45 / 86
2.
45.アイリスとヒヤシンス、それからピオニー
しおりを挟む
悠は、夕方過ぎに、公太郎のオフィスを訪れた。
最近、よく来る悠は公太郎のチームのモチベーションになりつつある。
悠は、コーヒーを出そうとした様子の秘書に、すぐ失礼しますのでお気遣いなく、と言って微笑んだ。
「・・・藤枝本部長、桃さんはいらっしゃいますか?」
「これは常務。桃ならさっき、帰りましたよ」
「・・・早いですね。桃さんの部屋に行ったら、ご不在で。こちらじゃないかとお伺いいしたんですが・・・」
いつもは遅くまで残務整理しているのに。
「友達の結婚式だそうで早退です。これから北海道に行くそうで。週明けには山のように菓子箱抱えて出勤して来ますよ」
同僚たちからお勧めの銘菓を聞いてあれこれメモしていたから。
公太郎は、その間の猫の餌やりを言いつかっていた。
「急ぎですか?」
「いえ、そうでもないんです。わかりました。ありがとうございます」
悠はそう言うと、その場を後にした。
桃は大きなキャリーバッグを引っ張りながらエントランスを出ようとした時に、悠に声をかけられた。
「桃さん」
「・・・悠さん・・・・何かありましたか?」
「・・・いえ、これから遠出されるとか・・・?」
「そうなんです。友達の結婚式のお招ばれで札幌に行くんです」
友人の雛から招待されて、初めて北海道に行く。
新郎が北海道出身で、札幌で結婚式と披露宴、新婚旅行後、雛の地元でまた大きめの食事会という計画になっていた。
桃はどちらにも招待されていた。
今回は一緒に前泊する事になっている。
「大学のご友人ですか?私も知っている方ですか?」
「ああ、いえ、幼馴染なんです。・・・あ、来た。お嫁さんです」
桃が手を振ったのに、振り返した女性が近づいて来た。
「ごめんね、間に合った!・・・桃、こちらは・・・?」
「・・・ええと、小松川悠さん。・・・私の、・・・弟なの」
誰かに弟だと紹介したのは初めてで、言わない方が良かったかと桃は少し緊張した。
大体の事を察した雛が、会釈をした。
「・・・初めまして。南澤雛です。桃さんとは小学校の時からの友達なんです」
「そうでしたか。小松川です。この度はおめでとうございます」
「ありがとうございます。・・・桃、すごい荷物。・・・あ、ごめん。着物、ホテルに発送すればよかったね。気づかなかった・・・」
明日は新郎側の出席者ばかりなので、心細いと言うのもあって、会場が華やかになるからと桃には振袖を着て欲しいと頼んでいたのだ。
雛が桃の大荷物を見て謝った。
「いいの。持てるもの。でも、あとトレッキングするんでしょ?そのグッズ買ってきたの」
新郎新婦とトレッキングに行く事になっていたのだ。
「でもキャンプじゃないのよ?・・・あ、早くしなきゃ」
桃は頷いた。
「羽田ですか?だったら、お送りしますよ。桃さん、これ持って行くのは大変です」
「まだお仕事のお時間ですから。大丈夫です」
「桃さんも大荷物だけど、結婚式で花嫁になる方に何かあったら大変ですから。どうぞ」
そう言って、悠は車を回してくると言って出て行った。
悠のおかげで、余裕を持って空港に到着した。
鉄道の遅延があったらしく、正直、助かった。
その上、有料の会員制ラウンジの利用ができるように手配をしてくれて、これから結婚式の予定の新婦が居ると伝えていたらしく、シャンパンとブーケが用意されていて雛は感激していた。
「・・・すごい・・・何者よ・・・気が利くわね。爽やかだし」
「ねえ・・・すごいよね・・・」
桃は、黙ってアイスクリームを食べていた。
「・・・桃、今、お父さんの会社で働いてるって聞いてたけど。弟もなの?」
「最近ね。・・・私、早く実績出して、大学戻らなきゃなんだけど・・・」
「・・・まあ、気を使うよねぇ・・・」
普通の父娘や姉弟では無いし。
「・・・あとね。直属の上司が・・・ほら、藤枝さん、なのね・・・」
「藤枝ぁ・・・?って、前の・・・?」
「うん。・・・偶然なんだけど。まあ、同業転職したみたい」
