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75.悪趣味なパレード
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悠はけたたましい音楽と鮮やかな旗がはためく友人の結婚式で思わぬ人物に出会った。
「・・・雛《ひな》さん?」
「え!?びっくりした!・・・桃の弟さん・・・?」
桃の友人の雛だった。
「・・・お久しぶりですね。よく覚えていたこと。・・・結婚式の時、飛行機から何からお花とワインまでありがとうございました。両親もとても喜んだんですよ」
「ああ、いえ。お役立ち頂けたなら良かった。・・・新婦のご友人でしたか。私、新郎側で・・・まあ、まだ会えてないんですが・・・」
「・・・すごい偶然ね。・・・新郎のご親族にご友人、だいぶ多いみたいですもんね」
新郎はインド系で、親類縁者が四百人程いるらしい。
まるでコンサート状態だ。
よって、披露宴パーティーが屋外。
まるで遠い舞台のような場所にいて花だらけに飾られている友人が遠く霞んで見える。
あちこちに金糸のフリンジのついた鮮やかなテントが設営されて、その中でダンスの余興や食事が振る舞われていた。
「・・・これじゃ、夜までに新郎まで辿り着けるかどうか・・・。半分、遭難ですよ」
と言ったのに、雛が吹き出した。
「・・・桃みたいな事言うのね。やっぱり似てるのかも。・・・やだこれ、そんなにいっぱい持って来てぇ」
四歳くらいの男の子が手にいっぱいのお菓子を持って現れた。
「こんにちはして」
雛に言われて、彼はぺこりと頭を下げて、恥ずかしそうに母親の影に隠れる。
「息子さんですか」
「そうなの。・・・聞いて驚け。三兄弟。今から食べ盛りの食費が心配」
「そりゃすごい。うちは、上が女の子、下が男の子です。まだ2歳と1歳だから、食べ盛りはもう少し先かな」
「・・・あなたたちと一緒ね」
桃と悠の事だ。
「・・・そうですね。・・・桃さんとは今も親しくされていますか?」
「なかなか会えないけど、今はネットがあるから、便利ですよね。調度先週話したばかりです」
「そうですか。それは良かったです」
「・・・桃もね。いろいろ考えてるって言ってて。・・・そろそろ、そういうの考えるならラストチャンスな頃だしねえ。今付き合ってる、画家さん?知ってる?」
「・・・はい。お名前だけは存じ上げてます。・・・結婚するんですか?」
「さあ?あの国、事実婚でも特に構わないらしいからそれはどうなのかわからないけど。・・・桃、今、妊活してるんですって。妊活って何すればいいの、プロの方教えてって聞いて来たから笑っちゃったけど。・・・私、長く不妊治療したものだから。・・・辛い時ね、桃にも随分話聞いてもらったんですよ」
結局、体外受精で三人授かったのだと雛が言った。
「・・・桃さん、何か病気なんですか?」
「ほら、昔ね・・・って知らないか。・・・まあ、ちょっとね。・・・まあ何にしても、桃、最初に付き合った男と婚約までしてまとまらなかったでしょ?だからどうにもわけわかんないまま年取って今だから、桃。・・・私は桃に幸せになって欲しいんです・・・」
「私もです」
「桃に弟さんがいてくれて良かった。・・・おじいちゃんもおばあちゃんも亡くなってしまって。お母さんともずっと離れてるし。あっちは新しい家族がいるわけだから。・・・うわ、馬と象出て来た。・・・ウチの子たち夢中だわ。桃も見たら大喜びしそうねえ」
雛は、象が見たいと興奮した息子に引っ張られる様にしてその場を離れた。
空にたなびく赤と金色の旗を持った人間の乗った白馬が6頭独特のリズムで進んでいた。
その後ろには、星や蓮の花のような模様に色とりどりに装飾されてアクセサリーまでつけた象が赤い絨毯の上を歩っているのが見える。
結婚式に対する伝統とか文化とか趣味とか、それは当然わかるが。
正直、ちょっとやりすぎたろうと思う。
なんと現実感が無い程に派手で華やかなパレードだろう。
何だか高熱の時に見るよくわからない悪趣味な夢のようだ。
一体何があったのか。
ホテルに用意されていた部屋で埃っぽさを落とすためにシャワーを済ませた。
階下の庭園では、まだ賑やかなパーティーが繰り広げられていて、室内が静かなくらいだ。
信じがたいが、新郎である友人の一家が、このホテルを丸ごと二週間借り上げたのだ。
結婚式にかける情熱と、持てる財力が桁違いだ。
新婦となった女性は、巨大な宝石を重い程に身につけていた。
クリスマスツリーみたいだったな、と思い出す。
おかげで顔はよく見えなかったけど。
悠はよく冷えたシャンパンを飲み干した。
シャンパンなんて別に好きでも嫌いでもないが、何故だか知らないけれど、部屋にシャンパンしかないのだ。
客達は皆、まるで無いと死ぬかのように飲み干していた。
まず、桃が結婚すると言うのは初耳。
あり得る事ではあったけれど。
相手の男というのは、それは知っている。
桃が祖父を亡くして葬儀で再会した後、あまりにもあっさりと別れたものだから、人を使って長期調べさせていた。
桃と同じ大学で、講師でもあり、桃と親しくしているという事だった。
長く恋人の居ない桃が、久しぶりに交際していていたようだが。
考えてみると、桃は学生の頃、藤枝と短期間交際していた以来は特別親しかった人間は居ないらしい。
確かに、雛が言うように、「最初に付き合った男と婚約までしてまとまらなくて、どうにもわけわかんないまま年取って今」という状況であったと言える。
まあ、正しいのだけど。
女性ってすごい事言うな、と呆れる。
それから、妊活?
その男との間に、子供を持つと言う意味であろうが。
雛が、「昔、ちょっと」と言っていた。
それは一体、何があったのか。
雛の言葉を思い出す。
最初に付き合った男と婚約までしてまとまらなかった。
そのまま年取って今だから。
私は桃に幸せになって欲しいのよ。
このあたりの期間か、と悠は当たりをつけた。
「・・・雛《ひな》さん?」
「え!?びっくりした!・・・桃の弟さん・・・?」
桃の友人の雛だった。
「・・・お久しぶりですね。よく覚えていたこと。・・・結婚式の時、飛行機から何からお花とワインまでありがとうございました。両親もとても喜んだんですよ」
「ああ、いえ。お役立ち頂けたなら良かった。・・・新婦のご友人でしたか。私、新郎側で・・・まあ、まだ会えてないんですが・・・」
「・・・すごい偶然ね。・・・新郎のご親族にご友人、だいぶ多いみたいですもんね」
新郎はインド系で、親類縁者が四百人程いるらしい。
まるでコンサート状態だ。
よって、披露宴パーティーが屋外。
まるで遠い舞台のような場所にいて花だらけに飾られている友人が遠く霞んで見える。
あちこちに金糸のフリンジのついた鮮やかなテントが設営されて、その中でダンスの余興や食事が振る舞われていた。
「・・・これじゃ、夜までに新郎まで辿り着けるかどうか・・・。半分、遭難ですよ」
と言ったのに、雛が吹き出した。
「・・・桃みたいな事言うのね。やっぱり似てるのかも。・・・やだこれ、そんなにいっぱい持って来てぇ」
四歳くらいの男の子が手にいっぱいのお菓子を持って現れた。
「こんにちはして」
雛に言われて、彼はぺこりと頭を下げて、恥ずかしそうに母親の影に隠れる。
「息子さんですか」
「そうなの。・・・聞いて驚け。三兄弟。今から食べ盛りの食費が心配」
「そりゃすごい。うちは、上が女の子、下が男の子です。まだ2歳と1歳だから、食べ盛りはもう少し先かな」
「・・・あなたたちと一緒ね」
桃と悠の事だ。
「・・・そうですね。・・・桃さんとは今も親しくされていますか?」
「なかなか会えないけど、今はネットがあるから、便利ですよね。調度先週話したばかりです」
「そうですか。それは良かったです」
