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23.水底に沈む ⌘R
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明かりを落とした部屋は降り出した雪が音を消して、密室というより水底のようだった。
日本建築というのは、建築学や、その技術的な点から言えば木造建築の技巧性の高さが挙げられるけれど、芸術的、思想的な観点から言えば、その陰影が絶妙なのだと祖父が言っていた。
茶道の心得がある祖母からも、障子から透過する光、あれが日本の本来の明かりという考え方なのだと教わっていた。
部屋の照度も温度も湿度も一定。
一つの完成された世界観。
心地よいけれど、少し先が見えなくて、ほんの少し息苦しい。
けれど、脳が感覚全てを拾うようで心地良い。
「・・・金魚鉢とか、水槽の中にいるみたい・・・」
「ああ、じゃあやっぱり、桃さんは金魚だ」
悠は、ベッドの足元の低めのたっぷりとした革張りのオットマンに桃を座らせた。
桃はまじまじと悠の顔を見ていた。
あんまり、似ていない。
当たり前だけど。
赤い金魚と黒い金魚よりは似ているはずなんだけれど。
「桃さん、保真智さんと、こういうことたくさんしたんですか?」
「・・・そういうのって、詳しく聞きたいものなの?」
「・・・いや、まあ・・・」
「どうして?・・・悠さんが、興奮するから?」
悠が驚いたような顔をしたのに、桃は誘うように微笑んで頷いた。
悠は、その答えに熾火が燃え上がるような昂りを覚えた。
嫉妬を土台にした僻《ひが》みや、今、自分に桃が自身を与えていると言う悦びと、欲望、暗い優越感。
けれど、どんな時もそうであるが、彼は外見にはそうは見えない。
フラットで、ニュートラル。
けれど、決してそうではない。
不思議な余裕を感じさせる桃の様子に、彼女と保真智との行為を想像させて、悠は暗い嫉妬を感じた。
桃はおそらく、この瞬間も、自分と保真智を比べているのだろう。
悠は、低く跪いて桃の冷たい爪先に唇を寄せた。
桃が足を引こうとしたのを手で抑えて悠は更に内腿に唇を這わせた。
体の中でも一番甘く肌理が細かく、薄い皮膚。
桃の体の中に一番近い箇所。
ヨーロッパで焼き菓子によく使うアニスの匂いに近い甘さを含んだ匂い。
この甘さはリコリスの甘味に近い。
桃は戸惑うように体を引いたが、悠の舌が這わされ、淡く滲む蜜を吸われてしまうと、もう拒否はしなかった。
詰めていた息を吐き、ほんの少し高く声を噛んだのに、悠はのぼせ上がる程に尽くしたいと感じた。
甘く脚を開き、もっと、とせがむ桃に、悠は陶酔を覚えた。
自分は重いだろうからと、悠は桃を抱き上げて座らせた。
桃は、柔らかくしなる体を預けてしまうと、悠の頬に触れて、不思議そうな顔で悠の顔を覗き込んでいた。
榛色の瞳が、少し濃い緑色に見える。
こういった色味の虹彩は、体調や気分で、多少色が変化するそうだ。
では、桃は、今、どんな気分なのだろう。
自分の中の何を見ようとしているのか、自分を明け渡してしまいたくなるほどの魅力だった。
二人は抱き合ってお互いの唇を味わった。
桃の口の中は、温度が低く、悠は長い間の渇きが満たされるように感じた。
「・・・最初からこのつもりだったの?」
桃がそう問いかけると、悠が少し照れたように頷いた。
「そう」
桃が頷いた。
ああ、ならばやっぱり、この場所は悠が用意した自分の為の水槽か。
水底にいるような気分で、桃は悠の首に腕を絡めた。
日本建築というのは、建築学や、その技術的な点から言えば木造建築の技巧性の高さが挙げられるけれど、芸術的、思想的な観点から言えば、その陰影が絶妙なのだと祖父が言っていた。
茶道の心得がある祖母からも、障子から透過する光、あれが日本の本来の明かりという考え方なのだと教わっていた。
部屋の照度も温度も湿度も一定。
一つの完成された世界観。
心地よいけれど、少し先が見えなくて、ほんの少し息苦しい。
けれど、脳が感覚全てを拾うようで心地良い。
「・・・金魚鉢とか、水槽の中にいるみたい・・・」
「ああ、じゃあやっぱり、桃さんは金魚だ」
悠は、ベッドの足元の低めのたっぷりとした革張りのオットマンに桃を座らせた。
桃はまじまじと悠の顔を見ていた。
あんまり、似ていない。
当たり前だけど。
赤い金魚と黒い金魚よりは似ているはずなんだけれど。
「桃さん、保真智さんと、こういうことたくさんしたんですか?」
「・・・そういうのって、詳しく聞きたいものなの?」
「・・・いや、まあ・・・」
「どうして?・・・悠さんが、興奮するから?」
悠が驚いたような顔をしたのに、桃は誘うように微笑んで頷いた。
悠は、その答えに熾火が燃え上がるような昂りを覚えた。
嫉妬を土台にした僻《ひが》みや、今、自分に桃が自身を与えていると言う悦びと、欲望、暗い優越感。
けれど、どんな時もそうであるが、彼は外見にはそうは見えない。
フラットで、ニュートラル。
けれど、決してそうではない。
不思議な余裕を感じさせる桃の様子に、彼女と保真智との行為を想像させて、悠は暗い嫉妬を感じた。
桃はおそらく、この瞬間も、自分と保真智を比べているのだろう。
悠は、低く跪いて桃の冷たい爪先に唇を寄せた。
桃が足を引こうとしたのを手で抑えて悠は更に内腿に唇を這わせた。
体の中でも一番甘く肌理が細かく、薄い皮膚。
桃の体の中に一番近い箇所。
ヨーロッパで焼き菓子によく使うアニスの匂いに近い甘さを含んだ匂い。
この甘さはリコリスの甘味に近い。
桃は戸惑うように体を引いたが、悠の舌が這わされ、淡く滲む蜜を吸われてしまうと、もう拒否はしなかった。
詰めていた息を吐き、ほんの少し高く声を噛んだのに、悠はのぼせ上がる程に尽くしたいと感じた。
甘く脚を開き、もっと、とせがむ桃に、悠は陶酔を覚えた。
自分は重いだろうからと、悠は桃を抱き上げて座らせた。
桃は、柔らかくしなる体を預けてしまうと、悠の頬に触れて、不思議そうな顔で悠の顔を覗き込んでいた。
榛色の瞳が、少し濃い緑色に見える。
こういった色味の虹彩は、体調や気分で、多少色が変化するそうだ。
では、桃は、今、どんな気分なのだろう。
自分の中の何を見ようとしているのか、自分を明け渡してしまいたくなるほどの魅力だった。
二人は抱き合ってお互いの唇を味わった。
桃の口の中は、温度が低く、悠は長い間の渇きが満たされるように感じた。
「・・・最初からこのつもりだったの?」
桃がそう問いかけると、悠が少し照れたように頷いた。
「そう」
桃が頷いた。
ああ、ならばやっぱり、この場所は悠が用意した自分の為の水槽か。
水底にいるような気分で、桃は悠の首に腕を絡めた。
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