「・・・うわあ・・・。それはちょっとね」
「結婚して離婚したみたいだし。今更どうにかなるかと言ったらそんなことはもうないんだけど・・・出張の時、猫の世話とか・・・あと、大家さんが結構おばあちゃんで足が悪いのね、だから心配な時は猫と一緒に様子見に行ってもらったり、助かっては居るんだけど・・・」
「・・・待って待って・・・。今も、付き合いって言うか、行き来してるの?」
「猫、居るからね。他に頼める人居ないし」
「あー、生き物いるとねえ・・・」
更に、なぜか悠は最近、公太郎のオフィスによく現れるようになって、チームのモチベーションになりつつある。
公太郎のチームには贅沢なことに若く可愛らしい秘書が二人いるのだが、悠が来るた度にどちらがコーヒーを出すかでジャンケンをしていたくらいだ。
桃は、たまに、思ってしまう。
どちらが、消えてしまったあの子の父親だったのだろう、と。
ほんの少しちらりと思う時がある。
言えないけれど。
考えても仕方ないこと。
でも、あの時の子がもし生まれて居たら何歳だろうとか、今どうして居ただろうと考えてしまう時もある。
更に驚いたことに、航空券がビジネスクラスに変更されていた。
恐縮しきりの雛であったが、飛行機に乗り込み、たっぷりとした座席に座ってしまうと、実は準備と緊張で寝不足気味だったから助かったと笑った。
披露宴会場にはアレンジ花と新郎新婦の誕生年のワインが両家宛に届いていて、新郎新婦とその両親は大感激。
悠はすっかり株を上げたようだ。
会場の一角で、紫色と薄青、それにピンクの花々がまるで微笑むように咲き、祝福するかのようであった。
雛はそのフラワースタンドの前で早速一緒に写真を撮ろうと桃を誘った。
まだドレスにも着替えていないのに、よほど嬉しかったらしい。
「きれいね!アイリスと・・・ヒヤシンスって珍しい。それから・・・これボタン?」
「・・・シャクヤクね。どっちもピオニーだけど・・・」
桃は、悠から届けられたその美しく仕立てられた飾り花を前に、戸惑ってしまっていた。
最近、よく来る悠は公太郎のチームのモチベーションになりつつある。
悠は、コーヒーを出そうとした様子の秘書に、すぐ失礼しますのでお気遣いなく、と言って微笑んだ。
「・・・藤枝本部長、桃さんはいらっしゃいますか?」
「これは常務。桃ならさっき、帰りましたよ」
「・・・早いですね。桃さんの部屋に行ったら、ご不在で。こちらじゃないかとお伺いいしたんですが・・・」
いつもは遅くまで残務整理しているのに。
「友達の結婚式だそうで早退です。これから北海道に行くそうで。週明けには山のように菓子箱抱えて出勤して来ますよ」
同僚たちからお勧めの銘菓を聞いてあれこれメモしていたから。
公太郎は、その間の猫の餌やりを言いつかっていた。
「急ぎですか?」
「いえ、そうでもないんです。わかりました。ありがとうございます」
悠はそう言うと、その場を後にした。
桃は大きなキャリーバッグを引っ張りながらエントランスを出ようとした時に、悠に声をかけられた。
「桃さん」
「・・・悠さん・・・・何かありましたか?」
「・・・いえ、これから遠出されるとか・・・?」
「そうなんです。友達の結婚式のお招ばれで札幌に行くんです」
友人の雛から招待されて、初めて北海道に行く。
新郎が北海道出身で、札幌で結婚式と披露宴、新婚旅行後、雛の地元でまた大きめの食事会という計画になっていた。
桃はどちらにも招待されていた。
今回は一緒に前泊する事になっている。
「大学のご友人ですか?私も知っている方ですか?」
「ああ、いえ、幼馴染なんです。・・・あ、来た。お嫁さんです」
桃が手を振ったのに、振り返した女性が近づいて来た。
「ごめんね、間に合った!・・・桃、こちらは・・・?」
「・・・ええと、小松川悠さん。・・・私の、・・・弟なの」
誰かに弟だと紹介したのは初めてで、言わない方が良かったかと桃は少し緊張した。
大体の事を察した雛が、会釈をした。
「・・・初めまして。南澤雛です。桃さんとは小学校の時からの友達なんです」
