サックスを吹く君のそばで

いとまる

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ーー出会い②ーー

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 暑さが厳しい時期の陸上の練習は、冬とは比べ物にならないくらいつらいものがある。



 傑は走るのは好きだったが気分が乗らないことも多く、練習をサボる癖があった。



 ーーはぁだるい。暑い。今日も足が少し痛むな。無理しないでおこうーーー


 外周中に集団から遅れて1人スローペースで走っていると、前に大きな楽器を背負った人が歩いていた。




 ーーーあの人だーーー





 後ろ姿ですぐにわかった。
 3組の千鶴さんの幼馴染で、吹奏楽部の彼に間違いなかった。




 ーーー顔が見てみたい、抜いてから振り返れば見えるかもーーー




 そう思って抜いた後振り返る予定だったが、振り返るどころか、彼の方に向かって引き返している自分がいた。




 思わず話しかけると、彼は俯いたまま話しだした。肌は透き通る白さで、腕や首元も細いが、骨格はしっかり男子だった。前髪の隙間から少し目元が見えた。




 目が一瞬合うと、
 傑の中になにか熱いものが込み上げてくるのを感じた。




 彼の名前はなんだろう。
 彼のことが知りたいと思った。





 次の日。昼休みに思い切って3組の彼の所にいってみようと傑は決めていた。3組をのぞいてみるが、彼はいなかった。





 渡り廊下を歩いていると、どこからか楽器の音色が聞こえた。心地よい伸びやかな音。。。傑は音のする方へ急いで向かった。





 音は音楽準備室からだった。息を整え、そっとドアを開けた。





 そこには、昨日の彼が立っていた。
 窓の方を見て演奏している。サックスを吹く横顔はとても凛々しく、美しかった。
 指の動きや息の入れ方、首元をつたう汗。
 そのすべてに引き込まれた。





 呆然と立ち尽くして見ていると、彼が気づいた。



 尚「びっくりした!1組の田中くんだよね」




 傑「ごめん、練習の邪魔して。いや、すごいなと思って見惚れてた」



 傑は素直な感想を言った。



 尚「俺なんてまだまだだけど、ありがとう」





 傑「3組だよね。さっきさ、君のこと聞きたくてクラスに行ったけどいなかったから探し回ってたんだ」




 尚「え、どうして?」




 傑「昨日、サックス聴かせてくれるって約束したじゃん」





 尚「あぁ、本気だったんだ」




 傑「もちろん。ね、名前なんていうの?」




 尚「石木田尚」




 傑「尚ね。なおって呼んでい?俺、傑。
 たまにさ、ここに来てサックス聴いてもいい?邪魔しないから。」





 尚「いいけど。。。多分つまんないよ」





 傑「いや、来る。いいよな?」





 尚「まぁ、少しなら。木曜の図書委員の仕事の日以外は大体ここにいるから」




 傑「流石に毎日は迷惑だろうから。。。月曜と水曜ここで飯食いながら、尚の演奏聴くことにする」



 尚「はは、飯食いながら聴くの?」





 尚がクスッと笑った。





 その瞬間、傑は尚に近づいて尚の前髪を手でかき上げて顔を見た。





 尚「な、なに!?!?」





 尚はパッと傑の手を払って赤くなった顔を隠した。




我に戻った傑は、


 傑「ご、ごめん、ほんとごめん。こんな事なんでしたのか自分でもわからなくて。。。。。ごめん。。。。。」





 シュンとした傑を見て、尚が言った。




 尚「何してんのほんと。。。。まぁいいけど。もうしないでね。。流石にびっくりするから」





 尚は優しく、許してくれた。傑は何度も謝った。





 昼休みが終わってクラスに帰ったが、傑の頭の中は前髪を上げた時の尚の笑った顔でいっぱいだった。










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