サックスを吹く君のそばで

いとまる

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ーー演奏会ーーー

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 演奏会が5日後に迫り、吹奏楽部の練習も佳境に入っていた。

 蓮「尚先輩、最近少し調子悪いですか?」


 尚「やっぱわかるよね、うん、ちょっと」


 浩介「お前昔から私生活でなんかあったら音に出るよね。なんかあった?」



 浩介とは中1の頃からの友達だ。一緒に吹奏楽を始めた。浩介はトランペットをしている。



 尚「いや、大丈夫。とにかく集中して練習しないとね」


 尚はサックスの練習量はこなすものの、なんとなく練習に集中できない時があった。このまま調子が上がらず演奏会を迎えるのだけは嫌だった。




 尚は傑と1週間ほど話していなかったが夜メールをおくった。



 ー今週末の日曜、演奏会があるんだ。その後で少し会えないかな?話がしたいー



 ーわかった。演奏会頑張ってな。終わったら連絡してー




 傑ともうすぐ話ができる。この会えない期間で傑への思いは強くなっている気がしていた。ただ、これが恋かどうかは自分でも正直わからずにいた。もう友達に戻れなかったとしても自分の思いをそのまま伝えたいと思っていた。





 綾と千鶴は、文化祭の実行委員で仲良くなり、尚の演奏会も一緒に行くことになっていた。



 演奏会当日。最寄りの大学のホールで行われるこの演奏会は、6つの高校の吹奏楽部が参加する。地域の人も多く来場する大会で、歴史のある催しだ。尚は少し早く目が覚めた。すると、傑からのメールが届いていた。


 傑「今日は聴きに行くよ。楽しんでね。」



 尚は、演奏会に向けてとにかく躍起になってサックスを吹いた。"楽しむ"ことを忘れていた気がした。そうだ、俺はサックスの奏でる音やみんなと揃った時の胸が湧き上がる感覚が好きなんだ。今日は楽しもうと思った。


 ーー傑、大切なことを思い出させてくれてありがとうーー


 尚は程よい緊張感を持って玄関を出た。






 駅前に集合した綾と千鶴は、傑が来るのを待っていた。


 千鶴「尚さ、本当に努力家でサックスのこととなると周り見えなくなるんだ。5時間くらい練習してご飯食べ損ねたりは日常茶飯事」


 綾「すごいね、尊敬する。」


 千鶴「うん。でもなんか最近の尚少し違って。なんていうか練習してても満足してないっていうか、やりきれない感じがあるの」



 綾「そっか、多分傑のことだよね」



 千鶴「喧嘩でもしたの?」



 綾「喧嘩っていうか、私もはっきりとはわからないけどたぶん傑に告白されてる」



 千鶴「え!?!?!?!?」



 綾「ごめん、確信はないんだけど。私も傑とずっといたからなんかわかっちゃって。今日演奏会の後、久しぶりに会うみたい。」



 千鶴「そうなんだ。。。。知らなかった」



 綾「千鶴ちゃんさ、傑のこといいなって思ってた?」



 千鶴「うん、でも本当いいなくらいで、話したこともほとんどないし、まだ始まってもないから」



 綾「そっか。どうなるかな。」





 千鶴「尚、結構なんでも私に話してくれるのに、今回のことは言われなかった。自分でしっかり考えてるんだよね。私の気持ち知ってたから、遠慮もしてそうだけど。。。。」





 綾「私たちは見守るしかできないもんね」

 


 千鶴「私尚にメールしてみる。もちろん綾から聞いたことは言わない」



 綾「うん。」




 傑が5分ほど遅れて来た。目の下にクマがあり、明らかに寝不足だった。






 尚は楽屋で千鶴にメールを打った。
 すると千鶴から意外な返事が来た。

 ー今日綾ちゃんと傑くんと聴きに行くよ。傑くん、尚と同じくらい緊張してるみたい。笑

 前に傑くんのこといいなって言ったの覚えてる?実際話してみると、友達だなって感じた。傑くんは誰かのことが好きって綾ちゃんに聞いたよ。相手はわからないけど、すごく好きみたい。尚は友達だから知ってるかな?

