俺の妹が前世の恋人で前前世の姉で前前前世の嫁だった。

第10話 責任

「あー……どういう事だ？」

　おしっこ我慢させた事を怒っているのか？　だが、怜はそれくらいで怒ったりするわけもない。

「人の体をあんなに弄りまわしておいて、放置するだなんて……。鬼畜よ。」

　鬼畜？　おっぱいを触ったのがマズかったのか？

「あれは……コミュニケーションを取っていたんだ。これからヨロシクゥ！　みたいな？」

　彼女はジト目で俺を見ている。

（流石に誤魔化せないか。）

「もうこうなったら、本当に責任を取ってもらわないとダメね。」

　ちょっ？！　

「あれだけイヤらしい事しておいて、知らないフリは通用しないよ。」

「おっぱいと付き合い始めたんだから、それくらいは……。」

　はあ……。と溜息をつき、彼女は続ける。

「そんなの友達が嘘ついてるに決まってるじゃん。おっぱいと付き合うとか馬鹿なの？」

　ゔっ！！

「でも、確かに喋ってたし……。」

「そんなの、腹話術みたいなもので誤魔化されただけでしょ！」

　マジで？　つまりそれって……。

「はああ！？　幸子の奴、騙したのか！！」

「逆に何で信じたのよ……。」

　絶対オカシイと思ってたんだよ！　思ってたけど…あんな風におっぱいが喋る度に揺れてたら、そりゃあ信じちゃうだろ？！

「と・に・か・く！　責任取って付き合ってもらいますからねっ！」

「……兄妹だし。」

「まだそんな戯言を言ってるの？」

　戯言！？

「第三者に聞いてみよっか？　お兄ちゃんがおっぱい触ってくるんだけど、どういうつもりなのかな？　ってね。」

　それはやめろ！

「皆きっと言うわよ。それ付き合ってるなら普通だよねって…付き合ってないなら最低だねって……。」

　これってもう逃げ場なくね？

　今まで散々我慢してきたのに、こんなところで諦めるのか……。

　しかし……。

「俺も付き合いたいのは山々なんだが……。」

「ハッキリしないなぁ。こうなったら、最終手段を行使するしかないみたいね。」

　最終手段？　何する気だ？

「更に前の記憶を掘り起こすの。魔法に耐性のないお兄ちゃんだと、ぱっぱらぱーになる可能性があったから試してなかったけど……もしそうなったら、私が一生面倒見てあげるね？」

　はい？

　俺が止める間もなく怜の手は強く輝き始める。

（怜の口ぶりから察するに、もしかして今までのはマジで魔法だった……？）

　だとすれば、俺がぱっぱらぱーになる可能性が本当にあるかもしれない。

「ちょっ……」

「ごめんね。仕方なかったの……。」

　周囲が白い光に包まれた。




（あなた？　いい加減起きて下さい。

　先に逝くのを許してくれ…。

　そうやって死んだフリするの…良くない癖ですよ？

　あ、バレた？




　起きて！　起きてよ！

　……。

　いつものように死んだフリって言って！！）


「……。」


　前前前世で彼女は嫁だった。俺はしょっちゅう死んだフリと言って彼女をからかっていたが、ある時本当に事故で死んでしまった。嫁を残して逝くのが心残りだったが、あの後は幸せになれたのだろうか……。

（それにしても前前前世の俺……。しょうもなっ！）


「魔法って本当だったんだな……。」

「え？　今更！？　散々記憶掘り出されておいて、今信じたの？！」

「すまん。怜が中二病なだけかと思ってた。」

「酷い誤解だよ……。それにしても…大丈夫？　ぱっぱらぱーになってない？」

（やっぱ、マジでその可能性があったんだな。）

「そんな危険な魔法使うなよ……。」

「もしかして、以前からぱっぱらぱーだった…？　そうよ。おっぱいと付き合うとか馬鹿な事信じてたし。」

　何だって？

「ごめんなさい！　お兄ちゃんもうぱっぱらぱーかもしれない！　一生面倒見るからね？」

「おい。人の事ぱっぱらぱーとか言うな。」

「もう責任取れって言わないから。むしろ私が責任取るから！」

「いや、話聞けよ。」

「お兄ちゃんちょっと待ってて！」

　こうしてはいられないと、怜はバタバタと走りだす。

（どこへ行く気だ？）

　彼女はすぐに戻って来ると、その手には何かを持っている。

「それ何？」

「安心してね？　今度から出掛ける時はこれを付けて一緒に行こうね？」

　だから聞けよ！

「サイズが合うか確認するから。今付けてあげる！」

　何がなんだか分からないままに、怜が手に持っている何かを俺に装着する。

「これって……。」

　犬とか子供と出掛ける際に付けるリード。所謂ハーネスという奴だ。

（マジで俺の事パーになったと思ってやがる……。）

「こんなん無くて大丈夫だから。」

　呆れた。しかし良くこんな物持ってたな。

「お兄ちゃんはパーだから、自分で判断しないでね？　全部私に相談してから決めて。」

「おまっ……」
「分かった？　ほら、頭撫でてあげるから。」

　くそっ！　こうなったら……

「うっ……。」

　俺は突然呻き声をあげ、その場にバタリと倒れる。

　そう、前前前世の得意技“死んだフリ”だ。

　本気を出せば心臓も止められるのだが、負担が大きいので今はやらない。

「死んだフリだって分かってるよ？　突然こんな事して……やっぱり私が一生面倒見てあげなきゃ。」

　流石は前前前世の嫁。俺の得意技が見抜かれている。

　てかさっきから、何気に失礼過ぎない？

「今日はもう遅いから、一緒に寝ましょうね？」

「一人で寝るよ。」

「ダメっ！　目離しならないんだから、一緒に寝ないと危ないでしょ？」

　今世の妹で前世の恋人で前前世の姉で前前前世の嫁と一緒に寝るのは決定事項のようだ。

　海鮮丼くらい具だくさんだな……。