1 / 8
昭和20年頃
しおりを挟む
時は昭和20年。高梨八重は、早朝の新聞配達の仕事を終え、家に帰った。ただいまと言っても返事はない。昨夜遅くまで酒を飲んでいた父が居間でそのまま寝ていたので、八重は毛布をかけた。3年前に母が死んでからというもの、父は毎晩酒を飲むようになった。
八重は16歳。中学を出てから働きに出ている。高校に行きたい気持ちもあったが、不安定な父を見て自分がしっかりしなければと思い働くことにした。
八重の朝は早い。早朝5時から新聞配達の仕事を2時間して、9時から16時まで製糸工場で働いていた。家の家事は全て八重がこなしていた。
父は母が亡くなるまではサラリーマンとして働いていたが、今はやめてしまって毎日ギャンブル三昧。1000万近くあった貯金ももう少なくなった。今は八重の給与だけで生活している。その日、八重が工場の仕事を終えて家に帰ると、ちょうど父が玄関から出てきた。「八重おかえり」父は優しく八重に微笑んだ。機嫌がいい時はホッとする。ギャンブルに負けるとこうはいかないのだ。「今日は外で飲んでくるな」そう言って父は出て行った。「もう帰ってこなくていいのに。。」実の父でありながらも、八重は心の中でそう思った。
その日の夜中、八重が寝ていると隣の人が尋ねてきた。どうやら父が泥酔して帰れなくなっているらしい。迎えに来いとのことだった。八重は仕方なく父を迎えにいくことにした。夜中の道は暗くて静かで心地よかった。
「明日も早いのに、今から迎えに行って寝れるのは2時くらい。2時間しか寝られない。もうやだ。。。。」
八重がぶつぶつ言いながらぼーっとして歩いていると、自然と涙が出てきた。
足取りは重く、ついに立ち止まった。八重はそこから一歩も動けなくなった。
「贅沢は言わない。私はただ、普通の生活がしたいだけなのに」
その場で泣き崩れて、過労からそのまま気を失ってしまったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
こんなに寝たのはいつぶりだろうか。
頭はスッキリして、八重は飛び起きた。
「大変!お父さんの迎え!」
しかし、そこは倒れた夜道ではなかった。
八重はキョロキョロ辺りを見回した。
ここはどこだろう。。。。?
「目が覚めた?」
部屋の入り口から白衣を着た人が入ってきた。「もう気分はいい?今日はもう部活は早退して家でゆっくりしなさいね。お家の人に連絡しといたから」
「あの、ここはどこなのでしょう」
八重は恐る恐る聞いた。
「学校の保健室よ。高梨さん部活中に貧血で具合が悪くなったの」
「そうですか。。。」
八重は途方に暮れていた。
「じゃあ気をつけて帰りなさいね」
白衣の人はそのまま出ていった。
高梨ー名前は私のようだ。とにかくここはどこだろう。八重は室内をウロウロしてみたがやっぱり見覚えがない。そもそも学校に通っていないのだからおかしいはずである。
持ち物の鞄があったので中を見てみると、手帳があった。
「高梨。。。。莉子」
名前が違う。生年月日を見て驚いた。
「平成?昭和の次の年号かな。とりあえず調べてみるしかない。でもどうしよう。帰るにも家わかんないし。。。。」
ふと、そこにあった鏡を見た。
「これが私。。。。?」
そこに高梨八重はいなかった。
色白で艶のある黒髪の綺麗な女の人がいたのだ。
「生まれ変わったんだろうか」
八重は意識がはっきりとしてきて、今自分が置かれている状況を整理しようとしていた。
すると、ドアをノックする音がして人が入ってきた。
「莉子、大丈夫?」
「あ、うん」
「寝不足とか?家まで送るよ」
「あ、ありがとう。家わかんないから助かる」「は?」「ごめん、大丈夫」
友達だろうか。とても親切だ。この際全部話してしまってもいいのかとも思ったがとりあえず自分で分かる範囲は調べようと思った。
「あの、倒れた時に少し意識朦朧としてて。。。あなたの名前なんでしたっけ?」
「莉子大丈夫???幼馴染の名前も忘れたって、やっぱり病院に。。。」
瞬間、彼の名前が頭をよぎった。
ー渋谷たすくー
「た、たすくくん?」
「え、君付け?」
「たすく。。。!」
「なんだよ、変なやつだな」
たすくというその彼はハハっと笑った。
たすくと家に帰る道中、少しだけ自分のことが明らかになった。高梨莉子は16歳の高校1年生。バスケ部での練習中倒れたらしい。たすくとは幼稚園からの縁。
八重はたすくの顔をじっと見た。
「たすくって。。。綺麗な顔立ちしてますね」
「本当にどうした!?」
たすくの顔は真っ赤になり、腕で顔を隠している。
家はマンションだった。5階の506号室。
たすくは違う階に住んでいた。
家の鍵が鞄にあったので開けて入った。誰もいない。家の中を探索していると、家族写真があった。父、母、私、弟がいるようだった。自分の部屋を見つけてアルバムなどを読み漁った。平成18年生まれ。生徒手帳の発行年数には"令和"とあった。新しい年号だろう。
やはり間違いない。私は数十年未来に来ている。高梨八重の人生は終わり、高梨莉子として今日からここで生きていくんだ。
八重は16歳。中学を出てから働きに出ている。高校に行きたい気持ちもあったが、不安定な父を見て自分がしっかりしなければと思い働くことにした。
八重の朝は早い。早朝5時から新聞配達の仕事を2時間して、9時から16時まで製糸工場で働いていた。家の家事は全て八重がこなしていた。
父は母が亡くなるまではサラリーマンとして働いていたが、今はやめてしまって毎日ギャンブル三昧。1000万近くあった貯金ももう少なくなった。今は八重の給与だけで生活している。その日、八重が工場の仕事を終えて家に帰ると、ちょうど父が玄関から出てきた。「八重おかえり」父は優しく八重に微笑んだ。機嫌がいい時はホッとする。ギャンブルに負けるとこうはいかないのだ。「今日は外で飲んでくるな」そう言って父は出て行った。「もう帰ってこなくていいのに。。」実の父でありながらも、八重は心の中でそう思った。
その日の夜中、八重が寝ていると隣の人が尋ねてきた。どうやら父が泥酔して帰れなくなっているらしい。迎えに来いとのことだった。八重は仕方なく父を迎えにいくことにした。夜中の道は暗くて静かで心地よかった。
「明日も早いのに、今から迎えに行って寝れるのは2時くらい。2時間しか寝られない。もうやだ。。。。」
八重がぶつぶつ言いながらぼーっとして歩いていると、自然と涙が出てきた。
足取りは重く、ついに立ち止まった。八重はそこから一歩も動けなくなった。
「贅沢は言わない。私はただ、普通の生活がしたいだけなのに」
その場で泣き崩れて、過労からそのまま気を失ってしまったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
こんなに寝たのはいつぶりだろうか。
頭はスッキリして、八重は飛び起きた。
「大変!お父さんの迎え!」
しかし、そこは倒れた夜道ではなかった。
八重はキョロキョロ辺りを見回した。
ここはどこだろう。。。。?
「目が覚めた?」
部屋の入り口から白衣を着た人が入ってきた。「もう気分はいい?今日はもう部活は早退して家でゆっくりしなさいね。お家の人に連絡しといたから」
「あの、ここはどこなのでしょう」
八重は恐る恐る聞いた。
「学校の保健室よ。高梨さん部活中に貧血で具合が悪くなったの」
「そうですか。。。」
八重は途方に暮れていた。
「じゃあ気をつけて帰りなさいね」
白衣の人はそのまま出ていった。
高梨ー名前は私のようだ。とにかくここはどこだろう。八重は室内をウロウロしてみたがやっぱり見覚えがない。そもそも学校に通っていないのだからおかしいはずである。
持ち物の鞄があったので中を見てみると、手帳があった。
「高梨。。。。莉子」
名前が違う。生年月日を見て驚いた。
「平成?昭和の次の年号かな。とりあえず調べてみるしかない。でもどうしよう。帰るにも家わかんないし。。。。」
ふと、そこにあった鏡を見た。
「これが私。。。。?」
そこに高梨八重はいなかった。
色白で艶のある黒髪の綺麗な女の人がいたのだ。
「生まれ変わったんだろうか」
八重は意識がはっきりとしてきて、今自分が置かれている状況を整理しようとしていた。
すると、ドアをノックする音がして人が入ってきた。
「莉子、大丈夫?」
「あ、うん」
「寝不足とか?家まで送るよ」
「あ、ありがとう。家わかんないから助かる」「は?」「ごめん、大丈夫」
友達だろうか。とても親切だ。この際全部話してしまってもいいのかとも思ったがとりあえず自分で分かる範囲は調べようと思った。
「あの、倒れた時に少し意識朦朧としてて。。。あなたの名前なんでしたっけ?」
「莉子大丈夫???幼馴染の名前も忘れたって、やっぱり病院に。。。」
瞬間、彼の名前が頭をよぎった。
ー渋谷たすくー
「た、たすくくん?」
「え、君付け?」
「たすく。。。!」
「なんだよ、変なやつだな」
たすくというその彼はハハっと笑った。
たすくと家に帰る道中、少しだけ自分のことが明らかになった。高梨莉子は16歳の高校1年生。バスケ部での練習中倒れたらしい。たすくとは幼稚園からの縁。
八重はたすくの顔をじっと見た。
「たすくって。。。綺麗な顔立ちしてますね」
「本当にどうした!?」
たすくの顔は真っ赤になり、腕で顔を隠している。
家はマンションだった。5階の506号室。
たすくは違う階に住んでいた。
家の鍵が鞄にあったので開けて入った。誰もいない。家の中を探索していると、家族写真があった。父、母、私、弟がいるようだった。自分の部屋を見つけてアルバムなどを読み漁った。平成18年生まれ。生徒手帳の発行年数には"令和"とあった。新しい年号だろう。
やはり間違いない。私は数十年未来に来ている。高梨八重の人生は終わり、高梨莉子として今日からここで生きていくんだ。
4
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
あまやどり
奈那美
青春
さだまさしさんの超名曲。
彼氏さんの視点からの物語にしてみました。
ただ…あの曲の世界観とは違う部分があると思います。
イメージを壊したくない方にはお勧めできないかもです。
曲そのものの時代(昭和!)に即しているので、今の時代とは合わない部分があるとは思いますが、ご了承ください。
隣の席の関さんが許嫁だった件
桜井正宗
青春
有馬 純(ありま じゅん)は退屈な毎日を送っていた。変わらない日々、彼女も出来なければ友達もいなかった。
高校二年に上がると隣の席が関 咲良(せき さくら)という女子になった。噂の美少女で有名だった。アイドルのような存在であり、男子の憧れ。
そんな女子と純は、許嫁だった……!?
普通の男子高校生である俺の日常は、どうやら美少女が絶対につきものらしいです。~どうやら現実は思ったよりも俺に優しいようでした~
サチ
青春
普通の男子高校生だと自称する高校2年生の鏡坂刻。彼はある日ふとした出会いをきっかけにPhotoClubなる部活に入部することになる。そこには学校一の美女や幼馴染達がいて、それまでの学校生活とは一転した生活に変わっていく。
これは普通の高校生が送る、日常ラブコメディである。
フェイタリズム
倉木元貴
青春
主人公中田大智は、重度のコミュ障なのだが、ある出来事がきっかけで偶然にも学年一の美少女山河内碧と出会ってしまう。そんなことに運命を感じながらも彼女と接していくうちに、‘自分の彼女には似合わない’そう思うようになってしまっていた。そんなある時、同じクラスの如月歌恋からその恋愛を手伝うと言われ、半信半疑ではあるものの如月歌恋と同盟を結んでしまう。その如月歌恋にあの手この手で振り回されながらも中田大智は進展できずにいた。
そんな奥手でコミュ障な中田大智の恋愛模様を描いた作品です。
光属性陽キャ美少女の朝日さんが何故か俺の部屋に入り浸るようになった件について
新人
青春
朝日 光(あさひ ひかる)は才色兼備で天真爛漫な学内一の人気を誇る光属性完璧美少女。
学外でもテニス界期待の若手選手でモデルとしても活躍中と、まさに天から二物も三物も与えられた存在。
一方、同じクラスの影山 黎也(かげやま れいや)は平凡な学業成績に、平凡未満の運動神経。
学校では居ても居なくても誰も気にしないゲーム好きの闇属性陰キャオタク。
陽と陰、あるいは光と闇。
二人は本来なら決して交わることのない対極の存在のはずだった。
しかし高校二年の春に、同じバスに偶然乗り合わせた黎也は光が同じゲーマーだと知る。
それをきっかけに、光は週末に黎也の部屋へと入り浸るようになった。
他の何も気にせずに、ただゲームに興じるだけの不健康で不健全な……でも最高に楽しい時間を過ごす内に、二人の心の距離は近づいていく。
『サボリたくなったら、またいつでもうちに来てくれていいから』
『じゃあ、今度はゲーミングクッションの座り心地を確かめに行こうかな』
これは誰にも言えない疵を抱えていた光属性の少女が、闇属性の少年の呪いによって立ち直り……虹色に輝く初恋をする物語。
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』でも公開しています。
https://kakuyomu.jp/works/16817330667865915671
https://ncode.syosetu.com/n1708ip/
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる