76 / 103
3.
76.星降る夜
しおりを挟む
流星群を見た、と孔雀はベッドで嬉しそうに翡翠に話していた。
「地球の公転と彗星の塵の周回が近くで交差した時に、プラズマ発生して光るのだそうです。あ、光ったな、と思った時はもうすでに塵は大気にぶつかって燃え尽きてしまっているんですって」
「へえ、詳しいね」
「天河様の受け売りです。・・・私、星の見方がそんな風にあるなんて知らなくてびっくり」
星の勉強と言えば、白鷹に習ったのは星宿の見方であり、梟に習ったのは占星術。
鸚鵡に習ったのは惑星と星座の名前。
宇宙とは何ぞやと言われて孔雀が基礎として知っているのはこれだけだったのだ。
天河は、天体物理学を専攻している。
「天河様、流星群がニュースでやってました」と何気なく聞くと、「じゃ、とりあえず知ってる星の名前言ってみろ」と言われて、孔雀は星図を書いて見せた。
学術名のスペルと和名で書かれた平面の星図。
天河は、お前はタイムトラベルでもしてきた古代か中世の人間なのか、家令の教育はどうなってるんだ、と呆れた。
「私が白鷹お姉様に最初に習ったのは北極星。北辰ですね。・・・貴方のことです、翡翠様」
皇帝は、家令にとって北極星と呼ばれる。
それから、天の北極。
それは、総家令の事。
二人はそっと抱き合った。
「流れ星は政治や王の凶星というけどね」
翡翠が笑った。
「流れ星というのは、たいていどこの国でも凶星ですから。占いというのは、それっぽく悪い事を言うとか。世の中悪い事ばかりだからそりゃ当たりますよね」
これは白鷹の受け売り。
「ただ、例えば。彗星が来て異常気象や感染症が起きたなんて言われるのは、もしかしたら、大気に入った時に燃えるわけですから、少し地球の温度が上がって、それが原因で何らかの異常気象が起きたのかもしれないなんて説もあるらしいですよ」
「なるほどね。氷河のどこかに閉じ込められていたウィルスが、温度が二、三度上がって溶け出した、なんてあるとも聞くね」
「はい。それを海獣や海鳥が運ぶわけです。そして最終的に人に行き着く。試算してみたら、現在の人間の生活に照らし合わせると、例えば一月一日に溶け出たウィルスが、二月の半ばにはほぼ地球のほとんどに蔓延している、という事になるみたいです」
我々の世界は丸く球体で、循環しているのだという事を改めて実感する。
「猩々朱鷺お姉様に言ったら、そんなことになったら公衆衛生では防疫しきれない、と言っていて。今、その対策を思案中なんです」
「なるほどね。医学の前に防疫学か。防疫とは言うけれど、攻めてみようと言うわけか。確か、茉莉が詳しいね」
友人でもある蝙蝠の名前を出す。
はい、と孔雀が頷いた。
閨房の話題にしては随分と硬い。
しかし、この二人は長年そうやって話ばかりしてきた。
公式の総家令と皇帝との閨房時、家令の誰かが立ち会う事が多いのだが、「いつまでべらべら喋ってんだ」と文句がかかるほどだ。
そこから、孔雀が、「最低、どういうデリカシーしてんのよ。どうせ話、聞いてたでしょ、早く猩々朱鷺お姉様に確認してよ」と仕事になってしまう事も多いし、「白鷹お姉様には言い付けないでよ」「嫌よ。孔雀がサボって喋ってばっかりいるって言ってやる」などと言い合いになる事もある。
しかし。あれじゃダメじゃないか、と家令達は腹を変えて笑うが、翡翠はそれで構わないというのだから。
孔雀が二十歳になるまでは自粛。
結局、孔雀は翡翠に寝物語をしていた。
最初は子供の頃に聞いた絵本や物語の話、ガーデンの事や、兄弟子姉弟子の素行の悪さを面白半分に話していたがどんどん内容が洒落にならなくなって来たものだ。
「どちらにしても。星は希望でありますように。・・・あら、翡翠様、そろそろ、おやすみになりませんとね」
孔雀が時計を見て、翡翠《ひすい》の頬に軽く唇を寄せた。
孔雀はこれからまた一仕事。
総家令が眠りにつくのは明け方だ。
翡翠がこの総家令と朝まで共寝なんていうのは、宮城では無い話。
だからこそ、翡翠は自由が利く夏と冬の離宮暮らしを待ち望んでいるのだ。
「・・・失礼致します。雉鳩が参りました」
天蓋の帷の向こうから声をかけられた。
予定より少し早いのに、孔雀は体を起こした。
「・・・元老院から至急の知らせでございます。元老院次席が二十分前にお亡くなりになりました」
翡翠も起き上がった。
「・・・突然だね・・・。何か事故にでも遭ったのか」
「いえ。現時点では病死のようだと伺っています」
まあ、と孔雀が口元を押さえた。
「・・・お気の毒な事・・・。ご学友でいらっしゃいますものね。陛下、家令一同お悔やみを申し上げます」
孔雀が翡翠の頬に唇を寄せてから、ベッドから降りた。
雉鳩が妹弟子に手早く服を着せつけた。
「翡翠様、私、確認して参ります。燕を寄越しますので、何かあればお申し付けください」
「明日の朝になれば正式に元老院から報告が来るだろう。気をつけて」
はい、と孔雀は礼をすると、部屋を下がった。
「地球の公転と彗星の塵の周回が近くで交差した時に、プラズマ発生して光るのだそうです。あ、光ったな、と思った時はもうすでに塵は大気にぶつかって燃え尽きてしまっているんですって」
「へえ、詳しいね」
「天河様の受け売りです。・・・私、星の見方がそんな風にあるなんて知らなくてびっくり」
星の勉強と言えば、白鷹に習ったのは星宿の見方であり、梟に習ったのは占星術。
鸚鵡に習ったのは惑星と星座の名前。
宇宙とは何ぞやと言われて孔雀が基礎として知っているのはこれだけだったのだ。
天河は、天体物理学を専攻している。
「天河様、流星群がニュースでやってました」と何気なく聞くと、「じゃ、とりあえず知ってる星の名前言ってみろ」と言われて、孔雀は星図を書いて見せた。
学術名のスペルと和名で書かれた平面の星図。
天河は、お前はタイムトラベルでもしてきた古代か中世の人間なのか、家令の教育はどうなってるんだ、と呆れた。
「私が白鷹お姉様に最初に習ったのは北極星。北辰ですね。・・・貴方のことです、翡翠様」
皇帝は、家令にとって北極星と呼ばれる。
それから、天の北極。
それは、総家令の事。
二人はそっと抱き合った。
「流れ星は政治や王の凶星というけどね」
翡翠が笑った。
「流れ星というのは、たいていどこの国でも凶星ですから。占いというのは、それっぽく悪い事を言うとか。世の中悪い事ばかりだからそりゃ当たりますよね」
これは白鷹の受け売り。
「ただ、例えば。彗星が来て異常気象や感染症が起きたなんて言われるのは、もしかしたら、大気に入った時に燃えるわけですから、少し地球の温度が上がって、それが原因で何らかの異常気象が起きたのかもしれないなんて説もあるらしいですよ」
「なるほどね。氷河のどこかに閉じ込められていたウィルスが、温度が二、三度上がって溶け出した、なんてあるとも聞くね」
「はい。それを海獣や海鳥が運ぶわけです。そして最終的に人に行き着く。試算してみたら、現在の人間の生活に照らし合わせると、例えば一月一日に溶け出たウィルスが、二月の半ばにはほぼ地球のほとんどに蔓延している、という事になるみたいです」
我々の世界は丸く球体で、循環しているのだという事を改めて実感する。
「猩々朱鷺お姉様に言ったら、そんなことになったら公衆衛生では防疫しきれない、と言っていて。今、その対策を思案中なんです」
「なるほどね。医学の前に防疫学か。防疫とは言うけれど、攻めてみようと言うわけか。確か、茉莉が詳しいね」
友人でもある蝙蝠の名前を出す。
はい、と孔雀が頷いた。
閨房の話題にしては随分と硬い。
しかし、この二人は長年そうやって話ばかりしてきた。
公式の総家令と皇帝との閨房時、家令の誰かが立ち会う事が多いのだが、「いつまでべらべら喋ってんだ」と文句がかかるほどだ。
そこから、孔雀が、「最低、どういうデリカシーしてんのよ。どうせ話、聞いてたでしょ、早く猩々朱鷺お姉様に確認してよ」と仕事になってしまう事も多いし、「白鷹お姉様には言い付けないでよ」「嫌よ。孔雀がサボって喋ってばっかりいるって言ってやる」などと言い合いになる事もある。
しかし。あれじゃダメじゃないか、と家令達は腹を変えて笑うが、翡翠はそれで構わないというのだから。
孔雀が二十歳になるまでは自粛。
結局、孔雀は翡翠に寝物語をしていた。
最初は子供の頃に聞いた絵本や物語の話、ガーデンの事や、兄弟子姉弟子の素行の悪さを面白半分に話していたがどんどん内容が洒落にならなくなって来たものだ。
「どちらにしても。星は希望でありますように。・・・あら、翡翠様、そろそろ、おやすみになりませんとね」
孔雀が時計を見て、翡翠《ひすい》の頬に軽く唇を寄せた。
孔雀はこれからまた一仕事。
総家令が眠りにつくのは明け方だ。
翡翠がこの総家令と朝まで共寝なんていうのは、宮城では無い話。
だからこそ、翡翠は自由が利く夏と冬の離宮暮らしを待ち望んでいるのだ。
「・・・失礼致します。雉鳩が参りました」
天蓋の帷の向こうから声をかけられた。
予定より少し早いのに、孔雀は体を起こした。
「・・・元老院から至急の知らせでございます。元老院次席が二十分前にお亡くなりになりました」
翡翠も起き上がった。
「・・・突然だね・・・。何か事故にでも遭ったのか」
「いえ。現時点では病死のようだと伺っています」
まあ、と孔雀が口元を押さえた。
「・・・お気の毒な事・・・。ご学友でいらっしゃいますものね。陛下、家令一同お悔やみを申し上げます」
孔雀が翡翠の頬に唇を寄せてから、ベッドから降りた。
雉鳩が妹弟子に手早く服を着せつけた。
「翡翠様、私、確認して参ります。燕を寄越しますので、何かあればお申し付けください」
「明日の朝になれば正式に元老院から報告が来るだろう。気をつけて」
はい、と孔雀は礼をすると、部屋を下がった。
2
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ヤンデレ男に拐われ孕まセックスされるビッチ女の話
イセヤ レキ
恋愛
※こちらは18禁の作品です※
箸休め作品です。
表題の通り、基本的にストーリーなし、エロしかありません。
全編に渡り淫語だらけです、綺麗なエロをご希望の方はUターンして下さい。
地雷要素多めです、ご注意下さい。
快楽堕ちエンドの為、ハピエンで括ってます。
※性的虐待の匂わせ描写あります。
※清廉潔白な人物は皆無です。
汚喘ぎ/♡喘ぎ/監禁/凌辱/アナル/クンニ/放尿/飲尿/クリピアス/ビッチ/ローター/緊縛/手錠/快楽堕ち
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる