力に優れた人物だと聞いているが、どうだろうか。」
「はい。一度持ち帰って検討してみたいと思います。」
「頼んだぞ。」
「という事があった。で、アーリィ。サルージ王国の第二王子と婚約なんてどうだ?」
「え? うーん……会ってみないと判断出来ません。」
「確かに。なら、互いに会って決めるという事にしようか。」
「はい。」
サルージ王国は古くから付き合いのある国で、旧ストレッチ王国から見るとイットリウム王国の更に南に位置する場所であった為に侵略を免れていた小国だ。
新生イットリウム王国は変わらずサルージ王国と付き合っていくつもりだが、あちらからすれば急激に勢力が拡大してしまった強国との関係強化が急務と考えているのだろう。
特に最近王が代替わりしたと聞いているしな。
「第二王子は政治力に優れているという話だ。アーリィとは話が合うかもしれないな。」
「楽しみです。嫁いでしまうとなれば寂しいですが、そうなるのもまだ先の話です。」
「あぁ。ずっと結婚しないというわけにもいかないからな。」
「はい。では一度会う方向でお話して欲しいです。」
「任せておけ。」
「ジャイン王。一度会ってみるという事で如何でしょうか?」
「そのように返事をしておこう。しかしレイベルトよ。お前は暇なのか?」
「え?」
結構忙しいのだが、何故暇だと勘違いされたのだろうか。
「自分の仕事もあるはずだ。頻繁にこちらへ来て問題はないのかと聞いている。」
「走ればすぐですのでご安心を。」
大体一日も走れば着くしな。
「走って? 馬を走らせ続けたら馬が可哀想だろう。」
「馬が潰れてしまいますのでそのような事はしません。」
「走ったと言ったではないか。」
「はい。ですから俺が自らの足で走って来ました。」
「……お前は何を言っているんだ? 馬を走らせても三日はかかる距離を自分の足で走ったと言うのか?」
「勿論です。」
ジャイン王は信じられないといった様子で口を閉ざす。
コツを知らないと難しいのは事実だから仕方がない。
「走るにはコツがあるんですよ。風魔法を使って、ただひたすらに全力で駆け抜けるのです。おおよそ一日で着きます。」
「意味が分からんしコツですらない。まあ良い。お前に常識を求めても無駄だというのは俺も知っているからな。その調子で国を守ってくれ。」
あまり理解はされなかったが、王に頼られるというのは誇らしいものだ。
「もう一つ話しておくことがある。前回来た時ドゥラン騎士団長に訓練をしていっただろう?」
「はい。彼はどうも訓練が足りていないようでしたので。」
「ドゥラン騎士団長は忙しいのだ。訓練をつけるのはやめてやれ。」
「……はい。」
「奴は泣いていたぞ。あの刑罰を受けさせられるのだけは勘弁して欲しいとな。」
「残念です。」
仕方ない。
王にここまで言われては訓練を無理強いする事も出来ないな。
「ところで、今度長男が結婚する事になりました。」
「それは目出度い。相手はどんな人物なのだ?」
「それなのですが……かつての戦争で停戦交渉の際に怪物が現れたのは記憶しているかと思います。」
「あぁ。覚えているが……何故長男の結婚に怪物の話が出るのだ?」
流石に言いにくいな。
何と説明したものか。
「その怪物の血縁関係にある人物らしいのです。」
「成る程な。」
思ったよりも反応が薄い。
もしやあまり理解されていないのか?
「ナガツキ大公家に人間じゃない血が混じったところで別に困らんだろう。お前ら全員人間とはかけ離れているからな。人間以外が混じった方がいっそ違和感もないぞ。」
「ナガツキ大公家は明るい家庭ですよ?」
「論点はそこではない。明るいかもしれんが人間かどうかとは関係ないだろう。」
な、なんだと?
