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最終章 幸せな日々

番外編 第4話 レイアの恋?

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 私の思った通り、ルーガル伯爵の次男は行方不明になっていた。

 あれから時間が経過し、すっかり忘れていた頃に妙な噂を聞いて調べたところ、そいつが行方不明になっている事を知ったのだ。

 きっとお母さんがどうにかしてしまったんだと思う。

 アーリィは元々そんな奴など眼中にも無かったせいか、貴族子弟が一人行方不明になったというのにまるで気にした様子もなかった。

 あまりにも気にしなさ過ぎて、私までその事を忘れていたくらいだもの。

 そして妙な噂の内容というのが『ルーガル伯爵家はとある方の怒りに触れた』だ。

 最近になって貴族間でひっそり囁かれている噂のせいで、ルーガル伯爵家は他の貴族に避けられ始め、各領との取引も停止されてしまっているらしい。

 かつて戦争があった際に、死を運ぶ英勇トリオが活躍し過ぎたせいでイットリウム王国は有り得ない程の快勝を果たし、ストレッチ王国を吸収してしまったのはあまりにも有名な話。

 お母さんは戦後、伝説の勇者の生まれ変わりである事を包み隠さず報告した結果、より恐れられるようになった。

 旧イットリウム王国の上層部は特に恐れずナガツキ大公家と付き合ってくれるけど、他の貴族は驚く程こちらに対して腰が低い。

 ただ、それは私の親世代の話。

 戦時を経験していない世代は時に舐めた口を聞いてくる奴もいる。

 余程じゃなければ多少の無礼は見逃しているけどね。

 というのも、やらかした貴族子弟の家は他の貴族からそっぽを向かれるのでこちらから特に何かをする必要もない。

 今回はお母さんが行方不明者を出した事でルーガル伯爵家に噂が立ち、誰も彼もが関わりたくないと自然と経済制裁のような形になったというだけ。

 お母さんが戦時中に多数の行方不明者を出した事に気付いている人は気付いているからこそ、暗黙の了解としてこの状況が成立してしまっているのだ。


「ルーガル伯爵には可哀想だけど、子供のやった事では済まない事もあるからね。」

「碧ママも同意って感じ?」

「全面的に同意ってわけじゃないけど、私の世界でも子供の悪戯が悪戯では済まなくなった事ってあるし、仕方ないのかとも思うよ。」

「へえ? たとえば?」

「動画って分かるかな? サクラが今からしょうもない悪戯をやったとして、それをそのまま記録して映し出す事が私の世界では出来るんだけど……たくさんの人に悪戯が見られて、裁判になるケースもあるんだよ。」

「ふーん。その動画? がそのまま証拠になっちゃうわけね。」

「そうそう。サクラは理解が早くて助かるよ。証拠があって世間に晒される以上、世間がその悪戯を許さない風潮もあるし、被害を受けた側が莫大な損害を被る事もあって、やってる事は悪戯でも悪戯では済まなくなったってわけ。」

「子供の教育って大事だね。」


 今回の件が噂として広がってしまった以上、ルーガル伯爵が世間(貴族)から避けられるという形で制裁が下ったという事か。


「うーん。これに関しては一概に教育だけってわけでもないのが難しいところだよ。子供ってさ、調子に乗って何でもやっちゃう場合もあるから。」

「それも含めての教育じゃない? 確かに調子に乗る事はあるけど、調子に乗ってやる事の選択肢が教育によって変化するんだから。」

「サクラは手厳しいね。私も子を育てる親として、考えちゃう面もあるんだよ。」


 碧ママは普段厳しめなのに、案外こういうところは優しい。

 お母さんは普段ぽやんとしてるくせに、こういうところは鬼かよってくらい厳しい。

 どちらが正解かは私にも分からない。


「話は変わるけどさ、サクラにお願いがあって。」


 碧ママが私にお願いなんて珍しい。大抵の事は自分で片付けられる人なのに。


「実はね。レイアったらエイミーに恋してるみたいなのよ。母親の私から言うのもおかしな話だし、なんとかならないかな?」

「レイアが? お母さんに?」


 なんという衝撃発言。

 義母に恋をするなんてレイアはどこで道を間違えちゃったんだろう。


「勘違いじゃない? どうしたらそうなるのよ。」


 碧ママだって勘違いくらいあるだろうしね。


「勘違いだったらどれだけ良かった事か……。」


 頭を抱えて本気で悩むようなこの態度。

 あー……これは本当っぽいわ。


「一応、経緯を教えてよ。」

「オッケー。一緒に対策考えてね?」


 碧ママは話してくれた。

 聞いてみればなんて事はない。遅くに到来した初恋ってだけの事だった。

 レイアが碧ママに叱られて10mくらい吹っ飛ばされた時、私のお母さんが「碧ちゃん。ここまでしなくても……。」と言って慰めて抱きしめてあげたのがキッカケらしい。

 息子を10mも吹っ飛ばさないでよ。

 その後、レイアの視線が事あるごとにお母さんに向いているのに気付いてしまい、どうしたものかと頭を悩ませているそうだ。


「レイアは今まで女の子に興味なんて無かったのに……。レイアがもしエイミーに手を出したらと思うと…………。」

「大丈夫だって。碧ママは心配し過ぎ。レイアにとっては身近な異性にちょっと憧れた程度のものでしょ? 大体さ、お母さんがレイアにどうにかされるわけないって。」

「そこは心配してないよ。」


 あれ?


「レイアがエイミーの怒りを買って、変な呪いとかかけられないか心配で……。」


 心配するとこそこなの?

 まぁ、分からなくはない。


「お母さんってお父さん以外の男にちょっかいかけられるの物凄く嫌がるからね。でもレイアの事は可愛がってるから大丈夫だと思いたいけど…………。」


 正直これは予測がつかない。

 去年お母さんと私がお忍びで買い物をしていた時に、食事でもどうかと声を掛けて来た男を近くにあった馬車で叩き潰してたし。

 お母さん曰く、お父さん以外の男には触れたくもないとの事。


「エイミーはレイアを息子として認識してるでしょ? でも、レイアがちょっかいかける事でレイアを男だと認識した時のエイミーの反応が正直怖くてさ。」


 想像したくない。

 お母さんは何に使うのかも分からないような変な魔法も使えるので、本当に何が起こるか予測できない。


「良し! 私が一肌脱ぎましょう!」
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