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第一章
第11話 王は激怒した。
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まさか本当に来るとはな。
面会希望のリストにある名前を見て、初めは目を疑った。リストに記載がある以上、冗談ではないと気が付くのにさえ数分を要したほどだ。
英雄と勇者の結婚報告を受け、嬉しさに舞い上がっていた気分を一気に降下させられたわい。
「「「「失礼致します。」」」」
「……はぁ。」
こやつら、良くここに顔を出せたものよな。
「英雄レイベルトが父、オットー・ロカネが参上致しました。」
「同じく母、マーオ・ロカネが参りました。」
「英雄レイベルトの婚約者の父、ドーショ・モネーノが参上致しました。」
「同じく母、ショー・モネーノが参りました。」
「一応聞いておくが、何の用件じゃ?」
「それは勿論、我が息子を連れ戻す為です。レイベルトは戦で疲れているのか、怒って家を飛び出してしまったのです。」
何を言っとるんじゃ?
元を正せば自分達のせいだろうに。
「母である私はショックのあまり、泣いてしまいましたの。」
嘘じゃろ……図太いが服着て歩いとるような顔つきで良くほざきおる。
「英雄は戦での疲れもあるでな。暫くはそっとしておいてやるのが親というものじゃ。」
暫くというか、永遠にそっとしておいてもらいたいがの。
「おぉ。流石は王。寛大でいらっしゃる。」
「英雄の……ロカネ夫妻が言いたい事は分かった。して? お主らは?」
「はっ。どうやら婚約の手続きに行き違いがあったようでして、英雄レイベルト殿と、我が娘の婚約が取り消しになっていたのです。」
「私もびっくりしましたわ。どうしてか、娘とレイベルト殿の婚約が無かった事になっていたのですから。」
堂々とデタラメをぬかしおる。
こやつらが婚約を取り消したのは英雄から聞いておるし、裏付けも取れとるわ。
「……両家同意の下に婚約を取り消したと聞いておるが?」
「それは何かの間違いです。」
「えぇ。そんなはずありませんわ。」
「娘とレイベルト殿は相思相愛です。」
「多分、書類に不備があったのかと。」
揃いも揃ってなんという……。
この四人は英雄とその幼馴染の両親である。此度の戦において活躍した英雄の関係者だから、と穏便に済ますつもりだったがもう我慢ならん。
「お主らっ!! ふざけるのも大概にせんか!!」
「「「「ひぃっ!!」」」」
「全て英雄レイベルトから聞いておるわ! お主らが早々に婚約を解消した挙句、元婚約者は違う男と結婚するんじゃとなあ!」
「「「「失礼致しました!」」」」
「国の風習は知っておろう。戦地に赴く者が生きて帰るようにと、生き残ろうとする気力を少しでも持ってもらおうと200年前から……或いはそれ以前からある風習を無視し、戦死の報せもなく勝手に婚約を解消するなど聞いたこともないわ! この大たわけが!!」
「し、しかしですね。我が息子は死んでもおかしくない最前線に送られたのです。エイミーが不憫で……。」
「えぇ。娘同然に可愛がってきた子を、戦地から戻らぬだろうレイベルトに縛り付けておくのは忍びなく思ったのです。」
信じられん。
「ロカネ夫妻。お主らは一体誰の親なのだ?」
「それは勿論レイベルトです。」
「私がお腹を痛めて産んだのですよ? 当然レイベルトこそ我が子に決まっています。」
「だったら真っ先に自分の子の心配をせぬか!!」
「「も、申し訳ありません。」」
頭が痛いわい。
「モネー夫妻はまぁ……自分の娘の事だ。やり方は完全に間違えているが、娘を不憫に思い婚約を解消した気持ちは分からなくもない。しかしだな、別の男と結婚する直前まで話を進めておきながら、生きていたと分かれば再び婚約を結び直そうなどとは虫が良すぎると思わんのか! 恥という言葉を知らんのか!!」
「「お、お、おっしゃる通りです。」」
はぁ。
もうこやつらの顔など見たくもないのじゃ。
「英雄レイベルトは勇者と結婚し、伯爵家を興すのじゃ。お主らの世迷言に付き合わせる気など毛頭ないわっ!!」
「で、でしたら……是非とも息子を家に連れ帰り、立派な貴族になれるよう教育し直したいのですが。」
「そ、そうですわ。剣以外の分野も身に付けさせますので、どうかお願いいたします。」
しまった。余計な事を言ってしまったか。
だが、どうせすぐに知るところとなるであろうしな。それにしてもこやつら、息子が伯爵になるからと目の色を変えてくるなど、本当にどうなっとるんじゃ?
