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最終章 幸せな日々
番外編 第7話 親衛隊
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先日レイアの初恋(勘違い)事件があった後に何を血迷ったのか、弟はエイミー親衛隊の部隊長になりたいと言い出した。
弟は一大決心した男の顔で「エイミーママを何があっても守るんだ!」とか言ってたけど、あんたはナガツキ大公家の嫡男でしょうが。
エイミー親衛隊とか言ってる場合じゃないって。
変なマザコン拗らせないでよ。
そもそもお母さんに親衛隊なんて必要ない事は戦ってみて分かったはず。お母さんにはまともな攻撃が何一つ通らないんだから心配するだけ無駄。
我が家には親衛隊という部隊というか制度がある。
それぞれ30名ずつで構成されていて、エイミー親衛隊、サクラ親衛隊、レイア親衛隊、アーリィ親衛隊の四部隊が存在する。
各部隊は全ての兵が一騎当千。部隊長ともなれば準勇者級――約二千の兵を相手取れる実力者。
一つの親衛隊だけで小国なら落とせる戦力。
お母さんの親衛隊は勤続年数が長い事もあってか、全員が準勇者級で部隊長は完全に勇者級だ。
世界征服でもするつもりなのかしら?
中でもエイミー親衛隊は濃い。
親衛隊が守るべき対象であるお母さんに敵対的な行動があったと知るだけで、命令もなく勝手に突撃していってしまう。酷い事に、突撃するなと命令しても突撃していってしまう。
なんて非常識な部隊なんだろう。
他の部隊はそうじゃなくて良かった。そう思っていたんだけど…………
「アーリィ。お前ももう13歳だ。そろそろ訓練に参加したらどうだ?」
「練兵場に呼ばれたからもしやと思いましたが……パパ? 私、強くならなくても良いです。」
「だが、もしもがあったら怖いだろ?」
アーリィは他の家族と違ってあまり強くない。
今までは子供だからと見逃されてきたが、誘拐や犯罪に巻き込まれる事を懸念したお父さんがとうとうしびれを切らしてしまった。
よって、アーリィが訓練に参加するよう一緒に説得してくれとお父さんに頼まれ、私もこの練兵場にいる。
ナガツキ大公家は屋敷の庭に練兵場も備わっているのだ。
「アーリィも強い方が色々便利よ?」
「別に良いです。それに、女の子なんだから訓練に参加しなくても良いとママが言っていました。」
碧ママがねぇ。
あれ? でもちょっと待って。
「私も女の子なんだけど?」
「サクラお姉ちゃんはもう手遅れだってママが……。」
手遅れって何よ。
「碧は少し危機感が足りないみたいだな。俺はアーリィにもしもの事があったらと思うと、心配でなかなか訓練に身が入らないんだぞ?」
私としてはお父さん寄りの考えだけど、アーリィ本人が気乗りしないなら無理強いするのも気が引ける。
「レイベルト様。アーリィ様を鍛えるなどおやめ下さい。」
「何故だ? お前たちはアーリィが心配じゃないのか?」
「勿論心配ですとも。サクラ様のように男が寄ってこないようになる事を殊更心配しております。」
「余計なお世話よ!」
さらりと私に毒を吐いたこの人はアーリィ親衛隊隊長のセイブンという。
碧ママだけではなく、アーリィが強くなり過ぎると結婚出来なくなる事を心配する親衛隊と、アーリィが弱い事を懸念するお父さんとで意見が食い違ってしまったみたい。
「申し訳ありません。しかし、サクラ様のようになってはアーリィ様があまりにもお可哀想です。」
まだ言うかこいつめ。
理解出来なくはないから黙っておくけど。
「しかしだな。アーリィに万が一などあっては困るぞ?」
「万が一などあり得ません。アーリィ親衛隊は常にどこからでもお守りできるよう待機しており、安心安全快適な暮らしを約束しています。」
「あのな。俺や碧みたいな勇者級に襲われたらどうする?」
そんな奴いないでしょ。
お父さんはお父さんで過保護過ぎる。
「勿論打倒してみせますが?」
うわぁ……。セイブン隊長、お父さんを煽り始めちゃった。
「勇者級に勝てる気か? いかにお前らとて出来る事と出来ない事があるだろ。アーリィの父である俺の教育方針に口を出さないでもらいたい。」
「レイベルト様にとってのアーリィ様は娘。しかし我らにとってのアーリィ様は神。どちらの言う事を聞くかなど明白です。」
か、神……?
「お前らは何を言っているんだ? アーリィだって強い方が危険がなくて良いに決まって…………」
「アーリィ親衛隊集合っっっ!! 神に弓引く大罪人がいるぞーーー!!!」
突然目をカッと開いたかと思えば大声で物騒な台詞を叫ぶセイブン隊長。
「え? ちょ…………」
「大罪人の名はレイベルト様だ!! 仕えるべき主なれど、アーリィ様の自主性を尊重しないなど言語道断!!」
どこから出てきたのか、アーリィ親衛隊が全員ぐるりとこちらを囲んでいる。
ちょっと退避しておこうっと。
「レイベルト様は剣を所持していない!! 剣のないレイベルト様など、サクラ様と同程度だっっ!! 恐るるに足らず!!」
さり気なく私を下げないで欲しい。
「ほ、本気か……?」
お父さんは呆気に取られているけど、親衛隊は全員本気だよ。
だって、目が血走ってるもん。
「殺す気でいけっっ!! レイベルト様はどうせ死なん!!」
「死ぬわっ!!」
親衛隊が四人一組で剣を持って襲い掛かった。
お父さんは両腕に魔力を込めて剣を防ぎながら、親衛隊から魔法を撃たれない位置を常に取って防ぎきれないものは避けている。
「上手い……。」
自分の親ながら感心してしまう。
私が剣なしで戦うならこうはいかない。
「レイベルト様は飛んだり跳ねたりしないのですか?」
「お前ら相手にそんな事をすれば魔法で狙い撃ちされるだろうが!」
「ご名答。」
お父さんは手だけでは対応しきれなくなってきて足技まで使い始めた。
「流石は勇者級。剣を持たずともお強いですね。」
「言ってろ!」
動きを見てなんとなく分かってきた。お父さんは親衛隊の同士討ちを狙っている。
でも親衛隊もそれは織り込み済みで、同士討ちを避ける為に四人ずつで攻めているのが見て取れた。
「くっ! やるじゃないか! 剣があればもっと戦えるものを……お前らなかなかに卑怯だな。」
「卑怯で結構。アーリィ様を守れるならどんな卑怯な手でも使って御覧に入れます。」
お父さんは一瞬の隙を見て親衛隊の一人を蹴りで吹き飛ばし、両横から迫る二人の剣を両腕で捌き、背中に防御魔法を展開して残りの剣を防いだ。
しかし、一人が吹き飛ばされた結果射線が空くと、後方の親衛隊より魔法を撃ち込まれてお父さんが苦しそうにうめく。
「全員一撃離脱の構え! 相手は勇者級だ! 少し戦うだけで驚く程消耗する! 今戦った四人は下がれ!」
例の発言から、最初はお父さんを舐めているのかと思ったけどそうじゃない。
アーリィ親衛隊はお父さんを全く舐めてはいなかった。
最大級の敵として警戒している。
「面白くなってきたじゃないか。多対一とは言え、身内以外でこれ程苦戦した経験など一度もないぞ?」
お父さんはニヤリと笑って見せ、親衛隊を面白いと評した。
面白いっていうか、普通に反逆罪だけど。
弟は一大決心した男の顔で「エイミーママを何があっても守るんだ!」とか言ってたけど、あんたはナガツキ大公家の嫡男でしょうが。
エイミー親衛隊とか言ってる場合じゃないって。
変なマザコン拗らせないでよ。
そもそもお母さんに親衛隊なんて必要ない事は戦ってみて分かったはず。お母さんにはまともな攻撃が何一つ通らないんだから心配するだけ無駄。
我が家には親衛隊という部隊というか制度がある。
それぞれ30名ずつで構成されていて、エイミー親衛隊、サクラ親衛隊、レイア親衛隊、アーリィ親衛隊の四部隊が存在する。
各部隊は全ての兵が一騎当千。部隊長ともなれば準勇者級――約二千の兵を相手取れる実力者。
一つの親衛隊だけで小国なら落とせる戦力。
お母さんの親衛隊は勤続年数が長い事もあってか、全員が準勇者級で部隊長は完全に勇者級だ。
世界征服でもするつもりなのかしら?
