30 / 33
30.嬉しいサプライズ
しおりを挟む
愕然としたのは怜月。
長年会っていない家出娘よりも、老婦人を見て、大声を上げた。
「暁子!?信じられない!まだ生きていたの?あなた一体いくつなのよ!日本人は皆そんなに長生きなの?ねぇ、幽霊じゃないわよね?!」
矢継ぎ早に質問する。
暁子は車椅子から転げ落ちる勢いで大笑い。
「ああ、おかしい!・・・びっくりした?」
「びっくりしたわよ!あなたったら何の便りも寄越さないし・・。ママや大哥が死んだのを知らせたくても私はあなたの連絡先すら知らなかったもの。大哥も教えてくれなかった」
「鳳が死んだのも海が死んだのも、当然知ってたわよ。海のお葬式は随分賑やかだったと聞いたわ。ああ、お星様を怒らないでやって。鳳が、自分が死んでも戻って来なくていいからねと言い含めていたんだから。それから、鳳はお星様とよく電話で話していましたからね」
「桜ちゃんが産まれた時も、おばあちゃんはとても喜んでくれたのよ」
暁子と娘が微笑み合うのに、怜月は絶句した。
「まあ・・・、なんてこと。そうだったの?じゃあ、大哥も知っていたの?」
「もちろんよ。あの二人はお祝い事が大好きじゃないの。でも、あなたもお星様も真面目で意地っ張りだから、どちらかが歩み寄るまで放っとく事にしてたの」
怜月は、気まづそうに頷いた。
「・・・それに、いいじゃない?悲しい知らせなんていらないってあなたのママは言うでしょう。」
確かに、悲しい知らせのサプライズなんてごめんだわ。とよく言っていたけれど。
「・・・そりゃ嬉しい知らせのサプライズなら大歓迎だけど・・・」
「ですって。華、よかったね」
後ろの華子を振り返る。
「・・・はじめまして。私、あなたの、姪に当たります」
「え?め、姪?」
自分に兄弟か姉妹が居たということ?と、怜月は驚いて暁子を見た。
「うん、お月様のパパには奥さんが居てね。その娘が居たの。貴女に良く似てた。美人で頭が良くてね。その子が太郎と結婚したの。なんだか変な話よね。仲の良い夫婦で、一緒に死んじゃったわ」
暁子は悲しそうにそう言った。
太郎はジャーナリストだった。
彼が活躍した当時、世界はまだまだ荒れていて。
夫婦でテロに巻き込まれて。
「で、その二人の子が華子。本当は孫なんだけど、めんどくさいから娘にしちゃった」
「そう、書類上は、孫で養子で娘。でも、私はお母さんて呼んでるじゃない?だから、周りの人に、お母さん、まあ、随分頑張ったんですね、なんて言われてるのよ」
華子と暁子が笑った。
ごめんね。お月様。私、鳳に言われていたのよ。お月様の娘のかわいいお星様が日本に行くから助けになってあげてって。
日本で見つけて会ってみたら、ほぼ家出同然で二度と帰らないなんて言う。
地球の裏側じゃあるまいし、この距離でよ。
しかも結婚ももう決まっているって言うじゃない。
旦那様と一緒に東京を出るというし。
・・・その頃ね、私も息子を亡くしていたの。そう、太郎は死んだ時。
新聞記者だったから、中東で事故に巻き込まれてね。
あの時は私も落ち込んだのよ。
私も中東には仕事で何回か行ってたの。
ああでもあそこは、チョット違う。チョットおじゃましますねが利かない国よね。
だから、何度も気をつけるのよと言っていたのだけど。
あちらの大使館に遺体を引き取りに行った。
随分酷い有様でね。
・・・・ああ、もうこんな話をするのは止めるべきね。あなたのママが生きていたら嫌がるから。
ねえ聞いた?シャーロットの旦那さんてとっても良い方なのよ。
消防士だから、人を助ける仕事。すばらしいわ。
・・・でも、そういう仕事の人って、何かあったら自分より家族より助けるべき人のところへ行かなきゃならないから。
だから私、心配で、華子と一緒にシャーロットの近くに引っ越しちゃった。
華子は間違いなく、あなたの姪に当たるわよ。
お月様、私、あなたのパパと、日本やアメリカでたまに会っていたの。
あなたのパパも亡くなりました。
あなたの幸福の為に絶対にあなたには近付かないと言う約束を律儀に守ってね。
でもあなたの事をとても愛していたわよ。
本当、男って死ぬわよね。
ああ、女が長生きなのかしらね。
「じゃ、私と華おばちゃんてなんなの?」
そっと桜が尋ねると、華子が首を傾げた。
彼女もあまりちゃんと考えたことがないようだ。
暁子が笑った。
「なんだろうねえ。やっぱりアナタも私達の可愛い小さなお星様達ね」
その答えに怜月は目を潤ませたが、桜としてはまだよく理解し難い。
とにかく親戚であることは間違いないようだ。
今回はね。私も驚いた。
戦争もいくつも見てきたけれど。
日本にいるんだから大きな地震だって何度も経験ある。
でも今回は万事休すだと思ったのよ。
だから、お月様、あなたに急いで会わなきゃと思った。
不思議でしょ。私、まだまだ死なないような気をしてたの。
明日にでも死んでしまいそうな年なのにねえ。
暁子が一気に喋ってけらけらと笑う様子がなんだかおかしかった。
「でも私なんだかまだ娘のような気分になる時があるのよ。これが年を取っているって言える?」
華子が、嫌あね、と吹き出した。
「お母さん、それがだいぶ年取ってる証拠よ」
「あらそう?」
桜が入れた紅茶をおいしそうにすする。
「・・・・全く。あなたたちときたら・・・。ママも大哥も、暁子も。いつもビックリさせられるわ・・・・」
呆れて笑いながらそう言うと、怜月は泣き出した。
長年会っていない家出娘よりも、老婦人を見て、大声を上げた。
「暁子!?信じられない!まだ生きていたの?あなた一体いくつなのよ!日本人は皆そんなに長生きなの?ねぇ、幽霊じゃないわよね?!」
矢継ぎ早に質問する。
暁子は車椅子から転げ落ちる勢いで大笑い。
「ああ、おかしい!・・・びっくりした?」
「びっくりしたわよ!あなたったら何の便りも寄越さないし・・。ママや大哥が死んだのを知らせたくても私はあなたの連絡先すら知らなかったもの。大哥も教えてくれなかった」
「鳳が死んだのも海が死んだのも、当然知ってたわよ。海のお葬式は随分賑やかだったと聞いたわ。ああ、お星様を怒らないでやって。鳳が、自分が死んでも戻って来なくていいからねと言い含めていたんだから。それから、鳳はお星様とよく電話で話していましたからね」
「桜ちゃんが産まれた時も、おばあちゃんはとても喜んでくれたのよ」
暁子と娘が微笑み合うのに、怜月は絶句した。
「まあ・・・、なんてこと。そうだったの?じゃあ、大哥も知っていたの?」
「もちろんよ。あの二人はお祝い事が大好きじゃないの。でも、あなたもお星様も真面目で意地っ張りだから、どちらかが歩み寄るまで放っとく事にしてたの」
怜月は、気まづそうに頷いた。
「・・・それに、いいじゃない?悲しい知らせなんていらないってあなたのママは言うでしょう。」
確かに、悲しい知らせのサプライズなんてごめんだわ。とよく言っていたけれど。
「・・・そりゃ嬉しい知らせのサプライズなら大歓迎だけど・・・」
「ですって。華、よかったね」
後ろの華子を振り返る。
「・・・はじめまして。私、あなたの、姪に当たります」
「え?め、姪?」
自分に兄弟か姉妹が居たということ?と、怜月は驚いて暁子を見た。
