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第二章 ルートⅠ

第25話 笑顔の再会

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 アオイとは去年死別し、俺は日がな一日屋敷内で過ごすようになっていた。

 既に90歳を過ぎて体中ガタが来ていた俺に対し、偶には外に出ろと皆がお小言を言ってくるのだが、彼女との思い出が詰まった屋敷でずっと過ごしたかったのだ。


「全てがまるで昨日の事のようだ。」


 忙しい日々だった。

 戦争が終わったかと思えばエイミーに裏切られてアオイと結婚し、子供達が生まれてからは貴族達と折り合いを付けながら猛勉強の日々を過ごす。

 エイミーの娘であるサクラが屋敷にやって来たかと思えば、二年でレイアとサクラが結婚して孫達が生まれ、アーリィはルーガル伯爵の次男がしつこいとかで殴り倒して唾を吐きかけ……


「あの事件はあまり思い出したくないな。」


 兎に角、アオイと共に人生を駆け抜けてきた事に悔いはない。


 そして、とうとう…………


 良い人生だった。

 息子夫婦や孫、使用人達に囲まれながらの大往生。

 あぁ……アオイ。来てくれたのか。






 俺の目の前には若い頃の姿で宙に浮いているアオイがいた。下を見れば、家族や使用人達が泣きながら俺を囲んでいるのが見える。


「アオイ、俺は寂しかったんだぞ。」

「いやぁ、先に死んでごめんごめん。」


 頬を掻き、申し訳なさそうに謝るアオイ。

 久しぶりに会えて嬉しいよ。


「やけに軽いな……。しかも、何で若いんだ?」

「事情は後で説明するけど、先ずは一緒に来て。」


 久しぶりに会ったというのに、俺の嫁は相変わらずよく分からない事を言う。


「こればかりは見てもらった方が早いね。」


 そうしてアオイは俺の手を取ると、一瞬で視界が切り替わる。


「ここは……?」

「あの世らしいよ。」


 のどかな村のようだ。

 穏やかな時間が流れ、たくさんの人があちらこちらで思い思いに過ごしている

 彼女の説明によれば、あの世とは人が次に生まれ変わるまでの待機所のような扱いの場所らしく、現在100年先まで生まれ変わりの枠が埋まっているそうだ。

 姿が若返っているのは、人が苦もなく過ごせるようにとここの管理者が配慮した結果との事。


「つまり、俺はここで100年過ごすのか。」

「そうそう。また私と一緒で嬉しいでしょ?」


 笑顔で悪戯っぽいセリフを口にするアオイ。


「まぁ、否定はしない。お前が居なくなってからは……生きる気力がなくなっていたからな。」

「もう! 今更そんな恥ずかしい事言ったって、何も出ないよ?」


 彼女は照れているようだ。

 可愛い。


「実はさ、レイベルトに友達を紹介したいんだ。」


 アオイは話が上手いし面白い奴だから、ここに来て新しい友達が出来ていたんだろう。


「へぇ、どんな奴なんだ?」

「私と凄く趣味が合うんだけどね? なんか他人って気がしなくてさ。」

「それは気になるな。紹介してくれ。」


 アオイが平穏に過ごせていた事を聞けて安心した。

 どんな友達を紹介してくれるのか楽しみだな。


「えーとね……あっ、いたいた。おーい!!」


 彼女が手を振る先に居たのは……


「アオイちゃーん!」


 笑顔で猛疾走して来るエイミーだった。



 はい?



「レイベルト、紹介するね。友達のエイミーだよ。」


 アオイが連れて来た人はまさかの相手。


「久しぶりだね。レイベルト。」

「あ、あぁ……。」


 他人の気がしないって……そりゃ、ある意味他人じゃないもんな。

 何でここに居るんだ?


「びっくりし過ぎでしょ。」

「普通驚くだろ。」


 こんな形で再会するとは思っていなかった。

 驚くなという方が無理だ。


「あの時はごめんなさい。手紙でも言ったんだけど、もう一度謝りたかったの。」


 そう言って頭を下げるエイミー。

 彼女との事はもう70年以上前の出来事。こちらとしても思うところはない。


「既にずっと昔の事だ。もう良いんだ。それに……」

「それに?」

「今度は笑顔で、幼馴染として会うって話だったろ?」

「……ありがとう。ごめんなさい、本当にごめんなさい。」


 手紙を読んだ時にも思った事だが、俺は彼女の謝罪を素直に受け入れられるようになった。


「エイミー、良かったね。」


 二人して泣く嫁と幼馴染。

 周囲からの視線が痛い。頼むから泣き止んでくれ。

 女二人を泣かせる男。

 今この瞬間、あの世という世界において、全くけしからん奴がいると全員が思っている事だろう。

 少なくとも俺が第三者ならそう思う。


「そもそも二人はどうやって知り合ったんだ?」

「それはね……。」


 ここからは下界を覗く事が出来るらしい。アオイも俺らの様子をちょくちょく見ていたそうなのだが……。


「ある日ね、レイベルトを見ている人が居たから声を掛けたんだ。それがエイミーだったってわけ。」


 成る程。


「エイミーったら、私を見るなり大号泣するんだからびっくりしたよ。」

「アオイちゃんを見た時は本当に驚いたんだから。レイベルトの奥さんと話が出来るんだと思ったら嬉しくてつい……。」

「そういうわけで話を聞いてみたら、エイミーだったのさ。」


 アオイは何故得意気なんだ?


「小さい頃のレイベルトの話をたくさん聞けたから、私は大満足だったのだ。」


 とても満足そうな嫁を見るとほっこりするが、一体何を聞いたのかが問題だ。


「レイベルトを傷つけた罪滅ぼしになるかは分からないけど、奥さんのアオイちゃんに色々教えてあげたんだよ。」


 エイミー……

 俺の幼馴染であり元婚約者。そして、かつては愛した人。

 最後の手紙を読んだ時にも少しだけ思ったが……。


「お前とは一度、冷静に話し合う必要がありそうだな?」

「え? 私とお話してくれるの?」


 僅かではあるが怒気を含んだ発言をしたにも拘わらず、エイミーは大喜びで俺を見ている。

 流石はサクラの母親だ。非常に濃い血の繋がりを感じる。

 というか、エイミーってこんなだったか?


「レイベルト、怒っても意味ないよ。」


 どういう事だ?


「エイミーってばさ、レイベルトの事となると何でも喜ぶんだから。」


 はい?


「私に対してもレイベルトを幸せにした人って事で、アオイちゃんアオイちゃんって言ってとにかく喜ぶのよ。」


 すまないエイミー。

 幼馴染として話そうと思っていたが、正直少しだけ距離を置きたい。


「ちなみにサクラの話をしても喜ぶから、試しに言ってみて。」


 アオイ、お前はお前でエイミーを使って遊ぶなよ……。

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