金魚の記憶

ましら佳

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7.ひとひらの罪

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 桃は、最近馴染みになった卸売りの店とコンビニから帰宅すると、寄ってきた黒猫に猫用ミルクを与えて、自分も冷たいレモンティーを飲んだ。
とりあえず、明日には自宅に戻る予定。
「・・・すっかり世話になっちゃったねぇ、私もアンタも」
社内医の月子から言われて改めて病院受診もしたし、自宅の給湯器は新しくなったし。
「猫おばあちゃん、最新式のにしてくれるって言ってた。お湯が沸いたらしゃべるやつかな?」
猫と会話するのも慣れたものだ。
大家の猫多頭飼いの彼女も、よく1人で喋っているから、猫が居ると皆そうなのだろう。
口座から下ろしてきた少しまとまった金額を封筒に入れる。
はるかに取ったら瑣末な金額であろうけど、忙しい立場の人だから、自分のことで時間を取らせた事がやはり心苦しかった。
ああいう、爽やかイケメンがモテの主流らしい。
同僚の女性が、身近な推し活に耐える存在がいかに貴重かと話していた。
確かに、爽やか、とはなんと相応しい表現か。
最後に会ったのは、いつだったか。


成長した母親違いの弟に同じ大学で再会して驚いた。
こっちはほとんど覚えていなかったけれど、当時、たまに非常勤講師として大学に来ていた祖父が彼に気付いたのだ。
両親も同窓であるし、いろいろ複雑な人生を抱えているけど、やはり皆教え子だと思うと祖父は嬉しそうだった。


そのあと、色々あって。
自分はスウェーデンの大学に入り直した。
祖母が亡くなって、祖父がスウェーデンに帰国していたし、何より。
自分は逃げたのだ。
まずは、婚約者から。
公太郎から。
何より、悠から。
そして彼の家族から。
それなのに。
やはり、やはり、中途半端に逃げたからだろうか。
また、因縁のように、一片一片《ひとひらひとひら》、まわりに配置されるような奇妙さと、罪悪感。
ほら、あの時、逃げたからだ、と。
ため息をついてから、桃は黒猫を抱き上げた。
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