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第二章 ルートⅠ
第21話 勇者の再来
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「レイベルト様!」
執務室をバンと開けて大声で叫ぶ執事。
「どうしたんだ?」
俺は呆れながらも今度は一体何事かと確認をとる。
我が家の執事は大変うるさい。大抵の事は任せられるくらいに優秀で、とても重宝しているのだが声がうるさいのだ。
声のうるさい執事が優秀かどうか、人によっては議論の余地があるだろうが。
「今年王都の騎士学校を主席卒業した者が、我がナガツキ伯爵家に仕えたいそうです!」
「ほう? それは凄いじゃないか。後、声がうるさい。」
「失礼致しました! その者は伝説の勇者サクラの再来と言われています! 是非我が家に仕えてもらいましょう!」
この執事はウルサクと言うのだが、騎士よりも余程声がデカい。
何にでも首を突っ込んでくるのが好きで、たとえば勝手に俺の仕事を手伝ったりしては良い方向にもっていったり、アオイの仕事に無許可で手をだし終わらせてはこちらの手間を減らしてくれたりという……叱れば良いのか褒めれば良いのか判断に困る奴なのだ。
そして、普通の執事はいちいちこんな大声は出さん。
「お前、騎士になった方が良いんじゃないか?」
「それはいけません!」
「何故だ?」
「騎士は戦いが主な仕事! 私はゴロツキを20人同時にしか相手取れませんので!」
どう考えても十分だろ……。コイツの騎士の基準がわからん。
執事の基準も逸脱してはいるが。
「勇者サクラの再来か……なんだか強そうだよね。現勇者の私としては興味あるなぁ。レイベルトもかなり興味あるんじゃない?」
「それなりに興味はある。勇者サクラはおとぎ話の類だが、再来と言われる程の実力者なら、実際にこの目で確かめてみたい。」
「やっぱりゴツい人なのかな?」
アオイ、それは偏見が過ぎるだろ。
「英雄の俺だって別にゴツくはないだろ?」
「そうなんだけどさ。勇者ってなんとなくゴツいイメージがあってね。」
自分も勇者だろうが。そしてゴツくもない。
「私の住んでた世界には、筋肉勇者・増々マッソーっていう物語があってさ。」
凄く暑苦しそうな勇者だ。
勇者のイメージが暑苦しいものになりそうだから、はっきり言って全然聞きたくない。
「そんな勇者は嫌だ。」
「なになに? こんな〇〇は嫌だ。の話?」
アオイは一体何を言っているんだ?
彼女の世界特有の言い回しは今でも理解出来ない事が多い。
「あっ。」
「どうかしたか?」
「レイアが一学年上に凄い先輩がいるって言ってたじゃん。勇者の再来って、もしかしてその人だったりしない?」
アオイは何かを思い出したかのように手をポンと叩き、急に息子の事を話題に出した。
「そう言えば……。」
現在、息子のレイアは14歳。王都にあるイットリウム騎士学校の最終学年である3年生に進級したばかりだ。
そこは全寮制の学校であった為に毎年夏の長期休みを利用して帰省しているのだが、去年帰って来た時に確かそんな話をしてたな。
勇者の再来も今年学校を卒業したのなら15歳で丁度計算が合う。
「レイアの先輩か。」
偶然ってのもあるもんだ。
まぁ、国一番の学校なのだから偶然というよりは必然か。
「レイアってば多分その先輩に惚れてるね。あまりにも凄い凄いって言うから『好きなの?』って冗談で聞いてみたんだよ。そしたら何て言ったと思う?」
「なんだそれは。気になるぞ。」
「えっとね……『は、はぁ? そんなじゃ……ね、ねーし? ちょっと綺麗で強いって聞いたからどんなもんかと思って見に行った時の感想なんですけど? いきなり好きとか有り得ないんですけど? はぁ? 恋愛脳なんですかぁ?』って言って相当焦ってたよ。」
「おい。一応伯爵家を継がせる予定なんだから、焦った時に昔のお前と同じ口調で話し始めるの、マズくないか?」
そしてなにより、息子の台詞の再現度が高過ぎる。
「いやぁ……あはは。もう少し歳を取れば治るとは思うんだけど。それよりもだよ! その先輩はてっきり男の人かと思ったら、なんと女だよ女! あのレイアに女の影が……。」
「そっとしておいてやれよ……。」
「ダメダメ! 可愛い息子はそう簡単に渡せないね。せめて私を倒せるくらいじゃないと。」
どこの世界にお前を倒せる女がいるんだよ。無茶苦茶言うな。
「じゃあ、アーリィの結婚相手は俺を倒せる奴じゃないとな。」
「どこの世界にアンタを倒せる男がいるってんのよ。無茶苦茶言わないで。可愛い娘を一生嫁がせない気?」
おい。お前が言ってるのもそういう事だぞ。
「あっ。レ、レイベルト? さっきの話は聞かなかった事に……。」
アオイの顔には失敗した、と書いてある。
「何故だ?」
「レイアったらさ。『は、恥ずかしいから父さんには言うんじゃねーぞ!』って顔を真っ赤にしてたもんだから。一応、ね? 聞かなかった事に……。」
年頃という事か。
「聞かなかった事にしておく。」
「お二人とも! そろそろ宜しいですか!?」
うるさい執事ウルサクが目をカッと見開いて大声を出す。
「わっ! びっくりするでしょ。」
「奥様、慣れて下さいませ!」
「まぁ、良いからそれで?」
この二人を組み合わせると更に話が脱線しかねないので、俺は執事に続きを促す。
「勇者サクラの再来が来ています!」
はい?
「会う約束なんてしてたか?」
「していません! 私が勝手に許可して招き入れました!」
こいつは何を堂々と宣言しているのだろう。
「おい、一言言ってからにしろよ。」
「今言いました!」
ウルサクは優秀なんだが、独断専行の多さが目立つ。何をやらせても良い結果をもたらしはするので、これまで目を瞑ってきた。
普通ならとっくに解雇だ。
「せっかくだし、会ってみようよ。」
「そうだな。俺も興味はある。」
「さあさあ行きましょう! 応接室に待たせています!」
なんでお前が一番乗り気なんだよ。
雇うの俺だぞ?
「英勇夫婦のおなーりぃぃぃ!!」
普通に言え。
本当に、信じられないくらい優秀じゃなかったら解雇してやるんだがな。
応接室に入ると、一人の女性が立ち上がってこちらに頭を下げて礼をしていた。
「面をあげよ!!」
それ、俺のセリフなんだが?
「はっ。この度は突然の訪問にも拘わらず、面会を許可して頂きありがとうございます。英雄レイベルト様と勇者アオイ様にお会い出来て光栄です。」
騎士のように礼儀正しく挨拶をする勇者の再来が、ゆっくりと顔を上げる。
やけに既視感のある顔に、俺は戸惑いを隠せない。
「……エイミー?」
「え?」
一瞬だがかつての幼馴染、元婚約者のエイミーにその姿が重なり、つい彼女の名を口にしてしまった。
「エイミーって……元婚約者の?」
「あ、あぁ……しかし、似てはいるが違うな。」
エイミーは俺と同い年。こんなに若いはずはない。
「その節は……母が不義理を働き、大変申し訳ございませんでした。」
母? と言う事は、エイミーの娘か。
「いや、謝罪の必要はない。あれから大分時間も経ったんだ。思い出の一つとして自分の中では決着が着いているさ。」
「寛大なお言葉誠にありがたく。母の言う通り、英雄レイベルト様は大変素晴らしい方なのですね。」
エイミー……。
一体俺の事をどうやって伝えていたんだ?
お前の娘、俺を見る目がキラキラしてるぞ……。
「エイミーは……母は元気なのか?」
「母はつい先日亡くなりました。」
「そうだった……か。お悔み申し上げる。」
当時は本当に辛く思ったものだったが、こうして彼女の訃報を聞けば今は素直に悲しみを覚える。
「恐れ入ります。母より手紙を預かっていますので、もし宜しければお受け取り下さい。」
「……あぁ。」
俺はエイミーからの手紙を受け取った。
二度と会う事は無いと思い、遠い記憶の彼方へ追いやっていた相手だが、まさかこのような形で思い出す事になるとは……。
今となっては過去の事だが、当時は本当にどうしようもない程気落ちして、アオイに随分救われたんだよな。
執務室をバンと開けて大声で叫ぶ執事。
「どうしたんだ?」
俺は呆れながらも今度は一体何事かと確認をとる。
我が家の執事は大変うるさい。大抵の事は任せられるくらいに優秀で、とても重宝しているのだが声がうるさいのだ。
声のうるさい執事が優秀かどうか、人によっては議論の余地があるだろうが。
「今年王都の騎士学校を主席卒業した者が、我がナガツキ伯爵家に仕えたいそうです!」
「ほう? それは凄いじゃないか。後、声がうるさい。」
「失礼致しました! その者は伝説の勇者サクラの再来と言われています! 是非我が家に仕えてもらいましょう!」
この執事はウルサクと言うのだが、騎士よりも余程声がデカい。
何にでも首を突っ込んでくるのが好きで、たとえば勝手に俺の仕事を手伝ったりしては良い方向にもっていったり、アオイの仕事に無許可で手をだし終わらせてはこちらの手間を減らしてくれたりという……叱れば良いのか褒めれば良いのか判断に困る奴なのだ。
そして、普通の執事はいちいちこんな大声は出さん。
「お前、騎士になった方が良いんじゃないか?」
「それはいけません!」
「何故だ?」
「騎士は戦いが主な仕事! 私はゴロツキを20人同時にしか相手取れませんので!」
どう考えても十分だろ……。コイツの騎士の基準がわからん。
執事の基準も逸脱してはいるが。
「勇者サクラの再来か……なんだか強そうだよね。現勇者の私としては興味あるなぁ。レイベルトもかなり興味あるんじゃない?」
「それなりに興味はある。勇者サクラはおとぎ話の類だが、再来と言われる程の実力者なら、実際にこの目で確かめてみたい。」
「やっぱりゴツい人なのかな?」
アオイ、それは偏見が過ぎるだろ。
「英雄の俺だって別にゴツくはないだろ?」
「そうなんだけどさ。勇者ってなんとなくゴツいイメージがあってね。」
自分も勇者だろうが。そしてゴツくもない。
「私の住んでた世界には、筋肉勇者・増々マッソーっていう物語があってさ。」
凄く暑苦しそうな勇者だ。
勇者のイメージが暑苦しいものになりそうだから、はっきり言って全然聞きたくない。
「そんな勇者は嫌だ。」
「なになに? こんな〇〇は嫌だ。の話?」
アオイは一体何を言っているんだ?
彼女の世界特有の言い回しは今でも理解出来ない事が多い。
「あっ。」
「どうかしたか?」
「レイアが一学年上に凄い先輩がいるって言ってたじゃん。勇者の再来って、もしかしてその人だったりしない?」
アオイは何かを思い出したかのように手をポンと叩き、急に息子の事を話題に出した。
「そう言えば……。」
現在、息子のレイアは14歳。王都にあるイットリウム騎士学校の最終学年である3年生に進級したばかりだ。
そこは全寮制の学校であった為に毎年夏の長期休みを利用して帰省しているのだが、去年帰って来た時に確かそんな話をしてたな。
勇者の再来も今年学校を卒業したのなら15歳で丁度計算が合う。
「レイアの先輩か。」
偶然ってのもあるもんだ。
まぁ、国一番の学校なのだから偶然というよりは必然か。
「レイアってば多分その先輩に惚れてるね。あまりにも凄い凄いって言うから『好きなの?』って冗談で聞いてみたんだよ。そしたら何て言ったと思う?」
「なんだそれは。気になるぞ。」
「えっとね……『は、はぁ? そんなじゃ……ね、ねーし? ちょっと綺麗で強いって聞いたからどんなもんかと思って見に行った時の感想なんですけど? いきなり好きとか有り得ないんですけど? はぁ? 恋愛脳なんですかぁ?』って言って相当焦ってたよ。」
「おい。一応伯爵家を継がせる予定なんだから、焦った時に昔のお前と同じ口調で話し始めるの、マズくないか?」
そしてなにより、息子の台詞の再現度が高過ぎる。
「いやぁ……あはは。もう少し歳を取れば治るとは思うんだけど。それよりもだよ! その先輩はてっきり男の人かと思ったら、なんと女だよ女! あのレイアに女の影が……。」
「そっとしておいてやれよ……。」
「ダメダメ! 可愛い息子はそう簡単に渡せないね。せめて私を倒せるくらいじゃないと。」
どこの世界にお前を倒せる女がいるんだよ。無茶苦茶言うな。
「じゃあ、アーリィの結婚相手は俺を倒せる奴じゃないとな。」
「どこの世界にアンタを倒せる男がいるってんのよ。無茶苦茶言わないで。可愛い娘を一生嫁がせない気?」
おい。お前が言ってるのもそういう事だぞ。
「あっ。レ、レイベルト? さっきの話は聞かなかった事に……。」
アオイの顔には失敗した、と書いてある。
「何故だ?」
「レイアったらさ。『は、恥ずかしいから父さんには言うんじゃねーぞ!』って顔を真っ赤にしてたもんだから。一応、ね? 聞かなかった事に……。」
年頃という事か。
「聞かなかった事にしておく。」
「お二人とも! そろそろ宜しいですか!?」
うるさい執事ウルサクが目をカッと見開いて大声を出す。
「わっ! びっくりするでしょ。」
「奥様、慣れて下さいませ!」
「まぁ、良いからそれで?」
この二人を組み合わせると更に話が脱線しかねないので、俺は執事に続きを促す。
「勇者サクラの再来が来ています!」
はい?
「会う約束なんてしてたか?」
「していません! 私が勝手に許可して招き入れました!」
こいつは何を堂々と宣言しているのだろう。
「おい、一言言ってからにしろよ。」
「今言いました!」
ウルサクは優秀なんだが、独断専行の多さが目立つ。何をやらせても良い結果をもたらしはするので、これまで目を瞑ってきた。
普通ならとっくに解雇だ。
「せっかくだし、会ってみようよ。」
「そうだな。俺も興味はある。」
「さあさあ行きましょう! 応接室に待たせています!」
なんでお前が一番乗り気なんだよ。
雇うの俺だぞ?
「英勇夫婦のおなーりぃぃぃ!!」
普通に言え。
本当に、信じられないくらい優秀じゃなかったら解雇してやるんだがな。
応接室に入ると、一人の女性が立ち上がってこちらに頭を下げて礼をしていた。
「面をあげよ!!」
それ、俺のセリフなんだが?
「はっ。この度は突然の訪問にも拘わらず、面会を許可して頂きありがとうございます。英雄レイベルト様と勇者アオイ様にお会い出来て光栄です。」
騎士のように礼儀正しく挨拶をする勇者の再来が、ゆっくりと顔を上げる。
やけに既視感のある顔に、俺は戸惑いを隠せない。
「……エイミー?」
「え?」
一瞬だがかつての幼馴染、元婚約者のエイミーにその姿が重なり、つい彼女の名を口にしてしまった。
「エイミーって……元婚約者の?」
「あ、あぁ……しかし、似てはいるが違うな。」
エイミーは俺と同い年。こんなに若いはずはない。
「その節は……母が不義理を働き、大変申し訳ございませんでした。」
母? と言う事は、エイミーの娘か。
「いや、謝罪の必要はない。あれから大分時間も経ったんだ。思い出の一つとして自分の中では決着が着いているさ。」
「寛大なお言葉誠にありがたく。母の言う通り、英雄レイベルト様は大変素晴らしい方なのですね。」
エイミー……。
一体俺の事をどうやって伝えていたんだ?
お前の娘、俺を見る目がキラキラしてるぞ……。
「エイミーは……母は元気なのか?」
「母はつい先日亡くなりました。」
「そうだった……か。お悔み申し上げる。」
当時は本当に辛く思ったものだったが、こうして彼女の訃報を聞けば今は素直に悲しみを覚える。
「恐れ入ります。母より手紙を預かっていますので、もし宜しければお受け取り下さい。」
「……あぁ。」
俺はエイミーからの手紙を受け取った。
二度と会う事は無いと思い、遠い記憶の彼方へ追いやっていた相手だが、まさかこのような形で思い出す事になるとは……。
今となっては過去の事だが、当時は本当にどうしようもない程気落ちして、アオイに随分救われたんだよな。
応援ありがとうございます!
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