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お姉様編

74 お前んち、おっ化けやーしきぃ……ですわ 後編

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「お嬢様、お手をどうぞ。」

 マサーレオの手を取り立ち上がる彼女。少しだけ脚が震えている事に自身ですら気付いていなかった。

「あ、ありがとう……。」

 普段の彼女であれば、もっと早く手を差し伸べろと怒ったであろう。しかし、そんな悪態をつく余裕が今の彼女には無かった。

「ちょっと、体調がすぐれないからあなたの手をしばらく貸しなさい。」

 カリアは素直に怖いと伝える事が出来ず、自らの執事の手を取ったまま使用人の後ろをついて行く。

 どこまでも続くかのような鏡は2人を映すだけで、特に変わった様子はない。

「……こちらで御座います。」

「あんた、先に入りなさいよ。」

「しかし……。」

 カリアは恐怖のせいで、執事を先に行かせようとする。

「良いから。」

「では……」

 そう言ってマサーレオが先に扉を開け、部屋の中へと進んで行く。

 この国では身分が高い者から入室するというマナーがある。今回のカリアはマナー違反である為、マサーレオが先に行くことを躊躇していたのだ。

「ど、どう? 変な奴とか居ない?」

 カリアが部屋の中に入った執事に対し、質問したその時……


 バタンッ!!



 と大きな音を立て、独りでに扉が閉ざされた。

「ひぃっっ!」

 突然の事に驚き、その場から後ずさる彼女は小さな悲鳴をあげる。

 扉の向こうからはマサーレオの声が聞こえてくる。


「何だこれは! お嬢様! 大丈夫ですか!? お嬢様!?」


 ドンドン! と扉を叩く執事。

 しかし……


「な、やめろ! ぎひぃぃぃぃ!!!」

 強烈な悲鳴をBGMに彼女はその場にしゃがみ込んでいると、肉をすり潰すような音まで耳に響いてきた。

「や、やめ……」

 グシャっという音を最後に、マサーレオの声が聞こえなくなる。


「マサーレオ……?」


 辺りは静寂に包まれ、カリアの声だけが廊下に響く。


「……冗談よね? マサーレオ?」

 震えた声で自らの執事に声を掛ける彼女。

 扉の下の隙間からは、赤い液体が流れて来た。


「嘘よ……。」


 彼女は口を手で覆い、いやいやと首を振る。

「……お客様もどうぞお入り下さい。」

 不気味な沈黙を保っていた使用人が声を掛ける。

「いやよ、いや……。」

 ただ無機質な目がカリアを射抜く。

 そして彼女は、気付かなくても良い事にこのタイミングで気付いてしまった。

(使用人が鏡に映ってない……)

「……そうですか、では私はこれで。」

 使用人はそう言い残し、その場からスウッと消える。まるで最初から存在しなかったかのように……。

 静寂が支配する広い廊下で、彼女は一人取り残されてしまった。

 頼みの執事はもういない。

 その場にしゃがみ込んだまま、彼女はすすり泣く。
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