中でもエイミー親衛隊は濃い。
親衛隊が守るべき対象であるお母さんに敵対的な行動があったと知るだけで、命令もなく勝手に突撃していってしまう。酷い事に、突撃するなと命令しても突撃していってしまう。
なんて非常識な部隊なんだろう。
他の部隊はそうじゃなくて良かった。そう思っていたんだけど…………
「アーリィ。お前ももう13歳だ。そろそろ訓練に参加したらどうだ?」
「練兵場に呼ばれたからもしやと思いましたが……パパ? 私、強くならなくても良いです。」
「だが、もしもがあったら怖いだろ?」
アーリィは他の家族と違ってあまり強くない。
今までは子供だからと見逃されてきたが、誘拐や犯罪に巻き込まれる事を懸念したお父さんがとうとうしびれを切らしてしまった。
よって、アーリィが訓練に参加するよう一緒に説得してくれとお父さんに頼まれ、私もこの練兵場にいる。
ナガツキ大公家は屋敷の庭に練兵場も備わっているのだ。
「アーリィも強い方が色々便利よ?」
「別に良いです。それに、女の子なんだから訓練に参加しなくても良いとママが言っていました。」
碧ママがねぇ。
あれ? でもちょっと待って。
「私も女の子なんだけど?」
「サクラお姉ちゃんはもう手遅れだってママが……。」
手遅れって何よ。
「碧は少し危機感が足りないみたいだな。俺はアーリィにもしもの事があったらと思うと、心配でなかなか訓練に身が入らないんだぞ?」
私としてはお父さん寄りの考えだけど、アーリィ本人が気乗りしないなら無理強いするのも気が引ける。
「レイベルト様。アーリィ様を鍛えるなどおやめ下さい。」
「何故だ? お前たちはアーリィが心配じゃないのか?」
「勿論心配ですとも。サクラ様のように男が寄ってこないようになる事を殊更心配しております。」
「余計なお世話よ!」
さらりと私に毒を吐いたこの人はアーリィ親衛隊隊長のセイブンという。
碧ママだけではなく、アーリィが強くなり過ぎると結婚出来なくなる事を心配する親衛隊と、アーリィが弱い事を懸念するお父さんとで意見が食い違ってしまったみたい。
「申し訳ありません。しかし、サクラ様のようになってはアーリィ様があまりにもお可哀想です。」
まだ言うかこいつめ。
理解出来なくはないから黙っておくけど。
「しかしだな。アーリィに万が一などあっては困るぞ?」
「万が一などあり得ません。アーリィ親衛隊は常にどこからでもお守りできるよう待機しており、安心安全快適な暮らしを約束しています。」
「あのな。俺や碧みたいな勇者級に襲われたらどうする?」
そんな奴いないでしょ。
お父さんはお父さんで過保護過ぎる。
「勿論打倒してみせますが?」
うわぁ……。セイブン隊長、お父さんを煽り始めちゃった。
「勇者級に勝てる気か? いかにお前らとて出来る事と出来ない事があるだろ。アーリィの父である俺の教育方針に口を出さないでもらいたい。」
「レイベルト様にとってのアーリィ様は娘。しかし我らにとってのアーリィ様は神。どちらの言う事を聞くかなど明白です。」
か、神……?
「お前らは何を言っているんだ? アーリィだって強い方が危険がなくて良いに決まって…………」
「アーリィ親衛隊集合っっっ!! 神に弓引く大罪人がいるぞーーー!!!」
突然目をカッと開いたかと思えば大声で物騒な台詞を叫ぶセイブン隊長。
「え? ちょ…………」
「大罪人の名はレイベルト様だ!! 仕えるべき主なれど、アーリィ様の自主性を尊重しないなど言語道断!!」
どこから出てきたのか、アーリィ親衛隊が全員ぐるりとこちらを囲んでいる。
ちょっと退避しておこうっと。
「レイベルト様は剣を所持していない!! 剣のないレイベルト様など、サクラ様と同程度だっっ!! 恐るるに足らず!!」
さり気なく私を下げないで欲しい。
「ほ、本気か……?」
お父さんは呆気に取られているけど、親衛隊は全員本気だよ。
だって、目が血走ってるもん。
「殺す気でいけっっ!! レイベルト様はどうせ死なん!!」
「死ぬわっ!!」
親衛隊が四人一組で剣を持って襲い掛かった。
お父さんは両腕に魔力を込めて剣を防ぎながら、親衛隊から魔法を撃たれない位置を常に取って防ぎきれないものは避けている。
「上手い……。」
自分の親ながら感心してしまう。
私が剣なしで戦うならこうはいかない。
「レイベルト様は飛んだり跳ねたりしないのですか?」
「お前ら相手にそんな事をすれば魔法で狙い撃ちされるだろうが!」
「ご名答。」
お父さんは手だけでは対応しきれなくなってきて足技まで使い始めた。
「流石は勇者級。剣を持たずともお強いですね。」
「言ってろ!」
動きを見てなんとなく分かってきた。お父さんは親衛隊の同士討ちを狙っている。
でも親衛隊もそれは織り込み済みで、同士討ちを避ける為に四人ずつで攻めているのが見て取れた。
「くっ! やるじゃないか! 剣があればもっと戦えるものを……お前らなかなかに卑怯だな。」
「卑怯で結構。アーリィ様を守れるならどんな卑怯な手でも使って御覧に入れます。」
お父さんは一瞬の隙を見て親衛隊の一人を蹴りで吹き飛ばし、両横から迫る二人の剣を両腕で捌き、背中に防御魔法を展開して残りの剣を防いだ。
しかし、一人が吹き飛ばされた結果射線が空くと、後方の親衛隊より魔法を撃ち込まれてお父さんが苦しそうにうめく。
「全員一撃離脱の構え! 相手は勇者級だ! 少し戦うだけで驚く程消耗する! 今戦った四人は下がれ!」
例の発言から、最初はお父さんを舐めているのかと思ったけどそうじゃない。
アーリィ親衛隊はお父さんを全く舐めてはいなかった。
最大級の敵として警戒している。
「面白くなってきたじゃないか。多対一とは言え、身内以外でこれ程苦戦した経験など一度もないぞ?」
お父さんはニヤリと笑って見せ、親衛隊を面白いと評した。
面白いっていうか、普通に反逆罪だけど。
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