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ぼくの好きな駄菓子屋さん
しおりを挟むぼくの家の近所には駄菓子屋さんがある。
いつも下校中に寄り道してはおこづかいを握りしめ、わくわくしながらお菓子を選んでいた。お店には必ずおばあちゃんがいて、にこにこしながら「いらっしゃい。」と声を掛けてくれる。おばあちゃんは時々ぼくにオマケをくれる。それも楽しみの一つだ。
おばあちゃんはたまにお釣りを間違える。ぼくはその事をおばあちゃんに伝えると「かしこいねえ。」と褒められ、オマケをくれる。
今日、学校で集会があった。下校中寄り道して買い食いする生徒がいるから、それはやめるよう注意していた。こっそりと寄り道しようかとも思ったが、なんとなくバレたら嫌だと思い。しばらく寄り道せず帰ることにした。
久しぶりに下校途中駄菓子屋さんに寄ってみた。おばあちゃんがにこにこと笑顔で「いらっしゃい。」といつものように声を掛けてくれる。お菓子を二つ手に取りお金を渡すと「足りないよ。」と言われた。間違えちゃったかな?と思い計算してみるが間違っていなかったので、足りている事を伝えると、「ああ、大丈夫だったね。ごめんね。」とオマケをくれた。
それは見る方向を変えるとキラキラと色が変わる珍しいビー玉だった。
ぼくは少しだけいつもとは違う何かを感じたが、それほど気にすることもなく帰った。
それからも以前のように毎日は行かないけど、たびたび駄菓子屋さんに下校中足を運ぶと、毎回「足りないよ。」と言われるようになった。近所のおばさん達が駄菓子屋のおばあちゃんは『にんちしょう』だと話していた。にんちしょうってなんだろう?
ある日、お父さんからあの駄菓子屋さんには行くなと言われた。何で?と聞くと、駄菓子屋さんのおばあちゃんが、ぼくを泥棒だと近所に言って回っているらしい。ぼくはおばあちゃんが毎回「足りない。」と言って計算を間違えている事を言うと、お父さんが「あのおばあちゃんは認知症だからな。仕方ない事だけど、お店には行かないように。」と言った。
納得いかなかったけど、次の日からぼくは駄菓子屋さんの前を通らないようにして帰る事にした。
放課後、先生に空き教室の片付けを手伝って欲しいと言われたので手伝っていたら、遅くなってしまった。特に何も考えず、近道だからと駄菓子屋さんの前を通り過ぎようとしたら突然
「どろぼう!」
と言われた。ビックリして声がした方を見ると、駄菓子屋さんのおばあちゃんが見たこともないような恐ろしい顔をしてぼくを見ていた。ぼくは怖くて振り返りもせず、逃げ帰った。
それ以来駄菓子屋さんの前を通る事は無くなった。
俺は今大学二年生。県外の大学に通い一人暮らしをしている。夏休みに入ったので、久しぶりに実家に帰省し、地元の友人と酒を飲んでいた。友人が言うには、例の駄菓子屋は数年前に潰れ、現在は空き家になっているという。友人はそう言えば…。と言って綺麗なビー玉を俺に渡してきた。あの頃、泥棒と怒鳴られた事が悲しくて友人にオマケで貰ったビー玉をあげてしまっていた事を思い出した。
友人から見ても、俺はあの駄菓子屋のおばあちゃんに相当可愛がられていたそうで、お前が持ってた方が良いんじゃないかと言われ、そのビー玉を受け取った。
しんみりとした雰囲気になったのもあり、飲み会はお開きになった。
帰宅途中なんとなく気が向き、駄菓子屋の方へ行ってみる。駄菓子屋は人の手が全く入っておらず、経年劣化でボロボロになっていた。当時は納得出来ず悲しく思ったものだが、認知症であった事を考えれば仕方なかったのだと、今なら納得する事が出来た。
ビー玉を眺めながら帰ろうとポケットから取り出し、実家の方へ足を向けると、突然…
「どろぼう!」
ビクッとして駄菓子屋の方へ振り返る。
ボロボロになった駄菓子屋の奥には、鬼のような形相をした老婆が見える。
「やっとミツケタ。」
その老婆はニタニタと不気味な笑顔で呟く。
あの優しかった笑顔のおばあちゃんとは似ても似つかない。
とにかく逃げなければと全力で実家へ戻る。
後日お祓いに行ったが、祓えないと言われた。例のビー玉は捨てないで持っていた方が良いそうだ。ただし、それを持って特定の場所には絶対行くなとも言われた。幸い、何かあってはいけないとビー玉は捨てずにいた。
特定の場所とは恐らくあの駄菓子屋の事だろう。今思い出しても鳥肌が立つ。ビー玉はなくさないよう保管しておく事にした。
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