【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ

文字の大きさ
上 下
69 / 87
聖女の暴力編

第68話 聖女の激昂

しおりを挟む
 気付けば、辺りはどす黒い赤に染まっていた。

 玉座の間に居るのはボロ雑巾のように横たわる片腕しかないルシーフと驚いた顔のお母さん、そして怒りを解放しきった私。

「ふぅ。やっちゃった。」

「アリエンナ。落ち着いた?」

「うん。」

「これ、死んじゃってるわよ?」

 お母さんが指さすルシーフの腹には穴が開いており、片腕が千切れてしまっている。

「大丈夫。元々滅ぼすつもりだったわけだし。」

「それもそうね。最悪復活魔法があるから、どうしても必要なら復活させましょう。」

「うん。」

「それにしてもお母さんびっくりしちゃった。アリエンナったら、魔神の三倍くらい? 強かったわよ?」

 そうなんだ。

 どうりで魔力が減っていると思った。体感で半分くらいしか残ってないもの。

 怒りすぎて、自分でもどんな事をしていたのかちゃんと覚えていない。

 取り敢えず、私は社会のゴミを処分出来たから満足した。



 その後“推ししか勝たん”と合流し、お母さんは味方の魔神達を転移で連れて来た。

 お母さんは全員にさっきの出来事を説明する。

「という事で……アリエンナの逆鱗に触れたルシーフは腕を吹き飛ばされて、途中から魔神形態になったは良いんだけど、全然歯が立たずにこの有り様ってわけ。」

「凄まじいね……。」

「魔神がこうも無惨にやられるとは。」

「アリエンナちゃん、魔界を滅ぼすのは本当にやめてね?」

 皆がルシーフの惨状を目の当たりにし、口々に好きな事を言っている。

「滅ぼしませんよ。理由がなければ。」

「理由があってもやめて?」

 理由があったら滅ぼすに決まってるのに……。変なの。

「で? ルシーフは滅ぼしちゃったわけだけど、どうするの?」

 質問されたアンリさんは良くぞ聞いてくれたといった風に返事を返す。

「ルシーフの魔神核を誰かに移植しようと思ってたわ。まだ誰にするかは決めてないんだけど、善良な悪魔の方が色々と好都合ね。」

 それはそうね。またルシーフみたいな奴が魔神になったら皆迷惑するもの。

「候補者はいるのか?」

「うーん。出来れば聖女軍の幹部から選びたいんだけど、まだ全員の性格は把握しきれてないから……。」

「取り敢えず、戦力は足りているから後々考えても良いんじゃないかい?」

「あぁ、焦って変な奴を魔神にしてしまうと後が面倒だ。」

 変な理由で戦争を仕掛けたベーゼブには言われたくないと思う。

「そうよね。やっぱり戦争が終わってから考えましょう。」

 という事は、バルバスを倒してから魔神にする悪魔を決めるのね。

 落ち着いてから考えるという意見には私も賛成。

「ねぇ、それなら適任な奴を知ってるわよ?」

 保留で話が決まりかけていたタイミングで、お母さんが違う意見を発する。

 誰だろう? そんな人いたかな?

「どんな人なんだい? アリエーンちゃん。」

「あいつよ!」

 お母さんはビシッと指さし、その方向には“推ししか勝たん”の人が居た。

「もしかして、アンリさん推しだって言ってた人の事?」

「え? ワシ?」

 突然の事に驚いているみたい。私も驚いたけど。

「アリエンナ正解!」

 やったっ。

「どういう事だ?」

「理由はね。母さんを推してるこの人だったら、少なくとも母さんと衝突する事は絶対にないでしょ? 加えて、推し限定ではあるけど慈善活動みたいな事もしてたんだから、人格面においてもある程度は保証されるって寸法よ。」

 そっか。お母さんの言う通りかもしれない。

「私とアリエンナはいつまでも魔界にいるわけじゃないわ。今の騒動が終われば人間界に戻るんだから、魔神同士の衝突が起こらない人選が良いでしょ?」

「そうね。」

「勿論だよ。」

「その通りだ。」

「ただ単に聖女軍の幹部から良い奴かどうかだけを判定基準に選出しちゃうと、部下だからこそ良い奴に見えてただけの悪魔を選んでしまうかもしれないわ。それじゃあダメなのよ。」

 お母さんの意見は尤もだ。良い部下に見えても、ごますりの可能性だってあるもんね。

「それにルシーフ領出身なんだから、故郷をより良くしようと政治面も頑張るんじゃない? ついでに言うなら、部下に関しても仲間がそのまま部下になれば人材不足も解決よ。」

 凄い。流石はお母さん。もうこの人しか居ないんじゃないかと思う程説得力がある。

「成る程。確かにアリエーンの言う通りね。彼の推しが私である以上、絶対に敵対はしないわね。しかも人材不足やその後の統治に関しても納得だわ。」

「推しってのは分からんが、アンリが納得するなら間違いないのだろうな。」

「僕も良いと思うよ。アリエーンちゃんの意見は後々までの事をしっかり考えて出した結論のようだからね。政治面に関しては、足りなければこちらから補佐を出す事も出来るし。」

 一度は保留になりかけた話だけど、思いの外早く決着がついた。

「という事で、今日からあなたには魔神になってもらうわ。」

「推しのアンリちゃんに頼まれたのならやるしかないのじゃ!」

 この人、凄くやる気に満ちてるわ。アンリさんと話せた事が余程嬉しいのね。

「ところで、名前は何て言うんだい?」

「ワシはマルコスじゃ。これからは魔神同士よろしく頼むぞ。」

「これからは魔神マルコスになる、というわけだな。」

 皆仲良くやっていけそうで良かった。魔神同士で戦争なんてやっぱり大変だもんね。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお
恋愛
※なろう版完結済み(番外編あり〼) ハーブ栽培と本が好きなOL・真白は図書館で不思議な薬草辞典と出会う。一瞬の瞬きの間に……気が付くとそこは異世界。しかも魔物討伐の軍の真っ只中。そして邪竜の毒にやられて軍は壊滅状態にあった。 真白が本の導きで辞典から取り出したハーブを使うと彼らはあっという間に元気になり、戦況は一変。 だが帰還の方法が分からず困っている所を王子のはからいで王城で暮らす事に。そんな真白の元には色々な患者や悩み事を持った人が訪れるようになる。助けてくれた王子に恩を返す為、彼女は手にした辞典の加護で人々を癒していく……。  キラッキラの王子様やマッチョな騎士、優しく気さくな同僚に囲まれて、真白の異世界ライフが始まる! ハーブとイケメンに癒される、ほのぼの恋愛ファンタジー。

秘密の多い令嬢は幸せになりたい

完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。 完結が確定しています。全105話。

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!

ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。 ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。 そこで私は重要な事に気が付いた。 私は聖女ではなく、錬金術師であった。 悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

処理中です...