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102.珊瑚宮の妃
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宮城において、珊瑚宮の女主人は、現在たった一人の翡翠の妃である紅小百合。
リベラルで知られた先帝の瑪瑙帝が推薦した議会長の三女に当たる。
彼女は紅水晶という皇女を一人産んでいる。
華やかな女性でマスコミにもよくファッション動向が取り上げられていており、著名人との関わりも広い。
目下、彼女の要求は、三妃から皇后への序列の繰上げだ。
しかし法的にも認められていない。
当然、凡例もない。
梟が総家令であった時には一言も不服は言わなかったが、孔雀が総家令の任に就いたと共に、要求が増えた。
皇后への繰上げ当選は元より、珊瑚宮に当てられる予算、設宴の際の装い、公務に使われる車種に至るまで。
家令達は呆れたが、孔雀が、書面にして一個づつ検討させて頂きますと返答したのがまた嫌味に聞こえて気に入らなかったらしい。
総家令は、午前中の昼前に皇帝と打ち合わせ、元老院、議院へと続き、皇帝の子供達へ挨拶伺い、午餐の後に、正室、妃、という順序で挨拶をして打合せをする。
その時に、夜に皇帝が訪れるか否かの予定を伝えるわけだ。
その昔は、朝から各方面の長を集めて公式発表したらしい。
何でわざわざそんな事を宣伝しなければならないのか、と言えば、どの妃が寵愛されているかは、その妃方の後ろ盾の組織のパワーバランスの表明にもなるからだ。
現在は、お妃様がお一人しかいらっしゃらないのだから、そんな事しなくてもいいでしょう、と孔雀が決めた。
なんとも子供の言うような事と、当時は揶揄されたが、たった一人しかいない妃に足繁く皇帝が通っているならばいい。どんどん発表すればいい。
しかし、そうではないのだ。
総家令になってしばらくして、翡翠が孔雀と夕食を取るようになり、著しい偏食が改善されて来た頃、ふと、孔雀は思ったのだ。
なぜ、翡翠はいつもいるのだろう、と。
王立図書館での司書長の木ノ葉梟と前総家令の梟との瑪瑙帝の生前の功績を編纂する業務の際、ふと梟に尋ねると「そりゃお前と飯食ってるうちに面倒くさくなっちまうからだろ」とあっさり言われた。
「でも、お妃様って、奥さんですよね」と返せば、梟は微妙な顔をした。
「そこいらの細君とは違うわな。職業軍人ってのがあるだろ。継室というのもひとつの地位であり職業なんだから。名誉職だぞ。一般の女のように考えたらそれこそ不敬だ」
ああそうか、と孔雀は兄弟子を見た。
この人、この調子でずっと来たんだ。
更に白鷹はもっと苛烈だったはずだ。
彼女は琥珀帝が愛しいあまりに継室を何人も廃妃にしたらしいから。
梟や白鷹はまあいい。もう仕方ない。家令の価値観だ。
問題は、翡翠もそれに近い認識を持っている事だ。
面白がった木ノ葉梟はまだ整理されていない書類を取り出してきた。
「見てみなさいこれ。翡翠様が皇太子時代に、いずれのお妃様の所に行ったかという記録。今とそう変わらないのよ?」
皇后も二妃である木蓮も健在だった頃の話だ。
「まあ、女の人は体調が悪い期間があるものね・・・」
「そりゃそうだけどさ。それにしても、少ないじゃない?・・・理由は、はい来た、翡翠様ご申告による、多忙、体調不良、・・・そんなわけないわよ。当時から食うもの食わないくせに丈夫な方だからねえ」
「・・・つまりサボりだな。もしくは、妃以外の他との交流が忙しくて」
梟が記した日記には、翡翠の女性遍歴もしっかりと書いてあった。
意外に筆まめなこの兄弟子のおかげで、孔雀は翡翠の事を結講知っている。
「当時、女優の方と交際されていたって。でも梟お兄様、名前は書いてなかった」
「当時はたいして売れてなかったからな。今や大女優だ」
「本当よね。ま、別れてから売れたから。それも翡翠様ってどうなのかしらね」
なかなか不敬な事を言って、木ノ葉梟は唇の動きで女優の名前を伝えた。
国際的にも有名な女優だ。
孔雀は驚いて目を丸くした。
「翡翠様と関係があった女官も、家令も。別れると跳ねるのよね」
暗に黄鶲の事だ。
黄鶲は、翡翠から手切金の代わりに宮廷終身典医の地位と、自身が運営するNGO団体への潤沢な資金を得て国際的にも知られるような働きをしている。
「なんて素晴らしい踏み台」
梟と木ノ葉梟が笑った。
後日、孔雀は翡翠に「ご結婚されている身の上で奥様と過ごされないのは、不誠実だと思う」と感想を述べた。
不誠実、という言葉に慄いた翡翠は「でも、あっちだってそんなつもりで後宮に上がったつもりもないと思うよ」となおも言い、孔雀は「だから一緒に苦労しろなんていうのはまるで呪いではありませんか。幸せになって祝福されて幸せになろうと決めて結婚するわけですもの。旦那様が不誠実であっては幸せではありません」と返した。
それ以来、翡翠は真面目に珊瑚宮を訪れるようになったのだ。
あの子供の総家令では相手にならないのだろうと女官達は噂したが、要は翡翠は孔雀によって形ばかりにしても更生したわけだ。
「・・・総家令」
金糸雀に腕を小突かれ、紅小百合に促されて、孔雀ははっとした。
昔の事を考えていて、打ち合わせ中であったのを一瞬失念していた。
「・・・ご無礼仕りました」
無言で紅小百合が書類をめくった。
「・・・体調がすぐれないのではないですか。前線で重症を負ったのですものね」
三妃がそう言ったのに、女官達が目配せをし合っていた。
興味であったり、嫌悪であったり、様々だ。
前線で負傷し、回復し、春に宮城に帰還した総家令。
奉授式典において、彼女の救命に尽力したとして恩赦された元禁軍の近衛兵であった鸚鵡が登城し皇帝から褒賞を受けた事。
その鸚鵡の生来の育ちの良さならではの甘さに加えて、精悍さも身についたと女官も官吏も色めき立った。
更にその後の夜会で珍しく盛装した総家令の胸の大きな一粒の孔雀真珠の首飾りが、皇帝から下賜された宮廷の宝物殿由来の品物だと、それもまた人々の話題になった。
珊瑚宮の女官。
彼女達は三妃が家令を身近に置きたくはないからと実家から連れてきた言わば身内の人員達。
特任女官という肩書で内廷の予算で雇われている。
当然、本来の才智や家柄で選出されて来ている宮廷女官達からはよく思われていないが、それでも現在、紅小百合は最上位の身分にいる妃である。
その宮に仕える者が女官の最大勢力となりつつある。
女官長以下上位五役の女官達の権威は揺るぎもしないが、五役とは別に特任女官にも管理職の肩書をつけろと三妃やその後ろ盾の議会派からは何度も要望書が上がっていた。
三妃の身分を、正室に繰り上げるという要望と共に総家令に撥ね付けられている三妃としたら当然面白く無い。
女官五役や古参の女官どころか、本来の方法で宮城に奉職する新人の女官ですらそれがどれだけ不遜な申し出であるか理解しているものだから、更にこの珊瑚宮の人間とは距離が出来る一方。
しかし、三妃とはファーストレディーとして国内外で非常に注目度が高い。
タレント性があるのは間違いない。
そして、本人もそれを自覚しているし、特に嫌いでは無いというか、そういう類が好きなタイプであり、何より自分が夫と共に注目される事が国益に繋がると信じている。
それは非常に助かる、のではあるが。
実際、国内の祭典までは特任女官でも務まるが、国内外の式典となるとやはり本来の宮廷女官でなければ手も足も出ないのだ。
緋連雀は「やりたいってんだから珊瑚宮の連中だけでやらせればいいのよ。自分達で恥かいてみるといいじゃない!どれだけ不細工な振る舞いしているか外から言われたらわかるんじゃない?」といけずを言うが、それがどれだけ危険な事が分かる孔雀は恐ろしくて実行になど移せない。
更に困ったことに、珊瑚宮の学生文化祭のような出し物になぜ自分が出なければならないのか、という翡翠の意見がある。
半公式の宮廷主催の式典に、皇帝が姿を見せないなどそれこそ一大事では無いか。
結局、孔雀が祭典式典の度に方々にお願い行脚をし、家令の仕事は増える訳だ。
これもまた孔雀の頭の痛い問題の一つである。
三妃が口を開いた。
「総家令は就任以来からだけれど。特に最近、体調を崩される事が多いようね」
はい、そうですね、と孔雀は返事をした。
何とも間の抜けた返事に、女官達は嗤い、金糸雀は歯噛みを堪えた。
しかし、孔雀としてはその通りで。子供の時から、よく寝込む。
「そういえば先週も発熱されたとか?確か、その前も。・・・ねえ、|金糸雀、いつだったかしら?」
三妃に水を向けられて金糸雀が舌打ちを隠してにっこりと微笑んだ。
「申し訳ありません。確かなお日にちは申し上げられません」
「まあ、あなたと雉鳩が宮廷のあれこれの書類を管理しているはずなのに?」
そう嫌味たっぷりに言われて、よし来た、と金糸雀は、内心ほくそ笑んだ。
「はい、それはもちろんでございますけれど。・・・妃殿下、この度お尋ね賜りました内容は総家令の公式な文書に当たりますから、ご請求頂ければ開示可能でございますけれど。・・・この子ったら、いつまでも困ったものです。その度に熱を出してしまいますの。それだけ陛下の寵愛が深いという事ですわね。陛下もご心配くださって。でも御自重されることは不可能でらっしゃいますようで。・・・確実なところのお日付がお気になるようでしたら、重ねて申し上げますが閲覧可能ですのでぜひ正式に開示請求くださいませ。陛下から大喜びでご許可頂けますでしょうから」
要約すると、"この妹弟子は陛下と夜を過ごすと体力が無く熱を出します。陛下には程々にと言ってますが、それは無理だそうです。いつどのようにこの二人がやってるのか知りたいなら、そう書いて書類出して。アンタの旦那、それが愛だと勘違いしてるから喜んで許可出すから〟と言う事だ。
金糸雀の話す内容に、この総家令の体調不良が多いのはその為か、と妃も女官も顔色を無くした。
孔雀は、何て事言うのよ!と姉弟子を見て真っ赤になった。
リベラルで知られた先帝の瑪瑙帝が推薦した議会長の三女に当たる。
彼女は紅水晶という皇女を一人産んでいる。
華やかな女性でマスコミにもよくファッション動向が取り上げられていており、著名人との関わりも広い。
目下、彼女の要求は、三妃から皇后への序列の繰上げだ。
しかし法的にも認められていない。
当然、凡例もない。
梟が総家令であった時には一言も不服は言わなかったが、孔雀が総家令の任に就いたと共に、要求が増えた。
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家令達は呆れたが、孔雀が、書面にして一個づつ検討させて頂きますと返答したのがまた嫌味に聞こえて気に入らなかったらしい。
総家令は、午前中の昼前に皇帝と打ち合わせ、元老院、議院へと続き、皇帝の子供達へ挨拶伺い、午餐の後に、正室、妃、という順序で挨拶をして打合せをする。
その時に、夜に皇帝が訪れるか否かの予定を伝えるわけだ。
その昔は、朝から各方面の長を集めて公式発表したらしい。
何でわざわざそんな事を宣伝しなければならないのか、と言えば、どの妃が寵愛されているかは、その妃方の後ろ盾の組織のパワーバランスの表明にもなるからだ。
現在は、お妃様がお一人しかいらっしゃらないのだから、そんな事しなくてもいいでしょう、と孔雀が決めた。
なんとも子供の言うような事と、当時は揶揄されたが、たった一人しかいない妃に足繁く皇帝が通っているならばいい。どんどん発表すればいい。
しかし、そうではないのだ。
総家令になってしばらくして、翡翠が孔雀と夕食を取るようになり、著しい偏食が改善されて来た頃、ふと、孔雀は思ったのだ。
なぜ、翡翠はいつもいるのだろう、と。