王にまで誤解されていたのか…………
「はっ。ジャイン王もお変わりなく。」
「あぁ。俺が新生イットリウム王国の王になって以来か。」
「確か七年ぶりかと。」
ジャイン王は先代のジャルダン王の曾孫であり、先王が崩御されてから急遽王位を継いだ若き王。
「あの時は苦労をかけたな。」
「いえいえ。臣下として当然の事。」
先王は王として新生イットリウム王国をある程度まとめたところで急死なされた。
年齢を考えれば当然の事。100を超え、それでも王としての責務を全うしようと動いていたのだ。
ただ、後が大変だった。
先王の子供や孫達は次代の王を誰にするかで揉めに揉めた。
全員が口をそろえて、こんな大国の王などやりたくないと頑なに王になる事を拒否したのだ。
「本当に大変だった。ナガツキ家の協力なくして、今のイットリウム王国の繁栄は有り得ない。」
「我が家は多少手助けを行ったまでです。殆どジャイン王のお力によるものではありませんか。」
先王が崩御され次代を誰にするのか争った結果、現在のジャイン王に白羽の矢が立った。
本人も拒否はしなかったのだが、問題は新王になった後にどこの貴族達も後ろ盾にはなってくれず、当時20代とあまりにも若かったジャイン王は本当に苦労されていたのだ。
そこでナガツキ大公家がジャイン王の後ろ盾となり、盛り立てる事で新しい体制を確立して今日に至る。
「半分くらいはナガツキ家のせいでもあるがな。」
「ははは。お戯れを。」
ジャイン王はどうやら冗談がお好きなようだ。
「いや、戯れではないが。」
「え?」
「貴族達に聞いたのだ。何故誰も後ろ盾になってくれなかったのか、とな。」
「理由は何だったのですか?」
「ナガツキ大公家が恐ろしいからだそうだ。」
何故だ?
こんなにも国に貢献しているというのに。
「自分が新王の後ろ盾になると宣言した後にナガツキ大公家が後ろ盾になるなどと言い出した時の事を考えると、恐ろしくて夜も眠れなくなると皆言っていたぞ。」
「恐らく、貴族達には訓練が足りていませんね。もし良ければ俺が指導致します。」
同じ国の貴族を恐れていては良い政治が出来ない。
ここは俺が一肌脱ぐことにしよう。
「やめろ。貴族達を殺す気か。」
「そんなつもりはありませんが。」
「そんなつもりは無かったのか?」
「はい。貴族達を殺す意味などないではありませんか。」
「いや、あれはナガツキ家特有の刑罰だろう?」
「え?」
「え?」
刑罰だと思われていたのか?
こちらとしてはごく普通の地獄の特訓だと思っていたのだが。
「刑罰ではないのか?」
「はい。」
「なんと……。ではドゥラン騎士団長が言っていた事は勘違いだったのか。」
あの野郎。
絶対に訓練を施してやる。
「ジャイン王。良ければドゥラン騎士団長を一年程派遣して下さい。立派な騎士団長に育ててみせましょう。」
「かつて泣いて拒否したと聞いているが?」
「騎士団長が泣いて訓練を拒否するなどあるまじき行為。心から立派な騎士団長にしてみせますのでどうか。」
徹底的に鍛えてやる。
そうすればジャイン王も理解してくれるだろう。
「お前は鬼か。」
「いえ。普通の人間です。」
「ドゥラン騎士団長が刑罰だと勘違いする訓練を受けさせようというのだろう?」
「いえ。もっと特別な訓練を受けてもらいます。」
そうしなければ立派な騎士団長になれないしな。
「……ドゥラン騎士団長には居てもらわないと困る。精神に異常をきたすのも困る。よって、その願いは聞き入れられない。」
「残念です。」
二日だけこちらに滞在して訓練をつけてやろう。
「この話はもう終わりにしよう。本題はこれからだ。何故俺がレイベルトを呼んだのかというと、サルージ王国から婚姻の打診があった。」
「そうでしたか。しかし、現在の王家には年頃の男女がいないのでは?」
「あぁ。だからナガツキ大公家に話を持っていこうかと思い、お前を呼んだ。」
成る程。
急に呼ばれたので何か重大な用件があったのかと思ったが、そういう事情だったか。
