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17.雛鳥の巣

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 間も無く、鳥達の庭園ガーデンに勤務していたメイドも職員も辞めてしまい、とするとまともな食事等出ててこない。
現金なもので、年上の家令達はにあまり戻らなくなりそれぞれが勝手に自立し始めた。
孔雀くじゃくとしては、母親役の真鶴まづるが出て行き、それがショックで鸚鵡おうむは身を持ち崩し、更には転勤、年下の者ばかり残され、つまり一家離散して兄弟子や姉弟子が非行に走ったと思っている。
鳥達の庭園ガーデンに残されたのは、孔雀くじゃく大嘴おおはしつばめ

正しくは、孔雀くじゃく真鶴まづるを待つと言って譲らず、大嘴おおはしが付き合った格好。
孔雀くじゃく神殿オリュンポスに行けば、ご飯出るしさ。大嘴は聖堂ヴァルハラに行けば問題ないわよ。軍に出向期間は食事の心配はないわけだし」
金糸雀カナリアがそう言っても、じゃあつばめはどうなるの、と孔雀くじゃくは言い返した。
「えー、宮城に戻ればいいんじゃない?こいつも宮廷育ちなんだし抜け目ないから大丈夫よ」
「そんな、つばめはまだ十二なのに」
神殿オリュンポス孔雀くじゃくを引きずって行くと思われた白鷹はくたかが、好きにしなさいと言って離宮に戻ってしまったのだ。
しかし、孔雀くじゃくの実家は運良くケータリングもしている。
まとめて冷凍弁当を配送してもらい、それを三食食べていたのだ。
カエルマークのケータリングは評価が高い。
最近では軍のレーションとしても参入していた。
大嘴おおはしつばめも満足だったが、ある日、つばめが学校から呼び出しを受けた。
面倒臭がる母親の木ノ葉梟このはずくに面談に行かせると、結局、原因は毎日の食事を書く課題に三食弁当と書いてあった、ということらしい。

「つまりさ、栄養が偏るとか?非行に走るとか?何言ってんのかしら、あの担任。大体ね、私ら軍で三食あれ食ってんのよ。私も軍で毎日食べてるからわかります。全体的に味付けは多少甘めではあるけど、カエルマークの弁当は総合的に見て優良です。栄養バランスが計算されているって蓋に書いてあるし、あの軍糧レーション食べて営倉送りになった軍人なんか我が部隊に一人もいませんって言い返してきてやったわ」と木ノ葉梟このはずくは胸を張った。
家令にしては珍しく小柄な彼女のあだ名は、プラスチック爆弾だったかコカトリスだったか。

学校には、きれいな色のすてきなワンピースかおしゃれなスーツで行ってね、と事前に言っておいたのに、彼女は所属する空軍から装備のまま赴いたらしい。
担任はさぞ驚いたことだろう。
「やだ、そんなこと言ったの・・・。木ノ葉梟このはずくお姉様、今、流行はやりのモンペ・・・」
「はあ?流行はやりだろうがモンペなんてはかないわよ」
とんちんかんな答えが返ってくるばかり。
孔雀くじゃくはその日から自炊しようと決意したのだ。
レシピ本を買い込み、片っ端から同じように作ってみて、数ヶ月でそれなりの仕上がりになった。

となるとまた勝手なもので、兄弟子や姉弟子が帰ってくるようになった。
育児放棄したバツが悪いのか、高額なカニだの牛肉だの高額なものを手土産に。
結局は自分達の腹に収まるわけだから都合もいい。
明日の米がないのに、牛肉だのカニだのマグロのサクだのを山のように買い込んでくる兄弟子や姉弟子のセンスのなさを孔雀は改めて感じた。

孔雀が湖で魚や貝類をとり、大嘴が山で山菜、木の実を採ってくる。
そもそも麓まで徒歩四時間。
週に一度のはずの生協の宅配も、月に一度にしてくれと言われる辺境なのだ。
健気に自立している弟弟子と妹弟子に、姉弟子と兄弟子は「鳥達の庭園ではなくもはやヒヨコの巣作り」だとか「原始人みたいだな」やら「それを言うなら縄文人でしょ。狩猟と採集だもの」というなんとも無責任な発言。
育児放棄され、食い詰めているというのに。
しかし、家令にそんな甲斐性を期待する方が愚かなのだ。
「たとえ、一杯のおそばを三人で分けようとも、神に誓って飢えさせないで生き抜いて、かくも長き不在の姉弟子を岸壁で待つ」決意の孔雀くじゃくの横で、大食らいの大嘴おおはしが五合飯を食らう。
「ああっ!・・・お米がもう無いのに!」
実家では兄弟で週に三十キロの米を食っていた、パンなんか毎日一人一斤、焼肉は一人二キロ、と大嘴おおはしは自慢気に言った。
この兄弟子は口減らしの為に家令にされたんじゃなかろうか。
孔雀くじゃくはそう思った。


最近では果樹栽培や田畑まで耕している。
猩々朱鷺しょうじょうときがちょっと大きな声では言えない新技術のサンプルとして苗木を送ってきたのだ。
「信じらんねえわ。米も芋も胡瓜きゅうりも菜っ葉も桜桃サクランボも桃も林檎りんごもたいした世話もしねえのにこの短期間に二毛作だの三毛作。どうなってんだろ」
とさすがの大嘴おおはしも呆れた。

野菜も果樹も、病気にも虫にも冷害にも日照りにも強く、成長が早い。
生育が早いということで、孔雀くじゃくがおかしな才能を発揮し、品種改良でやたらと味のいい果物を作り出す始末。
大嘴おおはしお兄様、私たち、これ一本で生きていけるんじゃないかなあ・・・」
猩々朱鷺しょうじょうとき姉上には種も苗も市場に出すんじゃないよと言われたけどさ、農協の会員になって出荷してみるか?」
「そんなの、どうせバレたらふくろう兄上に搾取されるよ」
大人びたつばめの発言にそれもそうだと兄弟子と姉弟子が頷いた。
「もったいないけどさ。こんなよくわかんないもん交雑配したら大変だもんな。売れたら結構な金になるだろうけどなあ」
孔雀くじゃくが首を振った。
「これ種取れないし、雑配しないって」
「じゃ、問題ないじゃないか」
「それどころか食糧不足が一気に問題解決よ」
「尚、いいじゃないか」
猩々朱鷺しょうじょうときお姉様、穀物と野菜と果物の種苗の会社の株持ってるから。こんなの世の中に出たら値崩れ起こすじゃない」

あの姉弟子は科学者としての責任とか倫理観とかそういうもので流通させるなと言ったわけではないのか、そんなもんだよなあと大嘴おおはしと燕は呆れた。
季節外れの真っ赤なトマトとりんごを齧りながら、見事な田畑となった元庭園を眺めていた。


ガーデンのヒヨコの弟妹達が採集の生活から進化し、農耕を覚えたらしい、と城や外部機関の兄弟子姉弟子が噂する頃。
新たな変化の波が迫って来ていた。
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