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47.密室の悪事
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翌日、桃は会社で北海道の土産をあれこれ配ると同僚達はとても喜び、更には新しい銘菓情報までたくさん提供してくれた。
桃は昼休みちょっと前に、発泡スチロールの箱を抱えて、公太郎の部屋へと向かった。
秘書の女性二人にお土産ですとお菓子を渡すと、二人はこれ大好きと言って歓声をあげた。
桃とは結構親しくなり、たまに一緒にランチに行く事もあった。
しかし、どのお菓子を誰に渡しても、皆、これ美味しい、大好きと言う様な反応。
北海道のお菓子の知名度には驚くばかり。
「・・・失礼します。・・・本部長よろしいですか?」
公太郎は、やっと来たか、と言って桃を招き入れた。
待ち焦がれた、と言う表情に、桃は苦笑した。
桃は公太郎に、瞬間調光ガラスをスモークにしろと手で示した。
公太郎がスイッチを入れると、すぐにガラスが全て曇りガラスのようになって周囲から遮断された。
桃は公太郎に近づき、ちょっと緊張したような顔をして、静かに、と指を唇に当てた。
それから少し間を置いて、悠もまた公太郎の部屋を訪れていた。
「・・・失礼します。藤枝本部長のところにオルソン博士が来ていると伺ったのですがいらしてますか?」
若き常務の来訪に、桃から受け取った焼き菓子を頬張って居た秘書達が色めきたって立ち上がった。
「・・・いらしています。でも、今はミーティング中らしくて・・・」
困ったように、瞬間調光ガラスで遮断された部屋を示す。
桃が来ている時、密室状態になっているのは珍しい。
余程、切羽詰まった話なのかもしれない。
「常務、申し訳ありません。終わり次第オルソン博士にお伝えいたしますので・・・」
「・・・ああ、大丈夫です。了承してますから」
悠がさも当然、と言う顔で微笑んだ。
二人の秘書はすっかり丸め込まれてしまったように少し浮き足だった様子で微笑み返した。
「・・・そうでしたか。では、どうぞ」
「ちょっと込み入った話なので。嬉しいけれど、コーヒーは結構です。いつもありがとうございます」
そう言われて、秘書達は嬉しそうに頷いた。
悠は、「失礼します」と言いながら同時にドアを開けた。
向かい合って居た公太郎と桃が驚いたように振り返った。
二人は気まずそうに悠を見上げた。
「・・・ドア、閉めてください」
桃に言われて、悠が慌ててドアをしめた。
「・・・桃、やっぱり隠れて悪い事は出来ないな・・・」
「自分が言ったくせに・・・」
テーブルの上には、大量のイクラが乗った丼が2つ。
「・・・常務もどうですか?うまいですよ」
「良かったら、どうぞ。お嫌いじゃなければ」
桃が、紙の丼を取り出して、タッパーからご飯とイクラをよそって悠に手渡した。
突然のイクラ丼大会になってしまった。
「・・・すごいうまいですね・・・・」
驚きを持って悠は言った。
赤い宝石のようなイクラ。
これがとんでもなく味がいい。
そして、鮭と炊き込まれたご飯がまたうまい。
「いや、やっぱ本場は違いますよね。イクラの醤油漬け、これ味付けもいいわ」
「この人、今日から出張だから持って来いって言うんですよ」
「・・・桃さん、これ、鮭入れたんですか?」
「はらこ飯っていうのよね。鮭の身とお出汁でご飯炊いて、その上にイクラの醤油漬け乗っけるの。・・・昨日、2キロ筋子ほぐして醤油とお酒に漬けたんですけど。出張から戻るの、来週っていうから・・・」
公太郎にみりんの面倒を見てもらうのでお土産は何がいいかと聞いたら、イクラと言われたのだ。
「タイミングが悪くてですね。・・・生物だし、二週間は無理でしょう?・・・だから、出発する前の昼のうちに食っちゃおうと思って。・・・ああ、来月検診なんだけどもういいや・・・」
「タラバ蟹も買ってあるし、トウモロコシ予約してきちゃった」
「タラバは冷凍のままにしといて。後で食う!」
「・・・冷凍庫に何も入らないんですけど・・・。素材がおいしいってすごいですよね。・・・バターとチーズと干し鱈とジャガ芋買ってきたから、ブランダードとグラタン楽しみ・・・」
「・・・あれうまいよな。それも食う」
どうせ出張先でもあれこれ食ってしまうのだし、と公太郎はもう節制を諦めた。
コルステロールと血圧、それに尿酸値は、今年の検診でも高い値を叩き出しそうだ。
悠《はるか》が顔を上げた。
「・・・本部長、どちらに出張ですか?」
「ハノイです。二週間ですね」
「・・・台風が来てると聞きましたけど・・・」
「そうなんですよ。飛行機、飛ぶだろうけど、降りれるもんだか・・・」
そう言いながら、公太郎は、二杯目のイクラ丼を要求した。
桃は空になったタッパーを入れた保冷バッグを抱えて、悠と廊下を歩っていた。
最近では、悠は公太郎と親しくしていると知られて来て、その部下である桃と一緒にいてもそう不思議に思われなくなって来た。
「・・・お米3合とイクラが2キロ。結構、食べましたね。ハム・・・藤枝さん、魚卵好物なんですよ。だからコルステロールが高いんでしょうね」
