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25.総家令 孔雀

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ふくろうが宮城に戻ると慌ただしく立ち働いていた雉鳩きじばとが兄弟子に礼をした。
デスクには、元老院や議会から上がってきた決定事項、官吏や女官長からの報告が山のように積み上がっていた。
壮年を過ぎて皇帝の座についた瑪瑙めのうには即位してから城に上がった継室も公式寵姫も居なかった。
同じ年の妻である正室が一人。
王族は継室を持つ事も珍しくはないのに、やはりリベラルと言われた所以ゆえんでもあろう。
遺された瑪瑙《めのう》帝の正室は相応しい邸宅に移り住むように手配し、すでに彼女は莫大な恩給と共に親しんだ数人の女官を伴ってすでに城を去っていた。
そろそろ一年になり、生活も落ち着いたそうだ。

「女官長様からは、後宮は全て現状のままでいいかと再三の問い合わせがありました」
「・・・いい。今更引越しなんぞ面倒だ」
翡翠ひすいには正室の他に、二妃、三妃と呼ばれる継室が二人いる。
正しくは、二妃は宮廷で亡くなった。
王族の結婚は通例で早婚だから、三十も半ばに差し掛かる翡翠ひすいには、すでに正室との間に二十歳に手が届く皇太子と、二妃との間に皇太子と同じ年の第二太子がいて、さらに三妃との間には五歳になる皇女がいる。
皇帝を継ぐ立場からすれば、多くも少なくもない、それぞれ元老院派、議会派、ギルド派から娶った政治的に実に整った婚姻だ。

雉鳩きじばとふくろうにファイルを次々手渡す。
それを手早く確認し、ふくろうは指輪に彫られた印鑑を押した。
雉鳩きじばとはそれを迅速にまとめた。
さすがこの弟弟子は城の様々な事に明るいし、実務に優れている。
彼の祖父は琥珀こはく帝の父親の黒曜こくよう帝の総家令を務めた白雁はくがんであり、更には、祖母は黒曜こくよう帝の妹であった。
出自も資質も容色も申し分ない。
侍従として翡翠ひすいに長年仕えた川蝉かわせみ放逐ほうちくした以上、翡翠ひすいには総家令に雉鳩きじばとを、と推すつもりであった。
リベラル派で議会擁であった瑪瑙めのう帝が死去し、元老院が力を盛り返している今、自分の保身の為も勿論理由だが。

しかし。思わぬダークホースが躍り出た。しかもまだ登板もされていないような仔馬。
しかし、しかし。
調教は十分。
ふくろうは覚悟を決めたように、ペンを走らせ、書類を書き付け、印を押した。
ファイルに挟み、雉鳩きじばとに渡す。
「・・・雉鳩きじばと、これを元老院へ持って行け」
雉鳩きじばとはいつもの洒落たレタリングを一読して、ぽかんとして兄弟子を見た。
この美青年がこんな面白い顔をするのか。
そりゃそうだよな。これじゃな。
と、ふくろうもまたおかしくなった。
「・・・・ふくろう兄上。めた方がいいのではないですか?」
「俺もそう思う。・・・でも仕方ない。さっき翡翠ひすい様が決めたからな」
そう言われては、頷くより他はない。
戸惑ったまま書類を押し戴くと、雉鳩きじばとは部屋を出て行った。
ああ。仕事は下の世代におっつけて、城を離れてカンクンあたりでクルージング三昧のつもりだったのに。しばらく延期のようだ。
緋連雀ひれんじゃくめ、とごちた。
自分の計画を察して、先手を打ちやがった。
宮廷育ちめ。
全く始末におえない、とふくろうはため息をついた。


初夏のうちに即位の儀典が執り行われた。
瑪瑙めのうと、そして琥珀こはく、二人の皇帝の崩御が伝えられたのは異例である。
更に異例であったのは、新任の総家令。
前任のふくろうに伴われて、他の宮廷家令を従わせ玉座の前に進み出たのは、まだ若い女家令であった。
その場にいる元老院も、議員達も、ギルドの面々も、女官も官吏も継室も見た事はない顔。
総家令とは、宮廷を取り仕切る宮宰。
家令は宮廷内だけではなく、今や軍事にも政治にも宗教にも需要な役割を与えられている。
代々の皇帝に仕え、中には宮中伯として爵位を与えられたり、皇帝の子供を産んだり皇帝に自身の子を産ませたりして、王夫人の地位を与えられた者もいる。

家令達が、足音も無く進んだ。
宮廷の鳥と呼ばれる特殊な集団は、それぞれに容色に優れている。
彼等が揃い踏みするのは圧巻でもある。
言ってみれば舞台映えがするのだ。
宮廷においては全員が漆黒の家令服をまとい、やはり黒の足音のしない靴を履く。

まだ愛らしい様子の総家令ですら、妙に独特な雰囲気をたたえているのだ。
総家令が彼らの前に進み出て、なんとも優雅な舞踏のような女家令の礼を尽くした。
「総家令を賜わりました孔雀くじゃくが申し上げます。これより宮廷家令一同、陛下に真心を尽くしましてお仕え仕ります」
まろやかな声が響いた。
背後の他の家令達も孔雀くじゃくに続いて礼を尽くした。
儀典で現れた家令達の中に、二妃の死に関して、断罪され城を追われた者達の姿があった。
それはあのまだ若い総家令が皇帝に、寂しいから兄弟姉妹弟子きょうだいでしにご恩赦おんしゃを、と言う口実でねだったらしいと噂は持ちきりだった。

それにしてもちょっと若すぎやしないか、よもや翡翠ひすいにはそういう嗜好でもあるのだろうか。
あの不思議に揺れる葡萄ぶどう色の瞳、まるで熟れた桃の実のような頬、といささかか偏向気味に評された孔雀くじゃくの容姿も相まって、彼らの想像がスキャンダラスであればある程、孔雀《くじゃく》の存在に説得力が増す。
更に、現在白鷹はくたかのみとされていた神官長の地位もあり、儀典に次いで執り行われた祭礼でも見事な歌舞を披露した。
可憐な様子がまた興味を誘い、あれに翡翠ひすいは堕ちたのだと宮廷の口さがない面々に話題を随分提供した。
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