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6.エディブルフラワー
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悠は、藤枝のオフィスで、桃に持たされた包みを手渡した。
桃は現在、有給消化5日目、そして明日は土曜日。
つまり一週間丸ごと休みという事で、申し訳なく思った桃がお詫びの品を届けさせたのだ。
「・・・今時、休むのそんな気にしなくていいのになあ。・・・桃、福祉国家の血が薄味だからなあ」
冗談とも本気ともつかない様子で公太郎が言った。
「桃さんは働いて無いと不安らしいですから。しかもテレワーク懐疑派。ホワイト企業の才能が無いと言ってました」
会社に行けないとなると、一日中何か調べ物をしていて、夜中まで大学に提出する仕事をしていたと思ったら、合間に何か焼き菓子を山のように焼いていたりするのだ。
桃はパティシエの友人がいるらしく、子供の頃に二人でよくお菓子を作っていたのだと言っていた。
友人の彼女は国家資格を持っているらしく、直伝のレシピは確かなもの。
「・・・それで、これですか」
バターと砂糖とバニラの匂いに誘われて箱を開けると、貝の形のマドレーヌが並んでいた。
「・・・あー、すごいんですよ、これ。砂糖もバターも1キロくらい入ってるんです」
「・・・そうなんですか・・・?」
砂糖と油脂の塊だと言われ、さすがに悠が慄いた。
すでに昨晩から10個は食べている。
「・・・いやあー、この年になると・・・血糖値とコルステロールがなあ・・・」
と言いながらも、公太郎はうまそうにマドレーヌを頬張った。
社内の人間の場合、基本的にセルフなのであるが、秘書がアイスコーヒーを運んできた。
悠目当てなのが丸わかりで、公太郎が苦笑した。
彼自身も自覚はあるらしいが、フラットな態度と感情で、好意を寄せられるのは慣れているのだと感じて、公太郎は、さすがともやはりとも思った。
「まあ、桃・・・、オルソン博士の体調も良くなったようで安心しました。・・・みりんちゃんも救援してくれたそうで、ありがとうございます」
桃から悠の家に数日、飼い猫と共に数日お世話になっていると言う連絡が来て、驚きつつも心配していたのだ。
この二人は、確かに姉弟であるけれど、なかなか複雑な背景だから。
「・・・ご心配無く。すっかり慣れてくれて、今は暗闇にいてたまに驚きます」
そうですか、と公太郎は笑った。
「桃さんが食事を作ってくれるんですけど、ズッキーニの花なんて初めて食べました」
可食用花です、大丈夫、食べれるんだから、と言っていた。
買い物に出たら、卸しの八百屋を見つけて、売ってもらったそうだ。
「あー、桃、花食うんですよね。よくある、桜湯とか、あんなレベルじゃなくて、オクラとか、サボテンの花とかムシャムシャ食っててびっくりしましたよ」
藤枝があんな花食うなんて冗談みたいだと笑った。
「あとほら、桃の飯、甘いものが必ずつきますよね。さっきまで腹一杯飯食ってて、今度はケーキ食べ始める」
「ああ、確かにそうですね」
初日に悠が作った和食の食事を食べてから、何だか寂しそうにしていて、何か食べますかと聞いたら、何か甘いもの、和食だから果物とか、と言われて戸惑った。
男の一人暮らしに、果物なんて日常的にある方が珍しいのでは無いか。
桃は、思い出したと言って、バックから救援物資に貰ったお菓子を出して来て、嬉しそうに食べていた。
「・・・なんだっけな?やたら凝った、りんご煮たやつもとかよく作ってたっけな。忘れたけど、あれうまいんですよね」
「・・・フランス居たころに習ったらしいですよ」
悠は改めて、公太郎を見た。
「・・・藤枝本部長。桃さんとどういう関係なんですか?交際をされていた?または今後その予定なんですか?」
率直に聞かれて、公太郎は驚いた。
こんな風に他人のプライベートに話を切り込んでくるタイプではなかろう。
身内となれば、気になるのは当然か、と公太郎は思い直した。
