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第二章 ルートⅢ

第19話 真実

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 オリヴァーからスパイがいるらしいと聞いて、どう報告しようか三人で話し合っていたところ、元婚約者にして幼馴染であるエイミーから手紙が届いた。

 今さら何の用があるというのだろうか?

 これは非常にデリケートな問題だからこの件は後日改めて話すと言って、アオイがオリヴァーを帰してしまった。

 自身の心がざわつくのを感じながら、事情を一番理解しているアオイと一緒に中を確認する。

 英雄だ何だと言われてはいても、心は普通の人間という事か……。

 だが、手紙の内容は俺の想像もしていない内容だった。




レイベルトへ

 私は貴方を裏切ってしまいました。本当にごめんなさい。

 今回手紙を書いたのは謝罪の意味も勿論ありますが、重大な報せがあったからです。

 私が貴方を裏切って結婚しようとしてしまった相手はストレッチ王国のスパイでした。

 モネーノ家を簒奪し、そこから少しづつ積み上げて国の中枢に入り込む算段だったようです。

 国内には他にもスパイがいるそうですので、どうか身辺には気を付けて下さい。

 証拠として、暗号を解く為の文書とストレッチ王国からの指令書、他のスパイ達とのやり取りが書かれた手紙を同封しています。

 後、言い訳になってしまいますが、私は暗示と薬により相手に体を許してしまったようです。

 最初からそんな奴と会わなければ良かっただろうと言われてしまえばそれまでですが、私は貴方に誤解されたまま生きていく事だけは辛いので打ち明けました。

 スパイが薬を入手した時のやり取りも手紙に書かれているそうです。

 貴方が私を信じるのは難しいかもしれません。でも、スパイがいるという事は事実ですので、どうか勇者様や王へ報せて下さい。

 私は二度と貴方の前へ姿を現わしません。

 どうか勇者様とお幸せに。

                 エイミーより



「なん、だよ……それ。」

「嘘……。」

「エイミーは、俺を裏切ってはいなかっ……た?」

「レイベルト落ち着いて! 一旦座って休んでて。今、私が暗号を解いて文書に起こしてあげるから!」


 嘘か? いや、エイミーがこんな手の込んだ嘘などつけるはずがない。

 ならば本当か? エイミーが騙されていたとしたら、俺は……どうするべきだ?

 彼女を引き取る? 既にアオイと結婚している俺が?

 俺が良くてもアオイが嫌だろう。

 彼女を救う? 話も聞かずに去ってしまった俺が今更どの面下げて………

 俺は思考の渦に囚われ、グルグルと答えの出ない事を考え続けていた。

 どれだけそうしていたのか時間の感覚も曖昧になった頃、アオイに声を掛けられた俺は思考の海から浮上する。


「結論を言うよ。この手紙、本当だと思う。ストレッチ王国からの指令書も、他のスパイとの手紙も、英雄と勇者を抹殺する為の計画書も含まれていた。私達が経験した戦場の中でも、上官にスパイがいて場を引っ掻き回した事の内容まで詳しく書かれている。一般民衆には知らされていないはずの細かい部分だよ。」

「そう、か……。」

「君の婚約者が暗示や薬を使われたのも本当。その薬は人の言う事に従い易くなるという効用で、しかもそれを長期に渡って暗示と併用した事まで記載がある。新薬だったらしく、実験も兼ねてた、みたい……こいつら本当に最低っ!」

「……。」


 なぁ、エイミー。

 俺は……どうしたら良い?

 君に裏切られたのだとばかり思っていたが、裏切ったのは……むしろ俺の方じゃないか?


「……ベルト。レイベルト!」

「あ、あぁ。どうした?」

「どうしたじゃないよ! アンタ英雄でしょ!」

「英雄、か……。違うんだアオイ。俺は婚約者一人守れない、どうしようもないただの人間だよ。」


 こんな俺が英雄なんてお笑いだろ。


「シャンとしなさい! 今からエイミーさんを助けに行くよ!」

「エイミー、を?」

「当たり前でしょ! アンタ、こんな手紙見せられて知らないフリする気だったの!?」

「エイミーはきっと……俺を恨んでいるさ。」


 だから、もう二度と姿を現わさないと手紙に書いたのだろう。

 そもそも俺の助けなんて必要なのだろうか?


「心の整理がついてないかと思ってまだ言ってなかったけど、レイベルトとエイミーさんの家はかなりの借金まで背負ってる。苦しい生活をしていたはずだよ。」

「え?」


 借金? どうして……?


「これを聞いてもまだ動かないの!? 恨んでるかどうかは本人に聞け! 英雄なら一人の女くらい救ってみせろ!!」


 アオイは嫌ではない……のだろうか?

 元婚約者を救いに行くなど、普通なら……いや。

 アオイは勇者だった、な。


「グズグズするな! 詳しい状況は分からないけど、スパイの事を知ってしまった今、エイミーさんは危険な立場にいる。こうしている間にも彼女が危ないかもしれないんだよ!?」


 そうだ……俺は何を寝惚けた事を言っていたのだろうか。

 このままだとエイミーの命が危ないかもしれない!


「あぁ。目が覚めた。準備してすぐに出発だ! 俺は一人で先行する! アオイ! 軍から人員を徴収しろ! 今回は速度重視の為、騎士一名、兵三名で臨時部隊を組織し増援として現地に送れ! 合わせて王への報告もだ! 報告を終えたらアオイも現地へ来て俺の指揮下に入れ! 命令を復唱!」

「はっ! 騎士一名と兵三名で構成された部隊を増援に向かわせ王に報告します! 報告を終えたら私も直ちに現地へと向かいレイベルト伯爵の指揮下に入ります!」

「良し! 動け!」


 待っててくれよ、エイミー。

 一度は助けられなかった不甲斐ない俺だが、今度こそ君を助けてみせる!

 絶対に君を死なせはしない!































「さっきまでめそめそしてた癖に、最初の頃の私と立場が逆になってんじゃん。急に戦場での顔に切り替わっちゃうし。まったく……手間のかかる英雄様だよほんと。」


 それにしても……


「私って馬鹿だなぁ。」


 エイミーさんが裏切ってはいなかったという事実を知ったレイベルトは今後どうするんだろう。

 誠実な彼は私を捨てるなんて事はしないだろうけど、彼女への愛が戻ってしまったら私に対しての気持ちが無くなっちゃうかもしれない。


「本当に……馬鹿。」


 多分、エイミーさんが陥れられた部分を適当にぼかして伝えておけば、レイベルトは助けに動くなんてしなかった。

 私にとって、彼が元婚約者を助けに行くのは不都合な事。

 でもあの手紙を読んでしまった以上、同じ女として知らないフリなんて出来ないよ。

 もしかすると、勇者って馬鹿の称号だったのかもしれないね……レイベルト?


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