 まぁ今日は演奏会だもんね。ごめん、こんなこと。。尚はたくさん努力してるから大丈夫。自信持ってね。ーー



 千鶴からのメールを見て、おそらく自分が傑に告白されたことに気づいたのかなと思った。と同時に千鶴の気遣いも伺えた。調子の悪かった俺を心配してくれてたし、いつも1番近くで応援してくれた。


 演奏会を無事終えることができたら、傑に正直に話そうと尚は決意した。




 幕が上がって、演奏会が始まった。
 観客は2000人ほどいてホールはほぼ満席。尚達の高校はトップバッターだ。




 千鶴「尚だ。2列目の真ん中」



 傑達は客席の前から3列目あたりに座っていた。尚の顔もよく見えた。




 一瞬傑と尚は目があった。しかしその視線はすぐに指揮者に向いた。




 演奏が始まると、音の迫力に全身が震えた。様々な楽器の音が折り重なり、ダイレクトに脳に響く。とても力強かった。最後の盛り上がりは圧巻で、会場全体がその空気に包まれた。

 二曲目は一転、ゆったりした曲だ。伸びやかな管楽器の音。一音一音が丁寧に出されているのを感じた。そしてこの曲にはそれぞれの楽器でソロもあった。サックスは4人で演奏している。尚は男子1人だったが、ほかの三人と息を合わせ、まるで1人が演奏してるかのように音が揃っていた。
 演奏している尚はとても生き生きとしていて楽しそうだった。



 傑は普段、部活にそこまで情熱を捧げることができずにいたが、尚の姿勢を見て、自分も限界までやってみたいと思うことがあった。その結果最高の気分になれるなら。なんとなくインターハイに行って、周りにチヤホヤされて。練習はサボるし向上心もない自分が恥ずかしく感じた。



 演奏会は大成功に終わった。余韻に浸りながら他校の演奏も聴いて帰った。13時過ぎ、全プログラムが終了した。



 全てを出し尽くした尚は、楽屋で仲間達と感動を分かち合っていた。これまでの苦労が嘘のように晴々とした気分だった。




 ーー早く傑に会いたいーー





 傑、綾、千鶴の3人は外に出た。傑のケータイに尚からメールが入った。



 ー今から会える?ー




 ーお疲れ様。〇〇公園で待ってるー




 綾、千鶴と別れた傑は公園に向かった。
 公園は木が色づき始めた頃で、半袖だと肌寒い。傑は薄手のパーカーの前を閉めた。
 ほどなくして、尚が到着した。




 尚「久しぶり。」





 傑「素晴らしい演奏だった。感動した。」





 尚「ありがとう。」




 尚は満面の笑みだった。この笑顔が見れるならずっと友達でもいいと思えてくる。






 尚「この前の告白の返事なんだけど」





 傑「うん」



 尚「正直俺の傑に対する気持ちが恋愛的なものなのかどうかまだわからなくて。傑のことは好きだし、一緒にいたいと思ってる。もう少し時間が欲しいんだ。でも離れるのは嫌だ。前みたいに、できるなら一緒にいたいと思ってる。その中でちゃんと自分の気持ちと向き合うから。。。。わがままかな」





 傑「俺振られる覚悟できたんだけど。、友達に戻ってくれるの?」






 尚「いや、俺のほうこそ。こんな都合いい話あるのかって自分でも思うんだけど」







 傑「そんなことない尚に会えるなら、友達でも全然構わない。告白して10日間会えない時間が本当につらくて、告白したこと後悔してたんだ。嫌われてこのまま、また他人に戻るのかと思って」





 傑は涙を流した。この歳になって泣くなんて、自分でも思っていなかった。
 傑の涙を見て、尚は傑に駆け寄って思わず抱きしめた。




 尚「傑、はっきり答えが出せなくてごめん。俺ちゃんと考えるから。」





 傑「うん。待ってる」



 演奏会が終わって、2人の関係も少し変化があった。来月は、文化祭もある。傑は、尚がいる音楽準備室にまた行けることが嬉しくてたまらなかった。





























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