「そうでしたか。小松川です。この度はおめでとうございます」
「ありがとうございます。・・・桃、すごい荷物。・・・あ、ごめん。着物、ホテルに発送すればよかったね。気づかなかった・・・」
明日は新郎側の出席者ばかりなので、心細いと言うのもあって、会場が華やかになるからと桃には振袖を着て欲しいと頼んでいたのだ。
雛が桃の大荷物を見て謝った。
「いいの。持てるもの。でも、あとトレッキングするんでしょ?そのグッズ買ってきたの」
新郎新婦とトレッキングに行く事になっていたのだ。
「でもキャンプじゃないのよ?・・・あ、早くしなきゃ」
桃は頷いた。
「羽田ですか?だったら、お送りしますよ。桃さん、これ持って行くのは大変です」
「まだお仕事のお時間ですから。大丈夫です」
「桃さんも大荷物だけど、結婚式で花嫁になる方に何かあったら大変ですから。どうぞ」
そう言って、悠は車を回してくると言って出て行った。
悠のおかげで、余裕を持って空港に到着した。
鉄道の遅延があったらしく、正直、助かった。
その上、有料の会員制ラウンジの利用ができるように手配をしてくれて、これから結婚式の予定の新婦が居ると伝えていたらしく、シャンパンとブーケが用意されていて雛は感激していた。
「・・・すごい・・・何者よ・・・気が利くわね。爽やかだし」
「ねえ・・・すごいよね・・・」
桃は、黙ってアイスクリームを食べていた。
「・・・桃、今、お父さんの会社で働いてるって聞いてたけど。弟もなの?」
「最近ね。・・・私、早く実績出して、大学戻らなきゃなんだけど・・・」
「・・・まあ、気を使うよねぇ・・・」
普通の父娘や姉弟では無いし。
「・・・あとね。直属の上司が・・・ほら、藤枝さん、なのね・・・」
「藤枝ぁ・・・?って、前の・・・?」
「うん。・・・偶然なんだけど。まあ、同業転職したみたい」
「・・・うわあ・・・。それはちょっとね」
「結婚して離婚したみたいだし。今更どうにかなるかと言ったらそんなことはもうないんだけど・・・出張の時、猫の世話とか・・・あと、大家さんが結構おばあちゃんで足が悪いのね、だから心配な時は猫と一緒に様子見に行ってもらったり、助かっては居るんだけど・・・」
「・・・待って待って・・・。今も、付き合いって言うか、行き来してるの?」
「猫、居るからね。他に頼める人居ないし」
「あー、生き物いるとねえ・・・」
更に、なぜか悠は最近、公太郎のオフィスによく現れるようになって、チームのモチベーションになりつつある。
公太郎のチームには贅沢なことに若く可愛らしい秘書が二人いるのだが、悠が来るた度にどちらがコーヒーを出すかでジャンケンをしていたくらいだ。
桃は、たまに、思ってしまう。
どちらが、消えてしまったあの子の父親だったのだろう、と。
ほんの少しちらりと思う時がある。
言えないけれど。
考えても仕方ないこと。
でも、あの時の子がもし生まれて居たら何歳だろうとか、今どうして居ただろうと考えてしまう時もある。
更に驚いたことに、航空券がビジネスクラスに変更されていた。
恐縮しきりの雛であったが、飛行機に乗り込み、たっぷりとした座席に座ってしまうと、実は準備と緊張で寝不足気味だったから助かったと笑った。
披露宴会場にはアレンジ花と新郎新婦の誕生年のワインが両家宛に届いていて、新郎新婦とその両親は大感激。
悠はすっかり株を上げたようだ。
会場の一角で、紫色と薄青、それにピンクの花々がまるで微笑むように咲き、祝福するかのようであった。
雛はそのフラワースタンドの前で早速一緒に写真を撮ろうと桃を誘った。
まだドレスにも着替えていないのに、よほど嬉しかったらしい。
「きれいね!アイリスと・・・ヒヤシンスって珍しい。それから・・・これボタン?」
「・・・シャクヤクね。どっちもピオニーだけど・・・」
桃は、悠から届けられたその美しく仕立てられた飾り花を前に、戸惑ってしまっていた。
1
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる