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144.罪を賜る権利

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 話を聞いて、翡翠ひすいは絶句した。

聞いていた金糸雀《カナリア》や雉鳩きじばとが唖然とする程に孔雀くじゃくは有りのまま話したのだ。

「・・・・放っておきなさい」

孔雀くじゃくは泣き出さんばかりだ。

「バカがバカな事をしてバカな事になっただけだよ」

優しく言うが、呆れと怒りが滲んでいた。
その通りだと雉鳩きじばと金糸雀カナリアも思っていた。
つばめだけが姉弟子が気の毒でならなかった。

「・・・翡翠ひすい様、どうぞ天河てんが様のお命と孔雀くじゃく助けるとお思いになってくださいまし」
「いや、孔雀くじゃくの害悪にしかならないから」

その通りだ、と金糸雀カナリア雉鳩きじばとは頷いた。

「これからどうなるって?」
「・・・処置をしなければ、血圧と心拍数が落ちて、心臓の筋肉の動きが止まって。意識が戻らないまま、死亡します」

孔雀くじゃくは声を震わせて翡翠ひすいの膝に取り縋って必死に頼み込んだ。
妹弟子がここまでするのに金糸雀カナリア雉鳩きじばとも呆れていた。
そもそも孔雀くじゃくはこういうタイプではない。
独特の感性というのも相まって、ある程度、距離というかフィルター一枚置いたようにして物事に取り組むタイプだ。
それは彼女が幼い頃から常に嵐とは言え台風の目に置かれていたからだが。

翡翠ひすいはため息を一つつくとデスクの引き出しから、ドクターズバッグ代わりのビスケット缶を取り出すと、注射器を出した。
自分で手早く採血をしてボトリングすると、雉鳩が差し出した書類にサインをする。
孔雀くじゃくはほっとしてその書類に急いで印鑑を押した。

「・・・ありがとうございます。感謝申し上げます・・・」

孔雀くじゃくは大切そうに手を伸ばしたが、翡翠ひすいはデスクの上の書類とボトルを雉鳩きじばとに渡した。
雉鳩きじばとは頷くと礼をして退出した。

金糸雀カナリア、今後の天河てんがの処分は後で決める。とりあえず、総家令に近付くのを禁止する」
「承りました。正式に文書を作成致します。日付は、天河てんが様がご回復してからでよろしいでしょうか」
「いや、回復するかどうかが問題じゃない。今の今から」

金糸雀カナリアとしては、辺境ど田舎の離宮送りくらいにして欲しいものだ。
金糸雀カナリアつばめに指示をした。

「・・・正式に書類なんて・・・。記録が残る・・・」

第二太子の経歴に、その一生に、きずが残る。
孔雀くじゃくが姉弟子にそう言うと、金糸雀カナリアが首を振った。

「・・・総家令。ここは宮廷よ。・・・孔雀くじゃく、アンタが一番わかってるでしょう。家令じゃ無いのよ。天河様は王族に列せられている方よ」
「・・・わかってる・・・。宮廷の家令備品とは違う・・・。名誉も罪も死も賜る義務と権利がある方よ・・・」

宮廷において、その一切が淀みなく進められる為に家令がいるのだ。
孔雀くじゃくは顔を覆った。
ああ、もう、天河てんがが助かれば、それでいい。
だが、もし、間に合わなかったら、と考えると、恐ろしかった。

「・・・私のせいです・・・」
「違う。天河てんがのせい。・・・孔雀くじゃく、おいで」

翡翠ひすい孔雀くじゃくを引き寄せてソファに座らせた。

「・・・このままだと、突然に虚血性心疾患になって、心臓が止まるわけだ。よくあるわけじゃないけど、ままあることだね」

それは医師ドクターである翡翠ひすいの方が詳しいだろう。
孔雀くじゃくが頷いた。

「・・・心臓は、電気で動くのよって、昔、真鶴まづるお姉様が言ってたんです。メカニズムとしては、その電気信号を止める命令が脳から出るらしいと瑠璃鶲るりびたきお姉様が書き遺していかれました」

心疾患にしか見えないわよね。と瑠璃鶲るりびたきも感心していた。
あの女神のような悪魔のような姉弟子が考え出した魔法、呪い。
結局その魔法を抑える事は出来ても解く事は誰もできなかった。

翡翠ひすい孔雀くじゃくの頬に触れた。

「・・・元老院次席と同じだね」

孔雀くじゃくが顔を上げて頷いた。




翡翠ひすいはベッドの上の孔雀くじゃくの足の傷を洗浄して、麻酔用の軟膏を塗った。
傷が深く皮膚が破れていて、少し縫合した。
破傷風のワクチンも摂取するようにと指示をした。

天河てんがが用いたのは、孔雀くじゃくつばめが園芸に使っていたジュートロープだったようだ。
悪い事に、それは孔雀くじゃくが持ち込んでいた最近カエルマークが開発したナイロンザイル並みに頑丈な試作品。
素手でちょっとやそっとでは切れるはずもない。
表面の粗い麻の繊維が傷に入り込んで、更に痛かったろう。

懇願されて戸惑ったまま事に及んだものの、後悔いっぱいで一刻も早く黄鶲きびたきに知らせなくてはと飛び出して行こうとする孔雀くじゃくを、天河てんがはあろうことか紐で括ったわけだ。

そのうち天河てんがは意識混濁、孔雀くじゃくはまさか人も呼べずに罠にかかった狸のように、紐が取れないか切れないかと引っ張ったせいで、傷になり食い込んでしまったのだ。

「・・・しばらく痛いよ。可哀想に」
「そんな・・・私なぞ。・・・天河てんが様に比べれば・・・」

孔雀くじゃくがしょんぼりして言うのに、翡翠ひすいはため息をついた。

「加害者は天河てんが。被害者は孔雀くじゃく。犯人は天河てんがだよ」
「・・・ならば、私も加害者です。・・・私は、そのつもりで、元老院次席を・・・」

孔雀くじゃくは静かに話し始めた。
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