王立図書館での司書長の木ノ葉梟と前総家令の梟との瑪瑙帝の生前の功績を編纂する業務の際、ふと梟に尋ねると「そりゃお前と飯食ってるうちに面倒くさくなっちまうからだろ」とあっさり言われた。
「でも、お妃様って、奥さんですよね」と返せば、梟は微妙な顔をした。
「そこいらの細君とは違うわな。職業軍人ってのがあるだろ。継室というのもひとつの地位であり職業なんだから。名誉職だぞ。一般の女のように考えたらそれこそ不敬だ」
ああそうか、と孔雀は兄弟子を見た。
この人、この調子でずっと来たんだ。
更に白鷹はもっと苛烈だったはずだ。
彼女は琥珀帝が愛しいあまりに継室を何人も廃妃にしたらしいから。
梟や白鷹はまあいい。もう仕方ない。家令の価値観だ。
問題は、翡翠もそれに近い認識を持っている事だ。
面白がった木ノ葉梟はまだ整理されていない書類を取り出してきた。
「見てみなさいこれ。翡翠様が皇太子時代に、いずれのお妃様の所に行ったかという記録。今とそう変わらないのよ?」
皇后も二妃である木蓮も健在だった頃の話だ。
「まあ、女の人は体調が悪い期間があるものね・・・」
「そりゃそうだけどさ。それにしても、少ないじゃない?・・・理由は、はい来た、翡翠様ご申告による、多忙、体調不良、・・・そんなわけないわよ。当時から食うもの食わないくせに丈夫な方だからねえ」
「・・・つまりサボりだな。もしくは、妃以外の他との交流が忙しくて」
梟が記した日記には、翡翠の女性遍歴もしっかりと書いてあった。
意外に筆まめなこの兄弟子のおかげで、孔雀は翡翠の事を結講知っている。
「当時、女優の方と交際されていたって。でも梟お兄様、名前は書いてなかった」
「当時はたいして売れてなかったからな。今や大女優だ」
「本当よね。ま、別れてから売れたから。それも翡翠様ってどうなのかしらね」
なかなか不敬な事を言って、木ノ葉梟は唇の動きで女優の名前を伝えた。
国際的にも有名な女優だ。
孔雀は驚いて目を丸くした。
「翡翠様と関係があった女官も、家令も。別れると跳ねるのよね」
暗に黄鶲の事だ。
黄鶲は、翡翠から手切金の代わりに宮廷終身典医の地位と、自身が運営するNGO団体への潤沢な資金を得て国際的にも知られるような働きをしている。
「なんて素晴らしい踏み台」
梟と木ノ葉梟が笑った。
後日、孔雀は翡翠に「ご結婚されている身の上で奥様と過ごされないのは、不誠実だと思う」と感想を述べた。
不誠実、という言葉に慄いた翡翠は「でも、あっちだってそんなつもりで後宮に上がったつもりもないと思うよ」となおも言い、孔雀は「だから一緒に苦労しろなんていうのはまるで呪いではありませんか。幸せになって祝福されて幸せになろうと決めて結婚するわけですもの。旦那様が不誠実であっては幸せではありません」と返した。
それ以来、翡翠は真面目に珊瑚宮を訪れるようになったのだ。
あの子供の総家令では相手にならないのだろうと女官達は噂したが、要は翡翠は孔雀によって形ばかりにしても更生したわけだ。
「・・・総家令」
金糸雀に腕を小突かれ、紅小百合に促されて、孔雀ははっとした。
昔の事を考えていて、打ち合わせ中であったのを一瞬失念していた。
「・・・ご無礼仕りました」
無言で紅小百合が書類をめくった。
「・・・体調がすぐれないのではないですか。前線で重症を負ったのですものね」
三妃がそう言ったのに、女官達が目配せをし合っていた。
興味であったり、嫌悪であったり、様々だ。
前線で負傷し、回復し、春に宮城に帰還した総家令。
奉授式典において、彼女の救命に尽力したとして恩赦された元禁軍の近衛兵であった鸚鵡が登城し皇帝から褒賞を受けた事。
その鸚鵡の生来の育ちの良さならではの甘さに加えて、精悍さも身についたと女官も官吏も色めき立った。
更にその後の夜会で珍しく盛装した総家令の胸の大きな一粒の孔雀真珠の首飾りが、皇帝から下賜された宮廷の宝物殿由来の品物だと、それもまた人々の話題になった。
珊瑚宮の女官。
