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30.嬉しいサプライズ

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 愕然としたのは怜月。
長年会っていない家出娘よりも、老婦人を見て、大声を上げた。
「暁子!?信じられない!まだ生きていたの?あなた一体いくつなのよ!日本人は皆そんなに長生きなの?ねぇ、幽霊じゃないわよね?!」
矢継ぎ早に質問する。
暁子は車椅子から転げ落ちる勢いで大笑い。
「ああ、おかしい!・・・びっくりした?」
「びっくりしたわよ!あなたったら何の便りも寄越さないし・・。ママや大哥が死んだのを知らせたくても私はあなたの連絡先すら知らなかったもの。大哥も教えてくれなかった」
「鳳が死んだのも海が死んだのも、当然知ってたわよ。海のお葬式は随分賑やかだったと聞いたわ。ああ、お星様を怒らないでやって。鳳が、自分が死んでも戻って来なくていいからねと言い含めていたんだから。それから、鳳はお星様とよく電話で話していましたからね」
「桜ちゃんが産まれた時も、おばあちゃんはとても喜んでくれたのよ」
暁子と娘が微笑み合うのに、怜月は絶句した。 
「まあ・・・、なんてこと。そうだったの?じゃあ、大哥も知っていたの?」
「もちろんよ。あの二人はお祝い事が大好きじゃないの。でも、あなたもお星様も真面目で意地っ張りだから、どちらかが歩み寄るまで放っとく事にしてたの」
怜月は、気まづそうに頷いた。
「・・・それに、いいじゃない?悲しい知らせなんていらないってあなたのママは言うでしょう。」
確かに、悲しい知らせのサプライズなんてごめんだわ。とよく言っていたけれど。
「・・・そりゃ嬉しい知らせのサプライズなら大歓迎だけど・・・」
「ですって。華、よかったね」
後ろの華子を振り返る。
「・・・はじめまして。私、あなたの、姪に当たります」
「え?め、姪?」
自分に兄弟か姉妹が居たということ?と、怜月は驚いて暁子を見た。
「うん、お月様のパパには奥さんが居てね。その娘が居たの。貴女に良く似てた。美人で頭が良くてね。その子が太郎と結婚したの。なんだか変な話よね。仲の良い夫婦で、一緒に死んじゃったわ」
暁子は悲しそうにそう言った。
太郎はジャーナリストだった。
彼が活躍した当時、世界はまだまだ荒れていて。
夫婦でテロに巻き込まれて。
「で、その二人の子が華子。本当は孫なんだけど、めんどくさいから娘にしちゃった」
「そう、書類上は、孫で養子で娘。でも、私はお母さんて呼んでるじゃない?だから、周りの人に、お母さん、まあ、随分頑張ったんですね、なんて言われてるのよ」
華子と暁子が笑った。


 ごめんね。お月様。私、鳳に言われていたのよ。お月様の娘のかわいいお星様が日本に行くから助けになってあげてって。
日本で見つけて会ってみたら、ほぼ家出同然で二度と帰らないなんて言う。
地球の裏側じゃあるまいし、この距離でよ。
しかも結婚ももう決まっているって言うじゃない。
旦那様と一緒に東京を出るというし。
・・・その頃ね、私も息子を亡くしていたの。そう、太郎は死んだ時。
新聞記者だったから、中東で事故に巻き込まれてね。
あの時は私も落ち込んだのよ。
私も中東には仕事で何回か行ってたの。
ああでもあそこは、チョット違う。チョットおじゃましますねが利かない国よね。
だから、何度も気をつけるのよと言っていたのだけど。
あちらの大使館に遺体を引き取りに行った。
随分酷い有様でね。
・・・・ああ、もうこんな話をするのは止めるべきね。あなたのママが生きていたら嫌がるから。
ねえ聞いた?シャーロットの旦那さんてとっても良い方なのよ。
消防士だから、人を助ける仕事。すばらしいわ。
・・・でも、そういう仕事の人って、何かあったら自分より家族より助けるべき人のところへ行かなきゃならないから。
だから私、心配で、華子と一緒にシャーロットの近くに引っ越しちゃった。
華子は間違いなく、あなたの姪に当たるわよ。
お月様、私、あなたのパパと、日本やアメリカでたまに会っていたの。
あなたのパパも亡くなりました。
あなたの幸福の為に絶対にあなたには近付かないと言う約束を律儀に守ってね。
でもあなたの事をとても愛していたわよ。
本当、男って死ぬわよね。
ああ、女が長生きなのかしらね。
「じゃ、私と華おばちゃんてなんなの?」
そっと桜が尋ねると、華子が首を傾げた。
彼女もあまりちゃんと考えたことがないようだ。
暁子が笑った。
「なんだろうねえ。やっぱりアナタも私達の可愛い小さなお星様達ね」
その答えに怜月は目を潤ませたが、桜としてはまだよく理解し難い。
とにかく親戚であることは間違いないようだ。


 今回はね。私も驚いた。
戦争もいくつも見てきたけれど。
日本にいるんだから大きな地震だって何度も経験ある。
でも今回は万事休すだと思ったのよ。
だから、お月様、あなたに急いで会わなきゃと思った。
不思議でしょ。私、まだまだ死なないような気をしてたの。
明日にでも死んでしまいそうな年なのにねえ。
暁子が一気に喋ってけらけらと笑う様子がなんだかおかしかった。
「でも私なんだかまだ娘のような気分になる時があるのよ。これが年を取っているって言える?」
華子が、嫌あね、と吹き出した。
「お母さん、それがだいぶ年取ってる証拠よ」
「あらそう?」
桜が入れた紅茶をおいしそうにすする。
「・・・・全く。あなたたちときたら・・・。ママも大哥も、暁子も。いつもビックリさせられるわ・・・・」
呆れて笑いながらそう言うと、怜月は泣き出した。
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