「・・・いや、それはないだろうなあ。・・・俺達、二度も家族になり損ねちまいましたからね」
悠が不思議、いっそ不審そうな顔をした。
桃は現在、有給消化5日目、そして明日は土曜日。
つまり一週間丸ごと休みという事で、申し訳なく思った桃がお詫びの品を届けさせたのだ。
「・・・今時、休むのそんな気にしなくていいのになあ。・・・桃、福祉国家の血が薄味だからなあ」
冗談とも本気ともつかない様子で公太郎が言った。
「桃さんは働いて無いと不安らしいですから。しかもテレワーク懐疑派。ホワイト企業の才能が無いと言ってました」
会社に行けないとなると、一日中何か調べ物をしていて、夜中まで大学に提出する仕事をしていたと思ったら、合間に何か焼き菓子を山のように焼いていたりするのだ。
桃はパティシエの友人がいるらしく、子供の頃に二人でよくお菓子を作っていたのだと言っていた。
友人の彼女は国家資格を持っているらしく、直伝のレシピは確かなもの。
「・・・それで、これですか」
バターと砂糖とバニラの匂いに誘われて箱を開けると、貝の形のマドレーヌが並んでいた。
「・・・あー、すごいんですよ、これ。砂糖もバターも1キロくらい入ってるんです」
「・・・そうなんですか・・・?」
砂糖と油脂の塊だと言われ、さすがに悠が慄いた。
すでに昨晩から10個は食べている。
「・・・いやあー、この年になると・・・血糖値とコルステロールがなあ・・・」
と言いながらも、公太郎はうまそうにマドレーヌを頬張った。
社内の人間の場合、基本的にセルフなのであるが、秘書がアイスコーヒーを運んできた。
悠目当てなのが丸わかりで、公太郎が苦笑した。
彼自身も自覚はあるらしいが、フラットな態度と感情で、好意を寄せられるのは慣れているのだと感じて、公太郎は、さすがともやはりとも思った。
「まあ、桃・・・、オルソン博士の体調も良くなったようで安心しました。・・・みりんちゃんも救援してくれたそうで、ありがとうございます」
桃から悠の家に数日、飼い猫と共に数日お世話になっていると言う連絡が来て、驚きつつも心配していたのだ。
この二人は、確かに姉弟であるけれど、なかなか複雑な背景だから。
「・・・ご心配無く。すっかり慣れてくれて、今は暗闇にいてたまに驚きます」
そうですか、と公太郎は笑った。
「桃さんが食事を作ってくれるんですけど、ズッキーニの花なんて初めて食べました」
可食用花です、大丈夫、食べれるんだから、と言っていた。
買い物に出たら、卸しの八百屋を見つけて、売ってもらったそうだ。
「あー、桃、花食うんですよね。よくある、桜湯とか、あんなレベルじゃなくて、オクラとか、サボテンの花とかムシャムシャ食っててびっくりしましたよ」
藤枝があんな花食うなんて冗談みたいだと笑った。
「あとほら、桃の飯、甘いものが必ずつきますよね。さっきまで腹一杯飯食ってて、今度はケーキ食べ始める」
「ああ、確かにそうですね」
初日に悠が作った和食の食事を食べてから、何だか寂しそうにしていて、何か食べますかと聞いたら、何か甘いもの、和食だから果物とか、と言われて戸惑った。
男の一人暮らしに、果物なんて日常的にある方が珍しいのでは無いか。
桃は、思い出したと言って、バックから救援物資に貰ったお菓子を出して来て、嬉しそうに食べていた。
「・・・なんだっけな?やたら凝った、りんご煮たやつもとかよく作ってたっけな。忘れたけど、あれうまいんですよね」
「・・・フランス居たころに習ったらしいですよ」
悠は改めて、公太郎を見た。
「・・・藤枝本部長。桃さんとどういう関係なんですか?交際をされていた?または今後その予定なんですか?」
率直に聞かれて、公太郎は驚いた。
こんな風に他人のプライベートに話を切り込んでくるタイプではなかろう。
身内となれば、気になるのは当然か、と公太郎は思い直した。
「・・・いや、それはないだろうなあ。・・・俺達、二度も家族になり損ねちまいましたからね」
悠が不思議、いっそ不審そうな顔をした。
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