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33.華の監獄
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そもそも離宮の多い王朝である。
遡れば、即位した王が居する場所を首都として周囲に都市が栄えたという歴史がある。
時代や情勢によって居住する城を増やし、それが今では離宮としてあちこちに残っている。
宮殿、荘園、要塞。
今ではそれぞれに呼称が違うが、退位した皇帝がその家族と住んだり、または総家令、継室であったりと様々だが、そうやって使われてきた。
離宮とは呼べないまでも小規模の邸宅はいくつもあるから、それを総家令や継室に下賜する例も多い。
白鷹も下賜されて三箇所程所有していた。
その中の一つの湖の近くの金蘭閣と呼ばれる邸宅は、家令達が使用できる別邸でもあった。
鳥達の庭園も元は、大昔、蛍石《ほたるいし》帝という女皇帝が総家令と子供と使っていた離宮。
何代か後の皇女の持ち物であったのを、家令の教育機関として解放されたらしい。
宮城は、八角形をしている事から鼈甲宮と呼ばれる王の居室がある建物を中央として、前方にある扇状の建物が外廷とされる。
そこは皇帝や廷臣が一同に会する謁見場や式典、祭礼や儀典を行う大広間、元老院や議会やギルド委員が集まる議会場や、外交や設宴で使われる迎賓室がある。
後宮を含む内廷は、現在五棟あり、鼈甲宮と放射状に繋がり、また水晶回廊という美しい彫刻が施された回廊でそれぞれの宮に繋がっている。
螺鈿宮、象牙宮、珊瑚宮、花石膏宮、硅化木宮。
宮は継室や皇太子、皇女達が生活する宮であるが、今現在は、正室が螺鈿宮を賜り、成人後、皇太子が象牙宮を与えられる事になっていた。
亡くなった二妃の花石膏宮に第二太子、三妃が皇女と住むのが珊瑚宮。
硅化木《けいかぼく》宮は現在は使われていない。
正式に城に上がるまでに宮城にまともに足を踏み入れた事のない孔雀としたら、広大な迷路のようなもの。
梟は孔雀に図面を見せて説明をしていた。
「そもそも現在の宮城の形になったのは、七代前の緑柱帝の時代だ。総家令の火喰鳥姉上がこうしたようだな。さて。我々が今いるのは、ここ。中心の鼈甲宮だな。そして放射状にこうそれぞれ建物がある。・・・何でこんな形なんだと思う?」
孔雀は兄弟子を見上げた。
「・・・梟お兄様、私、こういう建物、見た事ある」
「ほう、なんだ?」
「監獄」
このチビ助の知識を対象と照らし合わせる洞察力と観察眼は確かになかなかのものだ。
「・・・そう。そもそも監視するための建物なんだよ。中央に人がいれば、見渡しやすい。火喰鳥姉上は、改革を推し進めた方で、当時反乱も動乱も多かった。その度に粛清を繰り返した・・・。まあ、白鷹姉上の強力版みたいなもんだろ」
軽く言うが、なんとも剣呑。
「後宮のお妃様は花、女官は蝶だと聞いていたけれど・・・」
まさにその通りで、妃達は花の名前を授かり、女官も高位五役の者は蝶の名前を賜る。
「そうだな。家令は鳥、女官は蝶。女官長を筆頭に、揚羽、紋白、小灰、斑、挵の役職名を戴く。・・・まあこれは、部長、課長みたいなもんだな」
当然知ってるか、と妹弟子を見た。
白鷹の指示で、金糸雀と緋連雀と孔雀は女官試験を受験し合格して官位のみ授与されてる。
さらに言えば、恐ろしい事に、金糸雀は、殿試と言われる官吏登用試験にも合格しているのだ。
四年に一度開かれる事と、オリンピックより困難と言われているから、五輪試験等と揶揄されている。
年によりムラはあるが、毎回化け物のように頭脳明晰な者のみ合格する。
こちらも、金糸雀は職務は辞退している。
「主席が状元、二位が榜眼、三位が探花。金糸雀お姉様は、二位だったのよね」
そう、と梟は頷いた。
「繰り上がりはないから、その年の試験の二位は空席のままだな」
外宮で活躍するのは官吏達、内廷は女官達。
どちらも高位の者しか、鼈甲宮に出入りは出来ない。
だが、家令は宮廷のどこでも出入り自由なのだ。
後宮と言ってもハーレムとは違う。サロンに近いので、昔は、華やかなものだった、と梟は言った。
「近くは琥珀様の父上の黒曜様の時代だな。ご継室も公式寵姫も多かったから、まあいろいろあったけど、華やかではあったよ」
その寵姫の三人のうちの一人が、緋連雀の祖母であり、今は西の修道院長である巫女愛紗だ。
美貌で知られる緋連雀やその母の猩々朱鷺よりも美しかったそうだ。
「緋連雀お姉様より、きれいだったってほんと?」
そりゃあもう、と梟が頷いた。
「巫女愛紗姉上が公式寵姫でいらした時、同じ頃、戴勝姉上というのもいらしてな。それもまた美しい方だった。きれいどころの継室や女官が尻込みしたほどだ。・・・まあ女家令だから、どっちも怪獣だけどな」
最後の方は小声になっている。
孔雀は、当時の華やかだったという後宮に想いを馳せた。
そんな夢のような女達のいるお城が、監獄だなんて。なんと悪趣味なことか。
ショックというよりも悲しかった。
遡れば、即位した王が居する場所を首都として周囲に都市が栄えたという歴史がある。
時代や情勢によって居住する城を増やし、それが今では離宮としてあちこちに残っている。
宮殿、荘園、要塞。
今ではそれぞれに呼称が違うが、退位した皇帝がその家族と住んだり、または総家令、継室であったりと様々だが、そうやって使われてきた。
離宮とは呼べないまでも小規模の邸宅はいくつもあるから、それを総家令や継室に下賜する例も多い。
白鷹も下賜されて三箇所程所有していた。
その中の一つの湖の近くの金蘭閣と呼ばれる邸宅は、家令達が使用できる別邸でもあった。
鳥達の庭園も元は、大昔、蛍石《ほたるいし》帝という女皇帝が総家令と子供と使っていた離宮。
何代か後の皇女の持ち物であったのを、家令の教育機関として解放されたらしい。
宮城は、八角形をしている事から鼈甲宮と呼ばれる王の居室がある建物を中央として、前方にある扇状の建物が外廷とされる。
そこは皇帝や廷臣が一同に会する謁見場や式典、祭礼や儀典を行う大広間、元老院や議会やギルド委員が集まる議会場や、外交や設宴で使われる迎賓室がある。
後宮を含む内廷は、現在五棟あり、鼈甲宮と放射状に繋がり、また水晶回廊という美しい彫刻が施された回廊でそれぞれの宮に繋がっている。
螺鈿宮、象牙宮、珊瑚宮、花石膏宮、硅化木宮。
宮は継室や皇太子、皇女達が生活する宮であるが、今現在は、正室が螺鈿宮を賜り、成人後、皇太子が象牙宮を与えられる事になっていた。
亡くなった二妃の花石膏宮に第二太子、三妃が皇女と住むのが珊瑚宮。
硅化木《けいかぼく》宮は現在は使われていない。
正式に城に上がるまでに宮城にまともに足を踏み入れた事のない孔雀としたら、広大な迷路のようなもの。
梟は孔雀に図面を見せて説明をしていた。
「そもそも現在の宮城の形になったのは、七代前の緑柱帝の時代だ。総家令の火喰鳥姉上がこうしたようだな。さて。我々が今いるのは、ここ。中心の鼈甲宮だな。そして放射状にこうそれぞれ建物がある。・・・何でこんな形なんだと思う?」
孔雀は兄弟子を見上げた。
「・・・梟お兄様、私、こういう建物、見た事ある」
「ほう、なんだ?」
「監獄」
このチビ助の知識を対象と照らし合わせる洞察力と観察眼は確かになかなかのものだ。
「・・・そう。そもそも監視するための建物なんだよ。中央に人がいれば、見渡しやすい。火喰鳥姉上は、改革を推し進めた方で、当時反乱も動乱も多かった。その度に粛清を繰り返した・・・。まあ、白鷹姉上の強力版みたいなもんだろ」
軽く言うが、なんとも剣呑。
「後宮のお妃様は花、女官は蝶だと聞いていたけれど・・・」
まさにその通りで、妃達は花の名前を授かり、女官も高位五役の者は蝶の名前を賜る。
「そうだな。家令は鳥、女官は蝶。女官長を筆頭に、揚羽、紋白、小灰、斑、挵の役職名を戴く。・・・まあこれは、部長、課長みたいなもんだな」
当然知ってるか、と妹弟子を見た。
白鷹の指示で、金糸雀と緋連雀と孔雀は女官試験を受験し合格して官位のみ授与されてる。
さらに言えば、恐ろしい事に、金糸雀は、殿試と言われる官吏登用試験にも合格しているのだ。
四年に一度開かれる事と、オリンピックより困難と言われているから、五輪試験等と揶揄されている。
年によりムラはあるが、毎回化け物のように頭脳明晰な者のみ合格する。
こちらも、金糸雀は職務は辞退している。
「主席が状元、二位が榜眼、三位が探花。金糸雀お姉様は、二位だったのよね」
そう、と梟は頷いた。
「繰り上がりはないから、その年の試験の二位は空席のままだな」
外宮で活躍するのは官吏達、内廷は女官達。
どちらも高位の者しか、鼈甲宮に出入りは出来ない。
だが、家令は宮廷のどこでも出入り自由なのだ。
後宮と言ってもハーレムとは違う。サロンに近いので、昔は、華やかなものだった、と梟は言った。
「近くは琥珀様の父上の黒曜様の時代だな。ご継室も公式寵姫も多かったから、まあいろいろあったけど、華やかではあったよ」
その寵姫の三人のうちの一人が、緋連雀の祖母であり、今は西の修道院長である巫女愛紗だ。
美貌で知られる緋連雀やその母の猩々朱鷺よりも美しかったそうだ。
「緋連雀お姉様より、きれいだったってほんと?」
そりゃあもう、と梟が頷いた。
「巫女愛紗姉上が公式寵姫でいらした時、同じ頃、戴勝姉上というのもいらしてな。それもまた美しい方だった。きれいどころの継室や女官が尻込みしたほどだ。・・・まあ女家令だから、どっちも怪獣だけどな」
最後の方は小声になっている。
孔雀は、当時の華やかだったという後宮に想いを馳せた。
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