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昭和20年頃

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 時は昭和20年。高梨八重は、早朝の新聞配達の仕事を終え、家に帰った。ただいまと言っても返事はない。昨夜遅くまで酒を飲んでいた父が居間でそのまま寝ていたので、八重は毛布をかけた。3年前に母が死んでからというもの、父は毎晩酒を飲むようになった。


 八重は16歳。中学を出てから働きに出ている。高校に行きたい気持ちもあったが、不安定な父を見て自分がしっかりしなければと思い働くことにした。


 八重の朝は早い。早朝5時から新聞配達の仕事を2時間して、9時から16時まで製糸工場で働いていた。家の家事は全て八重がこなしていた。


 父は母が亡くなるまではサラリーマンとして働いていたが、今はやめてしまって毎日ギャンブル三昧。1000万近くあった貯金ももう少なくなった。今は八重の給与だけで生活している。その日、八重が工場の仕事を終えて家に帰ると、ちょうど父が玄関から出てきた。「八重おかえり」父は優しく八重に微笑んだ。機嫌がいい時はホッとする。ギャンブルに負けるとこうはいかないのだ。「今日は外で飲んでくるな」そう言って父は出て行った。「もう帰ってこなくていいのに。。」実の父でありながらも、八重は心の中でそう思った。


 その日の夜中、八重が寝ていると隣の人が尋ねてきた。どうやら父が泥酔して帰れなくなっているらしい。迎えに来いとのことだった。八重は仕方なく父を迎えにいくことにした。夜中の道は暗くて静かで心地よかった。


「明日も早いのに、今から迎えに行って寝れるのは2時くらい。2時間しか寝られない。もうやだ。。。。」
 八重がぶつぶつ言いながらぼーっとして歩いていると、自然と涙が出てきた。
 足取りは重く、ついに立ち止まった。八重はそこから一歩も動けなくなった。
「贅沢は言わない。私はただ、普通の生活がしたいだけなのに」
 その場で泣き崩れて、過労からそのまま気を失ってしまったのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーー



 こんなに寝たのはいつぶりだろうか。
 頭はスッキリして、八重は飛び起きた。
「大変!お父さんの迎え!」

 しかし、そこは倒れた夜道ではなかった。
 八重はキョロキョロ辺りを見回した。
 ここはどこだろう。。。。?


「目が覚めた?」


 部屋の入り口から白衣を着た人が入ってきた。「もう気分はいい?今日はもう部活は早退して家でゆっくりしなさいね。お家の人に連絡しといたから」

「あの、ここはどこなのでしょう」

 八重は恐る恐る聞いた。

「学校の保健室よ。高梨さん部活中に貧血で具合が悪くなったの」


「そうですか。。。」

 八重は途方に暮れていた。


「じゃあ気をつけて帰りなさいね」

 白衣の人はそのまま出ていった。

 高梨ー名前は私のようだ。とにかくここはどこだろう。八重は室内をウロウロしてみたがやっぱり見覚えがない。そもそも学校に通っていないのだからおかしいはずである。
 持ち物の鞄があったので中を見てみると、手帳があった。

「高梨。。。。莉子」

 名前が違う。生年月日を見て驚いた。

「平成?昭和の次の年号かな。とりあえず調べてみるしかない。でもどうしよう。帰るにも家わかんないし。。。。」

 ふと、そこにあった鏡を見た。

「これが私。。。。?」

 そこに高梨八重はいなかった。

 色白で艶のある黒髪の綺麗な女の人がいたのだ。


「生まれ変わったんだろうか」


 八重は意識がはっきりとしてきて、今自分が置かれている状況を整理しようとしていた。

 すると、ドアをノックする音がして人が入ってきた。
「莉子、大丈夫?」
「あ、うん」
「寝不足とか?家まで送るよ」
「あ、ありがとう。家わかんないから助かる」「は?」「ごめん、大丈夫」


 友達だろうか。とても親切だ。この際全部話してしまってもいいのかとも思ったがとりあえず自分で分かる範囲は調べようと思った。


「あの、倒れた時に少し意識朦朧としてて。。。あなたの名前なんでしたっけ?」
「莉子大丈夫???幼馴染の名前も忘れたって、やっぱり病院に。。。」


 瞬間、彼の名前が頭をよぎった。
 ー渋谷たすくー

「た、たすくくん?」
「え、君付け?」
「たすく。。。!」
「なんだよ、変なやつだな」

 たすくというその彼はハハっと笑った。

 たすくと家に帰る道中、少しだけ自分のことが明らかになった。高梨莉子は16歳の高校1年生。バスケ部での練習中倒れたらしい。たすくとは幼稚園からの縁。
 八重はたすくの顔をじっと見た。

「たすくって。。。綺麗な顔立ちしてますね」
「本当にどうした!?」
 たすくの顔は真っ赤になり、腕で顔を隠している。

 家はマンションだった。5階の506号室。
 たすくは違う階に住んでいた。

 家の鍵が鞄にあったので開けて入った。誰もいない。家の中を探索していると、家族写真があった。父、母、私、弟がいるようだった。自分の部屋を見つけてアルバムなどを読み漁った。平成18年生まれ。生徒手帳の発行年数には"令和"とあった。新しい年号だろう。



 やはり間違いない。私は数十年未来に来ている。高梨八重の人生は終わり、高梨莉子として今日からここで生きていくんだ。




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