彼女達は三妃が家令を身近に置きたくはないからと実家から連れてきた言わば身内の人員達。
特任女官という肩書で内廷の予算で雇われている。
当然、本来の才智や家柄で選出されて来ている宮廷女官達からはよく思われていないが、それでも現在、紅小百合は最上位の身分にいる妃である。
その宮に仕える者が女官の最大勢力となりつつある。
女官長以下上位五役の女官達の権威は揺るぎもしないが、五役とは別に特任女官にも管理職の肩書をつけろと三妃やその後ろ盾の議会派からは何度も要望書が上がっていた。
三妃の身分を、正室に繰り上げるという要望と共に総家令に撥ね付けられている三妃としたら当然面白く無い。
女官五役や古参の女官どころか、本来の方法で宮城に奉職する新人の女官ですらそれがどれだけ不遜な申し出であるか理解しているものだから、更にこの珊瑚宮の人間とは距離が出来る一方。
しかし、三妃とはファーストレディーとして国内外で非常に注目度が高い。
タレント性があるのは間違いない。
そして、本人もそれを自覚しているし、特に嫌いでは無いというか、そういう類が好きなタイプであり、何より自分が夫と共に注目される事が国益に繋がると信じている。
それは非常に助かる、のではあるが。
実際、国内の祭典までは特任女官でも務まるが、国内外の式典となるとやはり本来の宮廷女官でなければ手も足も出ないのだ。
緋連雀は「やりたいってんだから珊瑚宮の連中だけでやらせればいいのよ。自分達で恥かいてみるといいじゃない!どれだけ不細工な振る舞いしているか外から言われたらわかるんじゃない?」といけずを言うが、それがどれだけ危険な事が分かる孔雀は恐ろしくて実行になど移せない。
更に困ったことに、珊瑚宮の学生文化祭のような出し物になぜ自分が出なければならないのか、という翡翠の意見がある。
半公式の宮廷主催の式典に、皇帝が姿を見せないなどそれこそ一大事では無いか。
結局、孔雀が祭典式典の度に方々にお願い行脚をし、家令の仕事は増える訳だ。
これもまた孔雀の頭の痛い問題の一つである。
三妃が口を開いた。
「総家令は就任以来からだけれど。特に最近、体調を崩される事が多いようね」
はい、そうですね、と孔雀は返事をした。
何とも間の抜けた返事に、女官達は嗤い、金糸雀は歯噛みを堪えた。
しかし、孔雀としてはその通りで。子供の時から、よく寝込む。
「そういえば先週も発熱されたとか?確か、その前も。・・・ねえ、|金糸雀、いつだったかしら?」
三妃に水を向けられて金糸雀が舌打ちを隠してにっこりと微笑んだ。
「申し訳ありません。確かなお日にちは申し上げられません」
「まあ、あなたと雉鳩が宮廷のあれこれの書類を管理しているはずなのに?」
そう嫌味たっぷりに言われて、よし来た、と金糸雀は、内心ほくそ笑んだ。
「はい、それはもちろんでございますけれど。・・・妃殿下、この度お尋ね賜りました内容は総家令の公式な文書に当たりますから、ご請求頂ければ開示可能でございますけれど。・・・この子ったら、いつまでも困ったものです。その度に熱を出してしまいますの。それだけ陛下の寵愛が深いという事ですわね。陛下もご心配くださって。でも御自重されることは不可能でらっしゃいますようで。・・・確実なところのお日付がお気になるようでしたら、重ねて申し上げますが閲覧可能ですのでぜひ正式に開示請求くださいませ。陛下から大喜びでご許可頂けますでしょうから」
要約すると、"この妹弟子は陛下と夜を過ごすと体力が無く熱を出します。陛下には程々にと言ってますが、それは無理だそうです。いつどのようにこの二人がやってるのか知りたいなら、そう書いて書類出して。アンタの旦那、それが愛だと勘違いしてるから喜んで許可出すから〟と言う事だ。
金糸雀の話す内容に、この総家令の体調不良が多いのはその為か、と妃も女官も顔色を無くした。
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