「うん、お月様のパパには奥さんが居てね。その娘が居たの。貴女に良く似てた。美人で頭が良くてね。その子が太郎と結婚したの。なんだか変な話よね。仲の良い夫婦で、一緒に死んじゃったわ」
暁子は悲しそうにそう言った。
太郎はジャーナリストだった。
彼が活躍した当時、世界はまだまだ荒れていて。
夫婦でテロに巻き込まれて。
「で、その二人の子が華子。本当は孫なんだけど、めんどくさいから娘にしちゃった」
「そう、書類上は、孫で養子で娘。でも、私はお母さんて呼んでるじゃない?だから、周りの人に、お母さん、まあ、随分頑張ったんですね、なんて言われてるのよ」
華子と暁子が笑った。
ごめんね。お月様。私、鳳に言われていたのよ。お月様の娘のかわいいお星様が日本に行くから助けになってあげてって。
日本で見つけて会ってみたら、ほぼ家出同然で二度と帰らないなんて言う。
地球の裏側じゃあるまいし、この距離でよ。
しかも結婚ももう決まっているって言うじゃない。
旦那様と一緒に東京を出るというし。
・・・その頃ね、私も息子を亡くしていたの。そう、太郎は死んだ時。
新聞記者だったから、中東で事故に巻き込まれてね。
あの時は私も落ち込んだのよ。
私も中東には仕事で何回か行ってたの。
ああでもあそこは、チョット違う。チョットおじゃましますねが利かない国よね。
だから、何度も気をつけるのよと言っていたのだけど。
あちらの大使館に遺体を引き取りに行った。
随分酷い有様でね。
・・・・ああ、もうこんな話をするのは止めるべきね。あなたのママが生きていたら嫌がるから。
ねえ聞いた?シャーロットの旦那さんてとっても良い方なのよ。
消防士だから、人を助ける仕事。すばらしいわ。
・・・でも、そういう仕事の人って、何かあったら自分より家族より助けるべき人のところへ行かなきゃならないから。
だから私、心配で、華子と一緒にシャーロットの近くに引っ越しちゃった。
華子は間違いなく、あなたの姪に当たるわよ。
お月様、私、あなたのパパと、日本やアメリカでたまに会っていたの。
あなたのパパも亡くなりました。
あなたの幸福の為に絶対にあなたには近付かないと言う約束を律儀に守ってね。
でもあなたの事をとても愛していたわよ。
本当、男って死ぬわよね。
ああ、女が長生きなのかしらね。
「じゃ、私と華おばちゃんてなんなの?」
そっと桜が尋ねると、華子が首を傾げた。
彼女もあまりちゃんと考えたことがないようだ。
暁子が笑った。
「なんだろうねえ。やっぱりアナタも私達の可愛い小さなお星様達ね」
その答えに怜月は目を潤ませたが、桜としてはまだよく理解し難い。
とにかく親戚であることは間違いないようだ。
今回はね。私も驚いた。
戦争もいくつも見てきたけれど。
日本にいるんだから大きな地震だって何度も経験ある。
でも今回は万事休すだと思ったのよ。
だから、お月様、あなたに急いで会わなきゃと思った。
不思議でしょ。私、まだまだ死なないような気をしてたの。
明日にでも死んでしまいそうな年なのにねえ。
暁子が一気に喋ってけらけらと笑う様子がなんだかおかしかった。
「でも私なんだかまだ娘のような気分になる時があるのよ。これが年を取っているって言える?」
華子が、嫌あね、と吹き出した。
「お母さん、それがだいぶ年取ってる証拠よ」
「あらそう?」
桜が入れた紅茶をおいしそうにすする。
「・・・・全く。あなたたちときたら・・・。ママも大哥も、暁子も。いつもビックリさせられるわ・・・・」
呆れて笑いながらそう言うと、怜月は泣き出した。
2
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる