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第二章 ルートⅢ
第23話 約束
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「私はエイミーさんに謝らなきゃいけない。」
アオイは真剣な顔をしてエイミーを見る。
「あや、まる……?」
「エイミーさんの家に借金があるのは……エイミーさんの家が没落したのは……私が王に報告したからです。本当にごめんなさい。」
「え?」
「エイミーさんがレイベルトを裏切ったんだと思ってた。それで王に報告して……その後どうなるかなんて……私は分かっていて報告しました。ごめんなさい。償えと言うなら勿論償います。」
「……アオイ様。気にする事はありません。あんな家、没落して借金まみれになってせいせいしてます。その点はむしろ私がお礼を言いたいくらいです。それに私が裏切ったのも……暗示や薬のせいだとしても、本当ですから。」
「そんな訳ない! 暗示や薬なんて使われたんだから、エイミーさんのせいじゃない!」
「ありがとうございます。でも、償いは必要ありません。多分ですけど……アオイ様は私を助けに動かない選択肢もあったんじゃありませんか?」
「え? な、なんで……。」
どういう事だ?
「一緒にいるなら、手紙をレイベルトに読ませない事だって出来たはずです。読ませたとして、同封した暗号なんてレイベルトに解けるはずがありませんから、誰かが暗号を代わりに解く必要があります。それはきっとアオイ様だったのではありませんか?」
「う、うん。」
確かに暗号はアオイが解いた。
だがエイミー。さり気なく俺を馬鹿だと言っていないか?
「アオイ様は私を放置するよう仕向ける事だって出来たはずなんです。ですから……こうして来てくれただけで十分です。」
「エイミーさん……。」
「勇者様にさん付けされるなんて思ってもみませんでした。呼び捨てで結構ですよ。」
「なら、私だって様なんて付けなくて良い。」
「さ、流石にそれは……」
「良いって。これから一緒の屋敷で生活するのに様なんて付けられたら疲れちゃうよ。アオイちゃんって呼んで。友達にはそう呼ばれてたんだから。」
「ありがとうございます。アオイちゃん……アオイちゃん? あれ? なんか、前からそう呼んでた気が……。」
エイミーはブツブツと何事か言っていたかと思えばいきなり黙り込んだ。
急にどうした?
「どうかした?」
「あ、いえ。アオイちゃんってしっくりくるなぁと思って。」
「そう? まぁ、しっくりくるなら尚更だね。アオイちゃんでよろしく!」
「は、はい。ありがとうございます。私、もうレイベルトには合わせる顔がないと思ってたんです。だから……今回の事は本当にありがとうございました。」
再び涙を見せ、深々と頭を下げる俺の元婚約者。
エイミー……やっぱり、もう一度……。
「なぁ、エイミー………」
「ダメでしょ? レイベルト。何となく言いたい事は分かるけど、貴方にはアオイ……ちゃんがいる。結婚から一年経たずに浮気は感心しません。」
思わず言葉が出てしまいそうになった俺を見て、何を言おうとしたのか察した彼女は俺の口を手で塞いできた。
その瞳からは涙が溢れている。
「じゃあ、何で泣いてるんだよ。」
「あれ? 変だな。何で……ダメ。こっち見ないで。」
涙を見せまいと目元を何度も拭い、俺の方を決して見ようとしない彼女。
「きっと、レイベルトを支えてきたのはアオイちゃん。私には貴方と愛し合う資格は……ないの。」
俺は思わず泣いている彼女を抱きしめてしまった。
「エイミー。資格なんて必要ない。そもそも、お前が悪いわけじゃなかったんだ。」
「レイベルト……。」
もう決して君に悲しい思いをさせたりはしない。
「アオイ。すまないが、俺はナガツキ伯爵家当主としてエイミーを第二夫人に迎え入れようと思う。」
勝手だという自覚はある。
しかし、こればかりは納得してもらう他ない。
アオイには責められるかもしれない。もしかすれば殴られるかもしれない。
だとしても、俺はこの決断を曲げるわけにはいかない。
「……私が嫌だと言ったら?」
「そこを曲げて頼む! エイミーを……放っておく事は出来ない。」
「放っておけないなら養ってあげるだけで良い。別に第二夫人にする必要はないよね?」
「……すまん。言い方が卑怯だった。俺はエイミーと結婚したい。そして、アオイにも認めて欲しい。」
一夫多妻は貴族では時々ある事だが、アオイは貴族出身ではないと言っていた。
認めてもらうのは難しいか………。
「あのさ。私が別れるって言ったらどうする?」
「っ!?」
俺は別れの二文字を告げられ、頭をガンと殴られたような衝撃が走った。
まさか、そこまで嫌だったのか……。
「ダメだ!」
「ちょ! あのねぇ。ダメだって言われても……。」
「お前と別れる事など考えていない!」
「だからね? ダメだって言われても、こっちだって色々と……」
「ダメだ! 俺はお前を離さないと決めている。」
別れるなんて俺が許すはずはない。
「うっ……な、なんだよ。要は二股なのに、やけに格好良いじゃんか……。レイベルトは誠実だと思ってたのに……。」
アオイは納得しきれていないのか、はたまた許してはくれようとしているのか、判断がつかないような顔をしている。
「あの……横から口出しはどうかと思ったのですが、一つ宜しいでしょうか?」
「え? うん。何?」
「貴族家当主が第二夫人を迎え入れる時は相談もなしに勝手に迎え入れてしまうのが普通です。レイベルトは……アオイちゃんの許可を得ようとしているので、十分誠実だと思います。」
「はぁ……。そっか。私の国とは常識が違うのか。」
「はい。ですからレイベルトを二股呼ばわりは……その……。」
思わぬところから援護がきた。
まさか、エイミーがアオイを引き止める手助けをしてくれるとは考えもしなかった。
「……エイミーはさ、私が邪魔じゃないの? 私を別れる方向に誘導すれば良かったでしょ。」
「その言葉はそっくりお返しします。アオイちゃんは私を放っておく事も出来たのにしなかったじゃありませんか。」
「……。」
今までのやり取りから、二人が互いに相手を陥れようとする気などない事が分かる。
二人共が俺には勿体ない程の女性だ。
「ああああー!!! もう! 馬鹿! レイベルトは馬鹿!」
アオイが頭を掻きむしりながら突然大声で叫び出す。
いきなり大声出すなよ。エイミーも驚いてるだろうが。
「エイミーも馬鹿! 本当に馬鹿!!」
「おい、いきなりそれはないんじゃ……」
「そして私も馬鹿!! 皆馬鹿!!」
アオイはこの場にいる全員を馬鹿だと罵り始めた。
「レイベルト!」
「な、なんだ?」
「エイミーと結婚しなさい。」
「は?」
「エイミーと結婚しろ。」
「アオイと別れるのは考えてな……」
「いつ私と別れる話なんてしたってのよ!」
えぇ……?
さっきしただろうが。
「じゃあ、どういう……」
「貴族家は一夫多妻もありなんでしょ!? 女がもう一人増えたって問題ないんだったら……じゃあもうそれでいく事にする!」
アオイは覚悟を決めた顔で叫んでいた。
「あ、あぁ……すまない。ありがとう。」
俺の方に問題はない。元々は俺から言い出した事だ。
しかし……
「本当に良いのか?」
「良くない! でも、アンタらがグダグダやってるから悪いんだ! まるで私がアンタらを引き裂いてるみたいじゃん!」
「そんな事は思ってない。」
「私が思っちゃったの!」
怒鳴りながらもエイミーとの結婚を許可してくれるアオイ。
こちらが願いを聞いてもらったのだから、彼女が怒るなら甘んじて受け入れよう。
「エイミーだってそう言ってるよ!」
「え? 私は言ってな……」
「言ってるって言え!」
「え、え?」
「ほら! だから、エイミーとも結婚する事!」
いや、エイミーは何も言ってないぞ。
「良く考えたら昔は一夫多妻もあったんだ。こうなりゃ私だって正妻として堂々と過ごしてやろうじゃん!」
アオイの世界には一夫多妻が既に無かったのか。
「もう! つべこべ言わない! レイベルトはエイミーとも結婚して、両方をしっかり愛する事! 命令を復唱!!」
「はっ! エイミーと結婚して両方をしっかり愛します!」
「良し!」
あっ。つい癖で……
「うんうん。軍での生活が染みついてるね。レイベルトはさ、私に気を遣ってるからわざわざ宣言したんだよね?」
「……あぁ。アオイは嫌なんじゃないか、と考えていたんだ。既にアオイがいるのにエイミーとも結婚だなんて……。」
俺としてはエイミーとの結婚にアオイが反対しないのは正直有難い。
「この状況ってさ、凄く難しいよね。相手に裏切られたと思って違う人と結婚したら、実は裏切られてないと分かった。前提が覆ってしまったんだ。しかもその相手は酷い目にまで合ってた……。」
アオイは少し俯き加減で言葉を紡ぐ。
やはり、思うところはあるのだろう。
「私が同じ立場ならきっとどちらかを選べない気がする。選ぶという事は何の落ち度もない相手を捨てるという事。でもね? 幸いレイベルトは伯爵。貴族家の当主には重婚が認められている。」
「あぁ。」
「だから良いよ。」
すまない。
エイミーからの手紙を受け取った後、俺はずっとお前に尻を叩かれてばかりだな。
「本当はね。エイミーへの愛が戻ったら、レイベルトは私に見向きもしなくるんじゃないかって不安だった。でも、私とは別れる気が無いって言ってくれたよね?」
「あぁ。当たり前だろ。」
アオイにとっては不誠実かもしれないが、今更別れるなんて考えられない。
「だから、エイミーとの結婚を許可した。このままだと君たちは一生引きずるような気がしたから……。」
許可? 命令だったろうに。
だが……
「ありがとうアオイ。」
「全く、レイベルトは幸せ者だね。可愛い先祖返り勇者と美人の異世界勇者……どちらとも結婚出来るんだからさ。」
「確かに、俺ほど幸せな奴はいないだろうな……って勝手に決めてしまってたが、エイミーは良いのか?」
そう言えば本人に確認していなかった。
これでエイミーが嫌だと言ったら、俺はとんでもない勘違い野郎だな。
「嫌なはずない! 私はレイベルトとやり直せるならなんだって良い。アオイちゃん……本当にありがとうございます!」
「いえいえ。どういたしましてさ。」
「なら、これから……宜しく頼むぞ! エイミー!」
「うん!」
目に涙を浮かべ、とびきりの笑顔で返事をしてくれるエイミー。
ボロボロの服を纏い、少しやつれたはずの彼女の笑顔はいっそ……俺が記憶している中のどんな時よりも更に魅力的だった。
『戦争から帰ってきたら、結婚しよう。』
『絶対に帰ってきてね。死んだら許さない。それまで待ってるから……絶対に。』
そう言って、かつての俺達は結婚を約束したんだよな……。
一度は道を違えてしまったが、やっと君との約束を果たす事が出来るよ。
アオイは真剣な顔をしてエイミーを見る。
「あや、まる……?」
「エイミーさんの家に借金があるのは……エイミーさんの家が没落したのは……私が王に報告したからです。本当にごめんなさい。」
「え?」
「エイミーさんがレイベルトを裏切ったんだと思ってた。それで王に報告して……その後どうなるかなんて……私は分かっていて報告しました。ごめんなさい。償えと言うなら勿論償います。」
「……アオイ様。気にする事はありません。あんな家、没落して借金まみれになってせいせいしてます。その点はむしろ私がお礼を言いたいくらいです。それに私が裏切ったのも……暗示や薬のせいだとしても、本当ですから。」
「そんな訳ない! 暗示や薬なんて使われたんだから、エイミーさんのせいじゃない!」
「ありがとうございます。でも、償いは必要ありません。多分ですけど……アオイ様は私を助けに動かない選択肢もあったんじゃありませんか?」
「え? な、なんで……。」
どういう事だ?
「一緒にいるなら、手紙をレイベルトに読ませない事だって出来たはずです。読ませたとして、同封した暗号なんてレイベルトに解けるはずがありませんから、誰かが暗号を代わりに解く必要があります。それはきっとアオイ様だったのではありませんか?」
「う、うん。」
確かに暗号はアオイが解いた。
だがエイミー。さり気なく俺を馬鹿だと言っていないか?
「アオイ様は私を放置するよう仕向ける事だって出来たはずなんです。ですから……こうして来てくれただけで十分です。」
「エイミーさん……。」
「勇者様にさん付けされるなんて思ってもみませんでした。呼び捨てで結構ですよ。」
「なら、私だって様なんて付けなくて良い。」
「さ、流石にそれは……」
「良いって。これから一緒の屋敷で生活するのに様なんて付けられたら疲れちゃうよ。アオイちゃんって呼んで。友達にはそう呼ばれてたんだから。」
「ありがとうございます。アオイちゃん……アオイちゃん? あれ? なんか、前からそう呼んでた気が……。」
エイミーはブツブツと何事か言っていたかと思えばいきなり黙り込んだ。
急にどうした?
「どうかした?」
「あ、いえ。アオイちゃんってしっくりくるなぁと思って。」
「そう? まぁ、しっくりくるなら尚更だね。アオイちゃんでよろしく!」
「は、はい。ありがとうございます。私、もうレイベルトには合わせる顔がないと思ってたんです。だから……今回の事は本当にありがとうございました。」
再び涙を見せ、深々と頭を下げる俺の元婚約者。
エイミー……やっぱり、もう一度……。
「なぁ、エイミー………」
「ダメでしょ? レイベルト。何となく言いたい事は分かるけど、貴方にはアオイ……ちゃんがいる。結婚から一年経たずに浮気は感心しません。」
思わず言葉が出てしまいそうになった俺を見て、何を言おうとしたのか察した彼女は俺の口を手で塞いできた。
その瞳からは涙が溢れている。
「じゃあ、何で泣いてるんだよ。」
「あれ? 変だな。何で……ダメ。こっち見ないで。」
涙を見せまいと目元を何度も拭い、俺の方を決して見ようとしない彼女。
「きっと、レイベルトを支えてきたのはアオイちゃん。私には貴方と愛し合う資格は……ないの。」
俺は思わず泣いている彼女を抱きしめてしまった。
「エイミー。資格なんて必要ない。そもそも、お前が悪いわけじゃなかったんだ。」
「レイベルト……。」
もう決して君に悲しい思いをさせたりはしない。
「アオイ。すまないが、俺はナガツキ伯爵家当主としてエイミーを第二夫人に迎え入れようと思う。」
勝手だという自覚はある。
しかし、こればかりは納得してもらう他ない。
アオイには責められるかもしれない。もしかすれば殴られるかもしれない。
だとしても、俺はこの決断を曲げるわけにはいかない。
「……私が嫌だと言ったら?」
「そこを曲げて頼む! エイミーを……放っておく事は出来ない。」
「放っておけないなら養ってあげるだけで良い。別に第二夫人にする必要はないよね?」
「……すまん。言い方が卑怯だった。俺はエイミーと結婚したい。そして、アオイにも認めて欲しい。」
一夫多妻は貴族では時々ある事だが、アオイは貴族出身ではないと言っていた。
認めてもらうのは難しいか………。
「あのさ。私が別れるって言ったらどうする?」
「っ!?」
俺は別れの二文字を告げられ、頭をガンと殴られたような衝撃が走った。
まさか、そこまで嫌だったのか……。
「ダメだ!」
「ちょ! あのねぇ。ダメだって言われても……。」
「お前と別れる事など考えていない!」
「だからね? ダメだって言われても、こっちだって色々と……」
「ダメだ! 俺はお前を離さないと決めている。」
別れるなんて俺が許すはずはない。
「うっ……な、なんだよ。要は二股なのに、やけに格好良いじゃんか……。レイベルトは誠実だと思ってたのに……。」
アオイは納得しきれていないのか、はたまた許してはくれようとしているのか、判断がつかないような顔をしている。
「あの……横から口出しはどうかと思ったのですが、一つ宜しいでしょうか?」
「え? うん。何?」
「貴族家当主が第二夫人を迎え入れる時は相談もなしに勝手に迎え入れてしまうのが普通です。レイベルトは……アオイちゃんの許可を得ようとしているので、十分誠実だと思います。」
「はぁ……。そっか。私の国とは常識が違うのか。」
「はい。ですからレイベルトを二股呼ばわりは……その……。」
思わぬところから援護がきた。
まさか、エイミーがアオイを引き止める手助けをしてくれるとは考えもしなかった。
「……エイミーはさ、私が邪魔じゃないの? 私を別れる方向に誘導すれば良かったでしょ。」
「その言葉はそっくりお返しします。アオイちゃんは私を放っておく事も出来たのにしなかったじゃありませんか。」
「……。」
今までのやり取りから、二人が互いに相手を陥れようとする気などない事が分かる。
二人共が俺には勿体ない程の女性だ。
「ああああー!!! もう! 馬鹿! レイベルトは馬鹿!」
アオイが頭を掻きむしりながら突然大声で叫び出す。
いきなり大声出すなよ。エイミーも驚いてるだろうが。
「エイミーも馬鹿! 本当に馬鹿!!」
「おい、いきなりそれはないんじゃ……」
「そして私も馬鹿!! 皆馬鹿!!」
アオイはこの場にいる全員を馬鹿だと罵り始めた。
「レイベルト!」
「な、なんだ?」
「エイミーと結婚しなさい。」
「は?」
「エイミーと結婚しろ。」
「アオイと別れるのは考えてな……」
「いつ私と別れる話なんてしたってのよ!」
えぇ……?
さっきしただろうが。
「じゃあ、どういう……」
「貴族家は一夫多妻もありなんでしょ!? 女がもう一人増えたって問題ないんだったら……じゃあもうそれでいく事にする!」
アオイは覚悟を決めた顔で叫んでいた。
「あ、あぁ……すまない。ありがとう。」
俺の方に問題はない。元々は俺から言い出した事だ。
しかし……
「本当に良いのか?」
「良くない! でも、アンタらがグダグダやってるから悪いんだ! まるで私がアンタらを引き裂いてるみたいじゃん!」
「そんな事は思ってない。」
「私が思っちゃったの!」
怒鳴りながらもエイミーとの結婚を許可してくれるアオイ。
こちらが願いを聞いてもらったのだから、彼女が怒るなら甘んじて受け入れよう。
「エイミーだってそう言ってるよ!」
「え? 私は言ってな……」
「言ってるって言え!」
「え、え?」
「ほら! だから、エイミーとも結婚する事!」
いや、エイミーは何も言ってないぞ。
「良く考えたら昔は一夫多妻もあったんだ。こうなりゃ私だって正妻として堂々と過ごしてやろうじゃん!」
アオイの世界には一夫多妻が既に無かったのか。
「もう! つべこべ言わない! レイベルトはエイミーとも結婚して、両方をしっかり愛する事! 命令を復唱!!」
「はっ! エイミーと結婚して両方をしっかり愛します!」
「良し!」
あっ。つい癖で……
「うんうん。軍での生活が染みついてるね。レイベルトはさ、私に気を遣ってるからわざわざ宣言したんだよね?」
「……あぁ。アオイは嫌なんじゃないか、と考えていたんだ。既にアオイがいるのにエイミーとも結婚だなんて……。」
俺としてはエイミーとの結婚にアオイが反対しないのは正直有難い。
「この状況ってさ、凄く難しいよね。相手に裏切られたと思って違う人と結婚したら、実は裏切られてないと分かった。前提が覆ってしまったんだ。しかもその相手は酷い目にまで合ってた……。」
アオイは少し俯き加減で言葉を紡ぐ。
やはり、思うところはあるのだろう。
「私が同じ立場ならきっとどちらかを選べない気がする。選ぶという事は何の落ち度もない相手を捨てるという事。でもね? 幸いレイベルトは伯爵。貴族家の当主には重婚が認められている。」
「あぁ。」
「だから良いよ。」
すまない。
エイミーからの手紙を受け取った後、俺はずっとお前に尻を叩かれてばかりだな。
「本当はね。エイミーへの愛が戻ったら、レイベルトは私に見向きもしなくるんじゃないかって不安だった。でも、私とは別れる気が無いって言ってくれたよね?」
「あぁ。当たり前だろ。」
アオイにとっては不誠実かもしれないが、今更別れるなんて考えられない。
「だから、エイミーとの結婚を許可した。このままだと君たちは一生引きずるような気がしたから……。」
許可? 命令だったろうに。
だが……
「ありがとうアオイ。」
「全く、レイベルトは幸せ者だね。可愛い先祖返り勇者と美人の異世界勇者……どちらとも結婚出来るんだからさ。」
「確かに、俺ほど幸せな奴はいないだろうな……って勝手に決めてしまってたが、エイミーは良いのか?」
そう言えば本人に確認していなかった。
これでエイミーが嫌だと言ったら、俺はとんでもない勘違い野郎だな。
「嫌なはずない! 私はレイベルトとやり直せるならなんだって良い。アオイちゃん……本当にありがとうございます!」
「いえいえ。どういたしましてさ。」
「なら、これから……宜しく頼むぞ! エイミー!」
「うん!」
目に涙を浮かべ、とびきりの笑顔で返事をしてくれるエイミー。
ボロボロの服を纏い、少しやつれたはずの彼女の笑顔はいっそ……俺が記憶している中のどんな時よりも更に魅力的だった。
『戦争から帰ってきたら、結婚しよう。』
『絶対に帰ってきてね。死んだら許さない。それまで待ってるから……絶対に。』
そう言って、かつての俺達は結婚を約束したんだよな……。
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