「美味しかったです。・・・桃さん」
「はい?」
「私も、グラタン食べたいです」
悠が真剣な顔でそう言った。
桃は昼休みちょっと前に、発泡スチロールの箱を抱えて、公太郎の部屋へと向かった。
秘書の女性二人にお土産ですとお菓子を渡すと、二人はこれ大好きと言って歓声をあげた。
桃とは結構親しくなり、たまに一緒にランチに行く事もあった。
しかし、どのお菓子を誰に渡しても、皆、これ美味しい、大好きと言う様な反応。
北海道のお菓子の知名度には驚くばかり。
「・・・失礼します。・・・本部長よろしいですか?」
公太郎は、やっと来たか、と言って桃を招き入れた。
待ち焦がれた、と言う表情に、桃は苦笑した。
桃は公太郎に、瞬間調光ガラスをスモークにしろと手で示した。
公太郎がスイッチを入れると、すぐにガラスが全て曇りガラスのようになって周囲から遮断された。
桃は公太郎に近づき、ちょっと緊張したような顔をして、静かに、と指を唇に当てた。
それから少し間を置いて、悠もまた公太郎の部屋を訪れていた。
「・・・失礼します。藤枝本部長のところにオルソン博士が来ていると伺ったのですがいらしてますか?」
若き常務の来訪に、桃から受け取った焼き菓子を頬張って居た秘書達が色めきたって立ち上がった。
「・・・いらしています。でも、今はミーティング中らしくて・・・」
困ったように、瞬間調光ガラスで遮断された部屋を示す。
桃が来ている時、密室状態になっているのは珍しい。
余程、切羽詰まった話なのかもしれない。
「常務、申し訳ありません。終わり次第オルソン博士にお伝えいたしますので・・・」
「・・・ああ、大丈夫です。了承してますから」
悠がさも当然、と言う顔で微笑んだ。
二人の秘書はすっかり丸め込まれてしまったように少し浮き足だった様子で微笑み返した。
「・・・そうでしたか。では、どうぞ」
「ちょっと込み入った話なので。嬉しいけれど、コーヒーは結構です。いつもありがとうございます」
そう言われて、秘書達は嬉しそうに頷いた。
悠は、「失礼します」と言いながら同時にドアを開けた。
向かい合って居た公太郎と桃が驚いたように振り返った。
二人は気まずそうに悠を見上げた。
「・・・ドア、閉めてください」
桃に言われて、悠が慌ててドアをしめた。
「・・・桃、やっぱり隠れて悪い事は出来ないな・・・」
「自分が言ったくせに・・・」
テーブルの上には、大量のイクラが乗った丼が2つ。
「・・・常務もどうですか?うまいですよ」
「良かったら、どうぞ。お嫌いじゃなければ」
桃が、紙の丼を取り出して、タッパーからご飯とイクラをよそって悠に手渡した。
突然のイクラ丼大会になってしまった。
「・・・すごいうまいですね・・・・」
驚きを持って悠は言った。
赤い宝石のようなイクラ。
これがとんでもなく味がいい。
そして、鮭と炊き込まれたご飯がまたうまい。
「いや、やっぱ本場は違いますよね。イクラの醤油漬け、これ味付けもいいわ」
「この人、今日から出張だから持って来いって言うんですよ」
「・・・桃さん、これ、鮭入れたんですか?」
「はらこ飯っていうのよね。鮭の身とお出汁でご飯炊いて、その上にイクラの醤油漬け乗っけるの。・・・昨日、2キロ筋子ほぐして醤油とお酒に漬けたんですけど。出張から戻るの、来週っていうから・・・」
公太郎にみりんの面倒を見てもらうのでお土産は何がいいかと聞いたら、イクラと言われたのだ。
「タイミングが悪くてですね。・・・生物だし、二週間は無理でしょう?・・・だから、出発する前の昼のうちに食っちゃおうと思って。・・・ああ、来月検診なんだけどもういいや・・・」
「タラバ蟹も買ってあるし、トウモロコシ予約してきちゃった」
「タラバは冷凍のままにしといて。後で食う!」
「・・・冷凍庫に何も入らないんですけど・・・。素材がおいしいってすごいですよね。・・・バターとチーズと干し鱈とジャガ芋買ってきたから、ブランダードとグラタン楽しみ・・・」
「・・・あれうまいよな。それも食う」
どうせ出張先でもあれこれ食ってしまうのだし、と公太郎はもう節制を諦めた。
コルステロールと血圧、それに尿酸値は、今年の検診でも高い値を叩き出しそうだ。
悠《はるか》が顔を上げた。
「・・・本部長、どちらに出張ですか?」
「ハノイです。二週間ですね」
「・・・台風が来てると聞きましたけど・・・」
「そうなんですよ。飛行機、飛ぶだろうけど、降りれるもんだか・・・」
そう言いながら、公太郎は、二杯目のイクラ丼を要求した。
桃は空になったタッパーを入れた保冷バッグを抱えて、悠と廊下を歩っていた。
最近では、悠は公太郎と親しくしていると知られて来て、その部下である桃と一緒にいてもそう不思議に思われなくなって来た。
「・・・お米3合とイクラが2キロ。結構、食べましたね。ハム・・・藤枝さん、魚卵好物なんですよ。だからコルステロールが高いんでしょうね」
「美味しかったです。・・・桃さん」
「はい?」
「私も、グラタン食べたいです」
悠が真剣な顔でそう言った。
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