サックスを吹く君のそばで

いとまる

文字の大きさ
上 下
6 / 15

ーー出会い②ーー

しおりを挟む
 


 暑さが厳しい時期の陸上の練習は、冬とは比べ物にならないくらいつらいものがある。



 傑は走るのは好きだったが気分が乗らないことも多く、練習をサボる癖があった。



 ーーはぁだるい。暑い。今日も足が少し痛むな。無理しないでおこうーーー


 外周中に集団から遅れて1人スローペースで走っていると、前に大きな楽器を背負った人が歩いていた。




 ーーーあの人だーーー





 後ろ姿ですぐにわかった。
 3組の千鶴さんの幼馴染で、吹奏楽部の彼に間違いなかった。




 ーーー顔が見てみたい、抜いてから振り返れば見えるかもーーー




 そう思って抜いた後振り返る予定だったが、振り返るどころか、彼の方に向かって引き返している自分がいた。




 思わず話しかけると、彼は俯いたまま話しだした。肌は透き通る白さで、腕や首元も細いが、骨格はしっかり男子だった。前髪の隙間から少し目元が見えた。




 目が一瞬合うと、
 傑の中になにか熱いものが込み上げてくるのを感じた。




 彼の名前はなんだろう。
 彼のことが知りたいと思った。





 次の日。昼休みに思い切って3組の彼の所にいってみようと傑は決めていた。3組をのぞいてみるが、彼はいなかった。





 渡り廊下を歩いていると、どこからか楽器の音色が聞こえた。心地よい伸びやかな音。。。傑は音のする方へ急いで向かった。





 音は音楽準備室からだった。息を整え、そっとドアを開けた。





 そこには、昨日の彼が立っていた。
 窓の方を見て演奏している。サックスを吹く横顔はとても凛々しく、美しかった。
 指の動きや息の入れ方、首元をつたう汗。
 そのすべてに引き込まれた。





 呆然と立ち尽くして見ていると、彼が気づいた。



 尚「びっくりした!1組の田中くんだよね」




 傑「ごめん、練習の邪魔して。いや、すごいなと思って見惚れてた」



 傑は素直な感想を言った。



 尚「俺なんてまだまだだけど、ありがとう」





 傑「3組だよね。さっきさ、君のこと聞きたくてクラスに行ったけどいなかったから探し回ってたんだ」




 尚「え、どうして?」




 傑「昨日、サックス聴かせてくれるって約束したじゃん」





 尚「あぁ、本気だったんだ」




 傑「もちろん。ね、名前なんていうの?」




 尚「石木田尚」




 傑「尚ね。なおって呼んでい?俺、傑。
 たまにさ、ここに来てサックス聴いてもいい?邪魔しないから。」





 尚「いいけど。。。多分つまんないよ」





 傑「いや、来る。いいよな?」





 尚「まぁ、少しなら。木曜の図書委員の仕事の日以外は大体ここにいるから」




 傑「流石に毎日は迷惑だろうから。。。月曜と水曜ここで飯食いながら、尚の演奏聴くことにする」



 尚「はは、飯食いながら聴くの?」





 尚がクスッと笑った。





 その瞬間、傑は尚に近づいて尚の前髪を手でかき上げて顔を見た。





 尚「な、なに!?!?」





 尚はパッと傑の手を払って赤くなった顔を隠した。




我に戻った傑は、


 傑「ご、ごめん、ほんとごめん。こんな事なんでしたのか自分でもわからなくて。。。。。ごめん。。。。。」





 シュンとした傑を見て、尚が言った。




 尚「何してんのほんと。。。。まぁいいけど。もうしないでね。。流石にびっくりするから」





 尚は優しく、許してくれた。傑は何度も謝った。





 昼休みが終わってクラスに帰ったが、傑の頭の中は前髪を上げた時の尚の笑った顔でいっぱいだった。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

処理中です...