「理解しました。どなたがお相手ですか?」
「相手は第二王子だ。政治力に優れた人物だと聞いているが、どうだろうか。」
「はい。一度持ち帰って検討してみたいと思います。」
「頼んだぞ。」
「という事があった。で、アーリィ。サルージ王国の第二王子と婚約なんてどうだ?」
「え? うーん……会ってみないと判断出来ません。」
「確かに。なら、互いに会って決めるという事にしようか。」
「はい。」
サルージ王国は古くから付き合いのある国で、旧ストレッチ王国から見るとイットリウム王国の更に南に位置する場所であった為に侵略を免れていた小国だ。
新生イットリウム王国は変わらずサルージ王国と付き合っていくつもりだが、あちらからすれば急激に勢力が拡大してしまった強国との関係強化が急務と考えているのだろう。
特に最近王が代替わりしたと聞いているしな。
「第二王子は政治力に優れているという話だ。アーリィとは話が合うかもしれないな。」
「楽しみです。嫁いでしまうとなれば寂しいですが、そうなるのもまだ先の話です。」
「あぁ。ずっと結婚しないというわけにもいかないからな。」
「はい。では一度会う方向でお話して欲しいです。」
「任せておけ。」
「ジャイン王。一度会ってみるという事で如何でしょうか?」
「そのように返事をしておこう。しかしレイベルトよ。お前は暇なのか?」
「え?」
結構忙しいのだが、何故暇だと勘違いされたのだろうか。
「自分の仕事もあるはずだ。頻繁にこちらへ来て問題はないのかと聞いている。」
「走ればすぐですのでご安心を。」
大体一日も走れば着くしな。
「走って? 馬を走らせ続けたら馬が可哀想だろう。」
「馬が潰れてしまいますのでそのような事はしません。」
「走ったと言ったではないか。」
「はい。ですから俺が自らの足で走って来ました。」
「……お前は何を言っているんだ? 馬を走らせても三日はかかる距離を自分の足で走ったと言うのか?」
「勿論です。」
ジャイン王は信じられないといった様子で口を閉ざす。
コツを知らないと難しいのは事実だから仕方がない。
「走るにはコツがあるんですよ。風魔法を使って、ただひたすらに全力で駆け抜けるのです。おおよそ一日で着きます。」
「意味が分からんしコツですらない。まあ良い。お前に常識を求めても無駄だというのは俺も知っているからな。その調子で国を守ってくれ。」
あまり理解はされなかったが、王に頼られるというのは誇らしいものだ。
「もう一つ話しておくことがある。前回来た時ドゥラン騎士団長に訓練をしていっただろう?」
「はい。彼はどうも訓練が足りていないようでしたので。」
「ドゥラン騎士団長は忙しいのだ。訓練をつけるのはやめてやれ。」
「……はい。」
「奴は泣いていたぞ。あの刑罰を受けさせられるのだけは勘弁して欲しいとな。」
「残念です。」
仕方ない。
王にここまで言われては訓練を無理強いする事も出来ないな。
「ところで、今度長男が結婚する事になりました。」
「それは目出度い。相手はどんな人物なのだ?」
「それなのですが……かつての戦争で停戦交渉の際に怪物が現れたのは記憶しているかと思います。」
「あぁ。覚えているが……何故長男の結婚に怪物の話が出るのだ?」
流石に言いにくいな。
何と説明したものか。
「その怪物の血縁関係にある人物らしいのです。」
「成る程な。」
思ったよりも反応が薄い。
もしやあまり理解されていないのか?
「ナガツキ大公家に人間じゃない血が混じったところで別に困らんだろう。お前ら全員人間とはかけ離れているからな。人間以外が混じった方がいっそ違和感もないぞ。」
「ナガツキ大公家は明るい家庭ですよ?」
「論点はそこではない。明るいかもしれんが人間かどうかとは関係ないだろう。」
な、なんだと?
王にまで誤解されていたのか…………
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