「ふざけるな! お主らのような者に教育など任せられるはずがなかろう!? 輝かしい英雄が腐り果てるわ!」
「あ、あの……ですね。レイベルト殿が勇者様と結婚するのであれば、我が娘をレイベルト殿の第二夫人、もしくは妾にしてはいかがでしょうか?」
「は?」
「レイベルト殿は国の英雄です。複数の妻を娶ったとして、何の不思議もありません。」
「そうですわ。二人は元々想い合っていたのですから、無理に引き離す必要はありませんものね。」
冗談じゃろ。
「モネーノ夫妻。お主らの娘は妊娠中だと聞いているが?」
「えぇ。」
「その通りです。」
呆れたわい。
何を考えて……いや、恐らく英雄との繋がりが欲しいのか。
「英雄に対して、別の男の子供を妊娠している女を宛がう事を何とも思わんのか? 相手が英雄ではなかったとしても同じじゃ。欲に目が眩み、まともな事も考えられんようになったのか?」
「あ、いえ……決してそういうつもりは。」
「ではどういうつもりじゃ? 想い合っていたからこそ、裏切られた側はより辛い……。英雄を戦場に二年も縛り付けてしまった事に関してはワシの責任でもある。貴様等の娘が心変わりするには十分な期間だったのだろう。そこは申し訳なく思っている。」
「「「「……。」」」」
「だがな、モネーノ夫妻。貴様等の娘が別の男を選んだ点に関しては、英雄に何の落ち度も無いのだぞ? その娘を英雄に宛がってみろ。英雄が心をかき乱される事など容易に想像がつく。」
「し、しかしですね。あの二人は本当に想い合っていてですね。引き裂くよりは傍に置いた方が……。」
「馬鹿者!! 想い合っていたから余計に辛いじゃろが! 貴様らはそんな事も分からんのか!!」
「「「「ひぃっ!」」」」
もうダメだ。
この四人はここで終わらせよう。
「英雄レイベルトは既に身分の上では伯爵となっておる。お主ら四人は自分より上位の貴族に対しての暴言で、騎士の位を剥奪とする。もう下がるが良いぞ。」
「お待ちを!」
「先程の言葉は冗談でして……。」
「王よ! お考え直し下さい!」
「先程の発言は取り消しますので、どうか……。」
「うるさいわ! 一度吐いた言葉は決してなくなったりはせん! 下がれと言ったら下がらぬかっ!!」
「「「「し、失礼致しました。」」」」
「これ以上余計な事を言うのであれば死罪を申し渡すぞ!」
「「「「……。」」」」
やっと大人しくなったか。
「ワシは気分が悪い! とっとと下がれ!」
痴れ者共は黙って頭を下げ、退室していった。
あれでも英雄の関係者。死罪をちらつかせてみたものの、本当に死罪にしてしまうのはどうにも具合が悪い。
しかし今の様子を見るに、英雄は実家へ戻った際心無い言葉をぶつけられ傷つけられたのであろうなぁ……。
「宝剣一つなんかでは足りんわい。」
国を救った大英雄を労う為、他にも何か考えておくとするか。
面会希望のリストにある名前を見て、初めは目を疑った。リストに記載がある以上、冗談ではないと気が付くのにさえ数分を要したほどだ。
英雄と勇者の結婚報告を受け、嬉しさに舞い上がっていた気分を一気に降下させられたわい。
「「「「失礼致します。」」」」
「……はぁ。」
こやつら、良くここに顔を出せたものよな。
「英雄レイベルトが父、オットー・ロカネが参上致しました。」
「同じく母、マーオ・ロカネが参りました。」
「英雄レイベルトの婚約者の父、ドーショ・モネーノが参上致しました。」
「同じく母、ショー・モネーノが参りました。」
「一応聞いておくが、何の用件じゃ?」
「それは勿論、我が息子を連れ戻す為です。レイベルトは戦で疲れているのか、怒って家を飛び出してしまったのです。」
何を言っとるんじゃ?
元を正せば自分達のせいだろうに。
「母である私はショックのあまり、泣いてしまいましたの。」
嘘じゃろ……図太いが服着て歩いとるような顔つきで良くほざきおる。
「英雄は戦での疲れもあるでな。暫くはそっとしておいてやるのが親というものじゃ。」
暫くというか、永遠にそっとしておいてもらいたいがの。
「おぉ。流石は王。寛大でいらっしゃる。」
「英雄の……ロカネ夫妻が言いたい事は分かった。して? お主らは?」
「はっ。どうやら婚約の手続きに行き違いがあったようでして、英雄レイベルト殿と、我が娘の婚約が取り消しになっていたのです。」
「私もびっくりしましたわ。どうしてか、娘とレイベルト殿の婚約が無かった事になっていたのですから。」
堂々とデタラメをぬかしおる。
こやつらが婚約を取り消したのは英雄から聞いておるし、裏付けも取れとるわ。
「……両家同意の下に婚約を取り消したと聞いておるが?」
「それは何かの間違いです。」
「えぇ。そんなはずありませんわ。」
「娘とレイベルト殿は相思相愛です。」
「多分、書類に不備があったのかと。」
揃いも揃ってなんという……。
この四人は英雄とその幼馴染の両親である。此度の戦において活躍した英雄の関係者だから、と穏便に済ますつもりだったがもう我慢ならん。
「お主らっ!! ふざけるのも大概にせんか!!」
「「「「ひぃっ!!」」」」
「全て英雄レイベルトから聞いておるわ! お主らが早々に婚約を解消した挙句、元婚約者は違う男と結婚するんじゃとなあ!」
「「「「失礼致しました!」」」」
「国の風習は知っておろう。戦地に赴く者が生きて帰るようにと、生き残ろうとする気力を少しでも持ってもらおうと200年前から……或いはそれ以前からある風習を無視し、戦死の報せもなく勝手に婚約を解消するなど聞いたこともないわ! この大たわけが!!」
「し、しかしですね。我が息子は死んでもおかしくない最前線に送られたのです。エイミーが不憫で……。」
「えぇ。娘同然に可愛がってきた子を、戦地から戻らぬだろうレイベルトに縛り付けておくのは忍びなく思ったのです。」
信じられん。
「ロカネ夫妻。お主らは一体誰の親なのだ?」
「それは勿論レイベルトです。」
「私がお腹を痛めて産んだのですよ? 当然レイベルトこそ我が子に決まっています。」
「だったら真っ先に自分の子の心配をせぬか!!」
「「も、申し訳ありません。」」
頭が痛いわい。
「モネー夫妻はまぁ……自分の娘の事だ。やり方は完全に間違えているが、娘を不憫に思い婚約を解消した気持ちは分からなくもない。しかしだな、別の男と結婚する直前まで話を進めておきながら、生きていたと分かれば再び婚約を結び直そうなどとは虫が良すぎると思わんのか! 恥という言葉を知らんのか!!」
「「お、お、おっしゃる通りです。」」
はぁ。
もうこやつらの顔など見たくもないのじゃ。
「英雄レイベルトは勇者と結婚し、伯爵家を興すのじゃ。お主らの世迷言に付き合わせる気など毛頭ないわっ!!」
「で、でしたら……是非とも息子を家に連れ帰り、立派な貴族になれるよう教育し直したいのですが。」
「そ、そうですわ。剣以外の分野も身に付けさせますので、どうかお願いいたします。」
しまった。余計な事を言ってしまったか。
だが、どうせすぐに知るところとなるであろうしな。それにしてもこやつら、息子が伯爵になるからと目の色を変えてくるなど、本当にどうなっとるんじゃ?
「ふざけるな! お主らのような者に教育など任せられるはずがなかろう!? 輝かしい英雄が腐り果てるわ!」
「あ、あの……ですね。レイベルト殿が勇者様と結婚するのであれば、我が娘をレイベルト殿の第二夫人、もしくは妾にしてはいかがでしょうか?」
「は?」
「レイベルト殿は国の英雄です。複数の妻を娶ったとして、何の不思議もありません。」
「そうですわ。二人は元々想い合っていたのですから、無理に引き離す必要はありませんものね。」
冗談じゃろ。
「モネーノ夫妻。お主らの娘は妊娠中だと聞いているが?」
「えぇ。」
「その通りです。」
呆れたわい。
何を考えて……いや、恐らく英雄との繋がりが欲しいのか。
「英雄に対して、別の男の子供を妊娠している女を宛がう事を何とも思わんのか? 相手が英雄ではなかったとしても同じじゃ。欲に目が眩み、まともな事も考えられんようになったのか?」
「あ、いえ……決してそういうつもりは。」
「ではどういうつもりじゃ? 想い合っていたからこそ、裏切られた側はより辛い……。英雄を戦場に二年も縛り付けてしまった事に関してはワシの責任でもある。貴様等の娘が心変わりするには十分な期間だったのだろう。そこは申し訳なく思っている。」
「「「「……。」」」」
「だがな、モネーノ夫妻。貴様等の娘が別の男を選んだ点に関しては、英雄に何の落ち度も無いのだぞ? その娘を英雄に宛がってみろ。英雄が心をかき乱される事など容易に想像がつく。」
「し、しかしですね。あの二人は本当に想い合っていてですね。引き裂くよりは傍に置いた方が……。」
「馬鹿者!! 想い合っていたから余計に辛いじゃろが! 貴様らはそんな事も分からんのか!!」
「「「「ひぃっ!」」」」
もうダメだ。
この四人はここで終わらせよう。
「英雄レイベルトは既に身分の上では伯爵となっておる。お主ら四人は自分より上位の貴族に対しての暴言で、騎士の位を剥奪とする。もう下がるが良いぞ。」
「お待ちを!」
「先程の言葉は冗談でして……。」
「王よ! お考え直し下さい!」
「先程の発言は取り消しますので、どうか……。」
「うるさいわ! 一度吐いた言葉は決してなくなったりはせん! 下がれと言ったら下がらぬかっ!!」
「「「「し、失礼致しました。」」」」
「これ以上余計な事を言うのであれば死罪を申し渡すぞ!」
「「「「……。」」」」
やっと大人しくなったか。
「ワシは気分が悪い! とっとと下がれ!」
痴れ者共は黙って頭を下げ、退室していった。
あれでも英雄の関係者。死罪をちらつかせてみたものの、本当に死罪にしてしまうのはどうにも具合が悪い。
しかし今の様子を見るに、英雄は実家へ戻った際心無い言葉をぶつけられ傷つけられたのであろうなぁ……。
「宝剣一つなんかでは足りんわい。」
国を救った大英雄を労う為、他にも何か考えておくとするか。
応援ありがとうございます!
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