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4.生き残った猫
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気付くと見知らぬ部屋だった。
桃は驚いたが、コンビニから先の記憶がない事に、寝てしまったかと反省した。
何時だろうと体を起こして時計を探した。
が、壁掛けの時計どころか置き時計すらない。
「・・・あ、起きましたか」
部屋に悠が入って来た。
「・・・私、寝たの・・・?」
「迷走神経反射で軽く意識不明というところだろうと葉山先生が仰っていました。・・・まだ寝てた方がいいです」
迷走神経反射、と言われて、ああそうか、と納得した。
昨年、月子に指摘されて、病院に行った経緯があった。
そう重篤なものではなく、よくある事らしいのだが、たまに軽く意識を失う事がある。
感覚としては低血糖の貧血のようなもの。
これではもはや熱中症なのか、迷走神経反射なのか・・・。
はあ、と桃はため息をついたが、はっとした。
「・・・帰らなきゃ!猫いるって言ったでしょ?!・・・スマホどこ?」
慌てる桃に、悠がバッグを手渡した。
猫に電話でもする気だろうか。
「・・・違う!ハム太郎に行って貰って様子見てもらうの・・・ごはんあげて貰わなきゃ!猫が死ぬ・・・!」
悠が桃からスマホを取り上げた。
「・・・何で藤枝本部長が桃さんの部屋を知ってるんですか?」
「え?今、関係ないでしょ・・・?」
返して、と桃が手を伸ばした。
「あります」
悠《はるか》は、一度リビングに戻ると黒猫を連れて来た。
猫はいつものように高く甘い声で長く鳴いて、桃の腕の中に飛び込んできた。
「・・・うそ!みりんちゃん!?」
桃は黒猫を抱き留めた。
「・・・なんで?連れて来たの?」
「カギ使わせて貰いましたよ。・・・しばらくここに一緒にいればいいです」
「なんで?帰るよ!今すぐにでも」
悠は何か言いかけたが、まずは、と桃をリビングに連れ出した。
「・・・とにかく。桃さん、アイスとアイスコーヒー以外のものを食べませんか?」
テーブルの上の調理された食事に桃は戸惑った。
久しぶりに温かい和食を食べて、桃は亡くなった祖母を思い出した。
浜辺の町で美容師をやっていた祖母。
器用な人で、美容師の仕事は勿論、着付けや、和裁、料理も得意だった。
海外に行きっぱなしの母親に代わって自分の世話と養育をしてくれた。
教育をつけてくれたのは祖父だが、教養をつけてくれたのは間違いなく祖母だ。
食後の温かいお茶が胃に沁みた。
「・・・おいしかったです。おばあちゃんのお食事みたい。全部とっても柔らかい!」
褒めているらしい。
祖母の食卓は、柔らかく優しい味付けのものばかりで、品数がやたら多かったものだ。
悠は小洒落たイタリアンやエスニック料理でも作るもんだと思っていたが、これは和食の家庭料理だ。
彼はやっぱりちゃんとした家庭で育ったんだなあと感じて桃は嬉しく思った。
桃の膝の上で黒猫はすっかり寝入ってしまった。
知らぬ部屋に緊張していたのが、食事を与えられ、飼い主にも再会してほっとしたのだろう。
「・・・なんでみりんなんです?種類は?」
「みりんちゃんはね、そもそもハム太郎が拾ったの。小料理屋さんの裏でみりんのダンボールに入ってたんだって。・・・もう2匹兄弟がいたみたいだけど、間に合わなかったらしいの。で、ハム・・・藤枝さんが、慌てて獣医さんに駆け込んで診て貰ってこの子だけ助かったの。だから種類とかはわからない。いわゆる雑種でしょう。兄弟は違う色だったみたいだし」
悲しい生まれだと言われればそうなのだけれど。
それでも生き残ったのだから、生きていくんだから。
桃はそっと黒猫を撫でた。
「・・・あの、ハム太郎って?」
「ああ、あの人、公太郎って言うでしょ?私、初めて会ったとき、まだあの漢字読めなかったから」
それで、公の字をカタカナでハムと読んだのだ。
なるほど、と悠は納得したが、そんな頃からの知り合いなのか。
「あの人、高いマンション住んでる割にペット禁止なんだって。引っ越すタイミングでもないしって困ってて。うちは大家さんが猫おばあちゃんなの。猫いっぱい飼ってる人。だから事情話したら、飼ってもいいって言ってくれたから。でも、私、出張とかあるし。そんな時はハム太郎に様子見て貰ってて」
「・・・そうでしたか」
悠は頷いた。
「・・・悠さん。ご迷惑おかけしてごめんなさい。あの、今後は、なるだけ体調管理気をつけます。・・・今日はお世話になるとして、明日の朝、帰りますね」
何だか随分大袈裟になってしまった。
熱中症って、つまり、水分と塩分を添加して涼しいところにいれば治るはずなのに。
電車は、猫はどうすればいいのやら。
紙袋にでも入れれば乗れるのだろうか。
うるさく鳴くタイプではないが、甘えっ子なので這い出して来てしまうかもしれない。
静かに紙袋に収まってくれていればいいけれど。
「・・・いえ、しばらくこちらで様子を見てください。今、帰すわけには行きません」
まるで不摂生な患者は即入院、のような事を言われて桃は更に戸惑った。
桃は驚いたが、コンビニから先の記憶がない事に、寝てしまったかと反省した。
何時だろうと体を起こして時計を探した。
が、壁掛けの時計どころか置き時計すらない。
「・・・あ、起きましたか」
部屋に悠が入って来た。
「・・・私、寝たの・・・?」
「迷走神経反射で軽く意識不明というところだろうと葉山先生が仰っていました。・・・まだ寝てた方がいいです」
迷走神経反射、と言われて、ああそうか、と納得した。
昨年、月子に指摘されて、病院に行った経緯があった。
そう重篤なものではなく、よくある事らしいのだが、たまに軽く意識を失う事がある。
感覚としては低血糖の貧血のようなもの。
これではもはや熱中症なのか、迷走神経反射なのか・・・。
はあ、と桃はため息をついたが、はっとした。
「・・・帰らなきゃ!猫いるって言ったでしょ?!・・・スマホどこ?」
慌てる桃に、悠がバッグを手渡した。
猫に電話でもする気だろうか。
「・・・違う!ハム太郎に行って貰って様子見てもらうの・・・ごはんあげて貰わなきゃ!猫が死ぬ・・・!」
悠が桃からスマホを取り上げた。
「・・・何で藤枝本部長が桃さんの部屋を知ってるんですか?」
「え?今、関係ないでしょ・・・?」
返して、と桃が手を伸ばした。
「あります」
悠《はるか》は、一度リビングに戻ると黒猫を連れて来た。
猫はいつものように高く甘い声で長く鳴いて、桃の腕の中に飛び込んできた。
「・・・うそ!みりんちゃん!?」
桃は黒猫を抱き留めた。
「・・・なんで?連れて来たの?」
「カギ使わせて貰いましたよ。・・・しばらくここに一緒にいればいいです」
「なんで?帰るよ!今すぐにでも」
悠は何か言いかけたが、まずは、と桃をリビングに連れ出した。
「・・・とにかく。桃さん、アイスとアイスコーヒー以外のものを食べませんか?」
テーブルの上の調理された食事に桃は戸惑った。
久しぶりに温かい和食を食べて、桃は亡くなった祖母を思い出した。
浜辺の町で美容師をやっていた祖母。
器用な人で、美容師の仕事は勿論、着付けや、和裁、料理も得意だった。
海外に行きっぱなしの母親に代わって自分の世話と養育をしてくれた。
教育をつけてくれたのは祖父だが、教養をつけてくれたのは間違いなく祖母だ。
食後の温かいお茶が胃に沁みた。
「・・・おいしかったです。おばあちゃんのお食事みたい。全部とっても柔らかい!」
褒めているらしい。
祖母の食卓は、柔らかく優しい味付けのものばかりで、品数がやたら多かったものだ。
悠は小洒落たイタリアンやエスニック料理でも作るもんだと思っていたが、これは和食の家庭料理だ。
彼はやっぱりちゃんとした家庭で育ったんだなあと感じて桃は嬉しく思った。
桃の膝の上で黒猫はすっかり寝入ってしまった。
知らぬ部屋に緊張していたのが、食事を与えられ、飼い主にも再会してほっとしたのだろう。
「・・・なんでみりんなんです?種類は?」
「みりんちゃんはね、そもそもハム太郎が拾ったの。小料理屋さんの裏でみりんのダンボールに入ってたんだって。・・・もう2匹兄弟がいたみたいだけど、間に合わなかったらしいの。で、ハム・・・藤枝さんが、慌てて獣医さんに駆け込んで診て貰ってこの子だけ助かったの。だから種類とかはわからない。いわゆる雑種でしょう。兄弟は違う色だったみたいだし」
悲しい生まれだと言われればそうなのだけれど。
それでも生き残ったのだから、生きていくんだから。
桃はそっと黒猫を撫でた。
「・・・あの、ハム太郎って?」
「ああ、あの人、公太郎って言うでしょ?私、初めて会ったとき、まだあの漢字読めなかったから」
それで、公の字をカタカナでハムと読んだのだ。
なるほど、と悠は納得したが、そんな頃からの知り合いなのか。
「あの人、高いマンション住んでる割にペット禁止なんだって。引っ越すタイミングでもないしって困ってて。うちは大家さんが猫おばあちゃんなの。猫いっぱい飼ってる人。だから事情話したら、飼ってもいいって言ってくれたから。でも、私、出張とかあるし。そんな時はハム太郎に様子見て貰ってて」
「・・・そうでしたか」
悠は頷いた。
「・・・悠さん。ご迷惑おかけしてごめんなさい。あの、今後は、なるだけ体調管理気をつけます。・・・今日はお世話になるとして、明日の朝、帰りますね」
何だか随分大袈裟になってしまった。
熱中症って、つまり、水分と塩分を添加して涼しいところにいれば治るはずなのに。
電車は、猫はどうすればいいのやら。
紙袋にでも入れれば乗れるのだろうか。
うるさく鳴くタイプではないが、甘えっ子なので這い出して来てしまうかもしれない。
静かに紙袋に収まってくれていればいいけれど。
「・・・いえ、しばらくこちらで様子を見てください。今、帰すわけには行きません」
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