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聖女の暴力編
第68話 聖女の激昂
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気付けば、辺りはどす黒い赤に染まっていた。
玉座の間に居るのはボロ雑巾のように横たわる片腕しかないルシーフと驚いた顔のお母さん、そして怒りを解放しきった私。
「ふぅ。やっちゃった。」
「アリエンナ。落ち着いた?」
「うん。」
「これ、死んじゃってるわよ?」
お母さんが指さすルシーフの腹には穴が開いており、片腕が千切れてしまっている。
「大丈夫。元々滅ぼすつもりだったわけだし。」
「それもそうね。最悪復活魔法があるから、どうしても必要なら復活させましょう。」
「うん。」
「それにしてもお母さんびっくりしちゃった。アリエンナったら、魔神の三倍くらい? 強かったわよ?」
そうなんだ。
どうりで魔力が減っていると思った。体感で半分くらいしか残ってないもの。
怒りすぎて、自分でもどんな事をしていたのかちゃんと覚えていない。
取り敢えず、私は社会のゴミを処分出来たから満足した。
その後“推ししか勝たん”と合流し、お母さんは味方の魔神達を転移で連れて来た。
お母さんは全員にさっきの出来事を説明する。
「という事で……アリエンナの逆鱗に触れたルシーフは腕を吹き飛ばされて、途中から魔神形態になったは良いんだけど、全然歯が立たずにこの有り様ってわけ。」
「凄まじいね……。」
「魔神がこうも無惨にやられるとは。」
「アリエンナちゃん、魔界を滅ぼすのは本当にやめてね?」
皆がルシーフの惨状を目の当たりにし、口々に好きな事を言っている。
「滅ぼしませんよ。理由がなければ。」
「理由があってもやめて?」
理由があったら滅ぼすに決まってるのに……。変なの。
「で? ルシーフは滅ぼしちゃったわけだけど、どうするの?」
質問されたアンリさんは良くぞ聞いてくれたといった風に返事を返す。
「ルシーフの魔神核を誰かに移植しようと思ってたわ。まだ誰にするかは決めてないんだけど、善良な悪魔の方が色々と好都合ね。」
それはそうね。またルシーフみたいな奴が魔神になったら皆迷惑するもの。
「候補者はいるのか?」
「うーん。出来れば聖女軍の幹部から選びたいんだけど、まだ全員の性格は把握しきれてないから……。」
「取り敢えず、戦力は足りているから後々考えても良いんじゃないかい?」
「あぁ、焦って変な奴を魔神にしてしまうと後が面倒だ。」
変な理由で戦争を仕掛けたベーゼブには言われたくないと思う。
「そうよね。やっぱり戦争が終わってから考えましょう。」
という事は、バルバスを倒してから魔神にする悪魔を決めるのね。
落ち着いてから考えるという意見には私も賛成。
「ねぇ、それなら適任な奴を知ってるわよ?」
保留で話が決まりかけていたタイミングで、お母さんが違う意見を発する。
誰だろう? そんな人いたかな?
「どんな人なんだい? アリエーンちゃん。」
「あいつよ!」
お母さんはビシッと指さし、その方向には“推ししか勝たん”の人が居た。
「もしかして、アンリさん推しだって言ってた人の事?」
「え? ワシ?」
突然の事に驚いているみたい。私も驚いたけど。
「アリエンナ正解!」
やったっ。
「どういう事だ?」
「理由はね。母さんを推してるこの人だったら、少なくとも母さんと衝突する事は絶対にないでしょ? 加えて、推し限定ではあるけど慈善活動みたいな事もしてたんだから、人格面においてもある程度は保証されるって寸法よ。」
そっか。お母さんの言う通りかもしれない。
「私とアリエンナはいつまでも魔界にいるわけじゃないわ。今の騒動が終われば人間界に戻るんだから、魔神同士の衝突が起こらない人選が良いでしょ?」
「そうね。」
「勿論だよ。」
「その通りだ。」
「ただ単に聖女軍の幹部から良い奴かどうかだけを判定基準に選出しちゃうと、部下だからこそ良い奴に見えてただけの悪魔を選んでしまうかもしれないわ。それじゃあダメなのよ。」
お母さんの意見は尤もだ。良い部下に見えても、ごますりの可能性だってあるもんね。
「それにルシーフ領出身なんだから、故郷をより良くしようと政治面も頑張るんじゃない? ついでに言うなら、部下に関しても仲間がそのまま部下になれば人材不足も解決よ。」
凄い。流石はお母さん。もうこの人しか居ないんじゃないかと思う程説得力がある。
「成る程。確かにアリエーンの言う通りね。彼の推しが私である以上、絶対に敵対はしないわね。しかも人材不足やその後の統治に関しても納得だわ。」
「推しってのは分からんが、アンリが納得するなら間違いないのだろうな。」
「僕も良いと思うよ。アリエーンちゃんの意見は後々までの事をしっかり考えて出した結論のようだからね。政治面に関しては、足りなければこちらから補佐を出す事も出来るし。」
一度は保留になりかけた話だけど、思いの外早く決着がついた。
「という事で、今日からあなたには魔神になってもらうわ。」
「推しのアンリちゃんに頼まれたのならやるしかないのじゃ!」
この人、凄くやる気に満ちてるわ。アンリさんと話せた事が余程嬉しいのね。
「ところで、名前は何て言うんだい?」
「ワシはマルコスじゃ。これからは魔神同士よろしく頼むぞ。」
「これからは魔神マルコスになる、というわけだな。」
皆仲良くやっていけそうで良かった。魔神同士で戦争なんてやっぱり大変だもんね。
玉座の間に居るのはボロ雑巾のように横たわる片腕しかないルシーフと驚いた顔のお母さん、そして怒りを解放しきった私。
「ふぅ。やっちゃった。」
「アリエンナ。落ち着いた?」
「うん。」
「これ、死んじゃってるわよ?」
お母さんが指さすルシーフの腹には穴が開いており、片腕が千切れてしまっている。
「大丈夫。元々滅ぼすつもりだったわけだし。」
「それもそうね。最悪復活魔法があるから、どうしても必要なら復活させましょう。」
「うん。」
「それにしてもお母さんびっくりしちゃった。アリエンナったら、魔神の三倍くらい? 強かったわよ?」
そうなんだ。
どうりで魔力が減っていると思った。体感で半分くらいしか残ってないもの。
怒りすぎて、自分でもどんな事をしていたのかちゃんと覚えていない。
取り敢えず、私は社会のゴミを処分出来たから満足した。
その後“推ししか勝たん”と合流し、お母さんは味方の魔神達を転移で連れて来た。
お母さんは全員にさっきの出来事を説明する。
「という事で……アリエンナの逆鱗に触れたルシーフは腕を吹き飛ばされて、途中から魔神形態になったは良いんだけど、全然歯が立たずにこの有り様ってわけ。」
「凄まじいね……。」
「魔神がこうも無惨にやられるとは。」
「アリエンナちゃん、魔界を滅ぼすのは本当にやめてね?」
皆がルシーフの惨状を目の当たりにし、口々に好きな事を言っている。
「滅ぼしませんよ。理由がなければ。」
「理由があってもやめて?」
理由があったら滅ぼすに決まってるのに……。変なの。
「で? ルシーフは滅ぼしちゃったわけだけど、どうするの?」
質問されたアンリさんは良くぞ聞いてくれたといった風に返事を返す。
「ルシーフの魔神核を誰かに移植しようと思ってたわ。まだ誰にするかは決めてないんだけど、善良な悪魔の方が色々と好都合ね。」
それはそうね。またルシーフみたいな奴が魔神になったら皆迷惑するもの。
「候補者はいるのか?」
「うーん。出来れば聖女軍の幹部から選びたいんだけど、まだ全員の性格は把握しきれてないから……。」
「取り敢えず、戦力は足りているから後々考えても良いんじゃないかい?」
「あぁ、焦って変な奴を魔神にしてしまうと後が面倒だ。」
変な理由で戦争を仕掛けたベーゼブには言われたくないと思う。
「そうよね。やっぱり戦争が終わってから考えましょう。」
という事は、バルバスを倒してから魔神にする悪魔を決めるのね。
落ち着いてから考えるという意見には私も賛成。
「ねぇ、それなら適任な奴を知ってるわよ?」
保留で話が決まりかけていたタイミングで、お母さんが違う意見を発する。
誰だろう? そんな人いたかな?
「どんな人なんだい? アリエーンちゃん。」
「あいつよ!」
お母さんはビシッと指さし、その方向には“推ししか勝たん”の人が居た。
「もしかして、アンリさん推しだって言ってた人の事?」
「え? ワシ?」
突然の事に驚いているみたい。私も驚いたけど。
「アリエンナ正解!」
やったっ。
「どういう事だ?」
「理由はね。母さんを推してるこの人だったら、少なくとも母さんと衝突する事は絶対にないでしょ? 加えて、推し限定ではあるけど慈善活動みたいな事もしてたんだから、人格面においてもある程度は保証されるって寸法よ。」
そっか。お母さんの言う通りかもしれない。
「私とアリエンナはいつまでも魔界にいるわけじゃないわ。今の騒動が終われば人間界に戻るんだから、魔神同士の衝突が起こらない人選が良いでしょ?」
「そうね。」
「勿論だよ。」
「その通りだ。」
「ただ単に聖女軍の幹部から良い奴かどうかだけを判定基準に選出しちゃうと、部下だからこそ良い奴に見えてただけの悪魔を選んでしまうかもしれないわ。それじゃあダメなのよ。」
お母さんの意見は尤もだ。良い部下に見えても、ごますりの可能性だってあるもんね。
「それにルシーフ領出身なんだから、故郷をより良くしようと政治面も頑張るんじゃない? ついでに言うなら、部下に関しても仲間がそのまま部下になれば人材不足も解決よ。」
凄い。流石はお母さん。もうこの人しか居ないんじゃないかと思う程説得力がある。
「成る程。確かにアリエーンの言う通りね。彼の推しが私である以上、絶対に敵対はしないわね。しかも人材不足やその後の統治に関しても納得だわ。」
「推しってのは分からんが、アンリが納得するなら間違いないのだろうな。」
「僕も良いと思うよ。アリエーンちゃんの意見は後々までの事をしっかり考えて出した結論のようだからね。政治面に関しては、足りなければこちらから補佐を出す事も出来るし。」
一度は保留になりかけた話だけど、思いの外早く決着がついた。
「という事で、今日からあなたには魔神になってもらうわ。」
「推しのアンリちゃんに頼まれたのならやるしかないのじゃ!」
この人、凄くやる気に満ちてるわ。アンリさんと話せた事が余程嬉しいのね。
「ところで、名前は何て言うんだい?」
「ワシはマルコスじゃ。これからは魔神同士よろしく頼むぞ。」
「これからは魔神マルコスになる、というわけだな。」
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