「・・・桃もね。いろいろ考えてるって言ってて。・・・そろそろ、そういうの考えるならラストチャンスな頃だしねえ。今付き合ってる、画家さん?知ってる?」
「・・・はい。お名前だけは存じ上げてます。・・・結婚するんですか?」
「さあ?あの国、事実婚でも特に構わないらしいからそれはどうなのかわからないけど。・・・桃、今、妊活してるんですって。妊活って何すればいいの、プロの方教えてって聞いて来たから笑っちゃったけど。・・・私、長く不妊治療したものだから。・・・辛い時ね、桃にも随分話聞いてもらったんですよ」
結局、体外受精で三人授かったのだと雛が言った。
「・・・桃さん、何か病気なんですか?」
「ほら、昔ね・・・って知らないか。・・・まあ、ちょっとね。・・・まあ何にしても、桃、最初に付き合った男と婚約までしてまとまらなかったでしょ?だからどうにもわけわかんないまま年取って今だから、桃。・・・私は桃に幸せになって欲しいんです・・・」
「私もです」
「桃に弟さんがいてくれて良かった。・・・おじいちゃんもおばあちゃんも亡くなってしまって。お母さんともずっと離れてるし。あっちは新しい家族がいるわけだから。・・・うわ、馬と象出て来た。・・・ウチの子たち夢中だわ。桃も見たら大喜びしそうねえ」
雛は、象が見たいと興奮した息子に引っ張られる様にしてその場を離れた。
空にたなびく赤と金色の旗を持った人間の乗った白馬が6頭独特のリズムで進んでいた。
その後ろには、星や蓮の花のような模様に色とりどりに装飾されてアクセサリーまでつけた象が赤い絨毯の上を歩っているのが見える。
結婚式に対する伝統とか文化とか趣味とか、それは当然わかるが。
正直、ちょっとやりすぎたろうと思う。
なんと現実感が無い程に派手で華やかなパレードだろう。
何だか高熱の時に見るよくわからない悪趣味な夢のようだ。
一体何があったのか。
ホテルに用意されていた部屋で埃っぽさを落とすためにシャワーを済ませた。
階下の庭園では、まだ賑やかなパーティーが繰り広げられていて、室内が静かなくらいだ。
信じがたいが、新郎である友人の一家が、このホテルを丸ごと二週間借り上げたのだ。
結婚式にかける情熱と、持てる財力が桁違いだ。
新婦となった女性は、巨大な宝石を重い程に身につけていた。
クリスマスツリーみたいだったな、と思い出す。
おかげで顔はよく見えなかったけど。
悠はよく冷えたシャンパンを飲み干した。
シャンパンなんて別に好きでも嫌いでもないが、何故だか知らないけれど、部屋にシャンパンしかないのだ。
客達は皆、まるで無いと死ぬかのように飲み干していた。
まず、桃が結婚すると言うのは初耳。
あり得る事ではあったけれど。
相手の男というのは、それは知っている。
桃が祖父を亡くして葬儀で再会した後、あまりにもあっさりと別れたものだから、人を使って長期調べさせていた。
桃と同じ大学で、講師でもあり、桃と親しくしているという事だった。
長く恋人の居ない桃が、久しぶりに交際していていたようだが。
考えてみると、桃は学生の頃、藤枝と短期間交際していた以来は特別親しかった人間は居ないらしい。
確かに、雛が言うように、「最初に付き合った男と婚約までしてまとまらなくて、どうにもわけわかんないまま年取って今」という状況であったと言える。
まあ、正しいのだけど。
女性ってすごい事言うな、と呆れる。
それから、妊活?
その男との間に、子供を持つと言う意味であろうが。
雛が、「昔、ちょっと」と言っていた。
それは一体、何があったのか。
雛の言葉を思い出す。
最初に付き合った男と婚約までしてまとまらなかった。
そのまま年取って今だから。
私は桃に幸せになって欲しいのよ。
このあたりの期間か、と悠は当たりをつけた。
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